加藤訓子プロデュース STEVE REICH PROJECT「kuniko plays reich ll / DRUMMING LIVE」


  2024年8月25日(日)17:00開演
ロームシアター京都サウスホール

加藤訓子、青栁はる夏、戸崎可梨、篠崎陽子、齋藤綾乃、西崎彩衣、古屋千尋、細野幸一、三神絵里子、横内奏(打楽器)
丸山里佳(ヴォーカル)、菊池奏絵(ピッコロ)

kuniko plays reich ll
 フォーオルガンズ
 ナゴヤマリンバ
 ピアノフェイズ(ビブラフォン版)
 ニューヨークカウンターポイント(マリンバ版)
DRUMMING
 ドラミング PART I,II,III,IV

座席:全席指定 2階2列10番


ライヒのドラミングは、昨年にスティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演で聴きましたが、今度は京都で、しかもライヒの第一人者である加藤訓子が演奏するので、もちろん聴きに行きました。こんなに早く再演されるとは思わなかったのでびっくり。主催は、特定非営利活動法人 芸術文化ワークス。加藤訓子が代表を務めています。本公演以外にも、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール(2024.6.28)、愛知県芸術劇場小ホール(2024.9.13&14で3公演)で開催されました。加藤訓子は1969年生まれで、桐朋学園大学で安倍圭子に師事しました。現在はアメリカ在住です。

演奏は、KUNIKO KATO & MUSICIANS。加藤訓子が中心メンバーですが、後述するようにプログラムに出演者のプロフィールが一切掲載されていないので、加藤以外の出演者の詳細は不明です。どういう集まりなのか気になりましたが、ほぼ同じメンバーで各地で公演しているようで、どうやら桐朋学園大学の卒業生が多いようです。これまでの参加者は約50名とのこと。ちなみに、本公演の前日には、穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールで「加藤訓子プロデュース「メタクセナキス」」を開催しました。多忙なスケジュールです。

本公演のチケットは一般5000円でしたが、後半のドラミングのみの「ドラミングチケット」(3000円)がteketで購入できました。また、「年齢、ジャンル問わず、アーティストをサポートする目的」で、「アーティスト割チケット」(3000円)も設定されました。

開場中に前触れもなく、サウスホールのロビーでオープニングパフォーマンスがスタート。6人が手拍子だけで演奏しましたが、ライヒ作曲/クラッピングミュージック(CLAPPING MUSIC)。1972年の作品で、2人だけで演奏できるようです(詳細は後述)。終演後にサイン会があるとのことで、「ドラミング」(2018年発売)のCDを3000円で購入しました。プログラムには曲目と演奏者名などが書かれているだけで、メンバーのプロフィールも曲目解説もなくとてもシンプル。ライヒについてある程度の予備知識を持っている人を対象にした演奏会ということでしょう。サウスホールの2階席は角度がかなり急で、ステージが見やすい。客の入りは6~7割くらいでしょうか。

前半は「kuniko plays reich ll」。最初にライヒからのビデオメッセージがスクリーンに上映されました。今年で87歳ですが、お元気そうで英語で話しました。ライヒは、自身の作品が日本で演奏されるようになった経過や自身の来日を振り返り、加藤訓子を「すばらしいパーカッショニスト」と紹介。「何回も来日したが、今回は遠いので行けない」と話しました。
続けて加藤訓子のソロステージですが、いずれも録音を流しながらの演奏でした。全曲楽譜なしで暗譜で演奏しました。1曲目から3曲目は、今年4月にリリースしたCD「kuniko plays reich II」に収録されています。このCDは「kuniko plays reich」(2011年)、「Drumming」(2018年)に続く、ライヒ作品集第3弾で、加藤訓子がマリンバ、ヴィブラフォン、オルガン、マラカスをすべて1人で演奏して多重録音で収録しました。

