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2009年7月26日(日)13:30開演 京都市北文化会館ホール 指導講師:湯浅勇治(ウィーン国立音楽大学指揮科准教授) 座席:全席自由 |
財団法人ロームミュージックファンデーションが主催する「音楽セミナー」(指揮者クラス)も今年で6回目です。指導講師がプロの指揮者を志望する受講生を指導します。そのレッスンの一部を見学できる「レッスン見学会」も毎回行なわれています。前回は2004年に参加しました。その後は平日に行なわれることが多くて行けませんでしたが、今年の「見学会1」は日曜日に行なわれました。入場は無料ですが整理券が必要です。定員は250名。ハガキで応募したところ運よく当選しました。
2009年の指揮者クラスは、すべて京都で行なわれました。早くも2月に「レッスン1」(4日間)がスタート。7月下旬から「レッスン2」(6日間)が再開。毎日10:30〜20:00までレッスンが行なわれたようです。指導講師は2004年と同じく、湯浅勇治と三ッ石潤司。三ッ石は帰国してウィーン国立音楽大学から武蔵野音楽大学に移籍したようです。今回の「見学会1」は「レッスン2」の最終日に行なわれました。ちなみに、翌週からは小澤征爾が加わって京都コンサートホールで「レッスン3」(3日間)が行なわれます。小澤征爾が指導する「見学会2」は今回も平日昼の開催のため行けませんでした。残念。
今年の受講生は9名。各レッスンで次のレッスンの受講生を選抜すると書かれていましたが、実際は全員が次のステップに進んでいるようです。
会場は、京都市北文化会館ホール。地下鉄北大路駅から降りてすぐのキタオオジタウン内にあります。初めて行きました。開場は13:00で、全席自由。いい席で見ようと早めに着いたところ意外にも一番乗りでした。前列中央の席に座って見ました。
ステージ上には、2台のピアノが客席に背を向けて置かれています。また、その奥に指揮台と譜面台が客席に向けて置かれています。両サイドにはイスが置かれていました。
13:30に開始。三ッ石が登場。湯浅先生がどこかに行って行方不明とのことでしたが、湯浅はホール後方の客席に座っていました。少し体調を崩されたとのこと。受講生とピアニスト3名と有料の聴講生数名がステージのイスに座りました。ちなみに、聴講生は「レッスン2」と「レッスン3」を10,000円で聴講できます。事務局から注意事項。「出入りは自由だが、後方の出入口から」とアナウンスがありました。また、レッスンの様子を収録するテレビカメラとハンドマイクのスタッフがそれぞれ1名いました。
三ッ石が挨拶。受講生は9名だが、そのうち小澤征爾音楽塾の副指揮者2名が午後からリハーサル(おそらく30日に行なわれる「小澤征爾音楽塾コンサート〜若き塾生たちの協演〜」)に出かけたので、今いるのは7名とのこと。受講生を紹介する資料が配布されなかったので、名前などよく分からなかったのが残念ですが、受講生の平均年齢は20歳前半とのこと。ちなみに、2名とは齋藤友香理と三ツ橋敬子で、三ツ橋は2004年にも参加していました。続いて、湯浅が「三ッ石とは20年ほどの付き合い」と話した後、「指揮の練習をするのに、いつもオーケストラはいない。オーケストラを使うと1回150万円かかる。そのためピアノ連弾譜を使う。ピアノ連弾用に編曲された曲がたくさんある。ピアノ2台でも指揮者によって違う演奏になる」と話しました。講師の分担については、湯浅が「指揮の動きや指揮とオーケストラの関係」について、三ッ石が「指揮者の頭の中のこと、ソルフェージュや音楽家として必要なこと」を指導すると話しました。湯浅は三ッ石を「博士みたいな人」と絶賛しました。
まず、前半は三ッ石のレッスン。「ヨーロッパのオペラには音楽スタッフが常設されていて、歌い手のためにオーケストラの代わりにピアノを弾くスタッフ(コレペティトール)がいる。その後、歌の伴奏をして、指揮者になるのが伝統だったが、今はこれがなくなっている。ロームさんはこの過程が重要だと考えている。音を聴き取る、自分なりに解釈する、作品を分析する、ハーモニーを理解するといったことを、日本では総合的に身につける機会がない」と話し、このレッスンは「音楽家を目指す人には有益なこと」と話しました。「舞台の上で見せるものではありませんが」と断った上で、受講生に「何がやりたい?」「何に困っている?」と聞くと、湯浅が「全部困っている」と話して笑わせました。受講生のレベルに合わせて使うというダンボール箱に山盛り入っている楽譜の中から、モーツァルト作曲/歌劇「ドン・ジョバンニ」をセレクト。受講生の一人のコマバ君にオペラのストーリーを説明させました。その中から18番のアリアを、受講生で唯一の女性(秋山さん)がピアノを弾きながら歌いました。彼女は京都市立芸術大学を卒業したという紹介があったので、第4回京都市ジュニアオーケストラコンサートで指揮した秋山愛美でしょう。他の受講生もピアノを囲みました。隣で座って聴いていた三ッ石が「3/8拍子はどういう意味?」と質問すると、秋山が「3/4拍子よりテンポでいうと速い」と答えると、三ッ石が「今のテンポでいい?」と指摘して最初からやり直し。また、「装飾音は拍の頭?それとも前?」と質問。「言葉の意味からして拍の頭に入ったほうが自然」と指導して、何回か練習。また、歌詞の訳を言わせました。受講生の中に日本語が分からない留学生がいるようで、受講生の一人ナカムラ君が隣で同時英訳していました(湯浅にMr.translateと呼ばれていた)。同じ部分を今度は三ッ石がピアノを弾きましたが、同じピアノなのに違う音がしたのでびっくり。ピアノも弾く人によって音が変わるのですね。その後も「ここは女性終止でやわらかいイメージ」「音楽の展開と話について考えることは?」「この音楽は何を言おうとしていると思う?」「何のためにモーツァルトはこの1小節を書いた?どういう効果がある?」「キャラクターにあった演奏をする」「Cdurは清廉潔白な音楽」と、作品や演奏について次々と指導しました。
