大阪フィルハーモニー交響楽団第520回定期演奏会


   
      
2018年7月26日(木)19:00開演
フェスティバルホール

大植英次指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団
イェウン・チェ(ヴァイオリン)
大阪フィルハーモニー合唱団

ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
ホルスト/組曲 「惑星」

座席:A席 1階24列24番


大阪フィルハーモニー交響楽団を桂冠指揮者の大植英次が指揮する演奏会に行きました。大植英次を聴くのは大阪フィルハーモニー交響楽団創立60周年記念公演 ベートーヴェン交響曲全曲演奏会IV以来、実に11年ぶりでした。

大植英次は2003年4月に大阪フィルハーモニー交響楽団第2代音楽監督に就任し、定期演奏会の本拠地をフェスティバルホール(1日公演)からザ・シンフォニーホール(2日公演)に移転させましたが、2012年3月に第2代音楽監督を退任し、桂冠指揮者に就任しました。2013年4月にフェスティバルホールがリニューアルオープンすると、首席指揮者(当時)の井上道義は2014年4月にザ・シンフォニーホール(2日公演)からフェスティバルホール(2日公演)に再移転しました。新しいフェスティバルホールで大阪フィルを聴くのは今回が初めてで、どのように響くかも興味がありました。

チケットは、フェスティバルホール・オンライン会員を対象に先行受付(1月14日〜)がありましたが、気がついた時点でいい席がありませんでした。一般受付(1月30日)で大阪フィルのホームページ「オンラインチケットサービス」(CNプレイガイド)から申し込みました。定期演奏会は上述したように2日間連続で開催されますが、今回は1日目の公演でした。なお、「定期2日目割引」という企画があり、1日目の来場者を対象に、2日目のA席(=最も高価な席)チケットが半額の3,000円で購入できるとのこと。今回は2日目のA席が完売のため、割引販売はありませんでした。

開演に先立って、18:30からホール1階席後部のメインホワイエで「プレトーク・サロン」が開催されました。ホームページ等では広報されていないようですが、ホール内に掲示されていて、たまたま早くホールに着いたので、参加することができました。趣旨としては、「コンサート初心者向けの質疑応答を交えたプレトーク・サロン」とのこと。大阪フィル×ザ・シンフォニーホール ソワレ・シンフォニーVol.11では、指揮者がホールのステージで行ないましたが、定期演奏会ではホワイエで事務局が担当しました。大阪フィルハーモニー交響楽団事務局で演奏事業部長を務める福山修が登場。大植英次が使っている階段付きの指揮台によく似た台の上で話し、客はその周辺に立って聴きます。150人くらいは集まりました。

福山は原稿を持たずにマイクで話しました。親しみやすい話し方で好感が持てました。まず本日の演奏会の聴きどころを紹介。福山が「大植英次の定期演奏会で多いメイン級の2曲で構成され、聴きごたえのあるプログラム。本日のプログラムのコンセプトは「星」。前半の「四季」は地球を表す曲として選曲した」と説明しました。「四季」と「惑星」に関する説明は後述します。

説明が終わると質問時間。客から質問を直接受け付けるというのは珍しくすごい取り組みです。後述するように質問よりも意見のような要望も寄せられました。最初の質問は「プログラムは誰が決める?」。福山は「指揮者とプロデューサー(福山)が音楽監督(尾高忠明)の意向を尊重して決める」と回答。「主催公演以外で、ブログなどのSNSの発信が弱い」という意見には、「発信力を高めていきたい」と回答。「ホルストは「惑星」を抜粋(「木星」だけなど)で演奏することは認めなかったと思うがどう思うか?」という難しい質問に、福山は初耳だったようですが「一気に7曲が作曲されたわけではなかったと思う」と応じました。これは予備知識がなければ答えられません。「大植英次が就いている桂冠指揮者のポジションはどういうものか?」という質問には、「楽団の方向性や人事を決める役割とは違って、敬意と感謝を込めた名誉的な役職。名誉指揮者との違いはなく、意味合いは同じ」と回答。「大阪クラシックに金井さんが出るのはなぜか?」という相当コアな質問に、福山は「大阪クラシックは81公演行われるが、アンサンブル公演は大フィルメンバーは自由参加で、クラブ活動のように、好きなメンバーと好きな曲がやれる。クラリネットの金井信之さんは、これまで出演していなかったが、いただいたご意見をお伝えしたところ、今年は1公演出演することになった」とのこと。大阪クラシックの公演スケジュールは、前々日の7月24日に発表されたばかりで、出演するメンバーまでチェックしている熱心なファンがいるとは驚きです。また、ファンからの要望を楽団員に伝えている事務局の対応にも拍手。18:47に終了しました。前半の聴きどころ紹介よりも、後半の質問コーナーのほうが時間が長かったです。客と直接対話して意見できる機会を設けているのは他にはない取り組みです。どんな質問が出るか分からないので咄嗟の対応力が必要ですが、福山は丁寧な受け答えでした。

