京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」


  
   
2021年12月26日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
砂川涼子(ソプラノ)、谷口睦美(メゾ・ソプラノ)、ジョン・健・ヌッツォ(テノール)、甲斐栄次郎(バリトン)
京響コーラス

ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱つき」

座席:S席 3階C2列19番



京都市交響楽団の「第九」公演に行きました。広上淳一が京都市交響楽団第13代常任指揮者兼芸術顧問として指揮する最後の「第九」です。もともとは昨年の2020年12月26日(土)と27(日)に演奏されるはずでしたが、「大編成の合唱を伴う演奏会のため、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策を講じてもなお、感染リスクを排除することは困難と判断」されて中止となり、代わりに「特別演奏会「情熱のチャイコフスキー・ガラ」」が2日間開催されました。「第九コンサート」は2年ぶりの開催になります。
本公演は、昨年と同じ独唱者でリベンジです。ただし、今年は1公演のみ。また、1曲目は、昨年に演奏される予定だったシベリウス/組曲「恋人」から、ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番に変更されました。広上淳一と京響の第九は、広上が常任指揮者に就任した直後の2008年に聴きましたが、やはり常任指揮者として最後の第九は聴き逃せませんでした。
広上淳一と京響は、11月7日(日)に東京公演「広上淳一 京響常任指揮者ファイナルコンサート in 東京」をサントリーホールで開催しましたが、それ以来の共演となります。

チケットは、定期演奏会と同じように、2020年度京響友の会会員→京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員→一般発売の順で発売されましたが、一般発売の開始わずか20分で全席完売したようです。先行発売があってラッキー。

この日は大雪警報が発表されて、雪がちらつくあいにくの天候。チケットはスタッフがもぎってくれるようになり、クロークやホワイエのドリンクコーナーも営業していました。ポディウム席は合唱団が座るため、販売されませんでした。
特別演奏会なので、開演前のプレトークはもともとなし。コンサートマスターは、会田莉凡(特別客演コンサートマスター)。泉原隆志は出演しませんでした。「ブラボーは禁止」というアナウンスがありました。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/序曲「レオノーレ」第3番。ヴァイオリンが流麗で、音色に色彩やぬくもりがあり、いかにも広上と京響らしい演奏です。中盤のトランペットソロは2回あり、スコアに「auf dem Theater」(舞台裏)と指示されていますが、1回目は上手の舞台袖で演奏。2回目はハラルド・ナエスが2階の上手(2R1扉)からパイプオルガンの前まで歩いて演奏。カーテンコールではわざわざポディウム席の照明をつけて、ナエスが拍手を受けました。広上淳一はメガネをかけて指揮。全開の指揮でした。

休憩はなく、プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱つき」。京響コーラスが2階の下手(2L1扉)から入場。左から、ソプラノ、テノール、バス、アルトの順で、1席間隔をあけて座りました。最後列(6列目)までぎっしりです。プログラムによると、出演者は客演を加えて、ソプラノ33名、アルト24名、テノール18名、バス21名の合計96名でした。

第1楽章は、やや遅めのテンポ。ヴァイオリンのメロディーをしっかり聴かせることに主眼が置かれて、マイルドな響きで一体感があります。このまろやかさが14年間の到達点と言えるでしょう。トランペットとホルンはおさえめで、首席客演指揮者のジョン・アクセルロッドが指揮した読売日本交響楽団第31回大阪定期演奏会とは好対照。弱奏では音量を落として繊細な表現。広上は冒険はしない解釈で、よく間を空けて演奏される部分もインテンポで進めます(例えば427小節の前や513小節の前など)。ティンパニが連打する301小節からは、両腕を使って頭上から刀でぶった切るような指揮。481小節からのティンパニの3発を強打。545小節のティンパニも決然と叩かれました。最後の3小節は優しく響かせました。
第2楽章も、やや遅めのテンポで開始。176小節のフェルマータはあまり延ばしません。412小節のPrestoからは標準的なテンポ。530小節のフェルマータはやや長め。スケルツォに戻ると、2回目はテンポアップして標準的なテンポ。

第3楽章の前で、独唱の4名が入場。広上も指揮台の上で拍手で出迎えて、指揮台の前方の椅子に座りました。冒頭は遅いテンポで、0.5倍速の遅さ。25小節のAndante moderatoからやや速めのテンポに。83小節のAdagioからの木管アンサンブルが音量を抑えて演奏。技術的に難しいですが安定しているのはさすがです。99小節のLo stesso tempo以降はテンポを速めました。最後の音は短めでしたが、これは最後が八分休符であることを意識した解釈でしょう。

