神尾真由子&篠原悠那 ダブル・リサイタル「ベートーヴェンの2大ソナタ~春とクロイツェル~」


  2025年8月23日(土)14:00開演
宗次ホール

篠原悠那(ヴァイオリン)、𠮷武優(ピアノ)
 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第4番
 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」

神尾真由子(ヴァイオリン)、ミロスラフ・クルティシェフ(ピアノ)
 ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」

座席:指定席 1階E列8番


 
宗次(むねつぐ)ホールに初めて行きました。カレーハウスCoCo壱番屋創業者で、宗次ホール代表を務める宗次德ニ(むねつぐとくじ)が、約28億円の私財を投じて建設され、2007年3月に開館しました。開館当初は赤字だったようですが、2014年から貸館をやめて、すべての公演が主催公演に。2016年には約400公演が開催されて、日本一の公演数でした。2017年に改修工事が行なわれて、2025年で開館18周年を迎えました。なお、宗次德ニは2022年に53歳でCoCo壱番屋の経営からは退いて、現在は同社の特別顧問を務めています。今年で76歳です。
 
本公演は、もともと「ザハール・ブロン with 中野りな&神鷹七海 オープニングコンサート」が開催され、翌日の24日から31日まで「第4回 ザハール・ブロン ヴァイオリン・マスタークラス」が開催予定でした。このザハール・ブロンのマスタークラスは2022年から毎年開催されてきましたが、今年はザハール・ブロン(77歳)の健康上の都合で中止になりました。その後、本公演が特別に企画され、「ザハール・ブロンの系譜を受け継ぐ講師陣によるプレミアム公開レッスン「オープニング・コンサート」」として開催されることが緊急決定しました。本公演はダブル・リサイタルの名前の通り、篠原悠那(ゆうな)と神尾真由子が出演しました。神尾はザハール・ブロンに師事。篠原はザハール・ブロンのマスタークラスを受講しました。また、神尾も篠原も「宗次コレクション」から貸与された楽器を使用しています。なお、ザハール・ブロンの門下生には、ワディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフ、樫本大進、庄司紗矢香、川久保賜紀、木嶋真優などがいて、まさに錚々たるメンバーです。
 
本公演のチケットは7月13日から発売されました。宗次ホールチケットセンターに電話して予約。20分ほどかけつづけて、やっとつながりました。コンビニエンスストアで支払い(郵送手数料110円を負担)。その後、チケットが郵送されました。
 
宗次ホールの最寄り駅は、名古屋市営地下鉄東山線の栄駅。広小路通りを東へ歩くと、「宗次ホールのご案内」という掲示板が設置されていて、公演チラシが貼られていました。徒歩4分で着きます。意外にも繁華街の中にあって、幻の手羽先「世界の山ちゃん」本店がすぐ近くにあります。「くらしの中にクラシック」を掲げていますが、いい立地と言えるでしょう。愛知県芸術劇場にも近い場所です。
 
232席の小さなホールです。1階は事務所(チケットセンター)。東栄通沿いの壁面に「館内上映モニター」があって、入場料を払わなくてもホールの様子が見られるのが斬新です。壁面に「日本一のホールでありますことをあえて宣言いたします」という紙が貼られていて、開館してからの17年間で、5,587回のコンサートが開催できたことが記されています。チケットをもぎってもらって、階段で2階に上がり、机に置かれたプログラムは自分で取ります。2階が1階席で、ホワイエには音楽雑貨店やドリンクコーナーもあります。3階が2階席ですが、トイレは3階にしかないのが少々不便でしょうか。
ステージは狭くて低い。左右の舞台袖がステージにせり出していて、ステージドアが曲線状なのがユニークです。天井は高く、壁が白く、床は黒いので、教会のようです。私の席は前から5列目で、ステージとの距離が近い。当日券が発売されましたが、客席はほぼ満席でした。

