京都市交響楽団第703回定期演奏会


  2025年8月30日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

ヤン・ヴィレム・デ・フリーント指揮/京都市交響楽団
HIMARI(ヴァイオリン)
石橋栄実(ソプラノ)、中島郁子(メゾ・ソプラノ)、山本康寛(テノール)、平野和(バス・バリトン)
京響コーラス

ドヴォルザーク/ロマンス
ヴィエニャフスキ/ファウスト幻想曲
モーツァルト/レクイエム(ジュスマイヤー版)

座席:S席 3階C3列15番


京都市交響楽団第689回定期演奏会「首席客演指揮者就任披露演奏会」でおもしろいモーツァルトを聴かせたヤン・ヴィレム・デ・フリーントが、モーツァルト「レクイエム」を指揮しました。デ・フリーントは、京都市交響楽団の首席客演指揮者に就任してから2年目です。現在は、ウィーン室内管弦楽団首席指揮者、ノルウェーのベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団アーティスティック・パートナーを務めています。

私は後半の「モツレク」が目当てでしたが、世間的には前半に出演するHIMARIに大きな注目が集まりました。京都市交響楽団のX(@kyotosymphony)によると、6月20日(金)の発売初日に、即日どころか約1時間で両日ともチケット完売!。京響の歴史の残る大記録を達成しました。事前に多数の問い合わせがあり、早期に完売が予想されるということで、枚数制限(1回の購入で4枚まで)を設けたり、不正転売で購入したチケットは無効のため入場できない旨を注意喚起したり、セレクト・セット会員の対象席種を拡大したりの対応が取られました。HIMARIが演奏する2曲はそれほど有名ではないのに、びっくりです。

京響友の会「チケット会員」の「セレクト・セット会員(Sセット)」は、前回の第702回定期演奏会で早くも4枚のクーポンを使い切ってしまい、追加の購入も売り切れでできなかったため、3日前の先行発売では買えなくなってしまいました。なんとかチケットを購入して、2日公演の2日目に行きました。本公演のリハーサルは、26日(火)から始まりました。3日間とも京都コンサートホールでの練習でした。

開場前に、前田珈琲京都コンサートホール店でランチ。8月限定のコラボスイーツの「ショコラ・シンフォニー」(税込980円)を注文しました。音符型のクッキーが乗っています。京響定期の日は満席になりやすいので、早めに来た方がいいですね。

ホワイエにロート製薬代表取締役会長の山田邦雄からHIMARIへの花が届いていました。HIMARIがロートのCMに出演しているわけではないようで、どういう関係があるのかは分かりませんでした。本公演をNHKが収録するとの掲示がありました。放送予定は未定とのことですが、おそらく前半のみの収録だったようです。

14:00からプレトーク。デ・フリーントは通訳つきで英語で話します。デ・フリーントは「本日のプログラムは2つの奇跡。ひとつはHIMARI。もうひとつはモーツァルトのレクイエム」と話しました。各曲の解説は後述します。最後に「驚きと幸運のニュース」ということで、「来年3月に首席客演指揮者の2年間の任期が切れるが、また2年間延長することになった」と契約延長を報告しました。プログラムにも記載があり、ロビーにも掲示されました。

プログラム1曲目は、ドヴォルザーク作曲/ロマンス。ヴァイオリン独奏はHIMARI。2011年生まれの14歳で、本名は吉村妃鞠(ひまり)。お父様は作曲家の吉村龍太。お母様がヴァイオリニストの吉田恭子で、本公演の前週には「第14回YEK 横山奏指揮YEKストリング・オーケストラ」(2025.8.22 軽井沢大賀ホール)で、J.S.バッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1043」のソリストを母子で共演しました。HIMARIは今年3月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に、アジア人最年少ソリストとしてデビュー。ヴィエニャフスキ「ヴァイオリン協奏曲第1番」を演奏して、一気に知名度が上がりました。指揮はズービン・メータの予定でしたが、体調不良で降板したため、セバスティアン・ヴァイグレ(読売日本交響楽団常任指揮者)が代役を務めました。また、史上最年少でDECCAと専属契約を結びました。

プレトークでデ・フリーントは「HIMARIは美しいヴァイオリンで、リハーサルからテクニックだけでなく感動的な演奏だった。ドヴォルザークはシンプルなメロディー」と話しました。オーケストラは中編成。弦楽器は左から、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンの対向配置で、チェロの後ろにコントラバス。コンサートマスターは泉原隆志(コンサートマスター)。ヴィオラの客演首席奏者は、バンベルク交響楽団の大野若菜。チェロの客演首席奏者は、ジャパン・ナショナル・オーケストラのコアメンバーの水野優也。大野と水野は「曲がった家を作る人−故郷に響く西村朗の音楽 ≪弦楽四重奏≫」(2025.7.6 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール)に出演しました。

HIMARIが薄紫のドレスで登場。チューニングしないで演奏スタート。譜面台はなく暗譜で演奏しました。デ・フリーントも指揮台はなく、譜面台のみを設置。指揮棒なしで指揮しました。メガネをかけています。HIMARIのヴァイオリンの音色は本格的で、確かに少女が弾いているとは思えません。目をつむって聴くと、中年男性が弾いているようなコクのある響きで、しっとりした暗めの音色でした。京都市交響楽団の前奏の弦楽器の透明感はさすが。室内楽的で、ソロを引き立てる伴奏がすばらしい。

