日本フィルハーモニー交響楽団第189回横浜定期演奏会
「沼尻竜典正指揮者就任披露演奏会」


   
      
2003年7月5日(土)18:00開演
横浜みなとみらいホール大ホール

沼尻竜典指揮/日本フィルハーモニー交響楽団
堀米ゆず子(ヴァイオリン)

シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
ブラームス/交響曲第1番

座席:Ys席 3階Cブロック 3列28番


JR桜木町駅から動く歩道に乗って歩くと、横浜みなとみらいホールがありました。クイーンズスクエアという建物の中に併設されているので、コンサートホールという印象は薄いでしょう。開演前のチャイムが中国風のドラというのがとてもユニークでした。

今年4月に日本フィル正指揮者に就任した沼尻竜典の就任披露演奏会で、客は8割程度の入りでした。今まで聴いた日本フィルの演奏会(京都演奏会2002秋第134回サンデーコンサート)はいずれも常任指揮者の小林研一郎が指揮したものでしたので、小林以外の指揮者による演奏会は今回が初めてでした。

プログラム1曲目は、シベリウス作曲「ヴァイオリン協奏曲」。ヴァイオリン独奏は川久保賜紀の予定でしたが、右腕の療養が長引いたとのことで、堀米ゆず子が代役を務めました。
第1楽章のヴァイオリンパートは、本当に難しいですね。それだけよく作曲されているという印象をこの演奏を聴いて(見て)新たにしました。堀米の独奏は、しっとりとした潤いのある音色を奏でました。ただ、この作品を演奏するにはたくましさや図太さが不足しており、線が細い印象を受けました。高音ではもう少し突き刺さるような音色が欲しいです。またフレーズの切れ目が明確でなく、流麗すぎる気がしました。
オーケストラ伴奏は、沼尻は大振り気味で指揮していましたが、オーケストラの反応は鈍く指揮台の上でも落ち着かない様子でした。全体的には堀米が曲作りをリードしていましたが、ラストのソロヴァイオリンとオーケストラが張り合う部分で、ヴァイオリンとオーケストラがズレました。堀米がオーケストラを追い越して演奏してしまったのが原因です。沼尻がもう少し主導権を発揮して欲しかったと思います。
第2楽章は、オーケストラの伴奏がもやもやしていて、特に管楽器のみの演奏は問題があると思います。ヴァイオリンパートが加わると、音楽が引き締まって聞こえました。
第3楽章では、堀米のヴァイオリンは速いパッセージになると少し雑になり、音程の乱れが気になりました。
堀米は優勝したエリーザベト王妃国際コンクールで、このシベリウスの協奏曲を演奏したそうですが、今回の演奏は不調であったと言わざるを得ません。期待が大きかっただけに残念です。

休憩後のプログラム2曲目は、ブラームス作曲「交響曲第1番」。5月の名古屋フィルハーモニー交響楽団常任指揮者就任披露公演でもこの作品を取り上げており、沼尻の得意曲と言えるでしょう。
第1楽章は、ヴァイオリンのボリューム感がすばらしいですが、木管楽器は音量不足で、トランペットとホルンは音の粒がはっきりしないなど弦楽器のおまけといった印象を受けました。やはり楽器間でレベルに違いがありすぎると、いい演奏にはなかなかなりません。全体的にブラームスにしては音色が明るすぎる気がしました。
第2楽章は、弦楽器のアンサンブルがすばらしく、濃厚な表情を作り出していました。ただし、楽器間の交通整理がいまひとつで、どの旋律を聴かせたいのかがよく分かりませんでした。
第3楽章は、管楽器も弦楽器も滑らかな演奏でしたが、悪く言えば、可もなく不可もない演奏でした。
第4楽章は、有名な主題は、弦楽器はテヌート気味に演奏しました。弦楽器は小林研一郎が振るよりも気持ちよく演奏しているように見えました。弦楽器は熱演でも、管楽器はそれほどでもないというのは具合が悪いように思います。

演奏終了後、沼尻から簡単にあいさつがあり、アンコールとしてグリーグ作曲「ホルベルク組曲からプレリュード」が演奏されました。弦楽器のみの演奏でしたがのびやかに演奏しており、まさに日フィルのためにある作品と言えます。小林研一郎は「ダニーボーイ」をアンコール曲として使っていますが、沼尻もこの作品で固定するのでしょうか?

沼尻竜典にはもう少し若さあふれるアプローチが欲しいと思いました。今回の演奏も沼尻の演奏と言うよりは日フィルの演奏といった印象が強く、沼尻の個性はまだ出せていません。日本フィルならこの程度はできて当然という予想の範囲内の演奏だったのが惜しまれます。堂々とした風格も不足しており、まだまだこれからという指揮者でしょう。小林研一郎とは違うカラーに期待したいです。

日本フィルハーモニー交響楽団は、やはりヴァイオリンとそれ以外の楽器の演奏レベルの差を改善していくのが課題であると思います。特に管楽器はセクション練習などを取り入れたほうがよいのではないでしょうか?

(2003.7.21記)


横浜みなとみらいホール



日本フィルハーモニー交響楽団第134回サンデーコンサート 都響プロムナードコンサートNo.305