バルトーク/管弦楽のための協奏曲


◆作品紹介
ハンガリーの作曲家バルトークの代表作。
ナチスから逃れるため、1940年にアメリカへ亡命したバルトークだったが、アメリカでは彼の音楽は理解されず、また白血病にも冒されるなど苦しい生活が続いていた。そのようなバルトークの窮状を見かねたボストン交響楽団音楽監督のクーセヴィツキーが委嘱。2ヶ月足らずで完成された。
「管弦楽のための協奏曲」という作品名から分かるように、オーケストラのひとつひとつの楽器を独奏的に扱っており、オーケストラの各楽器の名人芸を聴くことができる。
作品は5楽章で構成されている。第1楽章「序奏」、第2楽章「対の遊び」、第3楽章「悲歌」、第4楽章「中断された間奏曲」、第5楽章「終曲」。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
クーセヴィツキー指揮/ボストン交響楽団 1944 ナクソスヒストリカル 8.110105
ライナー指揮/シカゴ交響楽団 1953 RCA BVCC9375
ラインスドルフ指揮/ボストン交響楽団 1962 RCA/タワーレコード TWCL4019
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965 グラモフォン POCG7092
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1974 EMIクラシックス TOCE13152
ショルティ指揮/シカゴ交響楽団 1981 ロンドン POCL5075
ドラティ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1983 フィリップス PHCP10585
A.フィッシャー指揮/ハンガリー国立交響楽団 1989 ブリリアントクラシックス(輸) BRL6488
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1995 EMIクラシックス(輸) 7243 5 56528 2 9
ショルティ指揮/バイエルン放送交響楽団 (P)1997 ファーストクラシックス(輸) FC126
ムント指揮/京都市交響楽団 2000 アルテ・ノヴァ(輸) 74321 77064 2


クーセヴィツキー指揮/ボストン交響楽団 【評価B】
初演指揮者とオーケストラによる演奏。第一稿で演奏しており貴重である。全体的に速めのテンポで、暴れ馬のような勢いを感じさせる熱のこもった演奏である。アンサンブルの精度は低く危なっかしい部分があるが、逆にスリルがあり協奏曲的なおもしろさが感じられる。テンポの揺らし方も個性的。
ライヴ録音だが聴衆ノイズや針音がかなり大きめに聞こえるのが耳障りである。また音像がはっきりせずぼやけて聞こえるのが惜しい。


ライナー指揮/シカゴ交響楽団 【評価A】
細部が立体的に聞こえてくる演奏。オブリガードや内声を強調しており、楽器間の掛け合いが楽しめる。華やかで潤いのある音色も魅力的。スラーなどのアーティキュレーションも意識的に弾き分けている。ただし、ティンパニが弱く役割を果たしていない。また、録音のせいか強奏で低音がさびしいのが玉に瑕。第5楽章も熱狂的な興奮に乏しい。もっと鳴って欲しい。
ステレオ初期の録音ながら、デジタル録音と遜色ない極めて鮮明な録音である。すばらしい!


ラインスドルフ指揮/ボストン交響楽団 【評価B】
各楽器が競い合うように演奏する躍動感が魅力である。それでいて互いを殺しあうことがないように工夫されている。特に木管楽器が弦楽器と対等に活躍する。コントラバスを聴かせて濃厚な表情を作り出す。また、細かな動きを浮かび上がらせて、普段あまり聴こえない伴奏楽器にも光を当てる。ppでも音色をはっきり響かせる。ハープが効果的。
第2楽章は木管楽器がリズミカルに演奏、よく揃っている。第4楽章51小節から、コールアングレ(第1ヴァイオリンの対旋律)を聴かせる。
録音も鮮明。


カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
カラヤン2回目の録音。pとfの静と動の対比が明確である。弱奏での精巧さは見事。旋律の歌い込み方もいかにもカラヤンである。ただ、カラヤンらしい重厚さはあまり感じられない。金管楽器の音圧が低くモサモサとして冴えずシャープさに欠ける。第5楽章でもffに力強さがなく物足りない。第2楽章などはレガート奏法が逆効果になっている。


カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
カラヤン3回目で最後の録音。管弦楽作品として聴かせており、協奏曲的な性格は感じない。オーケストラ全体が一体感を持って演奏している。伴奏もしっかりと鳴らしていて、特に弦楽器はpでもはっきり聴こえる。カラヤンはオーケストラをあまりコントロールすることなく、各楽器を開放的に鳴らしている。ソロでも自由に演奏させており、あまり堅苦しさを感じない。楽器別では、弦楽器はカラヤン特有のレガート奏法で、流麗に響かせる。第3楽章45小節からの弦楽器がテヌートたっぷりで濃厚。それに対して、金管楽器は発音があいまいで歯切れが悪い。もう少しなめらかに丁寧に聴かせて欲しい。ハープをやや強調しているのも特徴。録音は残響を多めに収録していて鮮明。


ショルティ指揮/シカゴ交響楽団 【評価B】
速めのテンポでさらりと流している。アンサンブルは申し分なく軽く涼しい洗練されたサウンドを聴かせるが、もう少し濃厚さが欲しい。この作品にはもっと奥深いものがあると思うのだが、いささか表面的である。完成された管弦楽曲として聴かせており、競争的なおもしろさに乏しい。


ドラティ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 【評価C】
即興的な解釈が多く、作品のありのままを聴かせており整理がついていない部分が多い。それを魅力と感じるかどうかが評価の分かれ目である。技術的にはアマチュア的な雰囲気を感じさせる。音色も土臭く洗練されていない。強奏でもあまり鳴っておらず、おとなしく迫力不足である。全体的に響きが薄く心細い。


A.フィッシャー指揮/ハンガリー国立交響楽団 【評価D】
第1楽章冒頭からゆっくりとしたテンポで静かに慎重に始まるが、禁欲的と思えるほど音量を意識的に抑えている。強奏よりも弱奏を重視しており、熱狂的にならず、興奮しない。非常に質素な演奏で、緊張感や切迫感がなく、表面的でつまらない作品に聴こえる。バルトークがスコアに込めたオーケストレーションを再現できていない。オーケストラも編成が小さいのか音圧が軽く、技術的な問題が散見される。金管楽器は楽器に息が入っていない。しかし、第4楽章120小節から弦楽器の超弱音での演奏(スコア指定はp)は新機軸であり、演奏設計は注目に値する。違うオーケストラで聴いてみたい。


チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
ライヴ録音だが完成度の高い演奏である。一音一音を確認するかのような遅いテンポでよくコントロールされている、その結果、緻密で濃厚な演奏に仕上がっており空間的な奥行きを感じさせる。オーケストラ全体に一体感があり、表情豊かにはっきりとした表現をしている。しかし、第3楽章などはさすがに遅すぎで、バルトークらしさが失われている。
カップリングされているリハーサルが実におもしろい。時には「すばらしい」と叫び、時にはバルトークの人生を語るなど緻密なリハーサルが展開されている。


ショルティ指揮/バイエルン放送交響楽団 【評価C】
(P)1997(=1997年が最初の発行年)の記載はあるが、録音年の表記はない。ライヴ録音と思われる。ロンドンレーベルのスタジオ録音(1981年1月)と比較して、ショルティの演奏姿勢に大きな違いはない。スタジオ録音とくらべると、やや遅めのテンポで演奏している。ショルティはバイエルン放送交響楽団を完全にコントロールしてしまわないで、オーケストラにある程度自由に演奏させている。シカゴ交響楽団との録音で聴かれた機械性や機能性は薄れて、演奏に流れや柔軟性が生まれている。強奏で音圧が低い部分があり、ライヴ録音を思わせる興奮は低い。第5楽章で縦線が乱れるのが残念。


ムント指揮/京都市交響楽団 【評価D】
京都市交響楽団第10代常任指揮者を務めたムント指揮による演奏。本拠地の京都コンサートホールでのセッション録音である。
柔らかい響きでまとめているが、刺激が少なすぎる。テンションが低く、金管楽器は楽器に息が入っていない。アクセントも軽くて弱い。演奏解釈にも独自性があまり見られない。アンサンブルは縦線や音程の乱れがある。運弓や運指がスムーズでないなど奏者個人に技術的な問題を感じる。



2003.11.16 記
2005.3.24 更新
2005.11.2 更新
2006.9.18 更新
2007.7.7 更新
2008.4.28 更新


J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲 ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」