第3回大植英次による中学・高校吹奏楽部公開レッスン&コンサート


  2019年9月21日(土)14:00開演
あましんアルカイックホール

第1部 ワーグナー/歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
 大植英次指揮/尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部、尼崎市立小田北中学校吹奏楽部、尼崎市立成良中学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー(支援参加)

第2部 ワーグナー/歌劇「リエンツィ」序曲
 大植英次指揮/尼崎市立尼崎高等学校吹奏楽部、尼崎市立小田中学校吹奏楽部、尼崎市立立花中学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー(支援参加)

司会:堀江政生

座席:全席自由



大植英次が尼崎市立の中学校・高等学校の吹奏楽部を指揮して、公開のレッスン&コンサートが開催されました。主催は一般財団法人山岡記念財団、尼崎市、尼崎市教育委員会。 一般財団法人山岡記念財団は、ヤンマー株式会社創業者の山岡孫吉の日本とドイツの文化交流の思いを継承するべく2016年に設立され、ヤンマー株式会社社長の山岡健人が理事長を務めています。

大植英次は大阪フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団名誉指揮者を務めています。あましんアルカイックホールでの公開レッスン&コンサートは今年で3回目で、テーマは「ドイツ音楽を通して音楽の素晴らしさを分かち合おう!」。尼崎市立の高校2校と中学校4校の吹奏楽部が出演しました。尼崎市のホームページによると、事前に大阪フィルハーモニー交響楽団メンバーと大植英次によるレッスンが行なわれました。なお、これまでの2回も尼崎市立の中学校・高等学校の吹奏楽部を、大植英次が指揮していて、第1回(2017年)は、ワーグナー作曲/楽劇「ローエングリン」よりエルザの大聖堂への行進と、楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲を取り上げ、800名が入場。第2回(2018年)は、ブラームス作曲/大学祝典序曲と、ワーグナー作曲/タンホイザー序曲が演奏され、1,100名が入場しました。 今回の演奏曲もワーグナーの序曲でしたが、編曲者名は示されませんでした。

なお、9月23日(祝・月)には、山岡孫吉が生まれた滋賀県長浜市の浅井文化ホールでも開催されました。長浜市もアウクスブルク市の姉妹都市で、長浜市内の中学校・高等学校の吹奏楽部が出演しました。長浜市での開催は今年で第2回で、曲は、ワーグナー作曲/楽劇「ローエングリン」よりエルザの大聖堂への行進と、フンパーディンク作曲/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」第2幕が演奏されました。

入場は無料でしたが、整理券か山岡記念財団のホームページからの申し込みが必要でした。定員は1,352名。なお、当日券もありました。すでに行列ができていて、早めに開場しました。客は8割ほど。年輩者が多い。

開演。下手の花道からメンバー30人が入場。クラリネットのB♭でチューニングのあと、宮嵜三千男(尼崎双星高等学校吹奏楽部顧問)が指揮して、J.S.バッハ作曲/主よ、人の望みの喜びをを演奏しました。 続いて、尼崎市長の稲村和美が挨拶。先ほどの「主よ、人の望みの喜びを」は、今年5月にアウクスブルク市と尼崎市の姉妹都市提携60周年記念式典で演奏したと紹介しました(詳細は後述します)。ヤンマー株式会社がアウクスブルク市に拠点を持っている縁で、アウクスブルク市と尼崎市は町どうしでつながりがあると話しました。ヤンマーの主力事業であるディーゼルエンジンは、ドイツ人のルドルフ・ディーゼル博士によってアウクスブルク市で発明されたようです。

舞台転換の間に、司会の堀江政生(朝日放送テレビアナウンサー)が登場。大植英次を「日本人で初めてバイロイト音楽祭で指揮」「関東出身だが阪神ファン」と紹介して大植英次が登場。大植は「「レッスン」という言葉が好きじゃない」「一緒に音楽を見つけていこう」と話しました。大植の練習を見学するのは今回が初めてでした。

第1部は、尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部、尼崎市立小田北中学校吹奏楽部、尼崎市立成良中学校吹奏楽部が出演しました。すごい大人数です。プログラムには出演部員の名前が記載されていました。尼崎双星高等学校吹奏楽部は130名。関西吹奏楽コンクールには4年連続の出場で、2019年度は銀賞を受賞しました。小田北中学校吹奏楽部は9名、成良中学校吹奏楽部は27名で、ともに兵庫県吹奏楽コンクール東阪神地区大会で銅賞を受賞しました。高校生が圧倒的に多い。なお、大阪フィルハーモニー交響楽団から11人が「支援参加」として出演しました。プログラムには記載されていませんが、大フィル以外からもエキストラが数名出演していたようです。
曲は、ワーグナー作曲/歌劇「さまよえるオランダ人」序曲。B♭で元気なチューニング。まず、尼崎双星高等学校吹奏楽部顧問の宮嵜三千男の指揮で演奏。100人を超えるすごい人数の割にはまとまっています。音の受け渡しが下手ですが、ちゃんと曲になっていました。ラストの金管もよく鳴りました。

