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2009年12月5日(土)18:00開演 嘉穂劇場 フォルカー・レニッケ指揮/九州交響楽団 ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」 座席:1席指定席 1階に列25番 |
今年も第九シーズンの到来です。福岡県飯塚市の嘉穂劇場で開催された「嘉穂劇場第九 其ノ陸」(嘉穂劇場第九の会 第六回公演)に行きました。
嘉穂劇場は、1931年(昭和6年)に開場した日本でも数少なくなった歌舞伎様式の芝居小屋です。2003年夏の集中豪雨で、近くを流れる穂波川が氾濫。浸水してしまい、休業を余儀なくされました。その後、多くの寄付や募金をもとに復興工事が行なわれ、2004年9月に復興しました。「嘉穂劇場第九」は、2004年12月から始まって、今年で6回目です。2006年には国の有形文化財に登録されました。
また、嘉穂劇場は椎名林檎ファンにとってはかなり有名です。2000年7月30日に一夜限りのライヴ「椎名林檎 (稀)実演キューシュー 座禅エクスタシー」の会場に使われたからです。2008年9月17日に発売されたDVD「座禅エクスタシー」でも見ることができます。ほとんど聖地とも言える場所なので、2005年の夏に一度訪れ、劇場内部を見学しました。今回が2回目となります。
嘉穂劇場の最寄り駅は、JR福北ゆたか線(筑豊本線)の飯塚駅。博多駅から快速で約40分です。飯塚駅から嘉穂劇場までは徒歩で20分ほど。道を歩いている人をほとんど見かけませんでしたが、駐車場に車がたくさん停まっていたので、車で来られた方が多かったようです。
建物の入口で靴を脱ぎます。靴は袋に入れて、座席に持ち込み。畳の床に敷き詰められた座布団の上に座ります。座席の列表示は「いろはに…」の順になっています。木造ですが、暖房施設が設置されているようで、思ったほど寒くありませんでした。客の入りは1階席はほぼ埋まりました。オーケストラは音出ししていました。
開演に先立って、嘉穂劇場の法被を着た男性がマイクを持って挨拶。「2003年の水害で嘉穂劇場は水に浸かって大きな被害を受けた。飯塚の人を元気づけるために第九は始まった」「日本漢字能力検定協会が発表した2008年の「今年の漢字」は「変」だった。レニッケさんも「九響は音楽に対して真摯になってきた。九響も変わってきている」と話している。2010年も変わることに対して恐れない勇気を持ちたい」と話しました。
合唱団が入場。舞台後方に3列で並びました。制服を着た女の子から高齢の男性まで年齢層はさまざまです。舞台のバックには、松が描かれた金屏風が置かれていました。オーケストラはヴァイオリンを両翼に配した対向配置。舞台の左右には反響板(紫色の高いついたて)が置かれていました。舞台は奥行きが広いです。
フォルカー・レニッケが登場。白髪でメガネをかけていました。無表情で礼をしました。レニッケは九州交響楽団の常任指揮者で、これまで「嘉穂劇場第九」を6年連続で指揮をしています。この演奏会のためにわざわざ海外から招聘するのは大変だと思っていたら、レニッケは福岡県に在住しているようです。
演奏はバランスの悪さが気になりました。舞台前方両サイドのヴァイオリンばかり聴こえて、管楽器が聴こえません。対向配置が効果的だったのかも疑問です。残響がほとんどないため、各楽器の音色も生音。そのためゴツゴツした音響になりました。嘉穂劇場はもともとオーケストラを演奏するために設計された建物構造ではないので、ある程度やむをえないでしょう。演奏解釈がどうのこうのというレベルの演奏とはなりませんでした。九州交響楽団の演奏は初めて聴きましたが、音程や音質などいっそうの精度が求められます。特殊な場所での演奏という点を考慮しても、京都市交響楽団よりも技術が劣りました。
レニッケは全体的に速めのテンポ。コンサートホールで聴くよりもあっさり終わってしまった感じがしました。胸の前で指揮します。第1楽章冒頭など音符を短めに聴かせました。第4楽章はチェロとコントラバスの有名なメロディーの前(91小節と92小節の間)は間を空けませんでした。
合唱団は舞台後方の60人ほどに加えて、2階席前方に40人ほどが立って歌いました。四方から合唱が聴こえる仕掛けでしたが、私の席からは後ろから聴こえる2階席前方の合唱団の声が大きすぎて、オーケストラが聴こえませんでした。合唱団は9月から毎週練習を重ねてきたようですが、募集にあたってオーディションはなかったので、まず参加することに意義があると言えます。個々人の声が聴こえて、パートとしてのまとまりを欠くのが残念。全員が楽譜を持って歌いました。
独唱者は第3楽章の前に入場。オーケストラと合唱団の間に座りました。アルトがほとんど聴こえませんでした。
客席からは楽章が終わるごとに拍手が送られました。普段座布団に座ることが少ないので、慣れない体勢で聴くのが予想以上につらく、足がしびれたりしてなかなか大変でした。また、客席からカメラのフラッシュが光ったり、カメラ付き携帯電話のシャッター音がしたり、新聞社のカメラのシャッター音がうるさかったり、落ち着いて演奏を聴く環境ではありませんでした。ちなみに、インターネットでニュース記事を検索したところ、4社(朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社、西日本新聞社)が取材に来ていたようです。
カーテンコールの後、アンコール。聖夜(きよしこの夜)を演奏。チャイムから始まる編曲で、1番は英語、2番は日本語、3番はハミングで歌いました。独唱者4人は花道に立って歌いましたが、2番からは客席に下りてきて、客席の間の通路を歩きながら歌いました。また、客席の天井から雪を模した紙吹雪が降ってきました。芝居小屋らしい演出でした。入口付近には「聖夜」の歌詞が書かれた紙が置かれていました(終演後に気がつきました)。
オーケストラを近くで見ることができて、お客さんは楽しんでいるようでした。嘉穂劇場で行なわれる数少ない公演のひとつとして、今後とも続けて欲しいと思います。
(2009.12.11記)