客席はほぼ満席。平日に2日間公演しているのに、さすがの集客力です。私の座席は1階席中央の後方でしたが、雨宿り席でした…。あまりいい席ではないでしょう。フェスティバルホールはステージが左右に非常に広いですね。なお、以前は開演前に団員が三々五々とステージに登場して音出ししていましたが、この日は一部の団員だけが音出ししただけで、開演前のチャイム(鳥のさえずり)の後に一斉に入場しました。団員の入場方法が変更されたようですね。

プログラム1曲目は、ヴィヴァルディ作曲/ヴァイオリン協奏曲集「四季」。ヴァイオリン独奏はソウル出身のイェウン・チェ。女性です。青いドレスで登場。プレトークで福山は「美しくてアグレッシヴ。新進気鋭の演奏が聴ける」と紹介。オーケストラは弦楽器のみですが、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラは椅子がなく、立奏しました。

イェウン・チェは、西洋人のような顔つきで、アジア人には見えません。他の団員と目を合わせながら演奏。オーケストラを立奏にしたのもアイコンタクトを取りやすくするためかもしれません。チェは音量が大きくよく響きます。攻撃的かつ刺激的な演奏で、テクニックも危なげがありません。女性とは思えないほど強い音圧とすばやいボウイングが魅力です。たまに音が裏返ることがあり、荒々しいと言ってもいいほどで、福山がプレトークで「アグレッシヴ」と表現した意味が分かりました。将来大物になること間違いなしでしょう。京響でもぜひ招聘してほしいです。

大植英次はチェンバロを弾きながら指揮。譜面はなし。アムステルダム・バロック管弦楽団 結成30周年記念公演のトン・コープマンとは違って、大植英次は客席と対面するように配置しました。演奏している姿を聴衆に見せたいということでしょう。大植英次のチェンバロは音が小さくてあまり聴こえません。大植英次が頭を上下に動かして拍を取ったり、息を吸う音がよく聴こえました。チェンバロパートがないときは立ち上がって両腕を使って指揮しました。

演奏は、アーティキュレーションに特徴があり、スコアにないタイをつけてフレーズ感を出しました。また、この作品は、チェロのソロが意外に重要なパートで、ヴァイオリン独奏との掛け合いが多いですね。「春」第1楽章は弦楽器の人数に比べると、軽く演奏。「夏」第1楽章は、31小節(Allegro e tutto sopra il canto)から速いテンポでスピード感を出しました。第2楽章のヴァイオリン独奏は、スコアではmfですが、超弱音で演奏。第3楽章のPrestoは、連日37℃を超える酷暑が続く今年の夏によい爽快感でした。「秋」第1楽章はテヌート気味に演奏。97小節からのヴァイオリン独奏のppは超弱音。第2楽章はチェンバロソロの聴かせどころ。「冬」第1楽章12小節から始まるヴァイオリン独奏のソロ。速いテンポで力強い。スピーディーすぎる。カーテンコールの最後は、チェンバロの上に置かれたチェの白いハンカチを大植がチェに渡しました。

