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2015年10月24日(土) 座席:自由 |
2015年10月22日(土)に開館した兵庫県立芸術文化センターが、今年で開館10周年を迎えました。開館10周年を記念して、2015年10月24日(土)に「兵庫県立芸術文化センター オープンデイ」が開催されました。直近の9月11日には公演入場者数が500万人を突破するなど、高いホール稼働率を誇っています。私も開館1ヶ月後のオープニング・バレエ・ガラ よみがえるニジンスキー版「春の祭典」で初めて訪れて以降、これまでに6回足を運びました。
この日は通常公演はなく、3つのホール(KOBELCO大ホール、阪急中ホール、神戸女学院小ホール)のすべてが、この「オープンデイ」の企画に充てられました。このイベントのために、前々から用意周到に準備されたことがうかがえます。各企画はいずれも入場は無料ですが、定員を超えた場合は入場が規制されるとのこと。なお、「事前申し込み対象プログラム」が3つありました(佐渡裕の白熱音楽教室、音楽劇「星の王子さま」ワークショップ、PACオケメンバーによるミニコンサート)。往復はがきでの応募でしたが、私は申し込みませんでした。共通ロビー「ピアッツァ」にはモニターテレビが置かれていて、各ホールの様子をライブカメラ映像配信されました。
10:15〜 舞台からくり見せまShow 阪急中ホール
朝一番の企画で、「照明、音響、小道具…舞台上で様々な効果を生み出すあれこれを実演付きでご紹介!」という内容です。阪急中ホールは「兵士の物語」言葉と音楽のシリーズによる三重奏版を聴いて以来です。客席は8割ほどの入りでした。まずは演劇が開演。演目は紹介されませんでしたが、「不思議の国のアリス」でした。男女2人で演じました。インターネットで調べたところでは、ともに兎桃(ともも)企画という演劇集団に所属している俳優で、羽田兎桃(はたともも)(女性)がアリス、チシャネコ、トランプ、アリスのお姉さん(声)を、まえかつと(男性)が兎とハートの女王を演じました。ステージは奥行きが広い。ステージの床下に穴が開いていたり、袖幕を開閉することでアリスが地下に落ちていく様子をうまく表現したり、紗幕(しゃまく)に影絵を映してアリスの身体の大小の変化を表現したり、舞台効果を存分に発揮しました。舞台装置の転換もすばやく見応えがありました。原作を抜粋したストーリーで、最後はアリスの夢だったというオチです。
演目の終了後は男性スタッフ(金子さん)が登場(インターネットで調べたところでは、兵庫県立芸術文化センター主任舞台技術専門員の金子彰宏氏か)。「舞台効果はいかにお客さんをだますかが大事」と話し、先ほどの演目はどういう仕掛けだったかについて紹介しました。「袖幕」は開けたり閉めたりして使う。暗転で客の気を散らせないようにするために、暗転時に演者に客席の通路に行かせたり、舞台袖からセリフだけ聴かせたり工夫されていました。中ホールのステージの床下は、10×16枚の畳のようになっていて、どこでも外せるようになっているとのこと。「紗幕」は「世界観を変えるときに使う」。ステージ奥の照明を消すと紗幕の奥は見えなくなりました。照明は「LEDだと冷たく感じられるので、電球を使っている」。また「振り落とし」「振りかぶせ」は、トランプカードがステージに落ちてきた仕掛けと、背景の幕が一瞬で床下に落っこちた仕掛けで、釘が刺さっている棒を傾けることで幕が落下します。「フライング」という機構の紹介では、セキヤ部長(インターネットで調べたところでは、兵庫県立芸術文化センター舞台技術部部長の関谷潔司氏か)が登場。猫の目が描かれた長方形の絵を舞台袖で人が引っ張ることで左右に揺れます(下部写真を参照)。意外にも原始的な仕掛けで驚きましたが、ぴったり止めるのがとても難しいとのこと。セキヤ部長が揺れを見事に止めることができて、客席から大きな拍手が送られました。最後は観客が自由にステージに上がって、各装置を身近で確認できました。普段の舞台では見られない裏方さんの工夫が見られてよかったです。スタッフの表情もイキイキされていました。
11:00〜 ゆたかの部屋 KOBELCO大ホール
兵庫県立芸術文化センター芸術監督の佐渡裕がスペシャルゲストを招いてトークをする企画です。スペシャルゲストが誰なのかは事前に明かされませんでした。定員は1800名。開場は10:00でしたが、9:40頃に着いた時点ですでに大行列ができていました。ホール入口で「ゆたかの部屋 入室券」が渡されました。「大入り満員ですので、お席はつめてお座りください」と書かれていましたが、2階席以上はスッカスカだったので、客の入りは8割程度でしょう。
