京都市交響楽団第676回定期演奏会


  2023年3月11日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

ジョン・アクセルロッド指揮/京都市交響楽団
三浦文彰(ヴァイオリン)

ガーシュウィン/パリのアメリカ人
コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

座席:S席 3階C2列24番



ジョン・アクセルロッドの京都市交響楽団首席客演指揮者としての最後の演奏会です。ジョン・アクセルロッドは、2020年4月から首席客演指揮者を3年間務めましたが、2023年3月末で任期満了で退任になりました。京都市交響楽団第671回定期演奏会に続いての指揮です。なお、アクセルロッドは2022/23年シーズンから、ブカレスト交響楽団の首席指揮者に就任しています。
 
金陽と土曜の2日公演の2日目です。なお、前日の10日(金)の公演は「フライデー・ナイト・スペシャル」として開催され、ニコニコ生放送で配信されました(詳細は後述)。前日のニコニコ生放送の効果か、当日券は大行列で、ほぼ満席でした。京都市交響楽団特別演奏会「ニューイヤーコンサート」でお披露目された広上淳一の肖像画が、グッズ売り場の隣に飾ってありました。
 
14:00からプレトーク。アクセルロッドと通訳の女性が登場。アクセルロッドは「首席客演指揮者はとても充実して務められた。これからも一緒に音楽を作っていきたい。ご支援に感謝します」と話しました。作品の紹介は後述します。前日よりもお客さんが多いせいか、よくしゃべって気持ちも入っています。
 
コンサートマスターは泉原隆志。なお、欠員になっていたテューバ奏者に、3月1日からピーター・リンク(仙台フィル首席テューバ奏者)が入団しました。広上シフト半円形の雛壇を客席に近づけるフォーメーション(広上シフトと勝手に呼んでいる)でした。
 
プログラム1曲目は、ガーシュウィン作曲/パリのアメリカ人。プレトークでアクセルロッドは「京都のアメリカ人」と自身に例えてジョーク。大阪交響楽団第124回名曲コンサート「トルヴェール・クヮルテット結成35周年記念」(夜の部)のようにサックス×3はあまり目立たちませんが、音色が明るくて華やかで、スケールが大きい。226小節からのホルンのゲシュトプの2発は変な音でミスかと思いましたが、スコア通りです。392小節(Andante ma con ritmo deciso)から1小節を遅くして次の1小節を早くしてテンポを揺らしました。482小節(Allegro)からはジャズのノリ。539小節からティンパニが強打。664小節のティンパニロールのフェルマータは短め。最後のアルトサックスソロは音色を潰して吹きました。
 
ハープとチェレスタを移動させて、プログラム2曲目は、コルンゴルト作曲/ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は三浦文彰。プレトークでアクセルロッドは「コルンゴルドは最高の映画音楽作曲家。ハリウッドサウンドを彼が作り上げた」と紹介しました。三浦が金髪で登場して、譜面台を立てて演奏。第1楽章は前奏なしでいきなり弾きはじめ。三浦のヴァイオリンは伸びやかな音色で、弓で弦を擦っている感じがしないので、耳に心地よい。京響の音色とも合っています。ただし、メロディックではありません。第2楽章も繊細で、女性が弾いているのかと思うほど。ただしメロディーは難解で瞑想的。木管楽器の伴奏がうまい。第3楽章はチェレスタとハープが目立って楽しい。メロディーをホルンが演奏するところは映画音楽らしい。チャイムを一瞬だけ使いました。
演奏後はカーテンコールが5回?ありましたが、アンコールはありませんでした。休憩中はトイレが大行列。

休憩後のプログラム3曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「春の祭典」。プレトークでアクセルロッドは「パリで初演された。バスーンの最初の音からスキャンダルが始まった」「ガーシュウィンがラヴェルに会いに行ったが断られた。ガーシュウィンがストラヴィンスキーに会いに行ったら、去年いくら稼いだ?と聞かれて、私はあなたの弟子になりたいと言われた」というエピソードを紹介しました。
前日のニコニコ生放送で聴いたよりも、ホールの残響が楽しめます。また、久石譲、日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団が奏でる「春の祭典」愛知特別公演 in 一宮よりも立体感と色彩感があります。繊細さと豪快さを兼ね備えた名演で、前日の1日目の公演よりもテンポが速い。アクセルロッドはどの楽器を目立たせるとかではなく、オーケストラの総合力で勝負。スケール感はアクセルロッドならではで、よく鳴らしきりました。オーケストラもハイテンションで燃焼度が高く、2日目の公演を聴きに行って正解でした。
「春の踊り」は、トロンボーンのグリッサンドを強調。第1部最後の「大地の踊り」のラストも決まりました。あまり間を空けずに、第2部へ。「祖先の儀式」はテンポが速い。練習番号132からのバストランペットは、第1トランペットの右(第1トロンボーンの左)に座っていたのでよく目立ちました。マルカート気味に短く演奏。「いけにえの踊り」は一心不乱でちょっと狂気的で暴力的。練習番号181からホルンのメロディーを聴かせるのは珍しいでしょうか。練習番号192からのティンパニ×2と大太鼓は、膜に破れて穴が開くかと思うほどの強打。いけにえを捧げるということは、大地がとどろくほどの出来事でしょうから、この解釈は納得です。フライング拍手が残念。
カーテンコールでスタッフからアクセルロッドに花束が贈呈されました。アクセルロッドはブージー&ホークスのスコア(私も持っている)を掲げて持って帰りました。
 
