第5回 大植英次 中学・高校吹奏楽部公開レッスンコンサート
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2021年11月6日(土)14:00開演
あましんアルカイックホール
第1部 タイケ/旧友
大植英次指揮/尼崎市立武庫中学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー(支援参加)
第2部 R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」 組曲(抜粋)
大植英次指揮/尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部、大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー(支援参加)
司会:オザワ部長
座席:全席自由
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大植英次が尼崎市立の中学校・高等学校の吹奏楽部を指揮する「中学・高校吹奏楽部公開レッスンコンサート」が今年も開催されました。今年で5回目です。2019年の
第3回以来、聴きに行くのは2年ぶりです。なお、2019年度山岡記念財団の事業報告書によると、
第3回の入場者数は1300人だったようです。
第4回は、昨年11月に開催されましたが、新型コロナウイルスの影響で関係者のみの入場に限定して一般募集をしなかったようで、開催されたこと自体も知りませんでした。第4回の様子は、YouTubeにアップされています(詳細は後述)。
入場は無料ですが、主催の一般財団法人山岡記念財団ホームページのイベント参加申し込みフォームから申し込みが必要でした。9月末で緊急事態宣言が解除されたため、一昨年度(
第3回)の参加者に山岡記念財団から案内メールが届きました。この日の兵庫県の新型コロナウイルスの感染者数は23名でした。消毒、検温の後、プログラムが入った透明の袋を渡されました。場内は自由席で、5割程度の入り。
司会は、「世界でただ一人の吹奏楽作家」を自称しているオザワ部長。
第3回の堀江政生に比べると、進行がちょっと硬い。尼崎市長の稲村和美が原稿なしで挨拶。初めて来た人を挙手させたところ、半分以下のようでした。これまでに来た人が半分程度おられるようです。
司会のオザワ部長が、感染拡大が懸念されるため、今回は合同演奏ではなく一校ずつの出演にしたと説明。支援参加の大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー(11名)を起立させて紹介。山岡記念財団が日本とドイツの文化交流の思いを継承するために設立されたため、演奏されるのはいつもドイツ音楽ですが、今回はタイケとR.シュトラウスの作品でした。
第1部は、尼崎市立武庫(むこ)中学校吹奏楽部が出演。今年度の兵庫県吹奏楽コンクールでは、東阪神地区大会で銅賞を受賞しました。大植英次レッスン&コンサートには初めての出演です。42名が出演。
曲目は、タイケ作曲/旧友。はじめに顧問の土居原広夢が指揮。ゆっくりしたテンポですが、縦線が乱れるなど、テンポが安定しません。打楽器は4人(シンバル、小太鼓、大太鼓、グロッケン)もいました。
大植英次が私服で登場。マスクをつけて、口元のマイクで話します。「7月から4ヶ月間日本に滞在している」と話しましたが、なんと
京都市交響楽団第658回定期演奏会からずっと日本にいるということですね。9月からは大阪クラシック2021で3公演に出演して、ハインツ・ホリガーの代役で新日本フィルと名古屋フィルを指揮しました。「日本は食事がおいしい」とコメント。この曲の演奏については、「野外の行進ではなく、ホールの音楽として演奏したい」と話しました。オザワ部長が大きな掛け時計を持ってきて、14:50までに練習を終了するように大植に依頼して退出。
