◆作品紹介
第1楽章冒頭の「運命の動機」があまりにも有名。全楽章で型を変えて現れ、全曲を統一する役割を果たしている。ベートーヴェンはこの動機について「運命はこのように扉を叩く」と弟子のシントラーに語ったとされる。ちなみに、「運命」の標題はベートーヴェンがつけたものではなく、日本以外ではあまり使われていない。
また、第4楽章にベートーヴェンの交響曲として初めて、ピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンを使用し、大きな効果をあげている。第3楽章と第4楽章は休みなしに続けて演奏される。
初演は1808年12月に作曲者自身の指揮で行なわれた。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
R.シュトラウス指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団 | 1928 | ナクソスヒストリカル 8.110926 | D |
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1954 | EMIクラシックス TOCE14034 | D |
E.クライバー指揮/ベルリン国立管弦楽団 | 1955 | アルヒペル(輸) ARPCD0321 | C |
フリッチャイ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1961 | グラモフォン UCCG3430 | C |
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1966 | 紀伊國屋書店 KKDS240【DVD】 | B |
小澤征爾指揮/シカゴ交響楽団 | 1968 | RCA/タワーレコード TWCL1001 | D |
S=イッセルシュテット指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1968 | ロンドン KICC9203 | C |
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1968 | ソニークラシカル SRCR2510 | B |
クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団 | 1969 | アウディーテ(輸) AU95493 | C |
C.クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1974 | グラモフォン POCG9526 | B |
スヴェトラーノフ指揮/ソヴィエト国立交響楽団 | 1981 | スクリベンドゥム(輸) SC022 | B |
テンシュテット指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1990 | BBCレジェンズ(輸) BBCL4158-2 | B |
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1992 | EMIクラシックス(輸) 7243 5 56521 2 6 | C |
ジンマン指揮/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団 | 1997 | アルテ・ノヴァ(輸) 74321 49695 2 | B |
スクロヴァチェフスキ指揮/NHK交響楽団 | 1999 | アルトゥス ALT032 | C |
アシュケナージ指揮/NHK交響楽団 | 2004 | エクストン OVCL00201 | D |
宇野功芳指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 | 2005 | エクストン OVCL00107 | D |
R.シュトラウス指揮/ベルリン国立歌劇場管弦楽団 【評価D】
音質が古く、針音のノイズも聴こえるが鑑賞に支障はない。全体的に速めのテンポ設定だが、インテンポではなく、作曲家だけに主観的な解釈が見られる。テンポに緩急をつけたり、間を開けたり、フェルマータ長めにとったりするため、テンポが落ち着かない。オーケストラも対応できていない部分がある。また、縦線が揃っていないなどオーケストラの演奏技術も聴き劣りする。ただし、指揮者としてのリヒャルト・シュトラウスが知れるため、資料的に価値ある音源である。
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
フルトヴェングラー最後の3回目の録音。全体的に遅めのテンポ設定で、いたずらに慌てることはないが、予定調和的でスリリングなおもしろさはない。スピード感に乏しく、響きもやや重たい。演奏精度も現代の緻密な演奏に慣れた耳には聴き劣りする。弦楽器はウィーンフィルらしく流麗な響きで温和な表情を作り出す。
第1楽章冒頭の「運命の動機」は、3つの八分音符にアクセントをはっきりつけて演奏する。21小節のフェルマータを長くとる。63小節からはテンポを緩めるが、緊張感も弛緩してしまう。96小節からヴァイオリンがスタッカートをテヌートで演奏する。第2楽章以降も遅めのテンポで、かったるい。第4楽章は冒頭の二分音符がよく響いて勢いよく始まる。
E.クライバー指揮/ベルリン国立管弦楽団 【評価C】
モノラル録音の表記だが、擬似ステレオのような広がりがある。咳が聴こえるのでライヴ録音と思われる。音像が遠く間接音が多いが、ノイズは少なく表情までよく聴きとれる。「HI-END RESTORATION TECHNOLOGY」の効果が絶大である。