 
前日の第676回定期演奏会の1日目(2023.3.10)がニコニコ生放送でライブ配信されることが3月6日に発表されました。番組名は「【フライデーナイトスペシャル】京都市交響楽団第676回定期演奏会」。今年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」の3回目で、第667回定期演奏会(2022.5.20)、第673回定期演奏会(2022.11.18)に続いてのライブ配信です。19:00から配信開始。番組ナビゲーターは、今回も羽田優里奈。ジョン・アクセルロッドがステージ上でプレトーク。「これが最後の共演ではない。これからも一緒に音楽を作っていけることに感謝している」と話しました。今年度から始まった「フライデー・ナイト・スペシャル」ですが、お客さんは少し増えたようですが、まだまだ空席がありました。
 
その後は、「ジョン・アクセルロッドと京響の歴史」の映像が流されました。初めて京響を指揮した京都市交響楽団第525回定期演奏会の写真もあって若い。第662回定期演奏会(2021.11.27&28)の来日時の映像もあり、関西国際空港に到着して、コロナ禍で隔離のため京都のゲストハウスに宿泊する映像もありました。コンサートマスターの泉原隆志は「リハーサルが明るい」と話しました。京都市交響楽団第13代常任指揮者兼芸術顧問を務めた広上淳一は「新しい引き出しや力量を注ぎ込んだ。明るいキャラクターで、自発性を引き出すすばらしい巨匠」とコメントしました。「広上淳一とジョン・アクセルロッドの思い出 特別映像 広上淳一×ジョン・アクセルロッド スペシャルセッション」という謎の映像が流されました。2022年1月に京都コンサートホールの楽屋で撮影された映像で、私服の広上淳一がピアニカを吹き、アクセルロッドがピアノを弾きながら歌って、グリーグ「山の魔王の宮殿にて」と歌いながら、やたらハイテンションな演奏でした。アクセルロッドからのメッセージでは、「おおきに」と京都弁で締めくくりました。
 
カメラアングルが切り替わる映像と、固定カメラの2チェンネルで配信されました。なお、1曲目のバーバーは生配信のみでタイムシフト(アーカイブ)はありませんでした。
 
19:30に開演。プログラム第1曲は、バーバー作曲/弦楽のためのアダージョ。3.11の東日本大震災を意識して選曲したようで、プレトークでアクセルロッドは「3月11日の悲しみや祈りを込めて演奏したい」と語りました。また、京都市交響楽団のTwitterに掲載された動画では、「ルーズベルトやケネディの葬儀や9.11の追悼式など非常に厳粛な場面で演奏されてきた。世界が危機的な状況にあり紛争が続いている今、この曲は命を落とした人々への厳粛な祈りであると同時に、平和のために生きている人々のための希望の音楽でもある」と解説しています。クライマックスへの盛り上がりがすばらしい。ニコ生のコメントには、東日本大震災のときに自分はどこで何をしていたかを思い出すコメントが多く見られました。演奏後は、「Bravo」と表示されるブラボーギフトを贈っている人もいました。
プログラム2曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「春の祭典」。プレトークでアクセルロッドは「バスーンを吹く人にとって生涯で最大の挑戦。若さや大胆さや豪胆さがみちあふれた曲。オーケストラには初めて演奏するように演奏してほしいと言ったので、みなさんも初めて聴くように聴いてほしい」と呼びかけました。なお、春の祭典が作曲されたスイスの村の近くにアクセルロッドは住んでいるようです。
楽曲名の字幕がわざわざフランス語(原語)→英語→日本語の順に表示されました。運営が手をかけていて、初心者にはありがたいでしょう。低弦がよく聴こえて、管楽器の色彩感もいい。安定感のある演奏でした。アクセルロッドは楽しそうに指揮しました。冒頭のファゴットソロがちょっとミス。「春のきざし」はコメントでは「ゴジラ」が多く見られました。確かに雰囲気が少し似ていますね。打楽器が派手に鳴りました。第2部の「乙女たちの神秘的なつどい」では、アルトフルートがよく見えてカメラアングルがすばらしい。ティンパニ11連打の後の「いけにえの賛美」は、ニコ生のコメント欄では「ジョーズ」の書き込みが多く流れました。打楽器がシャープ。「いけにえの踊り」は、テューバがいい。弦楽器はシャープで短い。
終演後の舞台袖で羽田優里奈がアクセルロッドにインタビュー。アクセルロッドは「We Are the Champions」を歌って上機嫌。視聴者へのメッセージは「Make music and be happy」。最後のアンケートでは、「1 とても良かった」が96.6%を占めました。濃密すぎる1時間でした。「フライデー・ナイト・スペシャル」は、2023年度は3回から6回に増えますが、ニコニコ生放送による配信はないとのこと。
 
タイムシフトは3月16日(木)23:59まで視聴できました(ただし、固定カメラの番組はタイムシフトなし)。何回でも聴きたかったですが、配信期間が短くて、もう少し長いとうれしかったです。生配信と同じ映像ですが、バーバーは生配信のみだったので、タイムシフトでは映像も音もなく、視聴者のコメントだけが流れました。約1万回再生されたようです。
 
今年度は広上淳一の退任によって、京響の常任指揮者が33年ぶりに空席になりましたが、アクセルロッドは首席客演指揮者として京響を盛り上げてくれました。印象に残っている演奏は、やはり初めて京響を指揮した京都市交響楽団第525回定期演奏会での「ボレロ」ですね。前日の練習風景公開でも、ギャラリーに向かって話してくれるなどファンサービスもよかったです。2023年度には京都市交響楽団を指揮しませんが、今後も定期的に指揮して欲しいです。なお、2023年10月から11月にかけて来日して、オーケストラ・アンサンブル金沢、東京都交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団を指揮する予定です。
 

(2023.4.9記)

 

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