間を空けて、第4楽章。上述したように間を空けずにインテンポで進められる部分が多かったですが、8小節や92小節や203小節の前は間を空けました。208小節で合唱団が起立すると同時に、手に持っていたヘッドフォンのような形の白い器具を肩から掛けました。何か分かりませんでしたが、Twitterの情報によると、なんと携帯扇風機。上向きの風でエアロゾル(微粒子)の滞留を防ぐためで、ひょうごプロデュースオペラ合唱団メンバー(2020年7月開催の「どんな時も 歌、歌、歌! 〜佐渡裕の オペラで会いましょう」)で使用実績があるとのこと。広上淳一×京響コーラス「フォーレ:レクイエム」京都市交響楽団×石丸幹二 音楽と詩(ことば) メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」では、歌えるマスクを着用していましたが、本公演は普通のマスクをつけて歌いました。読売日本交響楽団第31回大阪定期演奏会で新国立劇場合唱団はマスクなしで歌いましたが、本公演では合唱団と2階のバルコニー席との距離が近いからの措置かもしれません。残念ながら、歌詞が不明瞭で、音量も大きくなく、ベールがかかったような響き。ただし、合唱団全体のまとまりは保っていました。マスクがなかったらいい合唱だったと思いますが、残念。
独唱はマスクなしで十分な声量。テノール独唱のジョン・健・ヌッツォのみ譜面を持って歌いました。NHK大河ドラマ「新選組!」のメインテーマを歌うなどソロとして活躍していますが、375小節からのソロでタイミングを遅らせて歌ったり、声色もソロ向きのようで少し違和感がありました(意外に顔が大きい)。女声独唱もやや絶叫気味で、独唱者4人のバランスはいまひとつ。
広上は力いっぱいの指揮で、指揮台がせますぎて落ちそうでした。331小節からはやや速めのテンポ。最後はティンパニを強打して締めくくり。カーテンコールは意外にもあっさりで、団員を個別に立たせることもなく、挨拶もなし。アンコールもなく、16:15に終演しました。規制退場もなし。合唱団の退場時に、まだいた客から大きな拍手が送られました。

2008年の演奏よりも充実した演奏でした。オーケストラも広上の解釈になじんで、技術的にも表現的にも熟成したようです。京都市交響楽団をひとつの楽器としてまとめた広上の功績は大きいでしょう。
挨拶もアンコールもなかったのが意外でしたが、広上淳一が京都市交響楽団を指揮するのは、いよいよ常任指揮者最後の公演となる「第665回定期演奏会」(2022.3.12&13 京都コンサートホール)で、マーラー「交響曲第3番」を指揮します。オミクロン株の市中感染も発生していますが、この日の京都府の新型コロナウイルスの感染者は7人でした。新兵器の携帯扇風機で大曲を乗り切れるでしょうか。

なお、ホワイエに2022-23シーズンプログラムが置かれていました。今年度は休止していた「京響友の会」会員の募集を来年度は再開します。11月26日(金)に行なわれた「京都市交響楽団2022年度ラインナップ記者発表」に広上淳一は出席せず、広上の後任となる第14代常任指揮者は2022年度は空席となりました。新型コロナウイルス感染症の影響で海外在住の指揮者を招聘できなかったためとのこと。常任指揮者の不在は、井上道義が第9代常任指揮者兼音楽監督が就任する以前の1987年度〜1989年度以来の事態とのこと。
また、広上淳一が第13代常任指揮者兼芸術顧問を退任した後のポストも決まっていないようです。どうやら名誉指揮者のような名誉職のポジションを広上が辞退したようです。2022-23シーズンプログラムには、「首席客演指揮者 ジョン・アクセルロッド」「桂冠指揮者 大友直人」の下に、「   広上淳一」と、広上の肩書が空白で記載されているので、何かのポストを用意したいという団からの希望の表れでしょうか。

なお、昨年10月にクラウドファンディングで3万円で購入した「2021年度シーズン定期演奏会全公演の指揮者・ソリストのサイン入りプログラム」が、ようやく届きました。今回は、第655回(2021年4月)から第662回(2021年11月)までの定期演奏会と、この「第九コンサート」のプログラムの9冊で、2022年分は3月に送るとのこと。指揮者、独奏者、独唱者のサインが書かれています。大切にします。

京都コンサートホール2階から望む 京都コンサートホール

(2021.12.29記)


読売日本交響楽団第31回大阪定期演奏会 京都市交響楽団第663回定期演奏会