日本フィルハーモニー交響楽団第193回横浜定期演奏会


   
    
2003年12月20日(土)18:00開演
横浜みなとみらいホール大ホール

井上圭子(オルガン)
小林研一郎指揮/日本フィルハーモニー交響楽団
菅英三子(ソプラノ)、竹本節子(メゾ・ソプラノ)、錦織健(テノール)、青戸知(バリトン)
東京音楽大学合唱団

J.S.バッハ/主よ、人の望みの喜びよ
J.S.バッハ/トッカータとフーガ
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱」

座席:Ys席 3階C 1列33番


今年も第九の季節がやってきました。第九を年末に集中的に演奏するのは日本だけの慣習です。毎年何回も同じ作品を演奏したり聴いたりするのは少し異常だと思っていました。でも、逆に考えれば、同じ作品の聴きくらべが短期間でできますし、第九も繰り返し聴くに値する作品だと思うようになりました。
第1弾は日本フィル常任指揮者の小林研一郎による第九です。小林研一郎を横浜で聴くのは今回が初めてです。座席はほぼ満席でした。

プログラムの前半は、バッハのオルガン曲が並びました。まず1曲目は、J.S.バッハ作曲/主よ、人の望みの喜びよ。オルガン独奏は井上圭子
オルガン作品を聴くのは、日本フィル京都演奏会2002の「オルガンシンフォニー」以来でしたが、この横浜みなとみらいホールのパイプオルガンは京都コンサートホールに比べると、だいぶ音色が柔らかくやさしく感じました。演奏は、速めのテンポであっさり。主旋律以外があまり聞こえないのが残念。

プログラム2曲目は、J.S.バッハ作曲/トッカータとフーガ。井上は足を左右に動かし全身を使って演奏していました。トッカータは、今まで聴いたことがないような速いテンポでの演奏。そんなに速く弾く作品ではないと思うので、もっとゆっくり丁寧に演奏して欲しいです。また、音量は強奏でもやや小さく、低音のボリューム感も物足りなく感じました。この作品の演奏にはもう少し力強さが必要でしょう。フーガは、聴きたいパートが聞こえないなどやや散漫な印象。もう少し交通整理が必要でしょう。
井上の演奏はオルガンの楽器の魅力は伝わりましたが、バッハの格調高さはあまり感じられませんでした。思ったのですが、オルガンはどうやって音色の変化などを表現するのでしょうか。音色はそのホールのオルガンに左右されることが大きいように感じました。

休憩後のプログラム3曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱」。東京音楽大学合唱団が入場。クワイア席ではなく、ステージ後方に並びました。約250名を数える大合唱団でステージ奥に5列を占めました。その影響でオーケストラはステージに乗れないのか中規模編成。少し残念でした。
オーケストラの演奏は、やはり全体的に金管楽器がパワー不足で、いまひとつ緊張感がありませんでした。日本フィルは金管楽器が鳴らない。存在感が薄すぎるのが不満です。特にトランペットは楽器に息が入っていない。ホルンも音色が汚い。弦楽器は美しく演奏していましたが、厚みに欠けました。管楽器と打楽器は弦楽器と方向性が違うように感じました。小林研一郎のうなり声もあまり聞こえませんでした。やや不完全燃焼でしょうか。
第1楽章は、あまり聴きどころが多くなくダラダラ続いた印象です。力を抜いて演奏しているように聞こえるのが気になりました。葬送行進曲が始まる513小節の前にはパウゼを置いていました。
第2楽章は、57小節から行進曲のようなアクセントをつけて演奏していました。264小節からはティンパニの連打は大きすぎて耳障り。しかし、テンポが速い曲のほうが得意なのかサウンドとしては第1楽章よりもまとまって聞こえました。木管楽器のソロも美しい。
第3楽章の前に、オーケストラがチューニング。その合間に独唱者と打楽器奏者の残りが登場。独唱者は合唱団とオーケストラの間に座りました。第3楽章はスコアを見ながらCDを聴いても難解に思えますが、小林はスムーズに流していました。25小節からのAndante moderatoはかなり速いテンポで演奏しており、この楽章に対するイメージが変わったような気がします。田園風景が思い浮かぶような演奏でした。121小節からのファンファーレは、一変してうなり声を上げて、足を踏みならす激しい指揮となりました。
そのまま間髪入れず第4楽章に突入。この楽章だけ取れば、オーケストラは驚異的な完成度でした。92小節から始まる弦楽器のメロディーがとても美しい。331小節からのAllegro assai vivaceは速いテンポで演奏。東京音楽大学合唱団による合唱は、人数が多いため一人一人が無理に音量を出すことなく歌っていました。若々しくみずみずしい歌声で、小林のタクトにもよくつけていました。バリトンが力強く、女声ものびやか。オーケストラは合唱が入ると音量を落とし伴奏気味に演奏していました。独唱者では、青戸知のバリトンはよく通る声で声量もすばらしい。錦織健のテノールは軽い歌声でしたが、声量としてはもう少し欲しいところ。重唱では各声部をさらに明瞭に聴きたいように感じますが、ホールを満たすには十分な声量でした。
演奏終了後のステージは、まるで忘年会のような盛り上がり。「第九」を演奏すると、1年が終わった、一仕事終えたような充実感があるのでしょう。小林も独唱者と抱き合っていました。小林が「今年も横浜のみなさまにオーラをいただきました。どうぞよいお年をお迎え下さい」とあいさつし、終了しました。

小林研一郎指揮の日本フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴いたのは、これが3回目になります。弦楽器は大変すばらしいですが、金管楽器が鳴らないのと打楽器がうるさいという印象は変わりませんでした。

なお、演奏会の休憩中にロビーで、小林研一郎指揮日本フィルによる「第九」CDが発売されていました。限定発売でCDショップでは売っていないということだったので、買ってみました。自主制作盤と予想していましたが、エクストンレーベルのCDでした(OVCL-00190)。Disc1が1999年12月27日にサントリーホールで行われた演奏会のライヴ録音、Disc2に2003年11月3日に行われた武蔵野合唱団の公開リハーサルが収録されていました。Disc1は一般的に入手可能ですが、Disc2の公開リハーサルがなかなか興味深い。歌詞を重視した指導を行っている点が特徴です。

(2003.12.29記)




東京都交響楽団京都公演 東京フィルハーモニー交響楽団「第九」特別演奏会