大阪フィルハーモニー交響楽団第576回定期演奏会


    2024年3月2日(土)15:00開演
フェスティバルホール

エリアフ・インバル指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団

マーラー/交響曲第10番(デリック・クック補筆版)

座席:A席 2階1列31番


エリアフ・インバルが大阪フィルの定期演奏会に客演しました。インバルは、フランクフルト交響楽団名誉指揮者や東京都交響楽団の桂冠指揮者を務めています。今年でなんと88歳です。本公演の前には、東京都交響楽団の5公演を指揮し、そのうちの最後の2公演、つまり東京都交響楽団第995回定期演奏会Cシリーズ(2024.2.22 東京芸術劇場コンサートホール)と都響スぺシャル(2024.2.23 同)は、「インバル/都響 第3次マーラー・シリーズ①」として、本公演と同じマーラー「交響曲第10番」を指揮しました。
インバルと都響はすでにマーラー交響曲全曲演奏をなんと2回も達成しています。1回目は「インバル=都響/マーラー・サイクル」(1994年4月~1996年11月)、2回目は「インバル=都響/新・マーラー・ツィクルス」(2012年9月~2014年3月)で、これだけでもすごいことですが、今回から3回目の全曲演奏に挑戦します。第10番から番号をさかのぼっていくとのこと。インバルが来日するのは年に1回なので、非常に長いスパンでのシリーズになります。

なお、インバルは2014年2月に東京都交響楽団のYouTubeチャンネル(@TMSOMovie)で公開された動画「インバルが語るマーラー10番(クック版) Inbal on Mahler's 10th-Cooke Version」」で、この作品について英語で語っています。それによると「私は非常に不思議な強い印象を持ちました。この交響曲がまるで死後の世界で書かれたようなもののような。死後に彼が復活し、人生や死について回想しているかのような。人生はどうだったか、人生に何を求めていたか、人生に何を求め続けてきたのかと」「第1楽章は哲学的に人生を捉えていますが、まるでもう死んでいるかのようです。もちろん彼は生きて作曲したのですが、既に交響曲第9番で死を受け入れているので、まるで死の向こう側にいるようです」などと語っています。

一方で大阪フィルがマーラー「交響曲第10番」を演奏するのは、今回が初めてとのこと。なお、インバルが大阪フィルを指揮するのは4回目で、マーラーの交響曲では、第5番(2016年9月)と第6番(2017年7月)を指揮しました。大阪フィルのX(@Osaka_phil)に掲載された写真によると、インバルはリハーサルも立って指揮しています。なお、インバルの指揮を聴くのは、都響プロムナードコンサートNo.337以来14年ぶりでした。

チケットは、第575回定期演奏会と同時に大フィル・チケットセンターで購入しました。たまたま同じ席でした。

14:00に開場して、14:30から1階席後部メインホワイエでプレトーク・サロン。楽団事務局長の福山修が指揮台に登壇。インバルを「イスラエル出身の巨匠。今年で88歳」と紹介しました。福山は大学生のときにインバルがフランクフルト放送交響楽団を指揮したマーラー全集を買ったとのこと。「本公演が楽団初演。22年前に第1楽章のアダージョは演奏した」と紹介されたので、22年前が誰の指揮だったのか気になりましたが、オンドレイ・レナルトが第359回定期演奏会(2002.6.17)で指揮しました。インバルが大フィルを指揮することになった経緯については、福山は「東京都交響楽団芸術主幹を務める国塩さんとの個人的なつながり」と説明。「クック版の第3稿第1版は書店に売っていて、クックの補筆は音符の大きさが小さいので分かる。見ていてなかなか楽しい 。クック版にインバルのアイデアが取り入れられているようだが、今回は第3稿第2版をもとに、インバルが楽器を追加したり削除したりしている。作曲をメシアンに師事したインバルだからこその演奏」と紹介しました。
後半は質問コーナー。プログラムの編成をどうやって決めているか?の質問に、福山は「尾高音楽監督と話して、いろいろな年代やタイプの指揮者に来てもらって、得意とするものを演奏してもらう」と答えました。ちなみに「大阪4オーケストラ活性化協議会 2023-2024 シーズンプログラム共同記者発表会」(2022.11.24)で、尾高は「インバルさんがまた来てくださるのはうれしい」とコメントしていました。「都響ではインバルはマーラーツィクルスをされるが、大フィルでもされるか?」の質問に、福山は「国塩さん次第」と答えました。これを聞いていた国塩哲紀が登壇。「ブルックナーはどうですか? 8番(千人の交響曲)は大変」とコメントしました。なお、「団員の意気込みは鼻血が出るほど気合いが入っている。今日はリハーサルはしていない」とのこと。20分で終了しました。