プログラム2曲目は、 ヴィエニャフスキ作曲/ファウスト幻想曲。プレトークでデ・フリーントは、「ドヴォルザークとは違って、悪魔が演奏しているよう。パガニーニに触発して作曲された。グルックのオペラの有名なオーボエソロをパガニーニは真似して弾いたが、ヴィエニャフスキもグノー「ファウスト」を真似したのでは?」と話しました。オーケストラにトランペット×2、トロンボーン×2、ティンパニが加わりました。トロンボーンの首席客演奏者は、広島交響楽団首席奏者の清澄貴之。
残念ながら悪魔が弾いているようには思えませんでした。弱奏で進みますが、HIMARIの独奏はもう少し音圧が大きくてもいい。跳躍は丁寧に演奏しましたが、ちょっと物足りなく感じました。あえてこういう曲を選んだのでしょうか。オーケストラは繊細な表情づけでした。中盤は金管楽器が入って盛り上がりますが、後半はまた静かです。

拍手に応えてHIMARIがアンコール。イザイ作曲/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番よりを演奏。重音が多くて速い曲。協奏曲よりも、自分でテンポが作れる無伴奏の曲のほうが合っているかもしれません。

HIMARIの演奏は、美しい音色で、端正な演奏で、正確さや丁寧さは賞賛できますが、音量が小さめ。少しテンポに忠実すぎるのか、伸びやかさはもう少し期待したいです。私の中の期待値が上がりすぎだったでしょうか。お客さんのマナーはよかったです。 

休憩後のプログラム3曲目は、モーツァルト作曲/レクイエム(ジュスマイヤー版)。プレトークでデ・フリーントは「モーツァルトのレクイエムには誰のために作曲したかなどいろいろな逸話がある。モーツァルトは12月5日に亡くなったが、11月30日に書かれた手紙がある。この作品は未完だったが、死の2日後の葬式でこの曲の一部が演奏されている。死後に妻がエイブラーに依頼したが、ヴァルゼック伯爵が自分の曲として演奏した。ジェスマイヤーは完成させていなかったので未知の部分が多い。ザルツブルクで演奏されていたハイドンの曲と似ていると言われる。この曲は世界で最も美しいメロディーのひとつ。亡くなった人を悲しむ気持ちと死後は神の隣にいける幸福の気持ちがが含まれている」と説明しました。ジュスマイヤー版を選んだ理由の説明はありませんでした。

合唱の京響コーラスが入場、プログラムによると、ソプラノ25名、アルト22名、テノール16名、バス16名。ステージ後方に4列で並びましたが、いつもと違って、パートごとの配置ではなく、男声が後ろ2列、女声が前2列です。楽譜を持って歌いました。オーケストラは人数が減りました。それでも京都市交響楽団第10回名古屋公演よりは少し多い。弦楽器は、第1ヴァイオリン×10、第2ヴァイオリン×10、ヴィオラ×8、チェロ×6、コントラバス×3。管楽器はクラリネット(バセットホルン、アルトクラリネットに似ています)×2、ファゴット×2。その後ろがトロンボーン×3、トランペット×2とティンパニです。オルガンはリモコンではなく下手袖に設置されました。オーボエがいないので、バセットホルンでチューニング。
独唱者は舞台袖の両サイドのイスに座って待機(女声が下手側、男声が上手側)。歌う出番が来ると、指揮台の後ろまで歩いてきて歌いました。なお、テノールが清水徹太郎の予定でしたが、山本康寛に変更になりました。合唱も独唱も黒い衣装でした。
全体的に音符が短く、テンポが速い。オーケストラはビブラートが少ない。合唱は歌詞の発声も表現もぼんやりしていて期待外れで、オーケストラの表現と乖離がありました。もっとハキハキとシャープに歌ってほしい。上述の配置のせいでしょうか。合唱団の人数がオーケストラよりも多かったですが、もっと少ないほうがよかったかもしれません。京都市交響楽団第10回名古屋公演のスウェーデン放送合唱団の少数精鋭の合唱の呪縛からまだ解放されていないのかもしれません。年末の第九は毎年健闘していますが、もう少し頑張ってほしい。独唱はさすがにステージ前方で歌うとよく響いて、オーケストラの後ろ(合唱団の前)で歌うのとはずいぶん違いました。テノールの山本の声色が曲調に比べると明るい。

「イントロイトゥス」は、さっそくソプラノが指揮台の後ろに来て楽譜を持って歌いました。バロックティンパニが生々しい。「キリエ」は50小節のフェルマータを長めに取って、その後はむしろデクレッシェンド気味に終わりました。「怒りの日」は、ティンパニが強めのアクセント。「驚くべきラッパが」は、トロンボーンが立って演奏。客演首席奏者ではなく、戸澤淳が演奏しました(懐が広い)。独唱者4人が指揮台の後ろに集まりました。ソプラノの石橋栄実がよく通る声で声量もありました。「恐るべき王よ」はテンポが速い。18小節のsalva meからはテンポを落としました。「思い起こして下さい」は2倍速くらい速いテンポ。続く「黙らせるとき」と「ラクリモーサ」も速いテンポ。「主イエスよ」は、デ・フリーントが腕を高く振り上げて躍動的な表情を作り出しました。「賛美のいけにえを」は速いテンポでしたが、「サンクトゥス」は普通のテンポ。「コムーニオ」の最後はデクレッシェンドで締めくくり、長い沈黙のあとに拍手。フライング拍手がなくてすばらしい。カーテンコールでは、合唱指揮の浅井隆仁も登場しました。

終演後のお見送りに松井市長も参加されていました。

 

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(2025.9.19記)


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