休憩後のプログラム2曲目は、ホルスト作曲/組曲「惑星」。プレトークで福山は「新しいフェスティバルホールでは初演」と話しました。フェスティバルホールはリニューアルオープンして5年以上経っているので意外でしたが、その理由はフェスティバルホールにパイプオルガンが備わっていないためでしょう。まったくの余談ですが、この日は火星の下に液体の水が存在している証拠が見つかったとの報道がありました。

大編成での演奏。テューバの右隣にはユーフォニアムがいました。首席コンサートマスターの田野倉雅秋が立ち上がって、弦楽器、管楽器の順に、入念なチューニング。大植の指揮台は、いつもの階段付きで金の背もたれのある指揮台。譜面台はありませんでした。上述したパイプオルガンの問題については、電子オルガンが使用されたようで、天井のスピーカーから聴こえてきました。違和感はありませんでしたが、視覚的な問題として、パイプオルガンが設置されているホールで聴きたいですね。オルガン奏者がどこにいるのか分かりませんでしたが、ステージ右側の奥にいました。譜面台で隠れていたので見えませんでしたが、カーテンコールで立ったときにようやく見えました。

大植英次の指揮は、キュー出しは大きいですが、拍を振る動きは小さめで、大振りしません。後姿を見ていると、まったく動いていないように見えるときがありました。コンサートマスターの田野倉雅秋は、椅子に浅くかけて、身を乗り出して、上半身を動かしながらオーケストラをリードしました。

「火星」冒頭のティンパニは硬くて大きめ。ティンパニをはじめ、打楽器が全体的に大きいのは、大阪フィル×ザ・シンフォニーホール ソワレ・シンフォニーVol.11と同じで、ホールが違っても変わりません。ステージ最後列に打楽器(ティンパニ×2、大太鼓、木琴)が配置され、背後に反響板があるため、打楽器がよく響きます。強奏で打楽器が勝ちすぎて、金管楽器が聴こえないのは興醒め。木管楽器のソロはうまく、弦楽器はつややかで透明感がありました。「金星」では弦楽器が伸びやか。「木星」は45小節のpesanteはゆっくりテヌート気味に演奏。194小節(Andante maestoso)からの有名なメロディーは、遅めのテンポで濃厚にたっぷり弾きました。2コーラス目の210小節からは音量を落として演奏しましたが、スコアに指示はないので人為的に感じました。ラスト7小節のトランペットが輝かしい。「土星」は金井信之のクラリネットがよく聴こえました。オルガンが重厚。ハープもよく聴かせます。「天王星」は、193小節(a tempo)から木琴がよく聴こえるのが斬新。221小節はフェルマータ気味に伸ばしました。222小節(Lento)からハープを強調。休みなく「海王星」へ。4小節からのハープのトレモロはppですがよく聴こえました。これもホールの特性でしょう。女声合唱団はいい響き方。ステージ下手奥の扉が開かれ、扉が徐々に閉まっていく演出でした。最後の小節(女性合唱団のみの反復)が長く繰り返されました。

しばらく間があって、客席から拍手。大植は指揮台の上でガッツポーズしました。カーテンコールでは、合唱指揮の福島章恭(大阪フィルハーモニー合唱団指揮者)が登場して、大植と握手。合唱団は姿を見せませんでした。コンサートマスターの田野倉が一礼してオーケストラ団員が解散した後に、大植が再登場。客に手を振りながら退場しました。大植はやはり大阪が好きなようで、ファンサービスがすごいです。

フェスティバルホールでオーケストラを聴いたのは、久石譲コンサート2013 in festival hall「第九スペシャル」以来でしたが、小さな音もよく響くので、演奏者はごまかしが効きません。よく響くのでいいホールですが、ある意味怖いホールと言えるでしょう。

「四季」ではイェウン・チェのエネルギッシュな演奏が印象に残りました。「惑星」は手に汗握る演奏でしたが、なぜかあまり感動できませんでした。「第22回京都の秋音楽祭開会記念コンサート」(2018.9.16)では、井上道義が京都市交響楽団を指揮するので、聴きくらべしたいと思います。

(2018.8.14記)


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