兵庫芸術文化センター管弦楽団第131回定期演奏会「インキネン シベリウス&春の祭典」


  
   
2022年3月19日(土)15:00開演
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

ピエタリ・インキネン指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団
川久保賜紀(ヴァイオリン)

シベリウス/交響詩「フィンランディア」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

座席:A席 3階3A列22番



ピエタリ・インキネンが指揮する演奏会に初めて行きました。インキネンが兵庫芸術文化センター管弦楽団を指揮するのは今回が初めてです。3日間公演の2日目です。
インキネンはフィンランド生まれ。日本フィルハーモニー交響楽団首席指揮者、ザールブリュッケン・カイザースラウテルンドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、韓国KBS交響楽団音楽監督、ニュージーランド交響楽団名誉指揮者を務めています。

本公演のチケットは緊急事態宣言中の昨年9月に発売されました。インキネンは、2月に来日して「第47回九州公演 日本フィル in Kyusyu 2022」(2022.2.11〜22)を指揮する予定でしたが、オミクロン株に対する外国人の新規入国停止措置のため、来日できませんでした(横山奏と永峰大輔が代役)。続く広島交響楽団第419回定期演奏会(2022.3.5)も降板しました(円光寺雅彦が代役)。
本公演の来日も諦めていましたが、3月から新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、観光を除く外国人の新規入国が再開されたことで、3月2日になんとか来日できました。成田空港に到着したばかりのインキネンが、NHKニュースでインタビューを受けていました(「フィンランド人の指揮者の男性」と紹介されました)。来日後は、札幌交響楽団第643回定期演奏会(2022.3.12&13)を指揮した後、本公演に臨みました。

兵庫県のこの日の新規感染者数は1917人。まん延防止等重点措置が解除される見込みとなり、3月21日で解除されました。ホールのスタッフがチケットをもぎってくれて、プログラムの入った袋を渡してくれました。クロークは営業していませんでした。

以前の定期演奏会(第41回定期演奏会「岩村力×林英哲 和洋の響宴」)では開演前にプレトークがありましたが、コロナ禍のためか、なくなったんですね。弦楽器は左から、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの配置。雛壇は5段で、反響板を少し後ろにずらして、ステージ脇とのすき間に高いついたてを設置していました。特別演奏会「佐渡裕 アルプス交響曲」では雛壇が6段で、反響版ももっと後ろにずらしていましたので、それほどではありません。

プログラムに名前が掲載されたメンバーは106名。コンサートマスターは田野倉雅秋(2020年9月から就任)。奏者はランクが細かく分けられ、コアメンバーは33名。ゲスト・トップ・プレイヤー(他のオーケストラの首席奏者)は4名。スペシャル・プレイヤー(他のオーケストラの奏者)は3名。レジデント・プレイヤー(1年ごとにオーディションで選出)が6名。アフィリエイト・プレイヤー(芸術監督の推薦で選出)は4名、アソシエイト・プレイヤー(1年ごとにオーディションで選出)は8名、エキストラ・プレイヤーが47名と全体の約4割を占めます。
ゲスト・トップ・プレイヤーとして、黒川冬貴(コントラバス、2005.9〜2008.8在籍)とハラルド・ナエス(トランペット、2005.9〜2007.5在籍)、スペシャル・プレイヤーで中野陽一朗(バスーン)など京都市交響楽団のメンバーもエキストラで出演しました。3階席の最前列ですが、目の前の棒が邪魔です。客の入りは8割程度。

プログラム1曲目は、シベリウス作曲/交響詩「フィンランディア」京都市交響楽団第663回定期演奏会(井上道義指揮)で聴いたばかりです。冒頭の金管楽器のfzはアクセント気味に念を押すような表現。弦楽器が重みのある響き。ホルンが連符でベルアップしましたが、スコアに指示はありません。
インキネンは意外に若い(私よりも年下)。譜面台はありますが、スコアは置かずに指揮。打点を明確に示すのではなく、フワフワと揺らすような独特の指揮法です。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、チャイコフスキー「1812年」の演奏を取りやめる動きが日本で広がっていますが、インキネンの母国であるフィンランドで、ロシアの圧政下で作曲されたこの作品を、今演奏することへの特別な思いがあったことでしょう。インキネンはカーテンコールの出入りが早い。

