The Power of Music 〜いまこそ、音楽の力を〜 京都コンサートホール presents 兵士の物語


  2021年10月16日(土)15:00開演
京都コンサートホールアンサンブルホールムラタ

広上淳一(指揮)、茂山あきら(朗読)
芝内もゆる(ヴァイオリン、相愛大学大学院)、才野紀香(コントラバス、同志社女子大学)、久保田彩乃(クラリネット、神戸女学院大学)、浜脇穂充(ファゴット、大阪音楽大学大学院)、川本志保(トランペット、大阪芸術大学)、野口瑶介(トロンボーン、京都市立芸術大学)、清川大地(打楽器、大阪教育大学大学院)

ストラヴィンスキー/兵士の物語

座席:全席指定 9列20番



2020年4月から京都コンサートホール館長を務める広上淳一が指揮するストラヴィンスキー「兵士の物語」を聴きに行きました。本公演は、京都コンサートホール特別シリーズ「The Power of Music 〜いまこそ、音楽の力を〜」(全4回シリーズ)の1公演で、他の3公演は、「ラヴェルが幻視したワルツ」(10月2日)、「オピッツ・プレイズ・ブラームス〜withクァルテット澪標(みおつくし)〜」(11月13日)、「京都コンサートホール クリスマス・コンサート」(12月4日)です。 広上は「4公演はいずれもコロナに屈しないという強いメッセージが込められています」というメッセージを寄せています。

「兵士の物語」を聴くのは、石丸幹二が演じた兵士の物語」言葉と音楽のシリーズによる三重奏版以来でした。「三重奏版」とあるように、語りとピアノとパーカッションの3人だけでしたが、本公演は指揮と朗読と演奏者7名による演奏です。朗読を狂言師の茂山あきらが務めるのも京都らしい企画です。プロデュースは、京都コンサートホールプロジューサーの高野裕子が担当。室内アンサンブルのメンバー7名は、京都と大阪の音楽系大学7大学から、各大学1名づつ選出されました。どうやって選ばれたのか気になりましたが、後述の「週刊かんべぇ」で、高野裕子が「この大学はこの楽器で」と京都コンサートホールから各大学に依頼したと語っています。

8月頃から、広上や出演者のメッセージ動画が、京都コンサートホールのYouTubeチャンネルで公開されました。打楽器の清川大地は7種類の打楽器を紹介しました。また、広上が出演しているYouTube「週刊かんべぇ」でも10月6日に公開された動画「Zoomになってもかんべぇはやはりかんべぇ。もう間もなく 10/16@ 『兵士の物語』をプロデューサー、学生代表、副指揮者と熱く語り合う スペシャル版!!」で、広上が若い学生とやりたいと言ったことや、広上は兵士の物語を初めて指揮するとのこと、茂山は楽譜が読めないので、副指揮者が練習したことなどが話されました。

アンサンブルホールムラタで聴くのは、京都フィルハーモニー室内合奏団第185回定期公演「ドビュッシー生誕150年とフランス音楽」以来ひさびさでした。カフェやクロークも営業していました。プログラムは4公演共通で、客の入りは9割程度。幅広い客層で、茂山あきらのファンも来ていました。途中で休憩はないとアナウンスされました。

まず、指揮の広上淳一とプロデュースの高野裕子が登場。広上が「舞台裏の話をしておいたほうがよいと思った」と話して、演奏前にプレトーク。高野が「1年半くらい前に企画した。ちょうどコロナの影響が始まった頃だったが、100年前のことを考えた。当時はスペイン風邪が流行していて、現在の状況と似ている。大変な時期なのに「兵士の物語」のような今も演奏される作品が残された」と話しました。
広上は「題材は皮肉で、この作品を聴いて癒されることはない。人をバカにしたような旋律があるが、人間の心の奥底にあるものをつまみ出される。大学生は難しい曲なのに立派に演奏してくれる」と紹介しました。また、広上は「昨日は京響を若い沖澤のどかが指揮した。オーケストラは大喜びで、すばらしい演奏になったと聞いている」と、前日の京都市交響楽団第661回定期演奏会にも触れ、「若い世代の音楽家に期待したい」と話しました。なお、広上は本公演のリハーサルだったため、演奏は聴いていないようです。

奏者が登場。ステージの中央から少し上手側に指揮台と奏者が配置され、左からヴァイオリン、コントラバス、クラリネット、ファゴット、トランペット、トロンボーン、打楽器の順で半円形に並びました。ストラヴィンスキーの指示に沿った配置と言えるでしょう。全員マスクなしで演奏。
朗読の茂山あきらはステージ中央の下手側で、兵士に合わせて薄茶色の軍服のような衣装でした。譜面台に台本を置き、口元のヘッドマイクを使って、立って朗読しました。聞き取りやすいナレーションで、兵士が持っているヴァイオリンを実際に弾きました。悪魔の本は、台本を手に持って表現しましたが、それ以外の小道具はなし。西久美子の訳詞で、茂山は一人で、語りと兵士と悪魔と王様の一人四役(王女は登場しますがセリフはなし)を演じましたが、後述するように関西弁や京都弁で話しました。演奏と朗読が重なる部分もありました。
ステージは暗めの照明で、奏者の譜面台にライトがついています。スポットライトで語りとアンサンブルをそれぞれ照らして、休みのときはスポットライトが消えました。

