大阪音楽大学第63回定期演奏会


  2020年12月11日(金)19:00開演
ザ・シンフォニーホール

井上道義指揮/大阪音楽大学管弦楽団
大島弥州夫(オーボエ)、上野星矢(フルート)

高木日向子/L'instant
尾高尚忠/フルート協奏曲
武満徹/グリーン
三善晃/交響三章

座席:座席指定 2階GG列27番



昨年の第62回定期演奏会に続き、今年も大阪音楽大学の定期演奏会に行きました。今年の指揮は井上道義。2年前の第61回定期演奏会に続いての客演で、前回指揮したショスタコーヴィチ「交響曲第10番」が名演だったようで、今回のプログラムでも中村孝義理事長と本山秀毅学長が称賛しています。「指揮者 井上道義 オフィシャルウェブサイト」によると、「大フィルの監督だった頃、地元貢献の気分で指揮したが、抜けらんない!!」と綴っています。
井上は2012年に京都大学交響楽団(京都大学交響楽団第190回定期演奏会「創立95周年記念特別公演」)を指揮しましたが、学生オーケストラを指揮するのは比較的珍しい。今回は意外にもオール日本人作曲家のプログラムでした。オフィシャルウェブサイトでは「教えるという事は片手間ではやってはいけない。でも時々やるときは自分が楽に出来るモノは避ける。今回のプログラムはその極端な例だ。」と記しています。井上道義は兵庫芸術文化センター管弦楽団第123回定期演奏会「井上道義 煌めきのスペイン」を聴きに行く予定でしたが、中止になってしまいました。

チケットは全席指定で3,500円。今年度からオンライン申し込みが導入され、10月12日から「大阪音楽大学関連公演チケット申込サイト」で申し込みが開始。備考欄に座席の希望が入力できましたが、11月になってから申し込んだため、いい席はすでに発券済みで、2階席の後方の座席となりました。クレジットカード決済が可能で、すぐに送料無料でチケットがレターパックで届きました。

新型コロナウイルスの感染拡大で、大阪府では12月3日から非常事態を示す「赤信号」が点灯し、不要不急の外出を控えるように呼びかけられました。ホールの建物の外で検温。OKならスタンドライトが緑色に光ります。チケットに必要事項(氏名、住所、電話番号)を記入し、チケットを自分でちぎって大きいほうを箱に入れ、チケットの半券を持って入場します。ホール内はカフェ、ショップ、プレイガイド、クロークが営業休止していました。これからの季節に、クロークが閉まっているのは痛いですね。前後左右に1席空けた座席配置で、客の入りは5割くらい。当日券は発売されましたが、ほぼ完売でした。ポディウム席は開放しませんでした。

大阪音楽大学管弦楽団は、管弦打楽器専攻で選抜された学生を中心に編成されています。プログラムによると107名で、大学院1年2名、大学4年39名、大学3年20名、大学2年10名、大学1年11名、短大専攻科2名、短大2年3名、短大1年3名、教員5名、演奏員7名、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団3名、卒業生2名。 演奏者はマスクをつけて入場して、座席に座ってからステージ上でマスクを外しました。井上道義は最初からマスクなし。

プログラム1曲目は、高木日向子作曲/L'instant。2019年のジュネーブ国際音楽コンクールの作曲部門の優勝作品です。高木は大阪音楽大学大学院を修了し、受賞当時は作曲助手を、現在は作曲専攻で講師を務めています。 プログラムに掲載された高木本人の解説によると、「L'instant」は「ランスタン」と読み、フランス語で「瞬間」の意味で、「音楽のエネルギーを上昇させる力“Arsis(アルシス)”と減衰させる力“Thesis(テシス)”が交わる瞬間が、音楽における「瞬間」であり、この「瞬間」の連続こそが音楽である」とし、画家の高島野十郎(たかしま やじゅうろう)が描いた「蝋燭(ろうそく)」の絵をテーマにして作曲したと記しています。 オーボエとアンサンブルのための作品で、20分くらいの曲です。中村理事長は昨年の定期演奏会でさっそく披露したかったようで、前回のプログラムにも「上演権などの問題があり、残念ながら今回の定期でご紹介することは叶わなくなりました。(中略)来年の定期演奏会で実現すべく検討を開始しております」と記していて、井上に相談したところ、プログラムすべてが日本人作曲家の作品になったとのこと。
オーボエ独奏は、大阪音楽大学講師の大島弥州夫(やすお)。楽器配置は、左から、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ファゴット、クラリネット、オーボエ、フルート。後列にピアノ、ハープ、打楽器2、ホルン、トランペット、トロンボーン。中央に独奏オーボエと指揮者の編成です。指揮台はありません。
この日の4曲の中では、一番印象に残りました。演奏レベルも高く、プロと変わりません。武満徹に似たゆったりした流れと色彩感で、武満よりも打楽器の打ち込みや拍感が強い。 打楽器は、マリンバ、鉄琴、大太鼓、ボンゴなど種類が多い。弦楽器が弓で弦を鳴らす奏法や、トランペットのミュートの使い方がユニーク。弦のトレモロも効果的。 オーボエ独奏の大島は上下左右によく動きます。中間部分はコールアングレに持ち替えて長いソロ。音程をグリッサンドのように上下しました。井上は指揮棒なしで、手を高く挙げて指揮しました。 演奏後は井上が興奮気味に大島と握手。本当はひじタッチだったようですが、興奮して握手してしまったようです。オフィシャルウェブサイトには「オーボエソロの大島さん大健闘猛勉強超表現力。素晴らしく楽しかった。」と記しています。。作曲者の高木日向子が客席から登場して拍手を受けました。

