京都市右京ふれあい文化会館ホール
下野竜也指揮／NEO吹奏楽団
福山俊朗（司会）
田坂直樹／マーチ「プロヴァンスの風」
松田彬人／三日月の舞
座席：自由
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２０１８年３月２２日（木）19:30開演 京都市右京ふれあい文化会館ホール 下野竜也指揮／NEO吹奏楽団 田坂直樹／マーチ「プロヴァンスの風」 座席：自由 |
下野竜也がアマチュアのNEO吹奏楽団を指揮するワークショップ「指揮者のお仕事！ハーモニーって？」に行きました。京都市交響楽団と京都市右京ふれあい文化会館の連携事業で、京都コンサートホール・ロームシアター京都Clubの毎月送られてくる公演情報の封筒に入っていたチラシで知りました。入場無料でしたが、事前申込制（定員448名）で整理券が必要で、電話かファックスで申し込みが必要でした。電話したところ、整理券を取り置きしてくれるとのこと。
「指揮者のお仕事！ハーモニーって？」 は、京都市交響楽団指揮者陣がアマチュア吹奏楽団を指揮・指導する企画で、今回が３回目のようです。１回目は、2016年12月1日（木）に京都市北文化会館で、広上淳一（京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー）が立命館大学交響楽団を指導しました。２回目は、2018年1月29日(月)に京都市呉竹文化センターで、高関健（京都市交響楽団常任首席客演指揮者）が墨染交響楽団を指導しました。曲目がメンデルスゾーン作曲／交響曲第３番「スコットランド」第１楽章であまりおもしろくなかったので行きませんでした。３回目の今回を指導する下野竜也は、京都市交響楽団常任首席客演指揮者を務めるほか、京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻教授、広島交響楽団音楽総監督、広島ウインドオーケストラ音楽監督の任にあります。
NEO吹奏楽団は、1987年に京都府立嵯峨野高校の卒業生を中心にして結成されたようです。京都府吹奏楽コンクールには2000年を最後に出場していませんが、「文化芸術活性化パートナーシップ事業」のパートナー団体として、京都市右京ふれあい文化会館で毎週木曜日の18：00〜21：15に練習しています。「文化芸術活性化パートナーシップ事業」（毎年度申請）には2011年度から現在まで選定されていて、同制度の前身の「文化芸術活性化フランチャイズ化（活動拠点）事業」を含めて、2010年度から京都市右京ふれあい文化会館を拠点に活動しています。「文化芸術活性化パートナーシップ事業」では、京都市内の５館の地域文化会館（京都市東部文化会館、京都市呉竹文化センター、京都市西文化会館ウエスティ、京都市北文化会館、京都市右京ふれあい文化会館）で10団体が活動していて、ホールなどが通常利用料金の20％の料金で利用できる特典があります。逆に条件として、文化芸術活動（「無料公演」と、18歳未満を対象とした「教育プログラム」をそれぞれ年１回以上）を開催することが求められています。
今回の選曲が興味深く、アニメ「響け！ユーフォニアム」で吹奏楽コンクール課題曲と自由曲として演奏された２曲です。映画「劇場版 響け！ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜」と「劇場版 響け！ユーフォニアム 〜届けたいメロディ〜」を観ているので、ファンとしては秀逸なプログラムです。下野竜也も京都新聞の記事で、「響け！ユーフォニアム」を絶賛していました。下野は上述したように、広島ウインドオーケストラで音楽監督を務めていて、吹奏楽に対する理解はあるでしょう。下野竜也の練習風景を見学するのは今回が初めてでした。
なお、NEO吹奏楽団は、この２曲を2月18日（日）に同所で開催された文化芸術活性化パートナーシップ事業無料公演「NEO吹奏楽団 Music Market 2018」で演奏しました（客演指揮は伊勢敏之（創価学会関西吹奏楽団常任指揮者、関西大学応援団吹奏楽部音楽監督））。なお、田坂直樹作曲／マーチ「プロヴァンスの風」 は、2015年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲�犬如▲好灰△倭監�本吹奏楽連盟のみの取り扱いで絶版とのことで入手できませんでした。「響け！ユーフォニアム」からこの曲を知る人もいると思うのですが、残念です。松田彬人作曲／三日月の舞は、ヤマハが運営する「ぷりんと楽譜」でダウンロードできました（フルスコアで1620円）。
京都市右京ふれあい文化会館は、ＪＲ花園駅から歩いてすぐで交通の便はいいですが、少し分かりにくい場所にあります。2001年に開館した新しいホールで、座席数は448席。受付で整理券を受け取りました。
