京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」


  
    2022年12月28日(水)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

デニス・ラッセル・デイヴィス指揮/京都市交響楽団
安井陽子(ソプラノ)、中島郁子(メゾ・ソプラノ)、望月哲也(テノール)、山下浩司(バス・バリトン)
京響コーラス

ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱つき」

座席:S席 3階C2列25番


2022年の聴き納めは、京都市交響楽団の第九です。今年は平日夜に2回公演です。2日目に行きました。

今年の指揮は、デニス・ラッセル・デイヴィス。京都市交響楽団を指揮するのは初めてです。アメリカ生まれの78歳で、ブルノ・フィル芸術監督兼首席指揮者やライプツィヒのMDR響首席指揮者を務めています。てっきり古楽出身と思っていましたが、むしろ現代音楽を得意としているようです。ちなみに、亡くなったコリン・デイヴィスとは無関係です。25日から練習が始まり、前日の26日にはホール練習も行なわれました。京都市交響楽団のTwitterに掲載された動画で、「ベートーヴェンが第九を作曲したことで、音楽の歴史や交響曲を聴く方法が変わった。ベートーヴェンに続くすべての作曲家は、交響曲を作曲する新しい方法を見つける必要があり、マーラーやショスタコーヴィチやフィリップ・グラスは、この伝統を続けて、第九を通じて音楽の新たな領域へたどり着いた」と第九の音楽史的な意義を解説しました。
 
開演前のロビーで、京都酵母を使った日本酒の試飲会が開催されました。事前に京都市交響楽団のTwitterで、水無瀬一成(副首席ホルン奏者)、安井優子(首席第2ヴァイオリン奏者)、杉江洋子(副首席第2ヴァイオリン奏者)、泉原隆志(コンサートマスター)がコメント動画で告知していました。詳しいことはよく分かりませんでしたが、京都市産業技術研究所とリカーマウンテンと京都の酒蔵5社が共同で開発した「京都酵母SAKEセレクション」が試飲できたようです。眠くなったら困るので私は飲んでいませんが、多くの人が集まっていました(終演後はなし)。
 
客の入りは8割程度。ポディウム席は合唱団が座るため、販売されませんでした。特別演奏会なので、プレトークはもともとなし。開演前に合唱団がポディウム席に入場。左から、ソプラノ24名、アルト26名、テノール19名、バス20名の合計89名でした。今年は鼻の上からあごの下まで覆う白い歌えるマスク(日本センチュリー交響楽団第25回星空ファミリーコンサート2020第2夜でも使用)をつけていて、昨年に使用した携帯扇風機はなし。昨年は1席間隔をあけて座りましたが、今年は中央に詰めて座ったので、両サイドは空いていました。独唱者は、ステージ最後列の中央の雛壇に椅子が置かれていました。その左にトランペット×2、その左(ホルンの後ろ)にティンパニ。独唱者の右にトロンボーン×3が配置されました。コンサートマスターは、泉原隆志。
 
デニス・ラッセル・デイヴィスが登場。スキンヘッドでメガネをかけています。足取りはしっかりしていますが、指揮台の左横に踏み台が置かれていて、指揮台の後ろのバーをつかみながら上がりました。
全体として、短い音符はスタッカート気味に、長い音符はたっぷり長く演奏(デイヴィスは指揮棒を左右に振りました)。スコアをそのまま聴かせて、アーティキュレーションのこだわりはありそうでしたが、デフォルメや小細工はなし。強奏でもあまり鳴らしません。見通しがよく、すっきりした音響ですが、パートでよくまとまっているからなせる技で、パートでひとつの音に聴こえるようにかなり意識して演奏されていました。古楽器に近いアプローチですが、鬼気迫る感じはなく、アーノンクールのように激しくはありません。指揮台では両足を広げて元気いっぱいで、大振りしませんが、スピード感のあるタクトでした。
 