プログラム1曲目は、フォーオルガンズ(FOUR ORGANS)。1970年の作曲で、4つの電子オルガンとマラカスのための作品。暗い照明の中、加藤訓子が黒のノースリーブの衣装で登場。両手にマラカスを持って、ステージ中央で足を広げて立って演奏。電子音のオルガンは天井からではなく、ステージ後方のスピーカーから流れ、次第にオルガンの音符の長さが長くなります。加藤は八分音符をずっと一定のテンポでシャカシャカとマラカスを振り続けます。同じ音量で振り続けるのが難しいですが、ひたすら約20分も続きます。一説によると2400回もマラカスを振るとのことで、休みなくずっと演奏しているので、両腕がだるくなって、体力的にきついと思いますが、加藤にとってはウォーミングアップでしょうか。上述したように「kuniko plays reich ll」のCDでは、オルガンパートも加藤が演奏しました。オルガンが終わると同時にマラカスも演奏をやめるようですが、本公演では終わるタイミングを見計らうのが難しかったのか、マラカスが2音ほど字余りでした。なお、演奏中に、雷の音がときどき聴こえました。このとき大雨警報が発表されて、東海道新幹線も一時運転見合わせになるほどの大雨だったことを後で知りましたが、サウスホールは意外に遮音性に弱いようです。

プログラム2曲目は、ナゴヤマリンバ(NAGOYA MARIMBAS)。1994年の作曲で、栗原幸江(名古屋音楽大学名誉教授)によって委嘱された2台のマリンバのための作品。しらかわホールのこけら落とし公演で、栗原幸江と髙藤摩紀が初演しました。加藤はステージ後方で汗をぬぐってから、スポットライトのみの暗い照明で、上手に置いてあるマリンバを演奏。もともとは二人で演奏する作品なので、録音されたマリンバに乗せて、加藤がマリンバを演奏。両手に2本ずつ4本のマレットで、ダンスしているようにリズミカルに叩いて、後ろで束ねた長い髪がヒラヒラと舞いました。5分程度の作品で、終わると暗転。

プログラム3曲目は、ピアノフェイズ(ビブラフォン版)(PIANO PHASE version for vibraphone)。1967年の作曲で、もともとは2台のピアノのための作品で、2021年に2台のビブラフォンのために編曲されました。「世界初のビブラフォン版」とのことで、CDによると加藤訓子が編曲したようです。加藤は下手に置いてあるビブラフォンに移動。録音されたビブラフォンに乗せて、両手に2本ずつ4本のマレットで演奏。同じフレーズを繰り返し演奏し、演奏が終わると、違うパッセージが始まります。催眠効果があるように感じました。最後は加藤が1人で演奏。

プログラム4曲目は、ニューヨークカウンターポイント(マリンバ版)(NEW YORK COUNTERPOINT version for marimba)。リチャード・ストルツマンのために1985年に作曲され、もともとはクラリネットとテープ、または11本のクラリネットのための作品で、2012年の編曲。この作品は、2013年にリリースしたCD「カントゥス」に収録されています。加藤はふたたび上手のマリンバを演奏。3つの楽章からなり、休みなく続けて演奏されます。この曲は両手に1本ずつで演奏。第1楽章冒頭は同じ音をクレシェンドとデクレッシェンド。録音のマリンバと対話します。青と黄色のバックライトの照明で、全身でリズムを感じて、マリンバを前にダンスしているような奏法で、マレットを変えながら演奏を続けます。第2楽章は違うリズムの録音に乗せて演奏。第3楽章は、硬い乾いた音色で、天井から吊られたミラーボールが回転。体を揺らしながら叩いて、アクションでも魅せました。ただし、クラリネットの原曲のほうが音色が賑やかで、マリンバだと単一で丸くなってしまうのは好みが分かれるところでしょう。

