京都市交響楽団第592回定期演奏会


   
      
2015年7月19日(日)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

ジョン・アクセルロッド指揮/京都市交響楽団

ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」から「4つの海の間奏曲」
ドビュッシー/交響詩「海」
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」

座席:S席 3階 C2列20番


ジョン・アクセルロッドが京都市交響楽団定期演奏会に再び登場です。アクセルロッドは現在ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団首席指揮者を務めていて、今年9月からはスペイン王立セヴィリア交響楽団芸術監督にも就任します。京都市交響楽団を指揮するのは今回が3回目です。1回目の第525回定期演奏会(2009年6月7日)は日本でのデビュー公演で、「スペイン」にちなんだプログラム。2回目の第573回定期演奏会(2013年10月20日)はベートーヴェン&ワーグナーのドイツプログラム。そして3回目の今回は「海」にちなんだプログラムです。

京都市交響楽団の定期演奏会は、今年度から隔月(奇数月)で1プログラム2回開催されることになりました。広上淳一が常任指揮者就任時に掲げた夢が部分的に実現しました。しかも土日に開催されるので、演奏会を聴きに行く機会が増えてうれしい限りです。今回は2日目の日曜日の公演に聴きに行きました。前日は台風の余波でJRが不通になるなど混乱していましたが、この日は快晴でした。
客の入りは7割ほど。2回公演に拡大したため、さすがに完売にはなりませんでしたが、1回公演なら満席だったでしょう。ただ、今年度の定期演奏会はまだ一度も完売になっていません。消費税増税の影響でしょうか。

14:10からプレトーク。アクセルロッドが指揮台の上に立って英語で話し、隣の女性が通訳しました。まず「おいでやす」と日本語で挨拶。「今週は祇園祭でしたが、台風のお出迎えをいただきました。明日(7月20日)は「海の日」で、大変特別なことです」とコメント。続いてプログラムについて紹介しました(後述)。「奏者一人一人にヴィルティオーゾの技巧を必要とするが、京都市交響楽団は世界一流のオーケストラ」と褒めあげ、最後は日本語で「ありがとうございます」と一礼しました。

プログラム1曲目は、ブリテン作曲/歌劇「ピーター・グライムズ」から「4つの海の間奏曲」。プレトークでアクセルロッドは「この曲は4曲からなるが、心理学では感情は5つに分かれる。ベートーヴェンの田園は5つの楽章にそれを対比させている。4つ目の感情である「怒り」は、第4楽章「嵐」に結びつく。第3曲「月の光」はベートーヴェンの曲名にもある。第5曲がないのは、すべてを受け入れるものがないから」と語りました。初めて知った話でしたが、有名な説なのかアクセルロッドの持論なのかは分かりませんでした。もう少し詳しく聴きたかったです。
第1曲「夜明け」は、冒頭からヴァイオリンの澄んだ音色がいい。第2曲「日曜の朝」は木管楽器がうまく、アメリカ音楽のような華やかさです。第3曲「月の光」は弱奏でもアクセルロッドの振りが大きい。第4曲「嵐」は変拍子が激しい。
アクセルロッドは第525回定期演奏会では全曲譜面台なしでしたが、今回は譜面台にスコアが置かれていました。また、今回は全曲指揮棒なしで指揮しました。腕が長いです。

プログラム2曲目は、ドビュッシー作曲/交響詩「海」。プレトークでアクセルロッドは「この曲でハーモニーの変革が起こった。それはベートーヴェンやブリテンにも通じる。いろんな心象が現れる。葛飾北斎の絵にイメージされる大きな波を描こうとしたのではなく、あくまでも心象を描いた」と話しました。
演奏は弱奏が丁寧で安定感があります。音楽が前向きで停滞しません。重くならずにカラッと鮮やか。内声をあまり聴かせないので、フランス音楽らしい音色の厚さは感じられませんでした。強奏はよく鳴りましたが、打楽器が少し強すぎました。
第1曲「海の夜明けから真昼まで」は速めのテンポ。明るい音色で暗さはなく、夜明けよりもすでに昼間といった感じです。135小節からはテンポを落として堂々とした演奏。最後のデクレシェンドは早く切り上げました。第2曲「波の戯れ」も速め。180小節からヴァイオリンの伸びがいい。第3曲「風と海との対話」のほうが第1曲よりもくすんだ音色。118小節からティンパニ、大太鼓、ドラをド派手に鳴らしました。237小節からのホルンとトランペットによるファンファーレはなし(スコア通り)。テンポを落として、クレシェンド・デクレシェンドを効かせて、弦楽器をしっかり演奏しました。286小節からはティンパニが大乱打。

休憩後のプログラム3曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲/交響組曲「シェエラザード」。プレトークでアクセルロッドは「トロンボーンがシャーリヤール王を、ヴァイオリンソロはシェエラザードを、チェロソロは作曲者そのものを表す」と話しました。
この曲は第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」で広上淳一の指揮によって演奏されましたが、そのときよりもオーケストラがよく鳴って、スケールが大きい。団員もいきいきと気持ちよさそうに演奏していました。ホールはクーラーが効いてるはずなのに、汗ばむほどの熱演でした。アクセルロッドは各楽器の聴かせどころを作って、飽きさせません。シャーリヤール王に千夜一夜物語を聞かせたシェエラザードですが、アクセルロッドはさながら音楽のシェエラザードと言えるでしょう。聴かせ上手です。
第1楽章「海とシンドバッドの船」冒頭の木管楽器は透明感があっていい。ヴァイオリンソロはコンサートマスターの泉原隆志。少し表情が硬いですが、丁寧に演奏しました。第1楽章から休みなく第2楽章「カランダール王子の物語」へ。スコアにアタッカの指示はないので、アクセルロッドの解釈でしょう。ファゴットソロとオーボエソロはたっぷり歌わせました。108小節からのトロンボーンソロはゆっくりしたテンポでスタート。162小節からのクラリネットソロで伴奏となる弦楽器の十六分音符のピツィカートはクレシェンド・デクレシェンドをつけて大きくはっきり演奏。スコアではpですが、fくらいの音量でした。アクセルロッドも腕を高く上げて音量を要求しました。323小節からのファゴットソロでも同じでした。414小節のホルンの伸ばしは大きく長めに演奏。421小節はハープを大きく聴かせました。第3楽章「若い王子と王女」は、弦楽器がしっとりした音色。ヴァイオリンは洗練された響きでした。第4楽章「バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」は、105小節からの弦楽器のテーマが速めでしたが、スコアには「Un poco pesante」と書かれているので、ここはスコア通り。496小節(Piu stretto)からは急き立てるような速さ。続く強奏はスケール感が桁外れ。普段の京響では聞けないでしょう。645小節からのチェロとコントラバスによるシャーリヤール王の主題の伴奏では、ヴァイオリンとヴィオラの三連符を聴かせました(スコアではpp)。

カーテンコールではアクセルロッドと団員全員が後ろを振り返って、ポディウム席からの拍手を受けました。

アクセルロッドの魅力が発揮されたいい選曲でした。今回もスケール感の大きい演奏を聴かせました。低音を効かせて和音のバランスがいい。弱奏も丁寧な演奏でした。強奏は金管楽器と打楽器を効かせてダイナミック。ただし、打楽器に少し頼りすぎるのが惜しいでしょう。次回の客演にも期待したいです。次はアメリカ音楽や「第九」が聴きたいですね。マーラーもいいかもしれません。

(2015.7.26記)


京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」 兵庫県立芸術文化センター オープンデイ