佐渡裕が登場。ステージに並べられた椅子に座りました。はじめに、兵庫県立芸術文化センターの開館10年と入場者500万人(9月11日に達成)について感謝の言葉を述べました。「さんまのまんま」のように「ピンポーン」とインターホンの呼び出し音が聞こえて、佐渡裕がゲストを出迎えるという形式で進行しました。最初のゲストは「地域の方」。男性4人と西北活性化協議会の3人と阪急タクシーの運転手が普段着で登場。開館当時の地元の受け止めについて「無駄なものを作ったという声もあったが、「劇場を心の広場にしたい」 という佐渡の考えに共感している」とのこと。佐渡も「三宮よりも西宮のほうが来やすいと思った」などと熱く語りました。
続いてのゲストは、桂ざこば。佐渡裕の体格が大きいので、二人が並ぶと桂ざこばが小さく見えました。佐渡とざこばの接点が分かりませんでしたが、兵庫県立芸術文化センターで上演した「メリー・ウィドウ」(2008年)と「こうもり」(2011年)で共演したとのこと。「メリー・ウィドウ」では、佐渡裕の代わりに桂ざこばがかつらをかぶって指揮したとのこと。佐渡は「関西のお笑いの文化を取り入れたいと思った。再演したいけど残念なことにセットを残していない」と話しました。ざこばから「「荒城の月」はクラシックか」などの質問が投げかけられましたが、佐渡は「いいところついてきますよね」「BGMなどが増えて、音と向き合うことが少なくなってきた」と語りました。本番で客に寝られたらどうするかについては、佐渡は「寝られるのは仕方ない」と話しましたが、ざこばは「落語は大きな声で起こす」と話しました。佐渡は高校2年生のときに、朝比奈隆が京都市交響楽団を指揮して「ピーターと狼」を演奏した演奏会で、桂米朝(桂ざこばの師匠)が語りだったのを覚えているとのこと。桂ざこばは明日阪急中ホールで落語会(特選落語競演会2015 in 秋のひょうごスペシャル!)を開催するが、チケットはすでに完売とのこと。ホール稼働率(98%)についても語られました。
桂ざこばが退場した後は、しばらく佐渡裕が一人でトーク。「おとといウィーンから戻ってきた。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任して、3週間滞在した」と話しました。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団音楽監督は今秋から就任しましたが、引き受けた理由について、佐渡は「経営基盤がしっかりしている。オーケストラでも簡単につぶれる時代になっている。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団は州立のオーケストラで、フルトヴェングラーが指揮していた」と話しました。ここからは、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団との練習風景やムジークフェラインの写真などをモニターで見ながら、佐渡がコメントしていきました。「若かったときにムジークフェラインののぞき窓から練習を覗いたが、カルロス・クライバーは入れてくれなかった」とのこと。なお、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団との録音は来年春に発売されるとのことで、曲目はR.シュトラウスの「ばらの騎士」と「英雄の生涯」。佐渡は「会話はドイツ語で、練習は1日6時間が1週間続いた。脳みそがプラスチックになった」と語りました。ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団については「ウィーンフィルやベルリンフィルでないことは分かっている。自分たちの音楽を作っていきたい」と抱負を語りました。
最後のゲストは、兵庫芸術文化センター管弦楽団の団員3人。佐渡は兵庫芸術文化センター管弦楽団をPAC(パック)の略称で話しました。団員曰く「とてもいい練習環境」とのこと。発足当初のオーケストラは「みんなエンジン全開だった。脱線や転覆は当たり前だった。最初の合奏(「新世界より」)ですぐに止まった。倍のテンポで演奏したから」と想い出話を語りました。ちなみに、発足メンバーで最初に就職できたのは、オーボエ奏者のフロラン・シャレール(現:京都市交響楽団)とのこと。最後にスタッフへの感謝が述べられて、12:50頃に終了しました。
マエストロ[指揮者]はどんな音を聴いているの!? KOBELCO大ホール バックヤード特設舞台
この日はKOBELCO大ホールの楽屋からステージまでを自由に通行できました。普段は入れないエリアなので、貴重な機会です。1階のスタジオ受付から中に入ります。楽屋はステージを取り囲むように、上手側、下手側、後方にありますが、この日は下手側の楽屋が見学できました。「楽屋10」「楽屋11」「楽屋12」は広く、オーケストラ団員が使っていると思われます。その隣の「プレミエ1」と「プレミエ2」は個室で、佐渡裕もどちらかの楽屋を使うとのこと。「プルミエ2」にはホールの様子が映るモニターテレビと、ピアノ(アップライト・ピアノ)、ソファーが置かれていました。「プルミエ1」はステージに一番近い。モニターテレビとピアノ(グランド・ピアノ)が置かれていました。また、入口の横にはシャワールームがありました。楽屋廊下には、次の「佐渡裕の白熱音楽教室」に出演する吹奏楽部員の姿が見えました。