舞台転換の間に、井上道義が「ヒーローインタビューやります」ということで、高木日向子とトーク。井上が「いい曲でしょ」と聞くと、客席から拍手。「オーボエソロはジュネーブよりうまかったんじゃないの?」と聞くと、高木もそっと同意していました。「この曲は何を表していた?」と聞くと、高木が「「蝋燭」の絵の揺らぎの瞬間を見て、上昇と減衰の力の境目を瞬間ととらえた」などと答えると、井上は「ジジイから言うとそれは正しい。人間は過去にも未来にも生きられない。瞬間しか生きられない」と同意しました。

プログラム2曲目は、尾高尚忠作曲/フルート協奏曲。フルート独奏は、大阪音楽大学准教授の上野星矢。尾高尚忠は尾高忠明(大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督)の父ですが、井上曰く、「お父さんが3才で亡くなったので、次男の尾高忠明は覚えていない」。また、初演でフルート独奏を務めた森正については、「僕を東京都交響楽団に雇ってくれたので頭が上がらない」と話しました。京都市交響楽団などで常任指揮者を務めた森正がフルート奏者として活躍していたのは知りませんでした。
この作品は尾高尚忠の最後の作品で、小編成オーケストラの「作品30a」と、大編成オーケストラの「作品30b」がありますが、今回は作品30bを演奏。上野星矢は体型が細い。ソロパートはずっと吹いていて休みがあまりありませんが、中編成のオーケストラに埋もれがちだったので、もう少し音量があってもいいでしょう。 1曲目に比べると楽想が古典的ですが、第2楽章の途中でピアノの弦を手で弾く奏法があり、チェンバロのような音がしました。井上は表情豊かな指揮で身体を大きく使いました。

休憩後のプログラム3曲目は、武満徹作曲/グリーン。もともと「ノヴェンバー・ステップス第2番」という曲名でしたが、のちに改題されました。大編成で、指揮台が設置されました。 なぜかコンサートミストレスとその隣のヴァイオリン奏者だけ、台の上にイスが置かれていました。やはり1曲目の高木の作品に似ているところがあります。ゴング?が特徴的。音色が荒々しいですが、もう少し洗練された音色がこの作品には合うでしょう。短い作品です。

プログラム最後の4曲目は、三善晃作曲/交響三章。ほぼ同じメンバーで打楽器が増員されました。60年前の1960年に作曲されましたが、今聴いても現代的です。 なかなかつかみどころがない作品で、ものすごく複雑。演奏はコロナの影響からか音色のブレンドがいまいち。打楽器が大炸裂し、最後はヴァイオリンソロで終わります。井上は途中から指揮棒を持って指揮しました。足を上げたり大きめのリアクションで、とてもパワフル。オフィシャルウェブサイトでは「演奏者に挑戦するような、音型、難リズムを彼らはコンピューターゲームのように楽々と越えてくる。」と書いていますが、演奏する方からすると確かにゲームのような感覚があるかもしれません。

カーテンコールの終わりに、井上道義が「ひとことだけ」と言いながら登場。「アンコールはとても練習するヒマがなかった。ここまで来るのに大変だった。この曲は戦争で友達を亡くしたので、暗い曲で始まる。こういうふうにならないように、戦争反対」と話しました。「今日はよく来ていただきました」の後に、現在のコロナの状況についても何か言いたそうでしたが、オフィシャルウェブサイトでは「全くそんなに、病になることは死ぬことは、怖いんか?????」と記し、公演終了後のTwitterでは、「コロナ 全国で2700人超が感染」というニュースに対して、「普通の風邪の感染者数(中略)、癌罹患認定の数、全て発表してくれ。比較がデキナイ!!」と怪気炎を上げています。 団員全員で礼。21時に終演しました。アナウンスにしたがって、規制退場。1階、2階、3階の順でしたが、夜が遅く早く帰りたいからか、ほとんど守られていませんでした。

大阪音楽大学では約7割の授業を対面で実施しているようですが、演奏会は「一般入場可」としている演奏会は少なく、「第32回大阪音楽大学学生オペラ」などは関係者のみの公演となっています。困難な時期が続きますが、日本の音楽界の発展のために、ぜひ頑張ってほしいです。


ホール前のイルミネーション 建物の前で検温 お知らせ「当面の間カフェ・ショップ・プレイガイド・クロークを休止致しております」

(2020.12.30記)


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