演奏全体に優美な一面が垣間見れる。必要以上に縦線にまとめすぎたり、ストイックにスタッカート追求したりせず、流麗な横の流れを感じさせる。各楽器の多様な音色を楽しませる。息子のカルロスに似ている部分がある。力強さに欠け、生やさしいと感じる部分がある。たまにテンポに乗り遅れたり、ヴァイオリンの音程が悪かったり、技術的な部分が気にならないではない。
フリッチャイ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
フリッチャイ晩年の数少ないステレオ録音。丁寧な演奏だが、テンポが遅くスピード感がない。スタッカートでもテヌート気味に音符の長さをじゅうぶん保って演奏している。堂々とした演奏を意図しているようだが、あまりに遅さにうっとしく感じる。もう少しテンポを上げて欲しい。響きは洗練されていないが、楽器の音色をダイレクトにぶつけている。
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の「指揮の芸術」第3弾。白黒映像、モノラル録音である。
大編成もオーケストラで演奏される。ホルン8、トランペット・トロンボーン・各木管4、弦楽器もかなりの人数である。ピッチがかなり高く驚く。速めのテンポで強い音圧で、一気に聴かせる。突進力がすごい。
カラヤンは、譜面台なしで指揮している。常に目を閉じている。両腕を大きく振って、キビキビしたとした若さみなぎる指揮である。
第1楽章は、強奏での重量感のある響きがすばらしい。コントラバスがしっかり聴こえる。ティンパニは強く叩かれる。第2楽章は、トランペットが輝かしく鳴る。
前半に「指揮の技法」(21分)が収録されている。カラヤンは「指揮者にどれほどの仕事と集中が必要か分かってもらいたい」「音楽素材を用いて音楽解釈とは何なのかを教えることが重要」「オーケストラ奏者という職業の尊さを見せるのが主眼」「演奏は大変厳しい仕事。そこから美が生じるのを見せたい。それこそ音楽表現の前提」と語る。
続いて、第2楽章冒頭の指揮指導を行なう。「響きの質を整えることが音楽の基盤。一音だけまず長く弾かせる次第に練り上げる」「弓の返しを滑らかに」「できるだけ均等に」「美しく弾くことに十分注意して」と指示を与える。変奏の旋律に重ねて基本旋律(主題)も弾くなど、練習方法を多彩に持っている。緻密な指導にびっくりする。また、ピアノを弾きながら長調の和音をはっきり聴かせることや、第2楽章ですでに第4楽章が響いていることを解説する。「誤りは言葉で指摘せねば。指揮のテクニックではない」と話すのは意外だった。
小澤征爾指揮/シカゴ交響楽団 【評価D】
オーケストラの編成が薄いのか、管楽器とティンパニがさっぱり鳴らない。全体的な響きも薄っぺらい。ヴァイオリンの音程も悪い。これが当時のシカゴ響の演奏レベルなのかと驚く。単刀直入に言うと下手である。尻上がりに調子を上げるが、響きが硬く単調になりがち。表情の変化にも乏しい。全体的に音符を短く処理する傾向が見られる。
S=イッセルシュテット指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ウィーンフィルの美感を生かした演奏。弦楽器の流麗な響きが聴きもの。美しく明るい音色で柔らかくまとめている。攻撃的にならず、表情はおだやか。ただ、緊迫感に欠け物足りなく感じる。第4楽章は実にすっきりとした響き。数ある「運命」のCDの中でも、ユニークな演奏と言える。
ブーレーズ指揮/ニュー・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
ブーレーズ唯一のベートーヴェン交響曲録音。批判的な態度で指揮している。感情を排して、即物的に無機質に演奏する。縦線を重視し、低弦を効かせてゴリゴリした音型が人工的で、重苦しい異様な雰囲気を醸し出す。オーボエやトランペットなどがびっくりするような場所で飛び出て聴こえる。スコア通りに演奏しているのか確認したくなる。これほど刺激的で個性的な演奏は今後もそう現れないだろう。録音はマイク位置が近いようで、間接音が少ない。
第1楽章はやや遅めのテンポ。冒頭の八分音符×3はひとつひとつ区切るように演奏する。低弦の張りが重々しく、音圧がすごい。38小節から木管楽器のsfを強調する。182小節でトランペット強調。196小節からの木管楽器と弦楽器の二分音符の応酬は、音符2つをスラーでつなげず単発で聴かせる。396小節でスコアにはないリタルダンド。398小節からヴィオラとチェロが前に突き進む。ここまで中低弦がリードする演奏は珍しい。
第2楽章167小節からのフルートは、アーティキュレーションがいつもと違うのでスコアを確認すると、スタッカートがついてない八分音符だけ長めに演奏している。ブーレーズのスコアの読みに驚嘆する。
第3楽章235小節の後の複重線(ダブルバー)で冒頭から繰り返す。そのためこの楽章は10分近くかかる。255小節からピツィカートで演奏されるメロディーの伴奏(主にヴィオラ)が、三十二分音符の装飾音をしっかり聴かせる。
第4楽章86小節の反復記号はなぜかここだけ無視。121小節から木管楽器と金管楽器の八分音符の掛け合いが楽しい。389~390小節で、トランペットの八分音符を強調する。。
クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団 【評価C】
ライヴ録音。リズムに機敏に反応し、音符をおろそかにしない。一音入魂という言葉が似合う。弦楽器がよくまとまっていて厚みがある。演奏の密度は濃いが、「クーベリックのライヴ録音」として期待したほど全体的な燃焼度はあまり高くない。
C.クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