冒頭から練習開始。まず、「八分音符は軽めに。四分音符と八分音符で長さを変えて、四分音符は長く」「ティーン、タカタカティーン」など歌って指示。大植のテンポが速く、ついていけないところがありました。「5小節のpはやさしく。八分音符を短くすると阿波踊りになっちゃう。13小節から落ち着いたpに」と指示。これだけで短時間ですごくよくなりました。「21小節からのトランペットは立ってもいいです。ご自由に」と話すと、支援参加の篠崎孝が立って演奏しました。ノリがいい。29小節から「ビンタじゃなくてパン」、「fとpが同じ音量になっているので抑揚をつける。pが大きい」。34小節でも「四分音符は長めに、今までの2倍にしてください。サックスとファゴットのメロディーが聞こえるように。シンバルは余韻が残るように」。37小節からも「四分音符が短すぎるので長くする。三連符に聞こえる。四分音符を長くするのは、しつこいくらいに言います」と何度も繰り返し指示。68小節からのベースラインは、アクセントやフレーズの方向性を示しました。70小節は「ふわーっと喜びが湧き出る」、87小節からは「大きい蝶々が飛んでるように」。「音は後でいい音楽を先につくってください」と音楽の方向性を理解するように促しました。103小節から「もっと静かに、ホルンとトロンボーン四分音符を長く柔らかく、ffでも四分音符はタじゃなくてタン」。最後の音符は「二分音符に近い長さで」。
大植は、音量や音の長さなど基本的なことしか言わず、表情づけの話はしませんでしたが、音程もあってくるので不思議です。トランペットの篠?から、大植に言われたことを楽譜に書くようにアドバイスがあり、時間通りに終了しました。
大植が退場して、オザワ部長が2年生の部長と副部長にインタビュー。「四分音符を長くとか気づきがあった。分かりやすかった」などと話しました。
大植が着替えて登場。本番ではマスクを外して指揮して、通し演奏。わざわざ着替えているのは、練習と本番のメリハリをつけているということでしょう。練習よりやや速めのテンポで、指揮棒なしで指揮。1時間の練習でだいぶ変わって、すっきり聴きやすい演奏になりました。すばらしい。
休憩後の第2部は、
尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部が出演。今年度の関西吹奏楽コンクールで金賞を受賞しました。普通科に音楽類型が設置されているのが強みで、関西大会の常連校です。第2回、
第3回、第4回にも出演しています。今回は100名が出演。ハープもあって人数が多い。トランペットだけで12名もいました。オーボエのB♭でチューニング。
曲目は、
R.シュトラウス作曲/歌劇「ばらの騎士」 組曲(抜粋)。
京都市交響楽団練習風景公開で聴きましたが、あまり印象に残りませんでした。編曲者名は不明です。はじめに顧問の宮嵜三千男が指揮。意外に長く、16分ほどです。冒頭のホルンのパオンパオン(上行音形)もうまい。低音セクションは人数は少ないですが、しっかり響きます。ひな壇2列を占めるトランペットとトロンボーンもよくそろっています。さすが関西大会金賞受賞校です。中間部のコラールに似たところではワーグナーに似た響きがしました。
大植がまた私服で登場。オザワ部長に練習は16:30までと言われましたが、大植は「50分じゃ足りない」と言いながら練習がスタート。
冒頭の木管は「最初の一音だけ長く」、練習番号1(Agitato)からは猛スピードでやや崩壊気味。練習番号2から「アクセント3つはテンポを落とす」。練習番号3は「もう少しpに」。練習番号6から「2つ振りにする。ホルンはぴかーっと光ってください」。練習番号11から「シュトラウスは2拍目が長い」と話して、遅いテンポで指揮。「味わいや喜びをかみしめる」とも話しました。練習番号12は、「クレシェンドではなくてデクレッシェンド。譜面が間違っている」。ところどころ譜面のテンポや音符の長さを変えるように指示がありましたが、原曲の歌劇に近づけようとしているようです。「もう少し時間ください。メトロノームと小節線は音楽の敵」と話し、楽譜に書かれていないようなテンポを揺らすことについて話しました。シンバルには「上に向かってじゃなくて地面に落とすようにたたく。(原曲だと)歌のじゃまになるから」と話しました。練習番号15は「pは大事にやさしく吹いてください」。「テンポを落とすので、クライマックスに行くのに時間をください」。練習番号26は「二つ振りです」。練習番号30からは「ウインナワルツ。2拍目を長くする」。練習番号32の前は「遅くする」。練習番号45は、ワルツのテンポ感を合わせるのが難しいようですが、大植は「音を吹く前に音楽を吹く、雰囲気をつかむ。ドイツ音楽は響きが下から出てくる」と話しました。練習番号49は「天使が下りてくるように、トランペットソロは虹が出てくるように」。練習番号52は「かなり揺れるのでついてきてください」。練習番号54は「シュトラウス独特のルバート。1、3小節目は速く、2、4小節目は遅くの繰り返し」。メンバーは基礎力が高く、大植の指揮棒によくついてきています。