ステージでは14時から行われる「佐渡裕の白熱音楽教室」(事前申し込み対象プログラム)のセッティングが行われていました。先ほどまで「ゆたかの部屋」で使われたセットが撤去された後、まず反響板が設置されました。コの字の反響板がステージ後方から前方に向かって、床下のレールに沿ってゆっくり移動しました(女性アナウンスが自動で流れました)。また、ステージを広くするため、オーケストラピットの部分に地下からステージが上がってきました。反響板の後ろのスペースがとても広くてびっくりしました。壁面には公演を行なったアーティストのサインが多数書かれていました。
ステージ裏の「バックヤード特設舞台」には、今年7月に上演されたオペラ「椿姫」で実際に使われた衣装をマネキンに着させてステージに展示されました。また、オーケストラピットが再現され、オーケストラ団員が座る席も置かれていました。
神戸女学院小ホール自由見学
PACオケメンバーによるミニコンサート(事前申し込み対象プログラム)の合間をぬって、神戸女学院小ホールが見学できました。エスカレーターに乗って、4階へ。小ホールに入るのは初めてでした。400席あって、八角形のような形をしています。京都コンサートホールのアンサンブルホールムラタに少し似ています。
作ろう!缶バッチ・キーホルダー KOBELCO大ホール ホワイエ
10周年記念の缶バッチとキーホルダーを自分で作る企画です。私はキーホルダー作りに挑戦しました。糸をよじってミサンガを作ります。キーホルダーは丸い木に、佐渡裕の似顔絵と兵庫県立芸術文化センターのシンボルマークが印字されています。袋には「異なる考えや文化を持つ人同士が同じ空気の振動の中で共に生きていることの喜びを感じられる。それが音楽の持つ力だ。」という佐渡裕からのメッセージが 日本語、ドイツ語、英語の3ヶ国語で書かれていました。なお、缶バッチはスタッフからいただきました。兵庫県立芸術文化センターのシンボルマークの下に「Hyogo Performing Arts Center」の文字が入っています。有料で販売してもいいほどのクオリティです。
17:00〜 チェンバロってどんな楽器? 共通ロビー「ピアッツァ」
最後の企画は、チェンバロ・ミニレクチャー。チェンバロ演奏は吉竹百合子。二段鍵盤の楽器で演奏されました。1曲目は J.S.バッハ作曲/平均律クラヴィーア曲集第1巻よりプレリュード。意図的なのか、演奏のテンポが一定ではありません。調律師の安田泰儀が登場して、ミニレクチャー。「チェンバロの楽器の色は、赤だけではなくて、白や茶色や緑もある。「ハープシコード」や「クラヴサン」と呼ばれることもある」と解説。チェンバロとピアノの違いは、「ピアノはフェルトを巻いた木が弦を叩くことで音が鳴る。チェンバロはジャックという白い爪が下から弦をひっかく。ジャックが上から下に動くときはばねの仕掛けで音は鳴らない」と説明しました。チェンバロの楽器構造は意外にも複雑ですね。また、「チェンバロはピアノよりも音程が低く、ピアノはA=440Hzだが、チェンバロはA=415Hzで、半音低い」。調律方法に関しては、「ピアノは平均律で調律するが、チェンバロはバロッティという調律方法で、きれいな音だけ合わせる。使わない音は汚くてもよい」と説明しました。2曲目はラモー作曲/ミューズたちの語らい。癒されました。3曲目はヘンデル作曲/パッサカリア。変奏曲です。シンフォニックで力強い。二段鍵盤のチェンバロは右端(レジスター?)を操作することで、三本の弦を弾けるとのこと。電気もない時代によく考えたものです。
メッセージボード 共通ロビー「ピアッツァ」
10周年を記念してメッセージボードが作られました。一人に一枚、正方形のメッセージカードを渡されて、「これまでの10年、これからの10年」に関連するメッセージを自由に記入しました。私も1枚書いてみました。貼り合わせると大きな絵になりました。2つあって、1つはケーキの絵で、「HAPPY 10th Birthday」「2015.10.24 OPEN DAY」と書かれていました。もう1つのメッセージボードは完成途中でしたが、ともに後日館内に掲示するとのことです。
「オープンデイ」の名前にふさわしく、ホールをまるまる一日使用した大掛かりなイベントでした。これ以外には「スタッフと歩こう!芸文ウラオモテ」(約1時間)という企画が5回行われました。全館にまたがって「現場で働くスタッフが館内を案内しながら仕事内容をご紹介します」という内容で、ぜひ参加したかったのですが、各回の定員はわずか30名で、受付は開始30分前からでしたが、受付待ちが常に大行列で参加を断念しました。
ホール裏や楽屋の見学が楽しかったです。定期的にホール見学を行なっているコンサートホールは、私が知る限りでは、兵庫県立芸術文化センター、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、東京文化会館ぐらいでしょうか。他のコンサートホールでもぜひ見学したいです。