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2004年4月24日(土)17:00開演 京都コンサートホール大ホール スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮/NHK交響楽団 ベートーヴェン/「エグモント」序曲 座席:B席 2階 P1列20番 |
「ミスターS」ことスクロヴァチェフスキが京都にやってきてくれるとは夢にも思いませんでした。ザールブリュッケン放送交響楽団と録音したブルックナー交響曲第9番のCDを聴いて以来、いつかは生で聴いてみたいと願っていましたが、ついにその夢が叶いました。というわけで、この日はN響を聴くよりも、スクロヴァチェフスキを見ることが最大の目的でした。そのため、初めて座席をポディウム席にしました。
言うまでもなく、ポディウム席はオーケストラを後ろから聴くことになるので、ホールに響いた間接音を聴くことになります。「そんな演奏じゃなかったぞ」というご意見もあるかと思いますが、ここではN響を後ろから聴いた感想を記します。
この日の演奏会は、オール・ベートーヴェン・プログラム。客席は9割程度の入りでした。プログラム1曲目は、「エグモント」序曲。スクロヴァチェフスキが登場。確かな足取りで、見るからに元気。とても80歳を超えているとは思えません。スクロヴァチェフスキの指揮は、立ち位置を変えずに腕や手を大きく動かすのが特徴。時には口を開けたり、息を吸ったりして表情付けをしていました。ポディウム席に座っていると、自分まで演奏に参加しているような緊張感があります。演奏は、それほど凝ったことをするわけではありませんでしたが、強奏でティンパニやホルンを強めに出すなどスクロヴァチェフスキらしさが聴けました。N響も弦楽器が熱演。
プログラム2曲目は、ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はパトリシア・コパチンスカヤ。1977年生まれの女性です。この作品のみ指揮者とヴァイオリン独奏にそれぞれ譜面台が用意されました。
コパチンスカヤは強弱の対比をかなり大げさに演奏しました。強奏では体を大きく動かし、しゃかりきになって演奏していましたが、ベートーヴェンの演奏スタイルとしてそこまでやる必要があるのか疑問も残ります。また、音色がやや硬く、キンキンした音色が気になりました。旋律のつなげ方も機械的でもう少し柔らかい表情が欲しいです。技術的にも音程が甘かったり音を外したりで、この作品を弾くにはまだまだ力量不足を感じました。スクロヴァチェフスキはソロとはお構いなしに、自分の音楽を忠実に進めていました。N響からいかにもドイツという響きを引き出してくるのはさすがです。スタッカートひとつとっても重みと深みがあり、コントラバスが全体をしっかりと支えていました。ヴァイオリンの澄んだ音色にも魅了されました。オーケストラの伴奏には不満はありませんでした。
第1楽章のカデンツァがいままで聴いたことがないもので、ソロヴァイオリンとティンパニがアップテンポで対峙する緊張感がありました。スクロヴァチェフスキが作曲したのかと思いましたが、演奏会後の掲示では、ベートーヴェンがこの作品をピアノ協奏曲に書き直した際に作ったカデンツァをヴォルフガング・シュナイダーハン(1915-2002)が編曲したものでした。非常に新鮮で音楽的にもそこそこ評価できるカデンツァでした。
演奏終了後は、拍手に応えてコパチンスカヤがアンコール。コンサートマスターに小声で話しかけ、堀正文氏から「彼女のために作曲された作品です」と紹介がありました。Otto Zykan作曲/Das mit der Stimmeを演奏。現代的な作品で、声を出したり足を激しく踏みならしたり、曲の最後はくるっと1周回るなどパフォーマンスが楽しめました。コパチンスカヤにはこういう鋭角的な作品が似合っていると思いました。
休憩後のプログラム3曲目は、交響曲第5番。まさに圧巻の演奏となりました。N響がここまで完成度の高い演奏を聴かせるとは驚きです。第1楽章から速いテンポでスピード感のある演奏。強奏は開放的に鳴り、力強く堂々とした風格が生まれました。第2楽章の木管楽器のソロや、第3楽章の弦楽器のピツィカートも美しく聴けました。第4楽章はまさに熱演で、ぜいたくな響きを堪能できました。ティンパニは最後の一発をアクセントをつけて、演奏を引き締めていました。
演奏終了後は盛大な拍手が送られました。アンコールはありませんでした。
スクロヴァチェフスキは、ベートーヴェンの音楽を大切にしながら、現代風に鮮やかに再現しました。指揮を見れば分かるように、乱雑な扱いや素振りは見せませんでしたし、特別に風変わりなこともしていません。音符ひとつひとつに中身がぎっしりと詰まった響きを聴かせました。N響をここまで本気にさせる実力は相当のものです。写真で見た感じでは、恐くて気難しそうなイメージがありましたが、そんな感じはまったくなくとても親しみやすい性格のようです。
NHK交響楽団は、昨年8月の京都公演が期待外れの出来だったので、今回もあまり期待していなかったのですが、見事に裏切られました。弦楽器を中心に理想的なベートーヴェンの演奏を聴かせました。今年9月から第2代音楽監督としてウラディーミル・アシュケナ−ジが就任します。今後の演奏にも目が離せません。
初めてポディウム席で演奏を聴いた感想ですが、オーケストラの真後ろなので手に汗握る緊張感を味わえました。指揮者の棒さばきを見るには絶好のポジションでしょう。ただ、響きとしては悪くないのですが、全体的な演奏のバランスが分からないのと音の輪郭が不明確なので、演奏を聴きたいのであれば不向きな席だと思いました。この演奏会をとっても、スクロヴァチェフスキがどういう音楽を作ったのか全体像を把握できなかったのが残念でした。指揮者はやはり指揮で見せるよりも音楽を聴かせることが評価対象であると感じました。また、演奏終了後にアンコール曲を用意しているのか、オーケストラ団員の指揮台をみれば分かってしまうので、少し興ざめしました。今後は特別の理由がない限り、ポディウム席や舞台周辺の席には座らないようにしたいと思いました。京都コンサートホールのポディウム席は、椅子の座り心地がよくないので、腰が痛くなりました。
それにしても、京都コンサートホールはどの席で聴けばいい響きが得られるのでしょうか。いろいろ試していますが、まだ自分にとってのベストポジションが見つかりません。
(2004.5.1記)