当日券が発売されましたが、ほぼ満席の入り。弦楽器は左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの順。金管楽器はトランペット4、トロンボーン4、ホルン5、テューバ1の編成。コンサートマスターは、須山暢大(コンサートマスター)。メンバー入場時には拍手がなく、コンマス入場時に拍手。チューニングが終わるとすぐにインバルが登場。インバルは少し痩せたでしょうか。メガネをかけていました。指揮台の左に踏み台がついていました。

インバルは当時首席指揮者を務めていたフランクフルト放送交響楽団と1992年にこの作品を録音しています。音符のエッジが立っていて、細部が分離して明瞭に聴こえる録音ですが、本公演でも同じ性格の演奏を志向したと思われますが、もう少し緻密に演奏したかったように感じました。大フィルもいつものような濃厚な演奏ではありませんでしたが、上述の録音と比べると音色に温もりがありました。

第1楽章のアダージョは弦楽器が不安定で残念。アーティキュレーションをはっきり効かせて、だらだら弾かずにメリハリがあります。どのパートが何をしているか見通しがいい。インバルは身振りが大きい指揮で、たまに鼻歌が聴こえました。194小節からの強奏はやや速め。202小節からの和音の重なりは緊迫感があります。第2楽章のスケルツォは第1楽章よりも演奏の精度が落ちました。やや丁寧さに欠けて、もっと緻密に組み立ててほしい。また速いテンポに対してももう少し演奏に余裕があるといいでしょう。
第3楽章のプルガトリオ(煉獄)はあっという間。第4楽章(スケルツォ)で、シロフォン(木琴)が使われますが、ショスタコーヴィチのような響きになるので少し違和感がありました。その後の小太鼓もなくてもいいと感じました(ちなみに打楽器は4人いました)。第4楽章ではちょっとマーラーらしくない響きがしました。なお、フランクフルト放送交響楽団との録音でもシロフォンを使用しています。大太鼓の縁を叩いて、砂のような音。
休みなく第5楽章のフィナーレへ。大太鼓の一撃は、横向けにして叩きます(ティンパニと同じ向き)。ティンパニは2台で演奏。完成度がアップしたので、重点的に練習したでしょうか。ハープの伴奏で演奏されるヴァイオリンのメロディーが天国的な美しさ。その後の弦楽アンサンブルも最高の高揚感。最後はインバルが広げた両腕を次第にせばめて両手が重なりました。

約75分の作品ですが、意外に短く感じました。休憩してからもう一回聴きたかったです。インバルはずっと立ちっぱなしだったのに、カーテンコールでも足取りはしっかりしています。まだまだ元気で、もっと長生きしてほしいです。77歳の井上道義もまだまだがんばってほしいです。16:22に終演。なお、3月末で定年で退団する首席フルート奏者の野津臣貴博が退場する際に客席から拍手が送られました。

交響曲第10番は慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ2020年国内演奏旅行 京都公演 with 京都大学交響楽団で初めて聴いてこの作品の魅力に取りつかれましたが、兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」で第9番を聴いたばかりで、続けて聴くと第9番のほうが作品としての完成度は高いと感じました。ただし、マーラーが焼却処分するように伝えていた楽譜を、妻のアルマが保管していて、結果的に今こうしてこの作品が聴ける喜びは計り知れなく大きいです。

 

 

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