練習番号58は「アルプスの山を越えるように」。練習番号60は「ちょっとカンマをつけていいです」と間を空けました。また、雰囲気を出すために、鉄琴のトレモロを追加。練習番号71は「楽譜のミス」とのことで、piu mossoを追加。「最後は平和の勝利」と話しました。
早口で興奮気味に話しましたが、「ちょっと休んできます」と言って退場して練習が終了。マスクをつけて話すのが大変なようです。オザワ部長が3年生の部長と副部長にインタビュー。「普段味わえない感覚だった」と話しました。
本番は大植がモーニング姿で登場。マスクなしで指揮。ソロもうまく、落ち着いた大人の演奏。響きもすっきりして、和音もきれいに響きます。ウインナワルツのテンポやシュトラウス独特のルバートも上質な大人の表現と言えるでしょう。もう一度聴きたいほどの演奏でした。演奏後に、大植とオザワ部長がトーク。大植は「本当に楽しかった。みなさん音楽家です。すばらしい。音楽家を目指してください。音楽で平和になれる。音楽を続けてください」と激励しました。
顧問の先生が登壇。武庫中学校は1人ですが、尼崎双星高校は顧問が5人もいて強力な体制です。先生は「自分の生徒が短時間でイキイキした」と話しました。尼崎双星高校の宮嵜先生が「明日ここで自分がこの曲を指揮する。無料で入れるので、ロビーにチケットを置いておく」と宣伝しました。尼崎双星高等学校吹奏楽部の第11回定期演奏会が翌日に開催されて、オザワ部長がここでも司会を担当するようです。
拍手に応えて、もう1曲。アンコールは、ふたたび
タイケ作曲/旧友を演奏。客席から手拍子。大植も手拍子。
第3回では、大植が客席の通路を歩いて、客と握手して回りましたが、コロナ禍のためか今回はなし。17:00に終演しました。
コロナ禍でも開催していただけて感謝です。無料で聴けるとはすばらしい。本当にありがとうございます。また来年も開催して欲しいです。大植は今年で65歳ですが、約3時間の指揮と指導はさすがに疲れたようです。
なお、山岡記念財団のホームページに、2曲の動画が掲載されました。レッスンはなく本番のみの動画で、2022年1月31日までの掲載とのことですが、ありがとうございます。
大植はこの後ドイツに戻ったようですが、今度は再入国時の隔離期間が十分とれなくなったようで、指揮を予定していた大阪フィルハーモニー交響楽団との公演は指揮者が変更されました。11月30日(火)のマチネ・シンフォニーVol.26は角田鋼亮が指揮、12月4日(土)の守山市民ホール開館35周年記念公演はユベール・スダーンが代役で指揮しました。
なお、昨年開催された「第4回 大植英次による高校吹奏楽部公開レッスンコンサート」の動画が、YouTube「あまがさき文化芸術情報局」と「ARChannel -アルカイックチャンネル -」にレッスンを含めて全編の動画が掲載されています。2020年11月1日(日)にあましんアルカイックホールで開催されましたが、入場者数は関係者のみに制限したため、370名だったとのこと。司会は堀江政生。大植英次はこの日のためにドイツから来日して、ホテルに2週間隔離されていたとのこと。「この尼崎だけは絶対キャンセルがならないように祈っていて、毎年だが今年の最高の思い出になる」と語り、このコンサートに愛着を持っているようです。
中学生の参加はなく、高校のみの参加で、支援参加で大阪フィルハーモニー交響楽団メンバー11名が出演しました。第1部は、兵庫県立尼崎稲園(いなぞの)高等学校吹奏楽部が、ヒンデミット/ウェーバーの主題による交響的変容より第4楽章「行進曲」を演奏。「ヒンデミットはこの曲について悪に向かった行進、暗闇に向かった行進と言っている」、「あまり明るく吹かないように暗い音で」、「ドイツのスタッカートは響かせないといけないのであまり短くならないように」などと指導しました。
第2部は、尼崎市立尼崎双星高等学校吹奏楽部が、J.S.バッハ/トッカータとフーガ 二短調を演奏しました。大植は「トッカータはテンポに限られずに自由に遊びますので」と話して、テンポを自由に揺らして、オルガンの原曲に近い表現を目指しました。「フーガで大事なのは、いい音色できれいになめらかに吹くこと」と語りました。レッスン前の演奏も十分上手でしたが、大植英次のレッスンを経て、内声がよく見えるすばらしい演奏になりました。