京都市交響楽団練習風景公開


   
      
2007年9月15日(土)10:30開演
京都市交響楽団練習場

高関健指揮/京都市交響楽団

ショスタコーヴィチ/交響曲第5番

座席:全席自由


京都市交響楽団は毎月1回、練習風景を無料で公開しています。「京響メールマガジン」や「市民しんぶん」で広報されていて気になっていたのですが、平日の午前中が多くてなかなか行くことができませんでした。今回は珍しく土曜日ということで、往復ハガキで応募しました。定員は50名で、定員を超えると抽選ということでしたが、抽選の結果(?)案内状が届きました。

場所は、京都市交響楽団練習場。初めて行きます。地下鉄鞍馬口駅で降りて、鞍馬口通を東に8分ほど歩きます。周辺は閑静な住宅地ですが、案内状の地図どおり歩くと、グレー色の大きな建物が姿を現しました。一目ではオーケストラの練習場とは気づかないでしょう。この練習場は、1989(平成元)年に新しく建てられました。かつては、出雲路尋常小学校があったようです。10:15集合、10:30開始の予定でしたが、10:00にはすでに着いてしまいました。建物の周囲を歩いていると、オーケストラの団員が徒歩や車で、楽器を片手に続々と出勤されてきました。

建物の入口に受付が設置されていました。案内状を渡すと、事務局の方から資料を渡されて、「携帯電話やアラーム時計は電源を切ってください」という簡単な説明がありました。受付のすぐ隣が「合奏室」ですが、練習を見学できるのは2階とのこと。階段で2階に上りました。2階には「中練習場」や「ソリスト室」などの個室や楽器庫がありました。また、京都市交響楽団がこれまでに受賞した賞状や、歴代指揮者の写真が飾ってありました。
練習を見学できる2階の「ギャラリー」は、1階の合奏室の真上にあります。50席ほどの固定イスが3列ありました。募集定員が50名なのは、この座席数によるようです。2階からは団員の様子が至近距離でよく見られます。これだけ近い距離で団員の顔を表情まで正面から見られる場所は他にないでしょう。受付でもらった顔写真入りの団員一覧を見れば、団員の名前も覚えることができます。ただ、指揮者やコンサートマスターなど最前列の奏者が、2階からは見えにくいのが残念です。団員は私服で、ジーパンなどのラフな服装が多かったです。10:30の練習開始に向けて続々と団員が増えます。音出しなどの基礎練習をしたり、曲の一部を練習したりしていました。楽器ケースを足元に置いている団員が多かったです。パートによってウォーミングアップにかかる時間が違うようで、トランペットが一番遅くて重役出勤でした。オーケストラは対向配置で、向かって左から、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンの順で、コントラバスは、チェロの後ろに配置していました。

10:30になって、オーケストラの音が鳴りやみ、事務局の方から今後のスケジュールについて団員に向けて事務連絡がありました。続いて、オーケストラのチューニングが始まり、高関健がスコアを持って指揮台に上りました。高関の「おはようございます」という挨拶のあと、さっそく練習が始まりました。
今日の曲目は、ショスタコーヴィチ作曲/交響曲第5番。翌日14:00開演の「第11回京都の秋音楽祭開会記念コンサート」(京都コンサートホール大ホール)で、メインプログラムとして演奏されます。
第1楽章からスタート。高関は全体的に速めのテンポで指揮しました。高関の指揮を見たのは今回が初めてでしたが、積極的なアクションでオーケストラをリードしました。高関はオーケストラの方を向いて話すので、何を話しているのか聞き取りにくいのが残念でした。少し早口だったので余計にそう感じたのかもしれません。話し方は命令口調ではなく、「〜していいですか」「〜という感じ」という風に、やさしい口調で話しました。
冒頭の弦楽器による主題から頻繁に演奏を止めて、アーフタクトや音符の長さについて指示しました。16小節の第2ヴァイオリンとヴィオラの付点八分音符4つは「ひとつひとつください」と指示。練習番号9のハープには、「(音量が)大きい。遠くで鐘が鳴る感じで」。練習番号9からの弦楽器の伴奏音型について、ヴィオラ奏者から高関に質問が出ました。高関は「やってみましょうか」と言って練習。「さざなみに自主性がないほうがいい」と話しました。練習番号13からのクラリネットとファゴットの和音はバランスを調整。練習番号17からのコントラバスには、「四分音符はあまりいらない。八分音符が大事」。練習番号27からの小太鼓には、「もっと進む感じ」。練習番号17からはじまる中盤部分はさっと流して、前半部分に練習時間の多くを費やしていました。

