第7回 高等学校吹奏楽部 公開レッスンコンサート 指揮・指導:北原幸男


  2023年11月5日(日)14:00開演
あましんアルカイックホール

第1部 フチーク/フローレンス行進曲
 北原幸男指揮/兵庫県立尼崎北高等学校吹奏楽部、兵庫県立尼崎西高等学校吹奏楽部、兵庫県立武庫荘総合高等学校吹奏楽部、尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー他(支援参加)

第2部 ラヴェル(森田一浩編)/スペイン狂詩曲より第1曲「夜への前奏曲」、第4曲「祭り」
 北原幸男指揮/尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー他(支援参加)

司会:堀江政生

座席:全席自由


 
毎年11月に尼崎市内の中学校・高等学校の吹奏楽部が演奏する「公開レッスンコンサート」が今年も開催されました。これまでの6回は大植英次が指揮していて、今年も7月には「第7回 大植英次 中学・高校吹奏楽部 公開レッスンコンサート」として大植英次の出演が予定されていましたが、9月20日に大植の来日が叶わなくなってしまったため、急遽、指揮者を北原幸男に変更して開催することと、出演を予定していた尼崎市立園田中学校の参加が難しくなったため、高校生のみの出演となることが発表されました。
 
大植英次は祝100周年! オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ特別演奏会「カルミナ・ブラーナ」で聴いて、その後も、大阪クラシック2023(2023.9.10~16)や大阪フィルハーモニー交響楽団枚方公演(2023.10.7)などを指揮しているので、大植が来日できなくなった理由が何かは分かりませんでした。YouTubeで公開された「第4回 大植英次による高校吹奏楽部公開レッスンコンサート」で、大植は「この尼崎だけは絶対キャンセルがならないように祈っていて、毎年だが今年の最高の思い出になる」と語っていましたが、本拠のドイツで用事ができたのでしょうか。
2021年の第5回 大植英次 中学・高校吹奏楽部公開レッスンコンサート以来、聴きに行くのは2年ぶり3回目です。なお、2021年度山岡記念財団の事業報告書によると、第5回の入場者数は475人だったようです。
 
入場は無料ですが、主催の一般財団法人山岡記念財団ホームページのイベント参加申し込みフォームから申し込みが必要でした。この日は、阪神タイガース対オリックスバファローズの日本シリーズ第7戦がナイターで行なわれるので、阪神の38年ぶり2回目の日本一に向けて、尼崎市の商店街は活気づいていました。ホール入口の受付で名前を伝えて入場。場内は自由席で、客の入りは3割くらい。

はじめに尼崎市長の松本眞(しん)が挨拶。稲村和美の後継指名を受け、昨年11月に初当選しました。今回が当選後初めての挨拶でしたが、「ヤンマーが姉妹都市アウクスブルクとの縁をつないでいただいた。尼崎はヤンマー創業の地」と挨拶しました。司会は堀江政生(朝日放送テレビアナウンサー)。「なかなか日本一になれないですねー」と第7戦までもつれ込んだ阪神タイガースについてコメント。支援参加の大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー他(12名)を起立させて紹介。オーケストラにはないサックスとユーフォニアムだけ相愛大学講師を務める奏者が担当しました。
 
演奏曲は、主催の山岡記念財団が日本とドイツの文化交流の思いを継承するために設立されたこともあり、これまで演奏されたのはドイツ音楽でしたが、今回はチェコのユリウス・フチークと、フランスのラヴェルでした。
 
第1部は、兵庫県立尼崎北高等学校吹奏楽部、兵庫県立尼崎西高等学校吹奏楽部、兵庫県立武庫荘総合高等学校吹奏楽部、尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部の高校4校が出演。兵庫県立尼崎北高等学校吹奏楽部は26名で、今年度の兵庫県吹奏楽コンクール東阪神地区大会(高等学校Aの部)で銅賞を受賞しました。兵庫県立尼崎西高等学校吹奏楽部は、2年生の部員がおらず1年生の4名。かつては全日本吹奏楽コンクールで銀賞を受賞したこともありましたが、ここ数年で部員数が激減したとのことです。兵庫県立武庫荘総合高等学校吹奏楽部は9名で、今年度の兵庫県吹奏楽コンクール(高等学校Sの部)で銅賞を受賞しました。尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部が圧倒的に大人数を占めて、ステージはぎっしりです。全員制服です。
 
曲目は、フチーク作曲/フローレンス行進曲(フロンティーナ行進曲)。フチークもフローレンス行進曲も初めて聴きます。はじめに兵庫県立武庫荘総合高等学校吹奏楽部顧問の久保夏織が指揮。元気があっていいですが、音量に変化がない。Trioは音程が気になり、最後はちょっと混濁しがちでした。
続いて北原幸男が登場。白髪で細身でメガネをかけています。ずいぶん前に京都大学交響楽団第178回定期演奏会で聴きました。今年で66歳で、ドイツのアーヘン市立歌劇場音楽総監督を経て、武蔵野音楽大学教授を務めています。吹奏楽との関わりでは、富士見市文化芸術アドバイザーを務めています。口元のマイクで話しました。フローレンスとはイタリアの地名で、堀江は「フチークはドヴォルザークに習っていた」と紹介すると、北原は「一年フローレンスに本拠を置いていたことがある」と話しました。北原はフリートークは苦手のようです。
堀江から14:20なので15:00までにレッスンを終了するように伝えられて、指揮台の下に大きな時計が置かれました。北原は「大植マエストロは時間を守ってくれなかったという噂を聞いた」と話しました。大植英次は一年先輩とのこと。
 