演奏は芝内もゆるのヴァイオリンがアンサンブルをリード。ヴァイオリンが登場する話なので主役のポジションで、感情の入った演奏でした。ブラボー。久保田彩乃のクラリネットが芯のある音色。清川大地の打楽器は、管楽器を盛り立てるのが上手い。
広上はメガネをかけて指揮。力が抜けた指揮ですが、変拍子ははっきり指揮しました。スコアを見ると、変拍子の連続なので、奏者は少人数ですが指揮者は必要でしょう。指揮中に「グッド」の意味で親指を立てるのは京響と同じです。

2部構成ですが、続けて演奏。第1部は「兵士の行進曲」からスタート。「小川のほとりの唄」は、悪魔(最初は男と呼ばれる)の声を、茂山は関西弁で声色高く話しました。「おきばりやす」など京都弁もあって、兵士のセリフとの違いが分かりやすい。「本に平均株価が書かれていた」は現代風のアレンジかと思ったら、原作通りのようで、「10月18日月曜日の株価 」が書かれていて、茂山が広上に「今日は何日ですか?」と聞くと、広上が指揮台の上から「10月16日土曜日です」と答えました。未来のことが書かれている本だと分かり、兵士はヴァイオリンを教えるため、男の家に行って3日過ごし、ヴァイオリンを渡して本をもらいます。馬車で猛スピードで走るところで、打楽器でひづめの音を表現。
「兵士の行進曲」で、ジョセフ(=兵士)は村に着きましたが、友人には無視され、母にも逃げられ、婚約者は別の男と結婚していました。悪魔と過ごした3日の間に実際には3年が経っていて、兵士は死んだと思われていたので幽霊扱いされました。男は悪魔だったことに気づきます。
「パストラール」は、ファゴットの高音がきれい。兵士は本を読んで大金持ちになりました。朗読の「商売を始めた」でドラムロールの効果音。金の流れが読めてきたと喜びますが、いつでも何でも手に入ることは何も持っていないのと同じで、本当に大切なものを失ったことに気がつきます。朗読の「電話がかかってきた」で、電話のベルの音の録音が流れました。老婆が兵士の家に売り込みに来てヴァイオリンを見つけましたが、音が出なかったので、本を破って捨てました。第1部は演奏よりも朗読の部分が長い。

休みなく第2部は、また「兵士の行進曲」からスタート。朗読の「太鼓の音が鳴り響いた」で、ドラムロールの効果音。王女が病気だと聞き、兵士が治しに城に行きます。「お城への行進曲」では、王様が登場。王様のセリフは、茂山はゆっくり話します。兵士が王女と結婚できるかもしれない状況で、悪魔がまた登場。兵士は悪魔と縁を切るために、これまでに稼いだ金を全部使って、悪魔とトランプで勝負。所持金がなくなりましたが、悪魔はワインを飲んで酔っぱらいました。
「小さなコンサート」を経て、「3つの舞曲(タンゴ、ワルツ、ラグタイム)」で、王女に得意のタンゴを奏でます(ヴァイオリンと打楽器のみで演奏)。王女が踊り出します。第2部の後半は、曲が長くて語りが短い。「悪魔の踊り」で悪魔が倒れて、「小さなコラール」では兵士と王女は永遠の愛を誓いました。「大きなコラール」では「ふたつの幸せを求めると幸せが逃げてしまう」と語られますが、兵士と王女は結婚しました。兵士は悪魔から解放され、ヴァイオリンを取り戻しました。
「悪魔の勝利の行進曲」で、兵士と王女は王国を出ます。兵士の生まれ故郷の国境のつり橋を渡ると、ヴァイオリンを持った悪魔が現れ、つり橋がなくなりました。兵士が去った後に、王女の叫び声が聴こえました。ラストは打楽器ソロのみで、スポットライトが当たりました。

カーテンコールでは、メンバー一人ずつに拍手を送りたいほどでした。大学生とは思えないほどの演奏で、アンサンブルとしてのまとまりもあり、和音も決まっていました。プロデューサーの高野裕子と、副指揮の岡本陸と小林雄太も登場。2人とも広上淳一に師事し、今年4月に東京音楽大学作曲指揮専攻(指揮)を卒業しました。16:30に終演。規制退場はありませんでした。

広上淳一は今年度末で京都市交響楽団第13代常任指揮者兼芸術顧問を退任しますが、京都コンサートホール館長の任期は来年も続くので、今後もこのような企画に期待したいです。まったくの余談ですが、終演後の写真では、9月からフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)を務めている日本フィルのオリジナルグッズ「猫Tシャツ2020」を着ていました(私も持っています)。

なお、この演奏会に前後して、「ストラヴィンスキー没後50年記念レクチャー(全3回)」が、京都コンサートホール1階の「カフェ コンチェルト」で開催されました。高野裕子によると、京都コンサートホールで初めてのレクチャー企画で、『音楽の危機−《第九》が歌えなくなった日』を出版した岡田暁生(音楽学者、京都大学人文科学研究所教授)が講師を務め、事前申込制で定員30名。参加料は各回500円(要ワンドリンク注文)ですが、本公演のチケットを購入しているとドリンク代のみでOKでした。第1回「ロシア・バレエとストラヴィンスキーの時代———ペトルーシュカをめぐって」(8月27日)、第2回「第一次世界大戦とストラヴィンスキー」(9月24日)、第3回「スペイン風邪の大流行と《兵士の物語》の虚無」(10月22日)と、いずれも金曜日の19時〜20時でしたが、金曜の夜にわざわざ京都コンサートホールに行くのは難しくて断念しました。

アンサンブルホールムラタのホワイエから望む アンサンブルホールムラタのホワイエから望む

(2021.11.18記)

京都市交響楽団第661回定期演奏会 第5回 大植英次 中学・高校吹奏楽部公開レッスンコンサート