京都市交響楽団大阪特別公演


   
   
2009年4月12日(日)14:00開演
ザ・シンフォニーホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
山下洋輔(ピアノ)

ビゼー/「カルメン」組曲第1番
ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルー
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」

座席:A席 2階 AA列23番


2008年4月に京都市交響楽団常任指揮者に就任した広上淳一が、同交響楽団を指揮して初の大阪公演を行ないました。この日のためだけのプログラムを用意して、気合い十分です。コンサートマスターは、今年2月に就任した泉原隆志が務めました。定期演奏会では開演前にプレトークが行なわれていますが、この日はありませんでした。客席は9割程度の入りでした。

プログラム1曲目は、ビゼー作曲/「カルメン」組曲第1番。広上淳一が頭をかきながらゆっくり登場。1曲目の「前奏曲」から引き込まれました。コントラバスのアクセントを強めに聴かせます。弦楽器のトレモロも大きく聴かせて劇的な表情を作り出しました。第2曲「アラゴネーズ」は打楽器が効いて華やか。京都コンサートホールと違って、ザ・シンフォニーホールは直接音が多く、鮮やかによく響きます。主旋律はテンポに緩急をつけて聴かせます。最後の第6曲「闘牛士」は速めのテンポでせかせかと忙しそうに演奏。広上の指揮は表情豊かで、いつものように見ていておもしろいです。

プログラム2曲目は、ガーシュウィン作曲/ラプソディー・イン・ブルー。ピアノ独奏は、山下洋輔。広上淳一と山下洋輔は今回が初共演とのこと。山下洋輔を聴くのは芸術文化センター管弦楽団第21回定期演奏会以来、3ヶ月ぶりです。山下が白の上下に、黒のチョッキという衣装で登場。
山下洋輔のピアノはペダリングが多め。よく響きますが、音符の輪郭はよく分かりません。この作品ではカデンツァが4ヶ所ありますが、最初のカデンツァではガーシュウィンの原曲にパッセージを付け加えたり、音程を上げたりする程度でしたが、徐々に激しさを増しました。音階の激しい上昇下降があったり、ひじ打ちで鍵盤を叩いたり。また、何か他の作品を引用したようにも聴こえました。ガーシュウィンから離れて山下の創作がかなり入っていました。ガーシュウィンの原曲と比べるとカデンツァが長いですが、これくらいあったほうが楽しいですね。山下は両手両足が本当によく動きます。右足はペダルを踏んだり上げたり、左足は貧乏ゆすりのように激しく揺らしてテンポを刻みます。
オーケストラ伴奏もピアノに全部持っていかれないように主張していました。冒頭のクラリネットソロ、ミュート付きトランペットなど、グリッサンドを効かせて遊び心満載で楽しい。広上淳一もノリノリ。ほとんどダンスのような指揮でした。テンポを遅くして表情をつけたり、打楽器を大きめに聴かせるなど、伴奏指揮者の役割をじゅうぶん果たしました。山下のカデンツァは頭を動かしながら聴いていました。この作品を演奏会で聴くのは今回が初めてでしたが、クラリネットに左にエレキギターのような楽器がありましたが、バンジョーらしいですね。また、サックス3本がファゴットの右にあったり、CDではあまり聴こえませんが、珍しい楽器が使われているんですね。
拍手に応えて山下がアンコール。コンサートマスターにひとこと声をかけてイスに座りました。コンサートマスターが腕時計を見たので、何分演奏できるか確認したのでしょう。コスマ作曲/枯葉ストレイホーン作曲/スウィングしなけりゃ意味がないをメドレー形式で演奏。芸術文化センター管弦楽団第21回定期演奏会のアンコールでも演奏しました。原曲の原形がわからないほど、アレンジされていました。カーテンコールではポディウム席に山下洋輔の熱狂的ファン(女性)がいて、立ち上がって両手を大きく振って叫んでいました。クラシックの演奏会ではなかなか見られない光景なので笑えました。

休憩後のプログラム3曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第6番「悲愴」第12回京都の秋音楽祭開会記念コンサートで聴いた交響曲第5番と比べると、第3楽章までは淡白な演奏。広上の指揮もオーケストラまかせで淡々と進みます。第1楽章は金管楽器が絶好調。京都コンサートホールではこんなに勢いよく聴こえません。第2楽章も万事スムーズ。第3楽章は前半がやや遅いテンポでかったるい。229小節のトゥッティからテンポアップ。金管楽器は勢いあまって音を外すほどよく鳴ります。広上はティンパニ奏者のまねをして、大きく肩を揺らして左右の手を上下させました。途中からは指揮棒を使わないで、全身を使ったパワフルな指揮でした。あまりの迫力に、第3楽章が終わると拍手がチラホラ。この作品を初めて聴いた方がいたようですが、楽章の数くらいは数えてほしいものです。広上は休みなしに続けて第4楽章に入りたかったようですが、拍手で緊張が解けてしまったので、少し間を置きました。第4楽章はこれまでの楽章と完成度の違いが歴然。この作品の聴きどころは第4楽章にあるということでしょう。広上もまさに壮絶な指揮。うなり声を上げたり、足を踏み鳴らしたり、指揮棒を振り回したり、指揮台の上で大暴れ。寿命を2日ほど縮めたのではないでしょうか。「悲愴」を聴いてこんなに血圧が上がったのは初めてです。オーケストラも広上の指揮にしっかりついていて、弦楽器の一致乱れぬアンサンブルがすばらしい。日本のオーケストラでもトップクラスにあるでしょう。37小節からのAndanteはチェリビダッケな並みの遅いテンポから徐々に盛り上げます。147小節からのAndante giustoもコントラバスをしっかり聴かせました。

カーテンコールの後、広上が挨拶。「京都から来て幸せです」と話し、「みなさんもたまには京都へ」と言って笑わせました。「さみしい終わり方の曲だったので、癒しの曲を」と話し、アンコール。リャードフ作曲/「8つのロシア民謡」より第3曲「遅歌」を演奏。チェロから始まる短い曲です。ミサ曲のようなメロディーで、「悲愴」で亡くなった人への追悼のようです。心に染み渡りました。初めて聴く曲でしたが、広上らしい心憎い選曲です。

広上淳一が常任指揮者に就任してから、京都市交響楽団は響きの濃度が濃くなりました。演奏技術も向上しています。いつも聴いている京都コンサートホールよりも、ザ・シンフォニーホールの豊かな音響のほうが演奏に適しているようです。大阪公演をぜひ毎年続けてほしいです。

(2009.4.14記)


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