京都市交響楽団第525回定期演奏会


   
      
<京都市交響楽団練習風景公開>

2009年6月6日(土)10:30開演
京都市交響楽団練習場

ジョン・アクセルロッド指揮/京都市交響楽団

ラヴェル/ボレロ
ラヴェル/スペイン狂詩曲

座席:自由


<京都市交響楽団第525回定期演奏会>

2009年6月7日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

ジョン・アクセルロッド指揮/京都市交響楽団

ガーシュウィン/キューバ序曲
リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲
トゥリーナ/交響詩「幻想舞曲集」
ラヴェル/スペイン狂詩曲
ラヴェル/ボレロ

座席:S席 1階 15列24番


ルツェルン交響楽団で音楽監督を務めるジョン・アクセルロッドの日本デビュー公演です。京都市交響楽団を指揮して日本デビューする指揮者は珍しいでしょう。アクセルロッドはアメリカ生まれで、公式プロフィールには生年が記載されていませんが、ネット情報によると43歳のようです。
本来は昨年12月の京都市交響楽団第519回定期演奏会(2008.12.7)を指揮する予定でしたが、「出演者の都合」でキャンセル。代役でエルネスト・マルティネス・イスキエルドが指揮して、プログラムもすべて変更されました。今回は第519回定期演奏会とまったく同じプログラムでリベンジです。



<京都市交響楽団練習風景公開> 2009年6月6日(土)

本番の前日に、公開練習が行なわれました。往復はがきで応募したところ、めでたく当選しました。京都市交響楽団の公開練習は、高関健(2007.9.15)金聖響(2008.9.6)井上道義(2008.10.25)に続いて4回目ですが、外国人指揮者は初めてでした。スコアを持って聴きに行きました。

10:10頃に到着。2階のギャラリーから聴きます。団員は音出し練習中でした。練習場内は冷房がよく効いていて涼しいです。10:30になって音が鳴り止み、事務局の方から団員に向けて連絡事項。明日の本番は10:30集合で、ゲネプロは本番と同じ曲順から行なうことが伝えられました。コンサートマスターの泉原隆志が立ち上がってチューニング。ジョン・アクセルロッドが指揮台に登場しました。黒い長袖のシャツを着ていました。後ろを向いてギャラリーにも一礼。写真では少し人相が悪そうな顔でしたが、実物は親しみやすそうな人柄でした。団員に向けて挨拶した後、すぐに指揮を始めました。

事前に発表された演奏曲目は「ラヴェル作曲/スペイン狂詩曲ほか(予定)」でしたが、ラヴェル作曲/ボレロから練習がスタート。最初から最後まで演奏し続ける小太鼓が、指揮者の目の前に置かれていました。第2ヴァイオリンとチェロの間の前から2列目に女性奏者が座って演奏しました。この作品では小太鼓は主役待遇ということでしょう。その他の楽器配置では、最後列が打楽器とトロンボーンとテューバ、その前がホルンとトランペット。ソプラノサックスとテナーサックスはその前の木管楽器の2列目に座っていました。
アクセルロッドは、まず最初から最後まで曲を通しました。指揮している間は無言で、言葉では指示を与えません。冷静にテンポを刻みます。指揮台に置いてあるイスは使わず、ずっと立って指揮しました。冒頭の小太鼓は硬い音質でスタート。静寂の緊張感がありました。各ソロ楽器にとっては朝一番から弱奏で演奏しなければならないのはなかなか大変なようです。練習番号3からハープをやや強調。練習番号4からの第2ヴァイオリンは楽器を寝かせてギターのように胸の前で傾けて持ちました。スコアには特に指定されていないので、珍しい奏法に驚きました。練習番号5からの第1ヴァイオリンも同じ奏法です。練習番号9か10くらいから、普段どおり顎と肩で楽器をはさんで演奏しました。練習番号7からはオーボエを強調。アクセルロッドは「四分音符+八分音符+八分休符+八分音符+八分休符」の音型では2拍目にアクセントをつけて指揮しました。練習番号12からヴァイオリンがメロディーを演奏すると、アクセルロッドはメロディーに抑揚をつけるように指揮。音色も明るくなりました。練習番号16からもう1台追加される小太鼓はホルンの左で演奏しました。291〜292小節や309〜310小節の「四分音符+八分音符+八分休符+八分音符+八分休符」のトランペットとトロンボーンのリズム音型の鳴り方が強烈。転調した練習番号18はトランペットとトロンボーンはメロディーの二分音符でクレシェンド。335小節からは1拍目のトロンボーンが四分音符が強烈。興奮しました。
演奏が終わると、小太鼓奏者に全員で拍手。「Begining」と言って最初から気になった部分を取り出して練習しました。アクセルロッドは英語で話しました。いつもなら団員は指揮者の指示を聞いていることが多いですが、アクセルロッドの指示をスコアに書き込むことが多かったです。冒頭でリズム音型を演奏するヴィオラとチェロに「Listen」と言ってフルートのメロディーを聴くように指示。やはり3拍子の2拍目を強調する指揮ですが、その後しばらくは両手を前で重ねたまま直立不動でじっくり演奏を聴いていました。演奏が終わったソロ奏者に「Wonderful!」などと褒めました。練習番号4から第2ヴァイオリンは4声に分割されますが、アクセルロッドはそのうち聴かせて欲しい音を言って、何回かバランスを調整。練習番号6からのテナーサックスソロは歌わせ方を調整した後「ブラボー!」。練習番号10のトロンボーンソロも「Very good!」。練習番号11の2小節前から全体でクレシェンドするように指示しました。練習番号18のトランペットとトロンボーンはメロディーの二分音符のクレシェンドは、「ロング クレシェンド」と言って、すぐに音量を上げないように指示しました。
練習が終わって、オーケストラは配置転換。その間を利用して、アクセルロッドがギャラリーに向かって作品を解説してくれました。コンサートマスターの泉原が通訳して日本語で話しましたが、声が小さくてよく聞こえなくて残念。ファンサービスにも積極的です。