北原は「もっと楽しげにいきましょう。そんなに厳しい指揮者ではない。やさしさが売り。リラックスして」と話して練習を開始。声は聞きやすいですが、大植ほどでありませんが少し早口です。けっこう頻繁に演奏を止めて、冒頭のファンファーレは「楽器が少ないところは存在感が大事で、客席の後ろまで響かせる」。「マーチはダウンビートで」と話して、実際に指揮台の上で歩いて、「締まった感じ」と歌って見せました。「裏拍が止まった感じに聴こえる。打楽器はアンサンブルをリードして慎重になりすぎない」と話しましたが、音楽大生に比べて演奏に変化がなかったようで、「ネコかぶってますねー。イヌかぶってる。全然ウケないですね」とオヤジギャグを披露。「音楽は弾けることが大事。お行儀がよすぎる。若さが欲しい」と指揮台の周りを歩き回りながら指揮。視覚的に見せる指導で、同じ行進曲でも第5回の大植英次(タイケ「旧友」)とは指導方法が違います。「音量だけじゃなくてニュアンス、表現を変える」「音楽の3要素とはメロディー、リズム、ハーモニー」と大事なことを言っているのに、高校生のメンバーがメモを取らないのは残念。時間が少しかかりましたが、とてもよくなりました。練習番号Bの2回目は、「同じことやるとおもしろくない。同じように吹かない」。練習番号Dは「二小節でひとつ。リズム型は切れ味よく。重くならない」「5小節でハーモニーが変わるのを意識して」。練習番号Eの前のsfz(スフォルツァンド)は、「やりすぎくらいにやる」と、指揮台で足を上げてジャンプ。「表現とは、表に出て現れると書く」と話し、ここは大げさに表現して欲しいようです。音大生のようにはいかないようで少し苦戦しましたが、ずいぶん聴きやすくなりました。練習番号Fの2つ前のディミヌエンドは「ただ弱くではなく軽く」。練習番号Fは全員立って吹かせたところ、軽く聴こえて、客席から拍手。練習番号HのTrioから「もっと変わって欲しい。fがひとつになる」「ターンタタタン」と歌って指導。騎馬民族と農耕民族のリズム感覚の違いを歩いて実演。練習番号Iの前で、楽譜にはないFの音が聴こえたので確認するなど、細かく指導。「meno mossoはたっぷり目にいいですか?」「シンコペーションの人もメロディーを感じる」と指導すると、だいぶすっきりしました。練習番号Kの「ppはもっと落とす。やさしく」「八分音符×3+二分音符のメロディーはp」。練習番号Mの前のTempoI(テンポプリモ)から「気持ちをがらっと変える」「Mの前のppの緊張感は欲しいが軽く」。練習番号Pは「しっかり盛り上がる。fffで切れ味よく」と打楽器に音量を要求。時間通りに練習が終わりました。
北原が動き回っていたので、司会の堀江が「本当に66歳ですか」と驚き。北原は「本番楽しくやりましょう」と話しました。堀江が部員にインタビューしましたが、受け答えがちょっと硬い。
チューニングはまったくしないまま、本番へ。本番は煽り気味の指揮でしたが、もう少し交通整理できるといいでしょう。ちょっと時間が足りなかった印象です。
 
休憩後の第2部は、尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部が出演。前日にはこのアルカイックホールで第13回定期演奏会が開催されたので、なかなかのハードスケジュールです。この公開レッスンコンサートには、第2回、第3回、第4回、第5回、第6回(支援参加)にも出演しています。部員は123名いますが、第1部に出演した部員とはメンバーが全員入れ替わって、コンクールメンバーとのこと。ラヴェル作曲(森田一浩編)/スペイン狂詩曲より第1曲「夜への前奏曲」、第4曲「祭り」は、今年度のコンクールの自由曲として演奏して、関西吹奏楽コンクールで3年連続の金賞を受賞しました。コントラファゴット、ハープ、チェレスタもあります。なお、「尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部を支援する会」のYouTubeチャンネル(@sosei-suibu-amagasaki)で、今年7月31日にあましんアルカイックホールで演奏した動画が視聴できます(ただしカットがある短縮版)。休憩中に B♭でチューニングして、スケールの練習をして入念に準備。
 