受講生が交代して、続きを演奏。三ッ石が「さっきと同じテンポでやりたい」と早くも指摘。演奏後に「何を感じたんでしょう?特徴的なことは?」と質問して、歌詞を解説。また、「コントラバスは胸の鼓動」と話し、この曲のすごいところは、「和声変えない」「変化記号ない」「何にもしない」「普通の曲」と話し、伴奏のパターンを試奏しながら、モーツァルトの伴奏のすばらしさを話しました。その後も楽曲分析が続き、「長いサブドミナントが来るのはどういう意味?」と質問。「ドミナントを期待させる時間が長いということは、終結が近い」と話しました。「サブドミナントはロマン派のキーワード。3回も繰り返してたたみかけている」「音楽の中に身振りがある」と解説しました。
続いて、教材を変更。「深刻にならないピアノの連弾曲」ということで、ダンボールの中から受講生も手伝って楽譜を探しました。スリマ・ストラヴィンスキー作曲/ミュージカル・アルファベットから「U ユニゾン」をセレクト。スリマは有名なイーゴリ・ストラヴィンスキーの息子とのこと。受講生2名(ナカムラ君とイー君)が連弾で演奏。ユニゾンといっても2人が同じ音符を弾くわけではなく、激しい音の跳躍があるなどリズムも難解で、現代的感覚のある作品です。「そんなに速いの?」とテンポ設定について三ッ石から早くもツッコミ。イー君が日本語が分からないので、三ッ石は英語で話しました。「フレーズの終わりに「パ」が入る」など楽曲も分析。時間の関係で途中で終了しましたが、ずっと聴いていても飽きないですね。初見演奏だけでもすごいと思いますが、同時に作品分析ができるところがすごい。音楽家はいろいろなことを考えながら、演奏したり指揮したりすることが重要なのでしょう。
10分休憩して、後半は湯浅のレッスン。ピアニスト3人が演奏するピアノ2台を受講生が指揮します。教材は、ベートーヴェン作曲/交響曲第5番「運命」。湯浅が「第3楽章から第4楽章に変わる問題点」と話し、第3楽章324小節から指揮。
トップバッターとして、ナカムラ君(Mr.translate)が指揮棒を持って指揮台に上がりました。湯浅が「最初からずれてる」「ティンパニが全員のテンポを決める。コントロールしないと」と話しました。その後も「ゆれてる」「ずれてる」「音が変わったら(指揮の動きも)変わってください」「クレシェンドはどこから始まった?」と指揮テクニックについて鋭い指摘がされました。
続いて、中国人の受講生が指揮台に。表情が豊かで、左右を向くなどオーケストラを前にしていることを想定した指揮を披露。瞬発力も見事。曲線的でやわらかい指揮でしたが、湯浅からは「ポイントクリアリー」と指示を受けました。すばらしい指揮ぶりに客席からも拍手。ちなみに、湯浅は「オーケストラの座っている位置に向いて指揮するような指導はしていない。壁に向かってアインザッツを出す練習をしても意味がない。オーケストラを前にしたときに対応できるように準備する」と話しました。
3人目はコマバ君。ここからは三ッ石も加わって4人で連弾。三輪が「リズムが見えない」「ベーベー弾きになっちゃう」とコメント。湯浅から「身長があるからあまり大きく振らなくていい」。試しに指揮者なしでピアノ4人で演奏したところ、生き生きした表情ですばらしい演奏。受講生はびっくりしていましたが、湯浅が「指揮で抑えつけられている」とコメント。また、「第4楽章に映る直前で4つ振りに変えないほうがいい。パワーを引き出さないと」とアドバイス。その後もテンポが遅くなるなど、課題が残る指揮でした。
4人目は、秋山愛美。「音を聴きなさい」「弾く余裕を与えないとがなってしまう」「手首のスピードが悪い」と指摘。
5人目は、外国人のキューちゃん(男)。腕を振り回したり、大きく息を吸ったり、ダイナミックな指揮。リズムに機敏に反応しました。湯浅も「うまい」とほめました。
6人目は、男の受講生。「指揮するのがピアノでも緊張感が抜けないように」「ちょっとずれる」「ずれても音を聴いてフォローする」「あなたは音が出ると安心してしまう」と話しました。
湯浅が最後に「手を動かす指揮法よりも、自分とオーケストラ、頭と手と一致すればうまくいく」「お客さんにお見せできるのはこれくらいです」と話して、予定時間を少しオーバーして、15:40に終了しました。観客に向かって指揮することがないためか、受講生は緊張気味でした。観客も指揮を真正面から見ることがあまりないので楽しめました。指揮はいかに積極的にリードしていけるかが大切ですね。湯浅は全員を均一化した同じ指揮の動きにしようとは考えておらず、受講生の指揮の振りの個性を生かしてアドバイスしました。
雑談をはさみながら、和気あいあいとした雰囲気で進みました。「成功したらビールをおごる」とか「何度も繰り返すのは女の武器」とか。湯浅が寅さんの映画に出演しているという脱線話もありました。このレッスン見学会は、音楽大学のような専門的な講義が見れるので、大変勉強になります。毎年のように続けてくれているロームミュージックファンデーションに感謝です。来年以降もぜひ見に行きたいです。
(2009.8.7記)