第1楽章はやや速めのテンポ 。513小節からも速めのテンポからスタート。第2楽章は、177からの木管アンサンブルはの音量が控えめ。388小節の「1でスコア通り繰り返したので、第2楽章が少し長く感じました。トリオも華やかさはなく引き締まった響き。
第3楽章の前に、デイヴィスが指揮台を降りてチューニング。その間に独唱者4人がステージ最後列へ。チューニング中に入場させたのは、ここで拍手が起こるのを嫌ったかもしれません。第3楽章はゆっくりスタートして、じっくり歌わせます。25小節のAndante moderatoからは約2倍速。各パートが重層的に聴こえました。43小節からのTempo Iでまた遅くなって、ヴァイオリンはスラーの分け目が分かるほど弾き分けます。65小節からは速いテンポで、この2つのテンポを使い分けます。ホルンソロの後の99小節からはゆっくり丁寧な演奏で、ベートーヴェンの深淵な音世界に浸れました。最後の音符は短めで、その後の八分休符を意識させました。
間を空けて、第4楽章。8小節から続くチェロとコントラバスは一生懸命弾いて、人が歌っているかのような表情づけ。92小節からも繊細極まりない。楽器が増えてもテンポをあげませんが、この盛り上げ方はやられました。ティンパニのマレットが硬めで、古楽風のアプローチ。京響コーラスの合唱は、上述したマスクの変更もあり、昨年よりもいくぶん歌詞が聴きとりやすいですが、マスクなしで歌われた京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科第169回定期演奏会に比べると、声の張りが少なく、物足りなく感じました。独唱はマスクなし。男声の2人がよく通る声でした。ちなみに、山下が担うバス・バリトンは、バリトンよりも低音を担当するようです。242小節からはバス・バリトン独唱よりもオーボエの対旋律のほうが耳に入りました。その後もオーケストラ伴奏が聴きごたえあり。331小節からはゆっくり。大太鼓とシンバルの響きがこれまで聴いた演奏の中で一番スマートでした。
 
カーテンコールでは、デイヴィスは笑顔で拍手に応えました。強面のアーティスト写真とはまったく違います。合唱指揮のキハラ良尚も登場。キハラはロームミュージックファンデーション音楽セミナー2004レッスン見学会に受講生として参加していました。京響みんなのコンサート2022「モーツァルトと遊ぼう」(2022.8.3&4)を指揮しましたが、2019年から東京混声合唱団の常任指揮者を務めています。20:30に終演。
デニス・ラッセル・デイヴィスは、年末の風物詩となった第九のイベント性を排除したいかのような独自性のある演奏でした。また呼んでほしいです。
 
昨年と比べると規制がだいぶ緩和されて、今年は3年ぶりに行動制限のない年末年始となりました。屋外ではマスクをしていない人も増えて、外国人の姿を見かけるようになりました。本公演ではひさびさに託児ルームが利用されていました。
ただし第8波の感染が拡大中で、この日の新規感染者数は全国で21万6219人、死者数はこれまでで最多の415人で、初めて400人を超えました。まだまだ先行きは不透明ですが、来年こそはマスクなしの第九を望みたいです。
 
今年の第九のトピックとして、2点ほど。まずは、井上道義がNHK交響楽団と第九を指揮したのには驚きました。昨年に「井上道義指揮 躍動の第九」を降板して、井上が二度と指揮することはないと思ったので、意外でした。NHK交響楽団のYouTubeチャンネルで「少なくとも合唱にマスクはない。冗談じゃないんだから本当に。合唱でマスクをさせるなんて」と力強く宣言。合唱は新国立劇場合唱団と東京オペラシンガーズでしたが、実現できて本当によかったです。京響とは第678回定期演奏会(2023.5.20)で、ドビュッシー「夜想曲」を指揮しますが、京響コーラスの女声合唱のマスクはどうなるでしょうか。
二つ目は、ジョナサン・ノットが指揮した「東京交響楽団 第九2022」(2022.12.28 サントリーホール)がニコニコ生放送で生配信されましたが、複数カメラと客席固定に加えて、史上最多の40台のカメラ(コンサートマスター、1stヴァイオリン、チェロ、チェロ後方、ヴィオラ、ヴィオラ後方、2ndヴァイオリン、2ndヴァイオリン後方、コントラバス、フルート、ピッコロ、オーボエ首席、オーボエ、クラリネット首席、クラリネット、ファゴット首席、ファゴット、トランペット、トロンボーン首席、トロンボーン、ホルン首席、ホルン、ティンパニー、バスドラム、シンバル、トライアングル、ソプラノ(独唱)、バリトン(独唱)、テノール(独唱)、アルト(独唱)、ソプラノ(合唱)、バリトン(合唱)、テノール(合唱)、アルト(合唱)、ヴァイオリンから見た指揮者、ヴィオラから見た指揮者、金管から見た指揮者、合唱から見た指揮者、指揮者、指揮者から見たオーケストラ)で撮影されました。オーケストラの生配信もここまで来たかという感じです。今年末までアーカイブ配信がありましたが、演奏していない時の奏者の表情がおもしろかったりします。

これを書いているときに、建築家の磯崎新(あらた)が12月28日に亡くなったとの訃報がありました。京都コンサートホールをはじめとして、国内外の多くの建築物を手がけられました。ご冥福をお祈りいたします。
 

京都酵母を使った日本酒の試飲会 

(2022.12.31記)


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