加藤がマイクでトーク。本公演は「ダブルビルコンサート」と説明。4月に新作アルバム(kuniko plays reich II)を世界リリースしたと報告。海外でのライヒの演奏経験を語り、「ライヒに「何かの曲をやりたい」と言ったら、「カウンターポイントがあるよ」と言われたのが最初で、初期の作品が好き」と話しました。「「kuniko plays reich」を出し、その後に1人ドラミングをしたが、次の世代の打楽器奏者に伝えたいのでこのプロジェクトを立ち上げた」と「STEVE REICH PROJECT」発足の経緯を紹介。「目黒で2日間やりたいことをやった」と話しましたが、2022年12月にinc. percussionists 2022(インク・パーカッショニスト 2022)と、めぐろパーシモンホール大ホールで「ドラミング」などの演奏のことでしょう。
「後半はドラミングで約1時間。準備のために30分休憩する。ロビーパフォーマンスも用意している」と話して休憩。意外にもここまでで1時間が経っていました。30分の休憩を取った理由は、上述したように後半の「ドラミング」だけ聴く場合は3000円で入場できたので、そのためのインターバルのようです。

ロビーでは、「STEVE REICH PROJ.」の黒いTシャツを着た5人が、プログラムに記載があった、木片のための音楽(MUSIC FOR PIECES OF WOOD)を演奏。1973年の作品で、京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科 管・打楽専攻生による文化会館コンサートI 「ともしび」〜未来へつなぐ音楽のちから〜で聴きました。音程が違うクラベスを使用して、中央の奏者から演奏スタート。中央の右、中央の左、左端、右端の順番で演奏に参加し、最後は右端の女性の首の動きが合図で、演奏がピタッと止まりました。多くの人が集まりました。

後半は「DRUMMING」。1970~71年の作品です。スティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演では、20人(ボンゴ×4,マリンバ×9、グロッケン×4、ソプラノ、カウンターテナー、ピッコロ)で演奏しましたが、本公演では楽器を掛け持ちして12人で演奏しました。ちなみに、男性は1人だけで、11人は女性です。加藤はこの作品を2018年にリリースしたCD「ドラミング」で1人で演奏して録音しているので、すべてのパートを誰よりも知っていると言えるでしょう。CDに封入された「究極の「ドラミング」を求めて」の文章で、加藤は「あらゆる難関においてたった一人だからこそ全てをコントロールできる!ならば誰にも真似できないくらい最高のものにしよう!と心に決めた」と意気込みを綴っています。CDの演奏時間は70分。1人ですべての音をコントロールして聴かせたい意思が明確に伝わり、音の粒がはっきり聴こえる緻密な演奏と録音技術がすばらしい。1人で多重録音するとは気が遠くなる作業ですが、自然で完成度が高い演奏です、

楽器の配置は、中央にボンゴが10台、上手にグロッケンシュピール3台、下手にマリンバ3台の配置。並列ではなく、グロッケンシュピールとマリンバは、ハの字に配置。また、マリンバは「ト」を左右逆にしたように直角に3台を配置しました。床が黒で、照明も暗く、独特の空間です。

全員が「STEVE REICH PROJ.」の黒の半袖Tシャツを着て登場。加藤は前半では結んでいた髪を下ろしていました。演奏していない奏者は、ステージ後ろのイスに座って待機します。PART Iのボンゴは4人で演奏。加藤が初めに叩いて演奏スタート。ボンゴを挟んで二人ずつ向かい合って演奏し、加藤は右奥で演奏しました。ボンゴは楽器によって音程が違います。左右に揺れながら流れるように叩きますが、次第にかなり野性的で荒々しくなります。4人目は和太鼓のような叩き方です。ステージと客席が近いためか、スティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演よりも野生感がありましたが、ボンゴが2台多く、10台で演奏したためででしょうか。後半はマレットを逆に持って、太い方で叩いてこもった音にしました。加藤は髪を振り乱しながら叩いて、スティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演以上の激しさでした。