続いて、大植英次の練習が開始。口元にピンマイクを着けて、白い上着を着ていました。この歌劇のストーリーを説明しました。「「パーン」は氷河を進む港で、嵐ではない」と解説しました。堀江は「大植さんは時間を忘れるので、15:05に終わってください」と話して退場しました。冒頭から演奏。大植はメガネをかけて指揮しました。速いテンポで、たまにうなり声が聴こえました。まだ何も言っていないのに、大植が指揮するだけで音が変わったのがすごい。すっきり聴きやすくなり、音程も合ってきました。 演奏を止めて、「最初の音は硬い音ではなく、柔らかい音でハーッ。耳障りな音は音楽じゃない。叫ぶんじゃなくて」と話しました。「ホルンは音の中でリズムをつける。伸びてる時間もリズムを感じる」「6小節のsempre piu fはちょっとずつf。階段式にクレシェンド」「13小節はホルンとトランペットで音程を合わせる」など、音楽用語を使わずに早口で説明しました。テヌート気味やマルカート気味は、腕を使って、音楽性を指示しました。 また、「ここで登場する船はタイタニックじゃなくて木でできている。ちょっと音が硬い。木の柔らかさが欲しい」「わめく曲じゃないので、トロンボーンが大きい」「15小節から嵐になる。八分音符+八分音符+付点二分音符が速くならないように、詰まらないように。小節線とメトロノームは音楽の敵。16小節から小節線を越えていく」「32小節から7小節間のfffは、7年に一度会えることを表している。7年の重みが欲しい。ディミヌエンドは39小節から」と説明しました。この「7年」の解釈は大植がドイツで教わったとのことですが、斬新です。65小節からのオーボエソロは、「救いのテーマ。愛がたっぷりないと救われない」。77小節からのホルンの二分音符はクレシェンド。周りの音を聴くようになるので、見通しもよくなってきて、音程もあってきました。大植は「当時はスマホはなかった。手紙が届くのに1ヶ月かかった時代」と時代背景を説明。「79小節からのチューバはため息。97小節からは嵐。104小節からクレシェンドダダダダダ(四分音符×6)は長めに」。
時間になったので、堀江がそっと登場しましたが、大植は「ダメ。帰って。指揮者は360°見えている」と話しました。 堀江が立ち去ったのでそのまま続けて練習。「148小節の fpはパンじゃなくてパーン。203小節からは次に重ねるように」。ワーグナーらしい響きがしてきましたが、「pはもう少し柔らかくなりませんか」「最後はパン。昇天して天国のドアをたたく。321小節のフェルマータでゼルダが飛び込む。347小節からのハープは天使の楽器」と話しました。
練習が終わって、堀江は「長浜でもやるけど、「ダメ」と言われたのは初めて」と笑って話しました。堀江が部員に感想をインタビュー。「普段と違って表現があった」などの声が聞かれました。 最後に通して演奏。大植英次は衣装を変えて、黒のモーニングで登場しました。冒頭はすごくすっきりして、アーティキュレーションもそろって、伴奏の音程も合うのが不思議です。 尼崎双星高等学校吹奏楽部はもともとレベルが高く、大植の指示の飲み込みも早かったです。15:35に第1部が終了しました。

15分休憩の後、第2部は尼崎市立尼崎高等学校吹奏楽部(67名)、尼崎市立小田中学校吹奏楽部(31名)、尼崎市立立花中学校吹奏楽部(39名)が出演しました。市立尼崎高等学校吹奏楽部は関西吹奏楽コンクールに11年連続で出場していて、2019年度は銀賞を受賞しました、小田中学校吹奏楽部と立花中学校吹奏楽部はともに兵庫県吹奏楽コンクール東阪神地区大会で銀賞を受賞しました。第1部よりも中学生が多い。
曲は、ワーグナー作曲/歌劇「リエンツィ」序曲。チューニングなしで演奏が始まりました。立花中学校吹奏楽部顧問の玉村智代が指揮。左利きのようで指揮棒を左手に持って指揮。「さまよえるオランダ人」序曲よりもこちらのほうが曲の構成は単純ですが、伸ばしの音が大きく、トランペットとトロンボーンが強力すぎて、クラリネットのメロディーが聴こえにくい。トライアングルが3人体制で強力。

