Osaka Shion Wind Orchestra第146回定期演奏会
2023年1月28日(土)14:00開演 ザ・シンフォニーホール ダグラス・ボストック指揮/Osaka Shion Wind Orchestra <オール・ホルスト・プログラム> 座席:S席 2階CC列33番 |
Osaka Shion Wind Orchestraの第146回定期演奏会に行きました。指揮は、ダグラス・ボストック。ボストックは、2020年11月の第3回京都定期演奏会を指揮するはずでしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴う出入国制限等にで来日できなかったため、開催中止となりました。2021年9月に同じプログラムで開催された第138回定期演奏会も来日できずに、齊藤一郎が代役を務めました。本公演はボストックにとって、まさに三度目の正直となりました。
ボストックはイギリス出身で、東京佼成ウインドオーケストラの常任指揮者を経て、南西ドイツ室内管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督、スイスのアールガウ・フィルハーモニー管弦楽団名誉指揮者、洗足学園音楽大学客員教授を務めています。本公演は、オール・ホルスト・プログラムで、「惑星」を全曲で、しかも女声合唱も加わる本格的な編成が注目されます。
プログラム1曲目は、2つの無言歌-第2曲「行進の歌」。1906年にオーケストラのために作曲されて、1929~30年にホルスト自身によって吹奏楽に編曲されました。音量が控えめで、知的で勇ましい行進曲。
プログラム2曲目は、吹奏楽のための第1組曲(伊藤康英校訂)。1909年に作曲されましたが、1970年に発見された自筆譜に基づいて、最も原典に近いという伊藤康英による校訂版が2010年に出版されました。日本楽譜出版社からミニチュアスコアが出版されています。第1楽章「シャコンヌ」からやや速めのテンポで、キビキビ進みます。第1楽章から休みなく第2楽章「インテルメッツォ」へ。伊藤康英の解説によると、ホルストの自筆譜の表紙に「この組曲は休みなしに通して演奏されることを望む」と書かれているのを反映したようです。そして休みなく第3楽章「マーチ」へ。トランペットのメロディーを抑えてノーブル。2つのメロディーが重なる122小節から、トランペットとトロンボーンがテヌートで演奏。伊藤康英校訂版には122小節から「スネアドラムとフルートとピッコロを増やしてもよい」との指示がありますが、本公演で採用されたかは注目していなかったので覚えていませんが、スネアはうるさくは感じませんでした。ボストックの指揮は直立不動ですが、しっかりキュー出し。
プログラム3曲目は、バッハ―ジーグ風フーガ(BWV577による)。1928年に作曲されました。短い曲で、カノン風で同じメロディーが続きます。陽気であまりバッハらしくはないメロディーです。ボストックはこの作品は指揮棒なしで、大きく腕を振りました。
プログラム4曲目は、吹奏楽のための第2組曲(伊藤康英校訂)。1911年に作曲されました。第1組曲と同じく1970年に発見された自筆譜に基づいて、2011年に出版された伊藤康英校訂版による演奏。演奏の特徴は第1組曲と同じで、第1楽章「マーチ」は木管楽器の色彩感がいい。第1組曲と違って、第2組曲は楽章の間で間を空けました。第2楽章「無言歌」を経て、第3楽章「鍛冶屋の歌」は、金属板(金床=Anvil(アンヴィル))を強調。続けて第4楽章「「ダーガソン」による幻想曲」は、ウエスティ音暦 〜弦楽の調和〜で聴いた弦楽合奏のための「セントポール組曲」(1913年作曲)の第4楽章と同じで、グリーンスリーブスのメロディーが引用されています。
休憩後のプログラム5曲目は、組曲「惑星」。1914~16年に作曲。1998年に初演されたアメリカのマーリン・パターソン(Merlin Patterson)による編曲で演奏されました。原曲と同じ調性で、アレンジに違和感がなく、演奏に集中できました。トランペット×7、ホルン×6、トロンボーン×4、打楽器奏者が8名(ティンパニ×2、チャイム×2、シロフォン×3)、ハープ×2、チェレスタ、パイプオルガン(チャペル・コンサート・シリーズ2019 Vol.2「冨田一樹オルガンソロコンサート」の冨田一樹)など大編成での演奏。吹奏楽編曲でここまで本気モードの演奏はなかなか聴けないでしょう。オーケストラと変わらない表現力で、エキストラが多い割にはまとまっていました(プログラムに掲載されたメンバー表では、楽団員31名に対して、客演奏者は37名もいます)。ただし、全体的にテンポが速い。吹奏楽は息継ぎしなければならない状況は分かりますが、スマートすぎたでしょうか。
「火星~戦争をもたらす者」は、冒頭はマリンバのマレットを上下逆にして叩きましたが、これは原曲の弦楽器の「col legno.」を移したものでしょう。速いテンポなので、連符は大変ですが健闘。110小節のfffでティンパニ×2と大太鼓と小太鼓が度肝を抜かれるほどの強打(アクションもよく揃っていました)。
「金星~平和をもたらす者」は、32小節からのヴァイオリンソロはソプラノサックス、83小節からのヴィオラソロはイングリッシュホルンが担当。フルートとマリンバが活躍しました。
「水星~翼のある使者」は、83小節からのヴァイオリンソロはアルトサックスが担当。原曲では弦楽器のみの部分をトランペットで補強していました。
「木星~快楽をもたらす者」は速めのテンポ。冒頭でシロフォン×2を4人で叩きました。89小節からのメロディーをミュート付きトランペットで補強。194小節からの有名なメロディーは、ホルンとハープ×2で演奏。ハープが原曲よりも目立ちました。頂点でもやや弱めの音量で、あまり鳴らしません。
「土星~老いをもたらす者」はやや速めのテンポ。Poco animatoからも速め。テンポが遅いと息が続かなくなるのでいい作戦ですが、もう少しゆっくり聴きたいです。77小節からのチャイムは目立たない。108小節からは原曲と同じくコントラバスからスタート。
「天王星~魔術師」は速めのテンポ。打楽器が活躍しますが、タンバリンなどの小物の打楽器を担当する池田千端(ちず)が上手い。241小節でティンパニと一緒に原曲にはないドラを一発。
「海王星~神秘主義者」もやや速め。冒頭はシロフォン×3が活躍。50小節付近で原曲にはないトランペットのミュート音を足しました。女声合唱(相愛大学声楽アンサンブル)が下手舞台裏から聴こえてきて、六部合唱になる70小節からは上手からも聴こえてきてステレオ効果。ステージに近い場所でけっこう大きな音量で一生懸命歌っていましたが、もう少し遠い場所から聴こえてきたほうが作品が持つ神秘的な雰囲気にふさわしい。最後の小節は10回程度繰り返しながら、きれいにディミヌエンド。
カーテンコールではステージ上手に女声合唱が登場。プログラムによると36名で、予想以上の大人数でした。ボストックが副指揮者の畠山渉と握手。合唱指揮の岡坊久美子(相愛大学音楽学部声楽科教授)も登場。あと一人はピアノの大渕雅子のようでしたが、プログラムに掲載された楽器編成にピアノはないので、練習ピアノの担当でしょうか。
オオサカシオンの歴史に残る名演かもしれません。オーケストラと遜色ない吹奏楽の表現力を堪能できました。オーケストラのアレンジ作品を今後も取り上げて欲しいです。