PART IIは、ステージ後方の席に座っていたメンバーが立ち上がって、ステージ下手のマリンバを3人(1人1台)で弾きます。CDでは、PART IからPART IIへの接続が美しすぎるほどで、ボンゴとマリンバのボリュームを調整して自然な流れを作り出しています(ここだけ繰り返し聴いても飽きません)。マリンバは3人でしたが、途中から中央のマリンバに1人増えて向かい合って演奏。声楽についてライヒは「ソプラノとアルト」と指示していますが、ヴォーカルの丸山と、ボンゴの演奏を終えた加藤が担当。譜面台を立てて、ステージ中央の後方でマイクで歌いますが、あまり聴こえません。スティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演もそうだったのですが、もう少し声楽の音量が大きくてもいいのに残念。CDではしっかり声が聴こえるので、やはり生演奏を客席で聴く難しさと言えるでしょう。マリンバは硬めのマレットで強めに叩きます。次第に人数が増えて、最終的には手前のマリンバに2人、中央のマリンバに5人、奥のマリンバに2人の9人で演奏。加藤とヴォーカルの丸山とピッコロの菊池以外の9人全員がマリンバを演奏して、視覚的にも壮観です。中央のマリンバの高音パートを演奏しやすいように、この逆「ト」の配置にしたことが分かりました。スティーヴ・ライヒ/ドラミング 湖国が生んだ打楽器奏者の協演では楽器の掛け持ちがなかったのでおもしろい。

ヴォーカルの丸山と加藤の二人が座って、PART IIIへ。ステージ上手のグロッケンシュピールが3人(1人1台)で演奏開始。中央のグロッケンに1人増えて、4人に。向かい合うあうように立っているので、手前と奥のグロッケンを演奏している奏者は、客席に背中を向けているので顔が見えません。男性の口笛はまったく聴こえませんでした。マイクの調子がおかしいのではないかと思うほどで、続くピッコロもマイクはありますが聴こえません。ピッコロとグロッケンは音色がよく似ていて、グロッケンがよく響くためなのか、2階席だからかは分かりませんが残念。ピッコロが終わると、グロッケンの3人で高音。

最後のPART IVは、マリンバ1人(すぐに2人)、ボンゴ1人、グロッケンシュピール2人でスタート。ボンゴが1人追加されましたが、他の人はまだ後ろの席に座っています。パッセージは単調なので、演奏している方も退屈してしまいそうですが、伸びやかに演奏しました。マリンバ×3、ボンゴ×3、グロッケンシュピール×3で演奏が続き、加藤はPART Iと違って、ボンゴの演奏には参加しません。ヴォーカルの丸山と加藤が立って歌い、ピッコロの菊池も演奏。加藤は肩を揺らしながら、楽しそうにノリノリで歌いました。ここもCDでははっきり聴こえますが、本公演ではあまり聴こえなくて残念。ボンゴが強めに連打して、最後は見事に終わりました。

拍手に応えてアンコール。10人が登場して、クラッピングミュージック(CLAPPING MUSIC)。開場前にロビーで演奏しましたが、客席の照明が全照で、客席との一体感を狙った演出で、客席も一緒に手拍子。自分も演奏に参加できるとはすばらしい。この曲は、6拍(八分音符×12個)のフレーズを4回繰り返すと、1拍ずつずれてまた4回繰り返して、12回目に最初のフレーズに戻ります。とても単純な仕組みですが、音符と休符の交錯が意外に奥深い。19:40に終演しました。

終演後のサイン会には、50人くらいが並びました。加藤に「また京都に来てください」と声をかけると、「また3月に来る」とのことでした。 

ライヒの作品よりも加藤訓子の打楽器奏者としての魅力にひかれる演奏会でした。CDでは1人で演奏していたパートを、このプロジェクトのメンバーを交えて演奏しましたが、息のあったアンサンブル聴かせました。ただし、上述したように、声楽やピッコロの音量バランスは生演奏で聴く難しさは感じました。加藤はX(@KKUNIKO)で演奏動画を掲載したり、積極的にお客さんの感想をリポストしたりするなど、大物なのにセルフプロデュースがうまい。次回の京都公演にも期待です。


スティーヴ・ライヒ プロジェクト サウスホール入口 クラッピングミュージック(オープニングパフォーマンス) 「kuniko plays reich ll」ステージ配置 木片のための音楽(ロビーパフォーマンス) 「DRUMMING」ステージ配置

(2024.9.27記)

 
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