大植が登場。まず、アウクスブルク市からの青年使節団が来場していると紹介があり、客席にいた団員が起立しました。12名が来日したようです。 大植が「リエンツィ序曲」を解説。「舞台は14世紀ローマで、リエンツィは人の名前。大悲劇オペラ。この序曲はドイツの放送局のテーマ曲なので、ドイツ人は誰でも知ってる。日本人で言うと、蛍の光やふるさとみたいなもの。テンポとかもみんな知ってる」と解説しました。 堀江が16:50に終了するように依頼して退場。
チューニングした後、冒頭のトランペットのppからのクレシェンドが難しいようでしたが、「スピードをあげていく。自由にクレシェンド、デクレシェンドしてください」と指示。7小節からの木管楽器の音程を合わせて、18小節からのクラリネットのメロディーの歌わせ方は、大植が実際に歌いました。なお、大植の指示に対して、メンバーは元気よく「はい」と返事していましたが、大植は「いちいち「はい」なしで。音楽が止まっちゃうんで。すぐにいきたいんで」と話しました。
「19小節2拍目のトロンボーンは小さく。20小節のクラリネットは抑揚をつける。クラリネットは愛を求める、平和を求める。22小節のデクレシェンドが早い。26小節からの低音は、一音一音大事にください。クラリネットも28小節4拍目裏はここは待ちたい。29小節のディミヌエンドは減衰を遅く。クレシェンドが早いので遅くから始める。誇りを持って、もう少し大事に大事にお願いします」など細かく指示しましたが、早口で聞き取りにくかったかもしれません。「47小節から大きな世界ができるように50小節からはffに魂を入れて、全部の音符が聴こえるように。55小節からのfは響きを大事に。やさしくなる」と話し、指揮しながら歌いました。65小節からは「初めて聴いたとき、ゴジラのテーマに聴こえた」とのこと。 68小節でリタルダントをかけました。「75小節からタイの音を必ず吹く。82小節は四分音符が短い。90小節からトランペットとトロンボーンは音色を丸く。四分音符を短く」。頻繁に止めましたが、大植の練習のテンポについていくのが大変だったかもしれません。 「130小節からのクラリネットはやさしく」「147小節からはブレスしない人が必要。心から喜んでる感じ。150小節からはアクセントにソステヌート」「228小節からffなので、その前のfは抑える」「246小節からテンポを落として遅くする」「304〜305小節は遅くする」。306小節からのマーチはテンポが速い。346小節からのmolto più strettoはさらにテンポが速くなりました。
練習が終わって、堀江が団員にインタビュー。「練習のテンポと違ってついていけなかった」との感想が聞かれました。高校生にとってはハードなスピードでしたね。 通して演奏。細かな音量を調整してなくても、すっきり聴こえました。

これで終わりかと思いきや、尼崎双星高等学校吹奏楽部と市立尼崎高等学校吹奏楽部がアウクスブルク市で演奏した、ワーグナー作曲/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲を演奏するとのこと。メンバー入れ替えの間に、各校吹奏楽部の顧問6人への花束贈呈がありました。 堀江と大植のトーク。大植は「アウクスブルク市に行ったときに、ドイツ人が演奏にびっくりしていた」と話しました。また、「中高生には音楽を続けて欲しい。みんなが平和になる。それを尼崎から発信したい」と話しました。
アウクスブルクでの演奏は30人でしたが、今日は大人数で演奏。ちょっと音量過多で、やはりレッスンを受けた後の演奏のほうがうまい。チューバがメロディーのところは大植はしばらく指揮しませんでした。 なお、今年5月のアウクスブルク市での活動は、尼崎市の公式サイト「尼ノ國」のYouTubeチャンネルで紹介されています。市立尼崎高校15名と尼崎双星高校15名の総勢30名が5日間滞在しました。5月10日にアウクスブルク市庁舎「黄金の間」で行われた「姉妹都市提携60周年記念式典」では、J.S.バッハ作曲/主よ、人の望みの喜びをに続いて、尼崎市出身で大植英次に師事した末岡修一郎の指揮で、ワーグナー作曲/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲が、アウクスブルク市のザンクト・シュテファン高校との合同で総勢60名によって演奏されました。
5月11日には、同所にて大植英次によるオープンレッスン&コンサートが行われました。ザンクト・シュテファン高校との合同演奏で、ワーグナー作曲/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲を演奏しました。大植はドイツ語と日本語で指導したようです。演奏後は、スタンディングオベーションが起こりました。

最後にアンコール。曲目は紹介されませんでしたが、ヘルツァー作曲/ハイデックスブルグ万歳!を演奏。淀工(大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)がよく演奏する曲のようです。エキストラで出演していた篠崎孝(大阪フィルハーモニー交響楽団首席トランペット奏者)に大植から指揮棒が渡され、篠崎が元気に指揮。客席からは手拍子。大植が客席に降りてきて、握手して回りました。「また来年」ということで、17:45に終演しました。
全体を通して気がついたのは、大植の指示を楽譜にメモしないこと。せっかくの指導なのにもったいない気がします。私が吹奏楽部にいたころは、よくメモしていましたので、驚きました。なお、来年も第4回が開催されるとアナウンスされました。今から楽しみです。

立て看板 スケジュール

(2020.2.11記)


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