11:10頃からラヴェル作曲/スペイン狂詩曲の練習。各曲単位で最初に通した後に戻って細かく練習する方法は「ボレロ」と同じです。第1曲「夜への前奏曲」。細部まで繊細に聴かせます。チェレスタはヴァイオリンの後方に置かれました。少し指示しただけでそのまま第2曲「マラゲーニャ」へ。冒頭のバスクラリネットを強調。練習番号6のトランペットソロからテンポを落として練習番号7に入る前に少しパウゼを置くように指示。ヴァイオリン奏者がスコアに書き込むのに時間がかかったので、アクセルロッドはギャラリーを振り向いて手首を動かして「書いています」というフリをしました。練習番号11の強奏の盛り上がりはすばらしい。練習番号13は木管楽器の連符のアッチェレランドのタイミングを何回か練習。練習番号15の弦に「espressivo!」。第3曲「ハバネラ」は練習番号9でフルートとオーボエの十六分音符を強調する以外はほとんど指示がありませんでした。ここまでで11:30を超えたので「時間ですけど、もう少しいいですか」と団員に断ってから、第4曲「祭り」へ。最初に通そうとしましたが、練習番号4でフルート?がタイミングを間違えたので演奏がストップ。「Once again」と言って最初からやり直し。金管楽器が開放的に鳴り、打楽器も全開。ここまで開放的に鳴る京都市交響楽団は初めて聴きました。京都市交響楽団の眠っていた素質を開花させたようです。練習番号13小節からのRal.はテンポを落としてヴァイオリンがゆっくり下ります。最後2小節の終わり方の指揮を合わせました。11:40に練習終了。アンケートを記入して帰りました。
アクセルロッドはあまり話しません。英語ではうまく伝わりにくいためかもしれませんが、指示も短い。演奏の出来映えに納得しているようで、あまり話すことがなかったのかもしれません。翌日の本番が楽しみになりました。後述するように、公開練習と本番を聴きくらべると練習のほうがよかったところもありました。公開練習は作品と演奏をより深く知ることができるので、また聴きに行きたいです。

京都市交響楽団練習場



<京都市交響楽団第525回定期演奏会> 2009年6月7日(日)

京都コンサートホールに着いてびっくり。1階のチケットカウンターに、当日券を買い求める大行列ができていました。今年度の定期演奏会から土日公演を14:30開始に変更したことや、半額で購入できる「学生券」や、休憩後の後半プログラムを聴ける「後半券」を導入したことが成功したようです。

開演前の14:10からプレトーク。いつもは指揮者が登場しますが、アクセルロッドは外国人なので、今回は音楽評論家で京都大学名誉教授の鴫原眞一が登場。鴫原は今回のパンフレットで楽曲解説を執筆しています。「今回の演奏会はラテン・スペイン系の特集」と話して、プログラム順に作品を解説しました(詳細は後述)。パンフレットに書いてある内容と重複する話が多く、少し退屈しました。鴫原氏の話が終わると、アクセルロッドが登場。「こんにちは」と日本語で挨拶しました。鴫原氏が英語で質問して、アクセルロッドが答えました。アクセルロッドの公式ホームページにこの演奏会が「Shall we dance in Kyoto?」と紹介されている理由を鴫原氏が聞くと、アクセルロッドは「私の好きな映画が「Shall we ダンス?」なので」と答えました。自己の経歴については「テキサス生まれでメキシコ音楽の影響を受けた」と話しました。鴫原氏が日本語に翻訳して客席に話しましたが、アクセルロッドこんなによく話すとは予想外だったのか「まあそういうことです」という感じでややアバウトな翻訳でした。後述するように、アクセルロッドは音楽から視覚的な風景を思い浮かべながら指揮しているようです。アクセルロッドは質問にとても誠実に答えていて好感が持てました。プレトークが長引いて、開演時間を5分ほどオーバーしました。客の入りは8割ほどでした。

プログラム1曲目は、ガーシュウィン作曲/キューバ序曲。鴫原氏はプレトークで「キューバダンスのリズム」「この作品の当初のタイトルは「ルンバ」だった」と話しました。アクセルロッドは「あまり有名ではないけど、作品はおもしろい」「勢いをつけるために選曲した」と話しました。冒頭がちょっと空中分解気味に始まったのでヒヤッとしました。打楽器が多くてにぎやかです。管楽器もよく鳴りました。陽気で明るい響きが楽しい。アクセルロッドは全曲譜面台なしで指揮しました。最後は指揮台の上でジャンプして終わりました。