前半は篠原悠那が出演。篠原は32歳で、2024年から日本センチュリー交響楽団の客員コンサートマスターに就任しました。なお、篠原は本公演の前日には、「篠原悠那&坪井大典&徳永雄紀 ピアノ・トリオ ~15年ぶり再結成~」(ハーモニーホールふくい小ホール)に出演しました。毎日が本番でご多忙です。ピアノの𠮷武優(まさる)の出演は、チケット発売後に発表されました。篠原が白いドレスで登場。譜面台を立てて演奏しました。ピアノ独奏の横には譜めくりの女性が座りました。 

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/ヴァイオリン・ソナタ第4番。初めて聴きました。篠原が鼻で息を吸う音が大きい。第2楽章はエキサイティング。ピアノは優しく溶け込みます。第3楽章はヴァイオリンがパワフル。メロディーをたっぷり歌っていい演奏です、もっと弾かれてもいい曲でしょう。
 
プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」。作品の雰囲気からすると、篠原の音色がやや金属質に思えました。弓のスピードが速く、かなり力が入っています。第1楽章163小節からのピアノが柔らかい響き。232小節のffで何人かのお客さんがピクっと起きました。第2楽章はそれ以外の楽章に比べると圧倒的にマイナーですね。第3楽章から続けて第4楽章へ。こうやって聴くと、神尾真由子と奏法が似ています。やはり同じザハール・ブロンに学んだからでしょうか。𠮷武のピアノはもう少し粒立ちがはっきりしてもよいと感じました。
 
拍手に応えて、アンコール。クライスラー作曲/愛の喜びを演奏。速いテンポですが、ショパンのような優雅さがあります。肩の力が抜けて、テンポの緩急がある演奏でした。
 
休憩後の後半は、神尾真由子(ヴァイオリン)とミロスラフ・クルティシェフ(ピアノ)の夫婦共演(2013年にご結婚)。神尾は39歳で、神尾の演奏を聴くのは関西フィルハーモニー管弦楽団第354回定期演奏会「グロリオーザ…ローマの栄光&神尾真由子の十八番」以来4ヶ月ぶりです。黒のタイトなドレスで登場。一瞬ズボンかと思いました。イヤリングを付けていました。譜面台を立てて演奏。ミロスラフ・クルティシェフはロシア出身で40歳。神尾が優勝した2007年の第13回チャイコフスキー国際コンクールで第2位(第1位の最高位)に入賞しました。身体が大きく、写真よりもずいぶん恰幅がよくなりました(太りすぎ?)。譜めくりの女性は前半と同じです。

プログラム3曲目は、ベートーヴェン作曲/ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」。第1楽章冒頭からヴァイオリンを客席に向けて演奏する独特の奏法。26小節の重音から早くも強力。神尾の音圧は篠原の2倍ですごい。音量も大ホールで演奏しているような大きさです。超ハイテンションで、緊迫感が半端ない。協奏的な面白さを堪能できました。のけぞったり、たまに足を踏み鳴らしたり、まさに神尾ワールドです。ぜひレコーディングしてほしいですね。149小節からのピツィカートも力強い。第2楽章は線が細いところまで表現ができて、ダイナミクスが幅広い。ここでもピツィカートははっきり演奏しました。つづけて第3楽章は大暴れと言ってもいい演奏。まるでロックのノリですが、テンポが速いのに余裕が感じられます。ただし、重音はすべての音がもう少し均等に聴こえるとよいでしょう。192小節のsfはテヌート気味にねっとりと演奏。クルティシェフは、前半の𠮷武と同じピアノですが、より豊かに響いて、神尾を好サポート。横に立っている神尾を見ながら弾きました。なお、神尾真由子のInstagram(@kamiomayuko)に、自宅でクルティシェフの伴奏で練習する様子と、本公演当日のホールでのリハーサルの動画が掲載されています。
 