19：00に開場。全席自由でした。ステージ上では団員が私服で音出ししていました。NEO吹奏楽団のこの日の編成は、ピッコロ１、フルート２、オーボエ１、E♭クラリネット１、B♭クラリネット６、バスクラリネット１、サクソフォーン４、トランペット６、ホルン４、トロンボーン６、ユーフォニアム２、テューバ２、パーカッション５。総勢40名ほどで、木管楽器よりも金管楽器が多めです。客の入りには７割程度。どんな客層なのか注目していましたが、年齢層は幅広く、「響け！ユーフォニアム」ファンはあまり多くなさそうでした。
19：30に開演。B♭でチューニング。司会の福山俊朗（しゅんろう）が登場。福山哲朗（参議院議員京都府選挙区）の弟で、「京響オリジナルTシャツ2011」ホワイト（ひまわり柄）を着ていました。テンション高めなＭＣで、今回の企画趣旨を説明しました。下野竜也が登場。「Kyoto Junior Orchestra」と描かれたピンクの半袖Ｔシャツを着ていました。胸元にピンクマイクがつけられているので、声がとても聴こえやすい。「今日はレストランで言うと厨房をお見せする」「本番は100のうちの1個〜2個で、練習がほとんどを占める」「作曲家からのお手紙である楽譜を読む。俳優が台本を読むように読んで、頭や身体に入れる」と説明しました。
「本当に初めて指揮する」ということで、NEO吹奏楽団とは事前練習なしの初顔合わせだったようですが、「練習を通して、団員とコミュニケーションをとっていく」とのこと。「私はこう思うと団員に投げかける。それを団員がどう受け止めるか。結果として音というボールが返ってくる」と話しました。「普段通りやるので、お客さまサービスはしばらくないかも」とのことでしたが、「ホールにお願いして、モニターをつけてもらった。指揮者の表情も見てほしい」と話しました。指揮者の譜面台の前にビデオカメラが設置されて、ステージ右脇のスクリーンに映し出されました。
まず、田坂直樹作曲／マーチ「プロヴァンスの風」から練習。選曲については、NEO吹奏楽団からの提案だったようです。下野は指揮台に上がると「どこに楽器があるのか団員を見とかないと。むかし「新世界」のホルンのキューで失敗した」と話しました。楽器配置を確認すると、「普通ですね」と話しました。指揮棒なしで、１回通して演奏。元気のある音ですが、テンポがかなり走ります。
演奏が終わると、下野は「すばらしいです」と話しました。指揮台を下りて、「この曲好きですか？」と団員に聞いて回りました。「嫌い」と答えた団員には「なぜ嫌い？」と聞き、「難しい」「苦手な音がある」などの答えを引き出しました。受け答えが面白く、客席からは笑いが起こりました。下野は「この作曲家が何を書いたか。模範演奏から入ると譜面を読んだ気になっている。みなさんは楽譜通り演奏していない。アクセントの＞と∧も吹き分けられていない」と一転してダメ出し。「「プロヴァンスの風」という題名の意味よりも、まず楽譜通りやることが先」と厳しい表情で話しました。
まず、冒頭に書いてある「Appassionato（アパッショナート）」の意味を団員に聞くと答えられなかったので、下野は「情熱的に」と説明。逆に「マエストーソ（威厳を持って）と思って指揮します」と正反対の表情付けで演奏。下野は「情熱を持って話す人はどういう風に話すか。「君が好きだ」という言葉を硬く話すか柔らかく話すか」と例示して、「ここはもっとはっきり演奏する」と指示。また、「１小節目は、「16分音符+16分音符＋8分音符」のパートと「8分音符＋16分音符+16分音符」のパートがかみあわせになっているので、４つの16分音符が聴こえるように」と細かく指示しました。緻密なスコアリーディングです。
続いて、「音がこのホールには大きすぎる。うるさい。お客さんが引いていっているのが背中越しに分かる。音量で勝負しようとするのが吹奏楽の弱点」と話し、「明日会うことはないので、はっきり言う」とのこと。「もう少しコンパクトに。はっきりと。普段話している口調で演奏しない。俳優がおおげさに演技するように、ステージの上ではおかしくない。強くよりもはっきり話す」と指示。また、＞と∧のアクセントの使い分けについては、「＞はスピーディーに、∧は時間をかける。重みが欲しい」。また、４小節目の∧∧∧∧は、「４つとも同じ音量なのはおかしい。楽譜には書いていないが、ディミヌエンドで演奏する。言葉遣いと同じ」と説明。「（メロディーが始まる）４小節目アウフタクトのクラリネットの16分音符は１拍目は長めに」。また、メロディーの歌い方について「長い音符で思考停止になっている」と指摘して、実際に歌って見せ、「次の音符に向かってわずかにクレシェンドしてふくらませる。どこが頂点かを意識する」。音量についても「ワンｆです。ｆｆではない」と注意。反復練習では、やはり４小節目の縦型アクセント４つが気になるようで、「クラリネットを邪魔するので、わずかにディミヌエンドする。楽譜に書いてないけど、これが指揮者の仕事。このホールは残響が豊かなので」と話しました。