プログラム2曲目は、シベリウス作曲/ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は、川久保賜紀。川久保のシベリウスは、日本フィルハーモニー交響楽団第189回横浜定期演奏会「沼尻竜典正指揮者就任披露演奏会」で聴けるはずでしたが、右腕の療養で降板したため(堀米ゆず子が代役)、ようやく聴けます。川久保を聴くのは、チャイコ3連投!熱狂コンチェルト−2021−以来です。シルバーグレーのスパンコールのドレスで登場。
インキネンはヴァイオリニストとして、この作品を演奏したことがあるとのこと。川久保を「25年来の友人」と語っていて、独奏と伴奏のバランスの取れた演奏でした。インキネンはスコアは置かれましたが、めくらずに指揮。川久保のヴァイオリンがのびやか。音圧は強くありませんが、安定感があります。
第1楽章106小節からのホルンのゲシュトプを強調。233小節のカデンツァ前のオーケストラの合いの手が優しくて生ぬるいですが、確かに金管楽器はmf<fzです。いつも聴いている演奏は音量が大きすぎるのかもしれません。Allegro molto vivace.(417小節)からは、独奏ヴァイオリンはあまり大きな音量を出さず、オーケストラ伴奏もすごく抑えめ。インキネンが前屈みになってオーケストラをコントロールしました。
第2楽章は、弦楽器がメロディーを演奏する25小節からややテンポアップ。49小節からクラリネットを浮き立たせました。休みなく第3楽章へ。48小節からの弦楽器のトゥッティはまとまった響き。ヴァイオリン独奏は少し乱れました。

カーテンコールの途中で譜面台が2つ運ばれて、アンコール。「レスピーギのシチリアーノです」と川久保が紹介して、レスピーギ作曲/シチリアーナをコンサートマスターの田野倉雅秋とデュエットで演奏。川久保の発案と思いますが、コンチェルトのアンコールで、コンマスとの二重奏は珍しい。左に川久保、右に田野倉が立って、息のあったデュエットを聴かせました。

休憩後のプログラム3曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「春の祭典」。雛壇5段に管楽器が並び、最後列は打楽器を配置。第1部「大地への讃仰」冒頭の「導入」のバスーンソロは、最初の一音のフェルマータが長め。f並みの大きな音量ですが、確かに私が持っているスコア(ブージー・アンド・ホークス)に強弱記号は書かれていません。その後も大きめの音量で進み、前曲のシベリウスの協奏曲と違って管楽器の音量をセーブしません。この作品の荒々しさが、兵庫芸術文化センター管弦楽団の荒削りなところに合っています。インキネンはスコアをめくりながら、身体を左右に揺らしてゆったりした指揮。「賢者の行進」は、ギロが目立つように顔の前でこすりました。「大地の踊り」は、金管楽器シャープな切れ味。
第2部「いけにえの祭」は冒頭からやや速めのテンポ。練習番号138などホルンのベルアップ(pavillons en l'air)がよく鳴ります。最後の「神聖な踊り、選ばれた乙女」は、やや速めのテンポ。練習番号184からホルンのメロディーを聴かせました。

インキネンはカーテンコールで登場してもすぐに帰ってしまいます。インキネンが「アンコールは、シベリウスの、悲しきワルツを演奏します」と日本語で話して、シベリウス作曲/悲しきワルツを演奏。「春の祭典」の狂乱の後に、心が洗われるアンコールです。弦楽器とフルート、クラリネット、ホルン2,ティンパニだけで演奏。弦楽器の流麗なメロディーがすばらしい。57小節からのpiu ppを超弱奏で聴かせました。

一昨年の9月の特別演奏会「佐渡裕 アルプス交響曲」よりも、オーケストラがうまくなって、期待以上の演奏でした。インキネンの解釈がよく伝わりました。
余談ですが、インキネンが首席指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団のクラウドファンディングで、CD「フィンランディア&新世界」+直筆サイン色紙を3,000円で購入しました。6月に発送予定とのことです。


KOBELCO大ホール入口 ステージのモニター映像

(2022.5.4記)


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