京都フィルハーモニー室内合奏団創立50周年記念第248回定期公演A「室内オーケストラで聴く大作Vol.5」
<京フィルのリハーサル&レクチャー>
2022年10月8日(土)14:00開演 大谷圭介.(レクチャー、バリトン)、京都フィルハーモニー室内合奏団 マーラー(ファリントン編)/さすらう若人の歌 座席:自由 <京都フィルハーモニー室内合奏団創立50周年記念第248回定期公演A「室内オーケストラで聴く大作Vol.5」> 2022年10月9日(日)14:00開演 田中祐子指揮/京都フィルハーモニー室内合奏団 エルガー/弦楽セレナード 座席:S席 14列21番 |
京都フィルハーモニー室内合奏団創立50周年記念第246回定期公演A「北の国から」に続いて、京都フィルハーモニー室内合奏団の定期公演に行きました。「室内オーケストラで聴く大作Vol.5」のタイトル通り、オーケストラ作品を室内合奏団の編成で聴くシリーズの第5弾で、今回はマーラー「さすらう若人の歌」とドビュッシー「海」が取り上げられました。ちなみに、これまでの4回では、マーラー「交響曲第4番」(Vol.1)、ファリャ「恋は魔術師(1915年版)」(Vol.2)、マーラー「大地の歌」(Vol.3)、マーラー「交響曲第9番」(Vol.4)を演奏しました。それ以前の第222回定期演奏会(2020.3.8)は、コロナ禍最初期でしたが、マーラー「巨人」を指揮者なしで演奏して注目されました。
指揮は、田中祐子(ゆうこ)。2018年4月から2020年8月までオーケストラ・アンサンブル金沢の指揮者を務めました。コロナ禍で一段活躍が増えた指揮者で、YouTubeの「KIZUNA-絆-」チャンネルで公開されたクラシック演奏家対談リレー「【対談リレー】指揮者 田中祐子 × ホルン奏者 福川伸陽」の動画のトークがおもしろかった。また、コロナ禍で無観客ライブ配信された「OKAYAチャリティーコンサート 2020〈~感謝の夕べ~〉」(2020.7.28 愛知県芸術劇場コンサートホール)で、シベリウス「アンダンテ・フェスティーヴォ」がいい演奏で、指揮棒なしで変わった指揮をする印象を受けました。2022年4月から名古屋音楽大学声楽コースの客員准教授に就任しました。京都フィルハーモニー室内合奏団を指揮するのは今回が初めてとのこと。
<京フィルのリハーサル&レクチャー> 10月8日(土)14:00開演
本番前日に、公開リハーサルが行なわれました。曲目は、マーラー作曲(ファリントン編)/さすらう若人の歌。京都フィルが練習拠点としている京都市西文化会館ウエスティの文化芸術活性化パートナーシップ事業の教育プログラムとして、毎年開催されているとのこと。入場料は無料でしたが、対象が小中学生と保護者だったので、あきらめていましたが、前日に配信された「京都フィルハーモニー室内合奏団「メールマガジン定期便」」のメールで、「小中学生対象ですが、どなたでも参加可能で、当日事前の電話で予約しても受付可能」との連絡がありました。当日の朝にウエスティに電話したところ、受け付けてもらえました。
受付の横に「体調不良で指揮者の田中祐子は出演しない」との掲示がされていてがっかり。田中祐子のTwitter(@yukolin78)では、10月7日に「2日目のリハーサルを終えました‼ 少人数で織りなすアンサンブル、当初は基本お任せしようかなと思ってましたが、思い切り緻密に作り込んでいこうと方針を決めて特にドビュッシーとマーラーは徹底的に繊細に作っています。ただ物凄い機動力で大谷さんの美しいドイツ語に寄り添って頂く洞察力、魅力‼」と投稿していて、やる気は十分のようでしたが、先週は10月1日(土)に「TOKYO WIND SPECIAL 東京佼成&シエナ 夢の競演!」でシエナ・ウインド・オーケストラを指揮、翌日の10月2日(日)は「カルッツかわさき開館5周年記念 オペラ・ガラ・コンサート」を指揮していて、多忙で疲れが出たでしょうか。なお、リハーサル2日目の写真は、ステージ左右の反響板がなかったので、アルティの広いステージを意識したようです。
