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2020年12月11日(金)19:00開演
ザ・シンフォニーホール
井上道義指揮/大阪音楽大学管弦楽団
高木日向子/L'instant 座席:座席指定 2階GG列27番 |
チケットは全席指定で3,500円。今年度からオンライン申し込みが導入され、10月12日から「大阪音楽大学関連公演チケット申込サイト」で申し込みが開始。備考欄に座席の希望が入力できましたが、11月になってから申し込んだため、いい席はすでに発券済みで、2階席の後方の座席となりました。クレジットカード決済が可能で、すぐに送料無料でチケットがレターパックで届きました。
大阪音楽大学管弦楽団は、管弦打楽器専攻で選抜された学生を中心に編成されています。プログラムによると107名で、大学院1年2名、大学4年39名、大学3年20名、大学2年10名、大学1年11名、短大専攻科2名、短大2年3名、短大1年3名、教員5名、演奏員7名、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団3名、卒業生2名。 演奏者はマスクをつけて入場して、座席に座ってからステージ上でマスクを外しました。井上道義は最初からマスクなし。
プログラム1曲目は、高木日向子作曲/L'instant。2019年のジュネーブ国際音楽コンクールの作曲部門の優勝作品です。高木は大阪音楽大学大学院を修了し、受賞当時は作曲助手を、現在は作曲専攻で講師を務めています。
プログラムに掲載された高木本人の解説によると、「L'instant」は「ランスタン」と読み、フランス語で「瞬間」の意味で、「音楽のエネルギーを上昇させる力“Arsis(アルシス)”と減衰させる力“Thesis(テシス)”が交わる瞬間が、音楽における「瞬間」であり、この「瞬間」の連続こそが音楽である」とし、画家の高島野十郎(たかしま やじゅうろう)が描いた「蝋燭(ろうそく)」の絵をテーマにして作曲したと記しています。
オーボエとアンサンブルのための作品で、20分くらいの曲です。中村理事長は昨年の定期演奏会でさっそく披露したかったようで、前回のプログラムにも「上演権などの問題があり、残念ながら今回の定期でご紹介することは叶わなくなりました。(中略)来年の定期演奏会で実現すべく検討を開始しております」と記していて、井上に相談したところ、プログラムすべてが日本人作曲家の作品になったとのこと。
オーボエ独奏は、大阪音楽大学講師の大島弥州夫(やすお)。楽器配置は、左から、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ファゴット、クラリネット、オーボエ、フルート。後列にピアノ、ハープ、打楽器2、ホルン、トランペット、トロンボーン。中央に独奏オーボエと指揮者の編成です。指揮台はありません。
この日の4曲の中では、一番印象に残りました。演奏レベルも高く、プロと変わりません。武満徹に似たゆったりした流れと色彩感で、武満よりも打楽器の打ち込みや拍感が強い。
打楽器は、マリンバ、鉄琴、大太鼓、ボンゴなど種類が多い。弦楽器が弓で弦を鳴らす奏法や、トランペットのミュートの使い方がユニーク。弦のトレモロも効果的。
オーボエ独奏の大島は上下左右によく動きます。中間部分はコールアングレに持ち替えて長いソロ。音程をグリッサンドのように上下しました。井上は指揮棒なしで、手を高く挙げて指揮しました。
演奏後は井上が興奮気味に大島と握手。本当はひじタッチだったようですが、興奮して握手してしまったようです。オフィシャルウェブサイトには「オーボエソロの大島さん大健闘猛勉強超表現力。素晴らしく楽しかった。」と記しています。。作曲者の高木日向子が客席から登場して拍手を受けました。
