小澤征爾×新日本フィルハーモニー交響楽団特別演奏会


   
      
2008年5月17日(土)15:00開演
すみだトリフォニーホール大ホール

小澤征爾指揮/新日本フィルハーモニー交響楽団
上原彩子(ピアノ)

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」

座席:S席 2階2列15番


小澤征爾が桂冠名誉指揮者を務める新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮する特別演奏会に行きました。チケット争奪戦はすさまじく、2月のe+プレオーダーに落選、3月2日の一般発売でも電話がつながったときにはすでに完売という惨敗でした。ほぼあきらめていたのですが、公演1週間前に緊急追加販売があって、3度目の正直でチケットをゲットすることができました。ラッキー!
この演奏会の翌々日の19日(月)にも同じプログラムで大阪公演(ザ・シンフォニーホール)があったのですが、平日で仕事を休めなさそうだったのであきらめて、土曜日の東京公演を選びました。この選択が結果的には大正解でした(理由は後述)。

すみだトリフォニーホールは、新日本フィルハーモニー交響楽団第379回定期演奏会「小澤征爾のショスタコーヴィチ」以来、約3年半ぶりに行きましたが、JR錦糸町駅周辺が以前よりも華やかになっていました。2007年10月に開館10周年を迎えたということで、「十年十色 たかが十年、されど十年」というキャッチコピーで装飾されていました。
座席は、前回は1階席の右端でしたが、今回は2階席前方です。チケット購入時に座席が選択できませんでしたが、視覚的にはいい席です。ただし、上部に3階席が覆いかぶさる雨宿り席でした。すみだトリフォニーホールはバルコニー席のラインがステージに一直線に伸びています。ステージに聴衆の意識を集中させるデザインと言えるでしょう。

プログラム1曲目は、ラフマニノフ作曲/ピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏は上原彩子。上原彩子が淡い緑色のドレスで登場。小澤征爾は指揮台の上に置かれた黒い丸イスに座りました。協奏曲でも指揮者が座って指揮するのは珍しいのでびっくりしました。小澤征爾の体調面に配慮したのでしょう。
上原彩子は第1楽章の第1主題はあえて弱奏でスタート。少ない動きで淡々と弾きました。技術的な完成度が高く、堂々とした演奏でした。ピアノにのめりこむような格好で弾いて、時折立ち上がるような動きを見せました。速く弾いてスピード感を表現しましたが、音楽が停滞しないように意識しているようでした。随所にオリジナリティも感じさせ、表現力も多彩でした。サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団来日公演でのエリソ・ヴィルサラーゼの演奏は少し退屈しましたが、上原彩子の演奏で聴くとあっという間でした。ピアノ独奏に休みが少ない作品にもかかわらず、最後までバテませんでした。スタミナもあります。日本フィルハーモニー交響楽団第134回サンデーコンサートでのチャイコフスキーも感銘深い演奏でしたが、上原のピアノはすばらしいですね。結婚と出産を経た後でも、演奏の魅力は変わりません。また聴きたいです。
小澤征爾は指揮棒なしで指揮。譜面台はありましたが、譜面は置かれていませんでした。ほとんど上原彩子を向いて指揮していました。イスに座っての指揮で、上原との距離も近いので、密にアイコンタクトを取っていました。上原彩子のピアノに合わせた指揮でした。ときどきイスから腰を浮かせて半ば立ち上がりながら指揮しました。
オーケストラ伴奏は、あまり音量が大きくありません。上原彩子のサポート役に徹していました。オーケストラが鳴りすぎると、ピアノが埋没してしまうことを配慮したのでしょう。いくぶん表面的で深みに欠けましたが、第3楽章のラストは大いに盛り上がって、胸が熱くなりました。

休憩後のプログラム2曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第6番「悲愴」。小澤征爾が指揮したチャイコフスキーでは、新日本フィルハーモニー交響楽団第410回定期演奏会「冬の日の幻想」で聴いた交響曲第1番「冬の日の幻想」が印象に残っています。
指揮台の丸イスは休憩中に撤去されました。小澤征爾がしっかりとした足取りで登場。全体的に速いテンポで進められ、流すような指揮でした。老いや枯れはまったく感じられず、パワフルで充実した演奏でした。オーケストラの技術的な完成度も高く、小澤征爾もオーケストラもすごい集中力で一心不乱に演奏していました。
第1楽章70小節から金管楽器に負けずヴァイオリンの高音がよく聴こえました。74小節からはホルンが強力。第1楽章最後の小節はフェルマータのように長く引き伸ばしました。第2楽章はリラックスした演奏。弦楽器が流麗に響きました。第3楽章もスムーズな音楽運び。235小節からトロンボーン→ホルン→トランペット→トロンボーンの八分音符の受け渡しをはっきり聴こえさせました。275小節からはホルンがベルアップ。第3楽章が終わると少し間をおいて、小澤征爾の「うっ」という声とともに第4楽章に突入しました。その後も小澤征爾のうなり声が聴こえました。弦楽器の響きが濃厚。108小節から速いテンポがさらにテンポアップしてびっくりするほどの速さに。小澤征爾がこんなに速いテンポで演奏するとはまったく予想外でした。なぜこんなに速いテンポで演奏するのか聴衆に考えさせる意図があったのかもしれません。

すみだトリフォニーホールの2階席は、残響や間接音が少なく、響きがやや重く感じました。特に金管楽器はダイレクトに聴こえるので、少しうるさく感じる部分もありました。3階席のほうがいいかもしれません。

演奏会翌日の18日(日)に、同一プログラムの19日(月)大阪公演と20日(火)三重公演の公演中止が発表されました。小澤征爾の体調不良が理由です。ラフマニノフでイスに座って指揮したのは体調を考慮したのだと確信しましたが、「悲愴」で元気に指揮する姿を見せてくれたので、公演中止のニュースには驚きました。東京公演で全力を使い切ってしまったのかもしれません。続いて、28日(水)〜30日(金)の水戸室内管弦楽団定期演奏会も降板することになりました。「腰椎椎間板ヘルニア」との診断を受けたため、1ヶ月間治療に専念するとのことです。腰が悪いようですが、内臓系の病気ではないようなので安心しました。小澤征爾は72歳という高齢ですが、まだまだ指揮活動を続けて欲しいです。元気になって、また演奏を聴ける日を楽しみにしています。

(2008.5.24記)


十年十色 十年十色 ほんの十年、されど十年 開場



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