客席は50人くらいで、ご高齢の方もおられました。小中学生は少なかったので、マーラーの歌曲はやはり難しかったようです。開演前に、理事長の田中美幸が挨拶。「田中祐子から「ほうてでもいく」と言われたが、今日はお休みいただくことにした。指揮台はあるが、指揮者なしで行なう。レクチャーはバリトンの大谷にお願いした」と説明がありました。京都フィルの編成は、 前列がヴァイオリン2、チェロ2、ヴィオラ2。2列目がハープ、フルート、クラリネット、ホルン。最後列が打楽器。私服です。クラリネットのGでチューニング。
大谷が登場。マイクで「人生は何が起こるか分からない」と笑いながら話しました。30分前に進行役を頼まれたとのこと。急遽の進行役ですが、まずは作品の解説からスタート。「ドイツのリートで、歌曲に分類される。もともとピアノ伴奏で作曲されて、マーラーがオーケストラに編曲。その後に、ファリントンが小編成に編曲した。エッセンスを取り出して凝縮されている。ドイツ語で歌われる失恋の歌で、マーラー自身が告白してフラれた後に作曲された。歌手はどういう気持ちで歌っているか、本番では分からないようなことをお話ししていく」と説明しました。
第1曲「恋人の婚礼の時」。大谷は「前奏の4小節は悲しい雰囲気で始まるが、1小節は刺繍音と言って心の揺らぎを表している」と解説。実際にマイクを持って歌いましたが、しゃべっているときと声質が変わりました。アンサンブルは指揮者なしでもアイコンタクトで演奏。大谷は「「traurigen」は悲しさを強調するためにテヌートをかけて歌う」と歌う際のテクニックも披露。「Moderatoからはうれしい話で、6/8拍子でリズム感が変わる。マーラーは一瞬で情景が分かるように作曲されている」とマーラーの作曲を賞賛。「「Senza ritardare」からは動物が出てくる」ということで、客席にクイズ。正解は「フルートとヴァイオリンで小鳥の鳴き声が出てきて、彼女と森を散歩しているのを思い出した。歌詞の「Zi küth!」も鳥の声を表している」と解説しました。
第2曲「朝の野を歩けば」は、「明日(本番)のお楽しみ」ということで、簡単に紹介した程度でした。「29小節からは違う鳥の鳴き声が聴こえる。パンパパパパーンはカッコウの鳴き声」と解説しました。
第3曲の「僕の胸の中には燃える剣が」は、「前奏4小節は失恋の怒りを表している。マーラーはよく書いている。「心の中にナイフが突き刺さる」という歌詞で、歌い方も心の中にナイフが突き刺さっているような歌い方になる。Langsamerからは怒りの中にある悲しさで、オペラっぽく劇場で歌っているような歌い方になる」と解説。
第4曲「恋人の青い目」は、「葬送行進曲のリズム感。17小節からは短調が長調になるが、悲しさがいきすぎて、茫然自失で昇華したようにもっと悲しくなっていて、長調だが元気になってない。より悲しさを長調で表している。マーラーは繊細に短調と長調を使い分けている。39小節からはハープが出てきて、涙も枯れる。天上の音楽が続いている」と解説。最後は「Alles!」などを歌詞を日本語に訳しながら歌いました。「最後は暗く終わる」と解説。
「何か質問がありますか」と客席に聞きましたが、手は上がらず。大谷は「オペラを歌うときは大きなジェスチャーをするが、歌曲は身ぶり手振りはないので、繊細に緻密に作ることが要求される。歌曲の方が神経を使うし緊張する」と話しました。コンサートマスターの青山朋永のアイデアで、第1曲「恋人の婚礼の時」を通して演奏。「明日はマイクはないので」ということで、マイクなしで歌いました。伴奏は指揮者がいらないほど自発的なアンサンブルでした。大谷が「どうやって終わればいい?」と困っていたところに、理事長の田中が登場。明日の本番の告知をして、田中さんも明日は元気に登場すると期待を述べて、50分で終了しました。
曲目紹介も歌詞対訳も配布されなかったので、初心者はなじめなかったようですが、歌手から見たレクチャーは珍しく、すごく勉強になりました。独唱は歌詞の意味や伴奏の変化をよく理解し、意識して歌っていることがよく分かりました。オーケストラよりも楽曲分析が必要ですね。
