京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」


   
      
2010年12月28日(火)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

小林研一郎指揮/京都市交響楽団
菅英三子(ソプラノ)、坂本朱(メゾソプラノ)、水口聡(テノール)、青戸知(バリトン)
京響市民合唱団

ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」

座席:S席 3階C−3列29番


年末恒例の第九演奏会も今年は京都市交響楽団の1つだけ。京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」は、2008年の広上淳一2009年の井上道義を聴いているので、これで3年連続です。昨年は初の2回公演でしたが、今年は1回のみでした。
今年の指揮者は小林研一郎。京都市交響楽団では第8代常任指揮者を務めました。小林は前々日の26日まで、桂冠指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団と第九を5公演指揮しました。多忙なスケジュールの中、よく京響に呼べたものです。かつて日本フィルで正指揮者を務めた広上淳一のコネでしょうか。小林研一郎の第九は、2003年に日本フィルハーモニー交響楽団第193回横浜定期演奏会で聴いているので、7年ぶりです。

チケットは早くも10月に全席完売。特別演奏会なので、プレトークはなし。途中で休憩がないことが入場時に告げられました。京都市交響楽団長を務める門川大作京都市長が1階席で聴いていました。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/「エグモント」序曲。小林研一郎が胸に手を当てながら登場。譜面台なしで指揮しました。音量を落とすところはしっかり落として弱奏を聴かせます。259小節からのホルンは音を割るように演奏。
小林は前傾姿勢で腰をかがめて指揮します。前半はオーケストラをかき回すように大きく動きましたが、終盤のAllegro con brioは左手を上げたまま止まるなど少ない動きでした。

プログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。京響市民合唱団がステージ後部に入場。左から、ソプラノ、アルト、テノール、バスの順。昨年よりも人数が増えたようで、パンフレットに掲載された名前を数えると約150名。男声と女声の割合は1対2で女声が多い。
「エグモント」序曲同様、弱奏の音量を抑えてメリハリが効いています。弦楽器中心の響きで、金管楽器はあまり鳴らしません。ティンパニはやや大きめ。木管楽器の音色が美しくよく聴こえました。低音・中音・高音のバランスはよくありませんが、これが小林研一郎のサウンドと言えるでしょう。小林研一郎は京都市交響楽団とあまり共演していないせいか、阿吽の呼吸とはいかずオーケストラには少し戸惑いも見られました。
小林研一郎は首を上下に激しく動かしながら指揮。右手の指揮棒に全神経を注ぎ込んだようで、たまには左足を浮かせて重心を乗せているようでした。指揮棒のまわし方も独特。うなり声はほとんど聴こえませんでした。日本フィルハーモニー交響楽団第193回横浜定期演奏会では聴かれなかった演奏解釈もありました。小林研一郎の演奏解釈も進化しているようです。
第1楽章427小節の前でパウゼ。509小節からリタルダンド。510小節の「a tempo」を無視して、512小節まで遅くしました。538小節4拍目をフェルマータのように長く延ばしました。この解釈は珍しい。
第2楽章は反復記号での繰り返しはなし。272小節のティンパニの最初の一撃にモルトアクセント。412小節からのトリオは弦楽器が音量を落として弱奏で演奏。
第3楽章の前にチューニング。その間に独唱者4人が入場。オーケストラと合唱団の間に座りました。第3楽章は美しい弱音でゆったりと演奏。かなり長く感じました。小林研一郎の指揮も穏やか。京都市交響楽団弦楽アンサンブルの魅力が堪能できました。121小節からのファンファーレでうなり声が聴こえました。133小節からの第2ヴァイオリンはテヌートで演奏。
続けて、第4楽章へ。冒頭のチェロとコントラバスは音量を落とすなど表情を大きくつけました。92小節の前で指揮棒を止めてパウゼ。合唱は楽譜を持たずに暗譜。怒鳴らないで自然に響かせました。昨年の第九コンサートでレベルアップした歌声を聴かせて驚きましたが、今回もなかなかの完成度。小林研一郎は左腕でホール後方を差して、遠くまで響かせるように指示していました。歌詞では子音を聴かせました。小林研一郎のこだわりでしょう。独唱はバリトンの青戸知がよく通る明るい歌声。

演奏終了後は、小林研一郎は上機嫌に団員と握手。パートごとに立たせて拍手を受けさせていました。ヴォイストレーナーの小玉晃とコンサートマスターの泉原隆志と小林研一郎と独唱4人が一列に手をつないで礼。オペラのカーテンコールのようでした。
小林研一郎が挨拶。「久しぶりに京都のみなさんと第九を演奏しました。常任を任せられたとき以来ですから、15年ぶりくらいでしょうか。懐かしい思い出もありました」と話しました。小林研一郎が京都市交響楽団常任指揮者を務めたのは1985年4月から1987年3月までなので、小林の話が本当ならば20年以上経ったことになります。本当に久しぶりだったようです。「みなさまの「気」によって、ベートーヴェンの深遠な世界に足を踏み入れられたのではないかと思います。来年もすばらしい1年になりますように」と話しました。最後は、出演者全員で深々と一礼。全員で一礼は日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会で行なわれていますが、その伝統を京響でも行なったということでしょう。ロビーでは小林研一郎のサイン色紙つきCDが販売されていました。

小林研一郎は日本の現役指揮者の中でも一二を争うほど第九の演奏回数が多い指揮者ですが、日本フィルハーモニー交響楽団第193回横浜定期演奏会から7年の時間を経て、演奏解釈が進化していることが確認できました。「炎のコバケン」などと呼ばれますが、強奏よりもむしろ弱奏を重視した演奏が意外でした。

(2010.12.31記)


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