同じウィーンフィルでも上述のイッセルシュテット盤とは大違い。低音がよく効いている。第1楽章は速めのテンポで急いで演奏しておりスピード感満点。決して重苦しくならずスマートである。第3楽章は19小節からのホルンの強奏が力強い。141小節からのトリオはスリムに演奏。第4楽章は他の楽章にくらべて交通整理がいまひとつなのが残念。
スヴェトラーノフ指揮/ソヴィエト国立交響楽団 【評価B】
第1楽章から切れ味が鋭く豪快。低弦が充実していて迫力がある。密度が濃く集中度は恐ろしい。管楽器とティンパニをやや大きめに演奏させており、厚みがある。残響も豊富。第2楽章31小節のトランペットのffは輝かしいが音色がキンキンしている。185小節で木管楽器の対旋律を強調しているのが面白い。第3楽章は意外にゆっくり落ち着いたテンポで演奏。第4楽章もスマートにまとめている。全体的にスコアを逸脱した演奏解釈は見られない。
テンシュテット指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
ライヴ録音。全体的にホルンとティンパニを強調したスケールの大きな演奏である。スコアに記された強弱記号よりもワンランク大きめに演奏しているのも特徴。第1楽章は縦線のズレやヴァイオリンの音程の悪さなど、技術的にはいまひとつだが、ハイテンションでカバーしている。あまりの熱演に第1楽章後には会場から思わず拍手が漏れる。第4楽章もものすごい迫力で突き進む。ティンパニが轟音のように聴こえる。
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ライヴ録音。テンポ設定は標準的で、そんなに遅くない。音圧が低く強奏でも音符に力がなく散漫な印象を与える。弦楽器が透明感のある音色でなめらかに演奏しているが、主旋律以外の素材を効かせすぎてバランスが悪い。全体的に柔らかい響きにまとめようとしている。まれにチェリビダッケのうなり声が聴こえる。第1楽章125小節の反復記号を採用していないのが珍しい。第2楽章32小節からのティンパニの強打が勇ましい。第4楽章はゆっくりしたテンポで演奏している。
ジンマン指揮/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団 【評価B】
ジャケットに「ベーレンライター原典版による交響曲全集のモダン楽器による世界初録音」と印刷されているが、ジンマンがスコアにない即興的な装飾音などを加えるなど仕掛けが満載(第1楽章268小節のオーボエソロに装飾音追加、第1楽章400小節のトランペットにミュートを使用、第3楽章235小節に反復記号を追加)。詳細な考察は『レコード芸術』1999年5月号掲載の金子建志「ジンマンのベートーヴェンが投げかけた波紋について①-ベーレンライター版をめぐる顛末記-」を参照されたい。
古楽器奏法を取り入れ、速めのテンポで見通しがよい演奏である。音を短く処理し、アタックを強めに出している。全音符や二分音符を早く減衰させている。ここまでスリムに演奏できるのかと驚く。各楽器の交通整理が意識的に行なわれ、音量も厳密にコントロールされているが、スマートすぎて物足りない部分もある。
スクロヴァチェフスキ指揮/NHK交響楽団 【評価C】
NHKホールでのライヴ録音。ホールのせいか情報量が少なめで、細部の解像度が低いのが残念。演奏は全体的に淡々と進み、意外にも平凡な演奏。縦線がずれるなどやや荒削りなのが惜しい。たまにホルンが控えめながら爆発する。実演(第17回NTT西日本N響コンサート 2004.4.24)とは程遠い演奏内容。
アシュケナージ指揮/NHK交響楽団 【評価D】
アシュケナージ2回目の録音で、「NHK交響楽団ウラディーミル・アシュケナージ音楽監督就任記念演奏会」(2004.10.9~10 サントリーホール)のライヴ録音。
音色がくすんでいて、響きがけだるく、活気に欠ける。主旋律を中心に表面的になぞっただけで、各楽器の魅力を引き出せていない。中低音が弱く、金管楽器もふにゃふにゃしていて元気がない。ティンパニの響きも軽い。アシュケナージの指揮テクニックに起因するのか、縦線があまり揃っていない。音程もやや不安定。音符の処理が長めで、だらしなく聴こえる。
第3楽章225小節からの弦楽器のピツィカートはかなりの弱奏で短くしすぎで音色が聴こえないが、第4楽章への盛り上げには効果的である。
宇野功芳指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 【評価D】
音楽評論家の宇野功芳が初めて大阪フィルを指揮した演奏会「宇野功芳の“すごすぎる”世界」のライヴ録音。
テンポを突然遅くしたり、強奏したり、スコアに書かれていない個性的な解釈が聴かれるが、音楽的な裏付けがないと思われるため、小細工に思えてしまう。全体的にティンパニを強く叩かせるのが特徴である。この演奏会を客席で聴いていたが、CDで聴いたほうが、縦線や音程があまりそろっていないように感じる。オーケストラが宇野の意図をはかりかねているか、宇野の要求にこたえるのに精一杯なのか、宇野の指揮棒が分かりにくいのか。
第1楽章67小節のクラリネットで突然リタルダンド。175小節のpiu fを強奏。196小節からテンポを落として演奏する。第2楽章は遅いテンポで演奏。第3楽章のラストはリタルダンドしながら、第4楽章に突入する。第4楽章のラスト7小節からリタルダンド。最後の小節の3拍目から、ティンパニのトリルを強調しているのが注目される。
2005.8.5 記
2007.7.4 更新
2008.1.20 更新
2008.6.9 更新
2008.9.17 更新
2009.4.15 更新
2010.8.1 更新
2010.11.24 更新