<京都フィルハーモニー室内合奏団創立50周年記念第248回定期公演A「室内オーケストラで聴く大作Vol.5」> 10月9日(日)14:00開演
昨日のリハーサルを体調不良で出演しなかった田中は、今日の本番は大丈夫か心配になりましたが、京都フィルのTwitter(@kyophil)にゲネプロの写真が掲載されて一安心。なお、ゲネプロではイスに座って指揮していて、開場時にも置かれていましたが、本番前に撤去されました。
プログラム1曲目は、エルガー作曲/弦楽セレナード。ヴァイオリン4、チェロ2、ヴィオラ2、後ろにコントラバス1の編成。田中祐子が上手から登場。指揮台の上でも小柄です。この日は全曲指揮棒を使って指揮しました。譜面をめくりながら、曲線的でゆったりした指揮で、体調不良は感じません。3つの楽章からなります。この作品は京都市交響楽団第598回定期演奏会で聴きました。小編成ならではの緊密なまとまりはありましたが、もっと大編成で聴きたいですね。
プログラム2曲目は、マーラー作曲(ファリントン編)/さすらう若人の歌。バリトン独唱は大谷圭介.。ハープ、フルート、クラリネット、ホルン、打楽器が追加。大谷が自ら訳した歌詞対訳がプログラムと一緒に配布されました。プログラムには編曲したファリントンについての解説はありませんでしたが、イギリスの作曲家で、まだ40代のようです。
演奏は、昨日のリハーサルよりも指揮者がいると旋律が濃く聴こえます。第1曲「恋人の婚礼の時」冒頭の管楽器は彩りがある。Moderatoの6/8拍子は速めのテンポで、うまくシーンを切り替えて感情豊かに演奏。第2曲「朝の野を歩けば」は、小編成でも人数以上の効果でよく鳴ります。バリトンにしては高音が出てきます。第3曲「僕の胸の中には燃える剣が」は、速めのテンポでホルンのゲシュトプなどが効果的。まさに突き刺さるような音楽でした。第4曲「恋人の青い目」は、昨日の自主的なアンサンブルもよかったですが、田中の指揮で一体感や生命力が生まれました。バリトン独唱が逆に一本調子に聴こえるほどでした。
休憩後のプログラム3曲目は、ドビュッシー作曲(ファリントン編)/海~管弦楽のための3つの交響的素描。弦楽器の後ろに、左から、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット。その後ろにホルン、トランペット、トロンボーン。 最後列に打楽器が二人。京都フィルが演奏する「海」は、第185回定期公演「ドビュッシー生誕150年とフランス音楽」で、ジュリアン・ユーの編曲で聴きました。
緻密な作り込みを感じましたが、弦楽器が9に対して、管楽器が7の編成のため、管楽器が強く、弦楽器もがんばって弾いていますが、もう少し音量がほしい。弦楽器はもう一人ずつ多かったらよかったですが、それだと小編成にならないので難しいでしょうか。フランス音楽を小編成で演奏すると、響きの豊かさが削がれるので難しい。この作品は編成を多くして、響きを重くしたほうがいいですね。お風呂のように響くホールだったらよかったかもしれません。
第1楽章「海上の夜明けから真昼まで」は、少し忙しく感じました。朝の海はもう少しゆったり聴きたいです。132小節からも速いテンポ。最後のデクレッシェンドもさっと引いて終わりました。第2楽章「波の戯れ」は、中間部は速いテンポ。最後のサスペンデッドシンバルが無機質に聴こえてしまいました。第3楽章 「風と海の対話」も響きがスリムなので、弦楽器はもっとべったりと弾いてほしいです。237小節からはファンファーレつき。
カーテンコールの最後は、メンバーが全員で一礼。15:20に終演しました。田中はTwitterに「50周年の記念すべき年に大谷さんの歌声が柔らかく力強かった事、オーケストラの皆さんがとても繊細で美しく温かい音色だった事、お客様の割れんばかりの鳴り止まぬ拍手、忘れません!」と感想を投稿しました。