まず顧問の宮嵜三千男が指揮棒なしで指揮。さすが関西金賞の演奏でしたが、第1曲「夜への前奏曲」は、弦楽器で演奏される八分音符の下降音型はけっこう難しいようです。クラリネット二重奏とファゴット二重奏は息の合ったアンサンブルを聴かせました。第4曲「祭り」は強奏が混濁しがち。練習番号12はイングリッシュホルンのソロ。カスタネットは控えめでした。
続いて、北原が登場。ラヴェルの母はバスク地方の出身で、北原はバスクの公立?の管弦楽団を指揮したことがあるとのこと。「狂詩曲なので狂います」と宣言。堀江は「15:48なので、16:31までに終わるように」とリクエストして、第1曲「夜への前奏曲」からレッスンがスタート。北原はまず「1拍目が休符になっている。休符は大事」と重要な指摘。「3拍子のなかに2拍子があってヘミオラになっている。カピパラじゃないですね」と言って笑わせようとしましたが、自分で「ウケない」と認めて失敗。テンポは「ちょっと前に前にお願いします」と言って指揮すると、確かに色気が出ました。「音と音のつながりをよく」 「縦線をあわせると雰囲気を損なう」「木管の流れを感じて」「練習番号2までがひとつのセンテンス(句読点)で、飛び込んではいけない」などと話しました。練習番号1は「短い音符が強拍に来てる。丁寧に二分音符を軽く」。練習番号2のクラリネットは「pだけどfで演奏される」「三連符を揺らす」「ppは縮こまらないで音を遠くに」「縦型アクセント+二分音符は置きにいくんじゃなくて、浮遊感が欲しい」と表現も指示して、音楽の流れができてきました。練習番号4は「poco rallentandoは少し心が落ち着く」「fでも硬い音にせず響きを増やす」。練習番号5は「pppでもソロのパートは存在感があるように」。練習番号8の原曲のヴァイオリンのパートは、ピッコロ?とE♭クラリネットが担当。「第1曲は夜で調性が安定しないさまよっているイメージを持って」。練習番号9の「最後の2小節のppは大きめにして、デクレシェンドを相対的に効果を出す」。
第4曲「祭り」 へ。まず練習番号1で「6/8拍子の1拍目と4拍目を変えてほしい」。練習番号5の2小節前は「3拍でクレシェンドとデクレシェンドをやらないといけない」。繰り返して練習すると、すっきり聴こえるようになりました。練習番号6から「第2テーマが始まる。1拍目と4拍目を意識して」。練習番号8は「細かな音符でもハーモニーを意識する」。練習番号9は「ppが大きい。もっと徹底する」と指示すると、すごくうまくなりました。練習番号12は「揺れ動く」。練習番号13は「ffでも全体と調和しているか」。練習番号32は「6つ振りする」ということで、何回かタイミングを調整。ちゃんと時間通りに終了しました。
団員へのインタビューでは「明るく動きが大きくて楽しいレッスンだった」との感想が聞かれました。
本番の演奏は、北原は顧問の指揮よりダイナミックで踊るような指揮。この日一番の演奏で、見通しがすっきりして、音色も不純物が取れて磨きがかかりました。スピード感も出て、全国級の演奏でした。堀江が「大植さんは「音楽をやる人はベルリンフィルでも同じ」と言っていた」と紹介すると、北原も激しく同感しました。北原は「長生きしようと思った」と語り、充実した時間だったようです。
顧問の先生方が登場。兵庫県立尼崎北高等学校の小原かほる、兵庫県立尼崎西高等学校の堂本直子、兵庫県立武庫荘総合高等学校の久保夏織、尼崎市立尼崎双星高等学校の宮嵜三千男と、北原にも花束が贈呈されました。
 
最後にアンコール。北原幸男作曲(鈴木英史編)/奉祝行進曲「令和」を演奏。まったく知らなかったのですが、2019年(令和元年)11月10日に行なわれた天皇陛下の即位パレード「天皇皇后両陛下 祝賀御列(おんれつ)の儀」で、出発地点の皇居で北原が宮内庁楽部を指揮して披露され、天皇陛下に献上されたとのこと(当時の中継映像に少しだけ映っています)。北原に作曲の依頼があったのは、2008年から宮内庁式部職楽部の指揮者を務めているからでしょう。北原は「国民に届くシンプルさ、日本らしさを柱にした」とインタビュー記事で語っています。吹奏楽編曲は、Osaka Shion Wind Orchestra住友生命いずみホール特別演奏会「MARCH! MARCH! MARCH!」(2023.3.3)のアンコールで、北原の指揮で初演されました。初めて聴きましたが、メロディーに歌詞をつけたくなる作品でした。17:00に終演しました。北原はX(旧Twitter、@Kitahara_Yukio)で、「各校先生方や大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー他のご協力があり素晴らしいものになりました。」と綴っています。
 
大植英次が指揮した際には取り上げなかったフランス音楽が新鮮でした。北原の指導は音楽に大事なことを短時間で解説しましたが、大植と違って作品の解説はあまりしませんでした。これだけ動き回る指揮者とは思いませんでした。なお、大植は「はい」という返事をされるのを嫌がっていましたが、北原は何も言いませんでした。
 

あましんアルカイックホール(玉江橋交差点から望む) 立て看板

(2023.11.26記)

 

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