プログラム2曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲/スペイン奇想曲。アクセルロッドはプレトークで「女性がスカートをたくし上げて踊る様子」と話しました。1曲目と第3曲の「朝の歌」はやや遅めのテンポ。低音をよく効かせて重厚感があります。泉原隆志のヴァイオリンソロは、身を前かがみにして演奏。第2曲「変奏曲」はしっかり歌わせます。アクセルロッドも大きな構えの指揮。第4曲「情景とジプシーの歌」はトランペットが華やかに鳴ります。続くヴァイオリンソロはねっとりと演奏。第5曲「アストゥリアのファンタンゴ」はヴァイオリンがよくまとまっていて、風格すら感じられました。

休憩後のプログラム3曲目は、トゥリーナ作曲/交響詩「幻想舞曲集」。鴫原氏はプレトークで「京都市交響楽団でトゥリーナを演奏するのは初めてではないか」と話しました。アクセルロッドは「今日のプログラムではただ1人のスペインの音楽家」と話しました。作品は3曲からなります。神秘的な和音で始まります。お堅い作品名から古典的な音楽かと思いましたが、似つかわしくないような映画音楽のような作品でした。情熱的な部分もあり、豊かな響きで熱く歌いました。演奏の完成度も高く、バランスもよくまとまっています。ただ、演奏頻度が少ないことがうなずけるような、なじみにくい作品といえるでしょう。

プログラム4曲目は、ラヴェル作曲/スペイン狂詩曲。アクセルロッドは「ラヴェルの声がよく聴き取れる。音の風景がよく描かれている」と話しました。また、ガーシュウィンがラヴェルの教えを請おうと訪れたときに、ラヴェルに「二流のラヴェルになる必要はない」と言われたエピソードも紹介しました。第1曲「夜への前奏曲」は最弱音からスタート。前日の公開練習よりもテンポはやや遅めです。第2曲「マラゲーニャ」は、練習番号13の木管楽器の連符の受け渡しが失敗。前日の練習でも何回か練習していたので、うまくいかなかったことがすぐに分かってしまいました。第4曲「祭り」は、強奏は威勢はいいですが、荒く強引に感じました。もう少し分析的に聴かせてほしい気もします。

プログラム5曲目は、ラヴェル作曲/ボレロ。鴫原氏は「小太鼓は最初から最後まで4064回も叩かれる。ご苦労様です」と話しました。前日の公開練習と同じく、小太鼓奏者は指揮者の前で演奏します。女性奏者が自分で小太鼓を持って移動しました。テンポは練習よりも速めでした。小太鼓は音符の粒(タイミングや音量)がそろっていない部分がありました。前日の公開練習は完璧でしたが、本番ではそうもいかないようです。ヴァイオリンをギターのように寝かせて弾く奏法も同じ。演奏は前日の公開練習のほうがもっと開放的に鳴ったので、本番は特徴が薄れた印象を受けました。練習場のギャラリーは京都コンサートホールの客席よりもオーケストラと客席の距離が近いので、演奏の特徴がダイレクトに聴こえたのかもしれません。アクセルロッドは何かの楽器を突出して聴かせるわけではなく、総合力で聴かせました。ヴァイオリンのメロディーが美しさは特筆すべきでしょう。
演奏終了後は熱狂的な拍手。アクセルロッドは小太鼓奏者を指揮台の上に上げて、指揮台の上で握手しました。客席からこの日最大ボリュームの拍手が送られました。アクセルロッドは右手を高く上げて拍手に応えていました。
終演後は、演奏を終えたばかりの団員がホールの通路に並んで、聴衆をお見送り。今年から始まったファンサービスのようです。

アクセルロッドの日本デビューは大成功だったといえるでしょう。京都市交響楽団の可能性を引き出してくれました。オーケストラをコントロールするタイプではなく、開放的に鳴らして演奏の流れを作り出すタイプの指揮者のようです。こじんまりまとまることがないので、いつもは響きが薄く感じられる京都コンサートホールですが、今回はじゅうぶん響きました。アクセルロッドは2010年9月からはフランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督にも就任します。今回の演奏を受けて、日本国内の他のオーケストラから招聘されるかもしれません。
京都市交響楽団の演奏レベルも、演奏会に足を運ぶたびに向上していることが感じられます。アクセルロッドは京都市交響楽団があまり共演しないタイプの指揮者ですが、要求にもよく応えていました。
残念なことに今回の演奏会は聴衆のマナーの悪さが気になりました。私がこれまでに聴いた演奏会でもかなり悪い部類に入ります。携帯電話が鳴ったり、ビニールの袋をガサガサする音がずっと聴こえたり、途中で退場したのか扉を開閉する大きな音が聴こえたり…。新しい聴衆を獲得することはよいことですが、そのことで演奏会を楽しむ雰囲気をぶち壊すようだと本末転倒でしょう。

(2009.6.19記)




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