慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ2020年国内演奏旅行 京都公演 with 京都大学交響楽団
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2020年2月15日(土)13:30開演
京都コンサートホール大ホール
大河内雅彦指揮/慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ、京都大学交響楽団
ワグネル・京大オケ 合同演奏の部
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲
ムソルグスキー(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」より「プロムナード」「リモージュの市場」「キエフの大門」
ワグネル 単独演奏の部
ウェーバー/「魔弾の射手」序曲
リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲
マーラー/交響曲第10番(クック版)
座席:S席 3階C2列28番
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慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラの演奏会に初めて行きました。1901年(明治34年)に、日本で初めて音楽科以外の学生による音楽団体(ワグネル・ソサィエティー)の器楽部門として創設された日本最古のアマチュア学生音楽団体です。「ワグネル」の名称は、リヒャルト・ワーグナーに由来し、「ワーグナーの先進性や伝統に縛られない自由な発想、新しいものへ挑戦する開拓者精神を理想とする思いが込められている」とのこと。桂冠指揮者に河地良智(かわち よしのり)(洗足学園音楽大学名誉教授、元・群馬交響楽団正指揮者、東芝フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者)、正指揮者に大河内雅彦(おおこうち まさひこ)(上野学園大学音楽学部音楽学科非常勤講師)を擁しています。最近の定期演奏会では川瀬賢太郎や太田弦などの若手も客演しています。
慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラは定期演奏会を年に3回も開催しています。また、隔年で演奏旅行(海外と国内を交互)を実施しています。今回の2020年国内演奏旅行は、この京都公演と福岡公演(2月19日 アクロス福岡シンフォニーホール)の2ヶ所で開催されました。また、2月29日には同一プログラムで第229回定期演奏会がサントリーホール大ホールで開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で、無観客ライブ配信となりました(詳細は後述)。メインの曲目が、プロのオーケストラでもほとんど演奏されないマーラー交響曲第10番という大変意欲的なプログラムです。
京都公演は、「京都公演 with 京都大学交響楽団」と題して、京都大学交響楽団との合同演奏が行なわれました。共演は4年ぶりのとのこと。指揮は正指揮者の大河内雅彦が務めました。
チケットは全席指定。慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラのホームページから予約すると、チケットと一緒に銀行口座振り込みの案内が送られてきました。客の入りは約半分程度。
第1部は、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラと京都大学交響楽団との合同演奏。100名近い大人数での演奏です。プログラムには、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラは159名(賛助24名を含む)、京都大学交響楽団は84名が掲載されています。衣装はともに黒色なので、どちらの団員か見分けはつきませんでした。
プログラム1曲目は、ワーグナー作曲/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲。慶應義塾ワグネル・ソサィエティー会長はプログラムで「トレードマークの感もある」 と記しています。
さすがワーグナーの名前を冠しているオーケストラだけあって、ハイレベル。やや速めのテンポで、ホルンやテューバなどの内声がよく聴こえました。大人数でもすっきりした音響で、期待以上の演奏でした。なお、ティンパニは2名(2セット)に増強されていました。指揮の大河内雅彦は出入りが早足。
プログラム2曲目は、ムソルグスキー作曲(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」より「プロムナード」「リモージュの市場」「キエフの大門」。「プロムナード」は、トランペットソロから始まる冒頭のもの。「リモージュの市場」は色彩感がありました。3曲だけでしたが、もっと聴きたかったです。合同演奏は30分で終わりました。
休憩をはさんで第2部は、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラの単独演奏。男女比では女性が多めです。先ほどの合同演奏から変わって、対向配置になりました。過去の定期演奏会の写真を見る限りでは、公演によって配置が変わるようです。
プログラム3曲目は、ウェーバー作曲/「魔弾の射手」序曲。2管編成でしたが、管楽器がやや不安定。第1ヴァイオリンがよくまとまっていました。どうもこの曲を聴くと、カルロス・クライバーの華麗な指揮を思い出します。
プログラム4曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲/スペイン奇想曲。引き続き2管編成。冒頭の「アルボラーダ」から華やかですが、低音が効いているのが特徴。第4楽章「シェーナとジプシーの歌」終盤のクラリネットのグリッサンドがうまい。
休憩後のプログラム5曲目は、
マーラー作曲/交響曲第10番(クック版)。
映画「マーラー 君に捧げるアダージョ」(2010年/ドイツ・オーストリア)で取り上げられましたが、全曲聴いたのは初めてでした。4管編成で、ティンパニは2台。自信を持って演奏していて、こまかな表現力もあります。間違いなく学生オーケストラでトップランクで、各楽器のソロもプロ並み。CDにしてもいいレベルでした。この作品がこんなに魅力的だとは知りませんでした。なお、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの一番後ろの席に、予備のヴァイオリンが置かれていました。おそらく弦が切れたときに使用すると思われますが、用意周到です。
第1楽章の冒頭はヴィオラがよくそろっています。ヴァイオリンは高音の伸びがいい。多重和音も見事に表現しました。後半は音が薄くなりますが、弱奏も安定していました。 第2楽章は、マーラー後期らしいガチャガチャした雰囲気がでていました。第4楽章の終盤で、打楽器奏者がいなくなって、下手の舞台裏でバスドラムを叩きました。休みなく第5楽章へ。弦楽器が濃厚な響き。16:40に終演しました。
伝統のある学生オーケストラを京都で聴けてよかったです。国内演奏旅行は次は4年後ですが、また聴きに行きたいです。
なお、同一プログラムが2月29日にサントリーホール大ホールで開催の第229回定期演奏会で演奏される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で、3月24日(火)に延期されました。しかし、その後の状況を踏まえて再検討された結果、無観客ライブ配信となりました。当オーケストラで無観客ライブ配信は初めてとのこと。
クラシック専門ストリーミングサービス「CURTAIN CALL(カーテンコール)」(https://curtaincall.media/)を通してライブ配信されました。過去の放送がアーカイブとして保存されていて、無料で観ることができます。東京公演を聴きに行く予定だった方は大変お気の毒ですが、この演奏がもう一度しかも繰り返し聴けるのはうれしいです。
開演前にはステージ上で、学生責任者と正指揮者大河内雅彦のあいさつ、またコンサートマスターとのプレトークが行なわれました。大河内が登場して、団員が起立しても拍手がないのはさみしいです。大河内とコンサートマスターは握手ではなく、ひじでタッチしています。指揮者用のカメラなど、カメラアングルが多彩で、DVDと変わらない映像に仕上がっています。
演奏の完成度は京都公演よりも上がったように思いましたが、マーラーはトランペットがやや不調で残念。
新型コロナウイルスの感染防止のため、クラシックの演奏会を無観客ライブ配信する試みは、びわ湖ホールプロデュースオペラ「神々の黄昏」(3月7日(土)・8日(日))、東京交響楽団名曲全集第155回(3月8日(日))、東京交響楽団モーツァルト・マチネ第40回(3月14日(土))、山形交響楽団第283回定期演奏会(3月14日(土))、大阪フィルハーモニー交響楽団第536回定期演奏会(3月19日)などで行われ、多くの人が視聴しました。手軽にクラシックの演奏会が楽しめることは喜ばしいことかもしれませんが、オーケストラの収入に大きな影響を及ぼしています。早く状況が終息することを願っています。
(2020.3.16記)
(2020.4.5更新)