|
|
2004年10月9日(土)17:00開演 サントリーホール大ホール ウラディーミル・アシュケナージ指揮/NHK交響楽団 ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第3番 座席:S席 2階C 2列23番 |
NHK交響楽団第1代音楽監督シャルル・デュトワが名誉音楽監督に移り、かわって第2代音楽監督にウラディーミル・アシュケナージが就任しました。今回の演奏会は、その就任記念演奏会です。ロシア音楽を得意とするアシュケナージが、就任記念演奏会にベートーヴェンを持ってきたのは意外です。
この日は台風が接近していて、東京都に暴風警報が発令されている中での演奏会となりました。雨風がかなり強かったせいか開演前に演奏されるパイプオルゴールも今日はなし。残念。チケットは完売でしたが、客の入りは8割程度でした。新幹線が止まってしまったので、おそらく遠方の方は来れなかったのだと思います。就任記念演奏会があいにくの天気で残念です。余談ですが、海老沢NHK会長が来場していました。
プログラム1曲目は、序曲「レオノーレ」第3番。アシュケナージが小走りで登場。拍手を受けるとすぐに指揮をはじめました。
演奏は、透明感がある音色でしたが、あまり響いてません。音が客席に響いてくるのではなく、ステージの上に吸い込まれているような印象を持ちました。特に管楽器は方向性が定まっておらず、音圧が低いのが難点。強奏では雑然とした演奏になって、バランスの悪さが気になりました。弱音重視の演奏でしたが、少し細部にこだわりすぎているように感じました。
プログラム2曲目は、交響曲第4番。ドイツ的でもロシア的でもない演奏で、強奏でも音色が混濁しませんが、音の密度が薄いのが気になりました。テンポが速い曲でもないのに、オーケストラに余裕が感じられませんでした。アインザッツの乱れが散見されましたが、アシュケナージの指揮が分かりにくいのかもしれません。アシュケナージの指揮は、常に主旋律を重視していて、それ以外の旋律がおろそかになっているように感じました。干されていると表現してもいいかもしれません。伴奏を担当している楽器には興味がないのでしょうか。結果として、強奏では、輪郭が不明確でモサモサとした響きになりました。ヴァイオリンは洗練された音色を聴かせていました。
この作品は同じN響の演奏で、尾高忠明の指揮で聴いています(京都公演)。このときの演奏もいまひとつだったので、N響は柔軟性が求められるドイツ音楽を苦手にしているのかもしれません。
休憩後のプログラム3曲目は、交響曲第5番。前半の2曲と一転して、充実したまとまりがある演奏となりました。この作品でもやはり弦楽器が主役で、この弦楽器の音色と力強いボウイングがN響の魅力だと改めて感じました。ただし、管楽器はなくてもいいと思っているのではないかというほどの扱いで、トランペットなどはまったく鳴りません。第3楽章になってようやくノッてきました。
この作品も4月にスクロヴァチェフスキ指揮/N響の演奏で聴きました(第17回NTT西日本N響コンサート)。アシュケナージと違いは、スクロヴァチェフスキは管楽器にちゃんと役割を与えていたことです。同じオーケストラでも音の密度に大きな差がありました。
演奏終了後に客席にいた女性が指揮台の下に歩いていき、アシュケナージに紙袋を渡しました。中には花束が入っていたようで、アシュケナージはうれしそうに引き上げていきました。
ウラディーミル・アシュケナージの指揮はあまり上手でないと聞いていましたが、主旋律を演奏している楽器のほうばかりを向いて指揮するのは好ましいとは思えません。ピアニスト出身の指揮者という点を差し引いても、伴奏を担当しているパートに対する指示があまりないのではないかと感じました。それが原因で、掘り下げが浅い表面的な演奏になってしまったように感じます。N響団員にとってもアシュケナージが作りたい音楽がまだ手探り状態でよく見えていない印象を受けました。アシュケナージらしさとは何なのか、今回の演奏会では残念ながらよく分かりませんでした。その点では、同じベートーヴェンを演奏した東響音楽監督スダーンの東京交響楽団川崎プレ定期演奏会第1回「音楽監督就任記念 ユベール・スダーンへの期待」 とは好対照の演奏でした。アシュケナージのベートーヴェンは、作品の魅力を再発見させられる演奏ではありませんでした。アシュケナージはステージの出入りが早く、あまり拍手を受けずにすぐに指揮を始めます。演奏終了後は、必ず指揮台から降りて拍手を受けます。シャイというか謙虚さを持っている指揮者だと感じました。
アシュケナージは年間7週の指揮をする契約になっているようです。アシュケナージはN響に何をプラスしてくれるでしょうか。今回の演奏会を聴いた限りでは、あまり期待感は持てませんでした。
『レコード芸術』2004年10月号の特集記事によれば、オクタヴィア・レコードがこの演奏会をライヴ収録したようです。
(2004.10.25記)