舞台転換の間に、井上道義が「ヒーローインタビューやります」ということで、高木日向子とトーク。井上が「いい曲でしょ」と聞くと、客席から拍手。「オーボエソロはジュネーブよりうまかったんじゃないの?」と聞くと、高木もそっと同意していました。「この曲は何を表していた?」と聞くと、高木が「「蝋燭」の絵の揺らぎの瞬間を見て、上昇と減衰の力の境目を瞬間ととらえた」などと答えると、井上は「ジジイから言うとそれは正しい。人間は過去にも未来にも生きられない。瞬間しか生きられない」と同意しました。
プログラム2曲目は、尾高尚忠作曲/フルート協奏曲。フルート独奏は、大阪音楽大学准教授の上野星矢。尾高尚忠は尾高忠明(大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督)の父ですが、井上曰く、「お父さんが3才で亡くなったので、次男の尾高忠明は覚えていない」。また、初演でフルート独奏を務めた森正については、「僕を東京都交響楽団に雇ってくれたので頭が上がらない」と話しました。京都市交響楽団などで常任指揮者を務めた森正がフルート奏者として活躍していたのは知りませんでした。
この作品は尾高尚忠の最後の作品で、小編成オーケストラの「作品30a」と、大編成オーケストラの「作品30b」がありますが、今回は作品30bを演奏。上野星矢は体型が細い。ソロパートはずっと吹いていて休みがあまりありませんが、中編成のオーケストラに埋もれがちだったので、もう少し音量があってもいいでしょう。
1曲目に比べると楽想が古典的ですが、第2楽章の途中でピアノの弦を手で弾く奏法があり、チェンバロのような音がしました。井上は表情豊かな指揮で身体を大きく使いました。
休憩後のプログラム3曲目は、武満徹作曲/グリーン。もともと「ノヴェンバー・ステップス第2番」という曲名でしたが、のちに改題されました。大編成で、指揮台が設置されました。 なぜかコンサートミストレスとその隣のヴァイオリン奏者だけ、台の上にイスが置かれていました。やはり1曲目の高木の作品に似ているところがあります。ゴング?が特徴的。音色が荒々しいですが、もう少し洗練された音色がこの作品には合うでしょう。短い作品です。
プログラム最後の4曲目は、三善晃作曲/交響三章。ほぼ同じメンバーで打楽器が増員されました。60年前の1960年に作曲されましたが、今聴いても現代的です。 なかなかつかみどころがない作品で、ものすごく複雑。演奏はコロナの影響からか音色のブレンドがいまいち。打楽器が大炸裂し、最後はヴァイオリンソロで終わります。井上は途中から指揮棒を持って指揮しました。足を上げたり大きめのリアクションで、とてもパワフル。オフィシャルウェブサイトでは「演奏者に挑戦するような、音型、難リズムを彼らはコンピューターゲームのように楽々と越えてくる。」と書いていますが、演奏する方からすると確かにゲームのような感覚があるかもしれません。
カーテンコールの終わりに、井上道義が「ひとことだけ」と言いながら登場。「アンコールはとても練習するヒマがなかった。ここまで来るのに大変だった。この曲は戦争で友達を亡くしたので、暗い曲で始まる。こういうふうにならないように、戦争反対」と話しました。「今日はよく来ていただきました」の後に、現在のコロナの状況についても何か言いたそうでしたが、オフィシャルウェブサイトでは「全くそんなに、病になることは死ぬことは、怖いんか?????」と記し、公演終了後のTwitterでは、「コロナ 全国で2700人超が感染」というニュースに対して、「普通の風邪の感染者数(中略)、癌罹患認定の数、全て発表してくれ。比較がデキナイ!!」と怪気炎を上げています。 団員全員で礼。21時に終演しました。アナウンスにしたがって、規制退場。1階、2階、3階の順でしたが、夜が遅く早く帰りたいからか、ほとんど守られていませんでした。
大阪音楽大学では約7割の授業を対面で実施しているようですが、演奏会は「一般入場可」としている演奏会は少なく、「第32回大阪音楽大学学生オペラ」などは関係者のみの公演となっています。困難な時期が続きますが、日本の音楽界の発展のために、ぜひ頑張ってほしいです。
(2020.12.30記)