拍手に応えてアンコール。神尾が「バッジーニの妖精の踊りを演奏したいと思います」と自分で紹介して、バッジーニ作曲/妖精の踊りを演奏。速いテンポで弓さばきが抜群。左手が超忙しい。超高音もあります。ヴァイオリンとピアノがアイコンタクトがなくても揃うのがすごい。なんと終盤で神尾が弓を落としてしまうハプニング。自分で拾って演奏を続けました。なお、神尾真由子のInstagramに「アンコールで弓を落とすという愚を犯しましたが、皆さん暖かく笑ってくださりありがとうございました。なんとこれが初めてではなく、人生2回目です😒」と明かしていますが、すごく正直な方ですね。とても珍しいシーンに立ち会えました。なお、本公演の前に、中国でWittenberg Music Festivalの講師を務めて、この曲をホテルで一人で座って練習する様子や、リハーサルと本番の動画が掲載されています(ピアノ伴奏は女性で、クルティシェフではありません)。
 
演奏終了後は、篠原と𠮷武も登場して、写真撮影がOKでした。神尾はピースサインで写真撮影に応じました。ノリが軽い。
16:00に終演。終演後は、CDを購入した人を対象に、サイン会が行なわれました。まったく気がつかなかったのですが、代表の宗次德二は、主催公演の開演前と終演後には、出迎えと見送りをしているとのことで、おそらく写真に映っている男性が宗次です。
 
神尾真由子の演奏は、強烈なインパクトを残しました。中毒性がありますね。10月に「神尾真由子&N響メンバーによるアンサンブル四季(ヴィヴァルディ)×四季(ピアソラ)」を聴くので楽しみです。なお、来年には京都市交響楽団第715回定期演奏会(2026.9.18&19)に登場して、モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第4番」を演奏します。神尾のモーツァルトはかなり意外な選曲ですが、どんな演奏になるでしょうか。

本公演の翌日の8月24日(日)~28日(木)まで、「~ザハール・ブロンの系譜を受け継ぐ講師陣による~ 神尾真由子・篠原悠那・廣津留すみれ プレミアム公開レッスン in 宗次ホール」が開催されました。Aコース「将来プロのヴァイオリニストを目指す方のためのコース」(受講生6名、3日間、受講料55,000円)の講師を神尾真由子と篠原悠那が務め、Bコース「将来、海外の講習会への参加や留学を考えたい方のためのトライアルコース」(受講生3名、2日間、受講料44,000円)の講師は廣津留(ひろつる)すみれが担当しました。5日間のレッスンは一律2,000円で聴講ができました。お近くに住んでいる方がうらやましいです。なお、神尾は12月6日(土)にも宗次ホールで「神尾真由子&萩原麻未 デュオ・リサイタル」を開催します。篠原は本公演の翌週に日本センチュリー交響楽団の「第30回星空ファミリーコンサート2025」(2025.8.30&31 服部緑地野外音楽堂)に客員コンサートマスターとして出演しました。

なお、7月8日に宗次ホールのホームページの「大切なお知らせ」に「閉館に関する一部誤情報について」が掲載されました。「当ホールは現在も通常通り営業を続けており、現時点で閉館の予定は一切ございません」と一部のインターネット上の情報を明確に否定しています。ちなみに、2021年には「桐朋学園宗次ホール」が、桐朋学園音楽部門仙川キャンパス(東京都調布市)内に完成しました。客席数は234席で、隈研吾が設計を手掛けて、内装は木造です。宗次が名誉館長を務めています。

 

広小路通りから見える壁面看板 宗次ホールのご案内(広小路通り) 宗次ホール(東栄通から望む) 宗次ホール 宗次ホール(南東から望む) 「日本一のホールでありますことをあえて宣言いたします」 本日の使用ピアノ「スタインウェイD274」 映像モニター(開演前) 神尾真由子とミロスラフ・クルティシェフ 𠮷武優、篠原悠那、ミロスラフ・クルティシェフ、神尾真由子 本日のアンコール曲 宗次德二の見送り

(2025.9.3記)

 

Kyoto Music Caravan 2025「金管五重奏コンサート」