11:10に第1楽章が終わり、第2楽章へ。この楽章も速めのテンポで指揮しました。冒頭のチェロとコントラバスに「八分音符がちょっと早い」。練習番号59からのファゴットには「正三角形で」(3拍子のテンポを揺らさないで)。第1楽章に比べると、あまり時間はかけませんでした。

11:25に第2楽章が終わって休憩に。練習は午後も続きますが、公開練習はここで終わり。1時間は短いですね。あっという間でした。第3楽章と第4楽章の練習も見たかったです。団員は1階にあるロビーで談笑していました。

高関健はなかなか緻密な練習を行ないました。上述した以外にも「そこは付点ではないですよね」と言ってスコアを確認したり、「その音を少しはっきり」「そこは間を開けたほうがいいでしょう」「アーフタクトが早い」「ディミヌエンドもうちょっと早く欲しいです」など具体的に指示しました。また、コントラバスに対して「もう少し冷ためな感じ。突き放しちゃっていいですか」と音色や表情についても指示しました。また、団員がイメージしやすいように、物に例えて指示していました。高関の中で、目指すべき音楽像が定まっているから、いろいろ指示できるのでしょう。
指示した後に同じ部分を練習して、問題なければ次の小節に続けて演奏するという練習の進め方で、何回も反復練習はしませんでした。無意味に演奏を止めることもありません。ただ、第2楽章の途中で「今日中に(練習を)終わります」と団員に話したように、本当はもっといろいろ指示して練習したい様子でした。時間の関係でいくつか見送った部分があったようです。今回は客演指揮者で、定期演奏会ではないので、練習時間が限られているようです。短い時間でいかに内容の濃い練習ができるかが、本番の演奏の出来を決めることがよく分かりました。
練習を始める前に、作品の背景や自己の考えを説明する指揮者もいますが、高関はいきなり第1楽章の練習を始めました。おそらく作品が有名すぎることと、変わった演奏解釈をしたいわけではないので、特に話すことがなかったのだろうと思われます。練習中の指示もスコアに書かれた音符に関することがすべてで、ショスタコーヴィチや作品についての予備知識や雑談などはまったくありませんでした。その点では、いずみシンフォニエッタ大阪リハーサル見学会での飯森範親とは好対照でした。
ちょっと練習時間が足りない感じでしたが、高関が音楽監督を務める群馬交響楽団や、正指揮者を務める札幌交響楽団では、練習時間が比較的多く確保できると思われます。機会があれば高関が指揮する群響や札響の演奏会にも行ってみたいです。

京都市交響楽団の反応もよかったです。高関の指示があって繰り返すときは、明らかに違った表情で演奏していました。高関の意図があまり伝わらないということもなかったように感じました。ほとんどの団員は、高関から指示が出てもパート譜へ書き込んでいませんでした。本番が明日なので、覚えていられるということでしょうか。

京都市交響楽団練習場の合奏室の広さは、京都コンサートホールとは比較にならないので、本番と同じ環境で練習しているわけではありません。合奏室は奥行きはありませんが天井が高いです。残響はありませんが、2階で聴くと密集した響きが聴けました。また、弦楽器は弓で弦をこする音や、フルートの息遣いまでリアルに聴こえました。

NHK交響楽団などリハーサルをほとんど公開していないオーケストラがある一方で、京都市交響楽団は毎月無料で練習風景を公開している試みは大いに評価できます。指揮者や予定される練習曲目などが事前に広報されるのもうれしいです。指揮者がオーケストラにどういう指示を出しているのかよく分かります。また、練習の過程で、パートごとに取り出して聴くことができるので、作品をよりよく知ることもできます。欲を言えば、もうちょっと公開時間を長くして欲しいです。1時間では少し物足りないです。
京都市民以外でも応募できるので、時間がある方はぜひ参加されてはいかがででしょうか。参加される際は、指揮者の指示が具体的に分かるようにポケットスコアを持参されることをおすすめします。

(2007.9.17記)


京都市交響楽団練習場



京都市交響楽団第501回定期演奏会 宇野功芳の“第九”これでもか!? アンサンブルSakura大阪特別公演