一気にトリオに飛びました。下野は「科捜研の女になったつもりで、楽譜をよく見てください」と話し、「この曲の問題点は、増音程で転調すること。作曲技法としてはダメで、この作曲家は素人だと思った。和声的には間違いだが、作曲家は僕よりも上」と話し、スコアを高く持ち上げました。「もともとは転調の前にフェルマータがあったらしいが、出版前に吹連との調整でなくなった」という初めて聞くエピソードも披露しました。「老眼なので」と言って、メガネをかけました。「＃系から♭系に変わるギャップが欲しい。テンポを落として揺れてほしい。雰囲気を変えて、優しく諭しているように丁寧に演奏する」と話しました。ピッコロソロのところは、他のパートに「ものすごく落してほしい」と指示。「Ｉからのファンファーレはｆｆだけ頑張る」。Ｊはメロディー以外で演奏して「はつらつと軽く短めに」。また、「メロディーがフラットに吹きすぎ。全部強く吹いている。歌を忘れないで。楽譜には書いてないけど、どこかを抜かないと」と話しました。下野は「（練習を始めた）30分前はスクランブル交差点みたいな演奏だったが、聴いてもらって素敵な吹奏楽にしてほしい。これは吹奏楽の問題点で、プロの演奏会でもお客さんが来ない」と話しました。「この曲はここだけ練習すればよい」とのことで、この曲の練習は終了。集中的に練習したのは、冒頭４小節とトリオの前半でした。
続いて、松田彬人作曲／三日月の舞の練習。下野は、「響け！ユーフォニアム」について簡単に紹介しましたが、知っているお客さんは少なそうでした。この曲については「ユニークな曲」とコメント。まずＨのトランペットソロに入るまで演奏しましたが、同じ曲想が続くので退屈しますね。3小節目のfpは「pの時間を長くして、木管楽器の16分音符の１拍目が聴こえるように。クレシェンドはよい意味でサボって。張らないでリラックスする」。9小節目のシンコペーションは「ノリが遅い。時間がつまらないように。響きがあったほうがいい」。Ｃから「リズム系の人は、「ウエストサイドストーリー」のノリで」と話し、有名な「アメリカ」を歌いました。「フィーリングは３拍子で、2+2+3のノリで」。Ｄは「バランスを変える。クラリネットの16分音符は香辛料でいいが、大きすぎる」。Ｈのトランペットソロは「ブラボー、すばらしい」と拍手。「自由に吹いていい。デジタルではなく、桜の花びらが落ちるように、もっとフリーでいい」と楽譜の拍にとらわれなくてもいいとアドバイス。また、Ｉでは「オーボエのソロのときのテューバは高い音だが、もう少し小さめに。ここはバストロンボーンのほうが音が低い」と話しました。映画では触れられませんが、凝った作曲になっています。トロンボーンとテューバの和音の調整。Ｋは「子音は聴こえるけど、母音は聴こえない。ホルンは長めに」。Ｌは「10小節目から２拍子で振るので、たっぷり演奏してほしい」。
下野は、「音量だけで勝負するのが吹奏楽の悪いところ。ｆでもすぐに強くしない。ちょっと大きめでいい」。また、NEO吹奏楽団を「大変すばらしい吹奏楽団」と賞賛。最後に「どこに大切な音があるか」「歌を忘れない」「最後に１回通して演奏するが、横の流れが欲しい。縦が乱れてもいい」「＃系は輝かしい、♭系は柔らかと覚えてください」とポイントを復習しました。
最後に２曲を通して演奏。下野はひざを曲げたり、左手を挙げたりして音量をセーブ。ゆったりとした指揮で、流れを意識させました。「プロヴァンスの風」の演奏後に、団員に「好きになった？」と聞いて笑わせました。「三日月の舞」では、下野は全身を使った指揮。練習の成果もあって、ずいぶん聴きやすくなりました。アマチュア吹奏楽団にしてはいいレベルでしょう。
演奏が終わると下野は退場しました。福山が登場して、今後の京響の演奏会をアナウンスして終了しました。終演予定は20：45でしたが、ほぼ時間通りの20：50に終演しました。限られた時間内で、練習を進めるという時間管理も指揮者に大切な能力でしょう。
「ハーモニーって？」というタイトルでしたが、ハーモニーの話はあまりなく、歌うことやフレージング、音量バランスの重要性が説明されました。下野は客席を笑わせながら、「自分はドＳ」と言って、毒舌のような厳しく指摘もしました。下野は現在の吹奏楽演奏の問題点（危機感と言ってもいいかもしれません）を持っていて、吹奏楽の演奏を変えたいという高い意識を持っていました。下野は「二度と現れない」と何回か話したので、今回の共演は一期一会だったようですが、とても楽しめたので、毎年やってほしいです。「文化芸術活性化パートナーシップ事業」の性格上、無料となっていますが、有料でも聴く価値がある企画です。また、他のホール（京都市東部文化会館、京都市西文化会館ウエスティ、京都市北文化会館）でも開催してほしいです。
(2018.4.4記)
