京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター平成20年度第1回公開講座「祇園祭り 鶏鉾の囃子」


   
      
2008年5月31日(土)14:00開演
京都芸術センターフリースペース

司会・進行:田井竜一(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター准教授)
お話:森章太郎(鶏鉾囃子方代表)
実演:鶏鉾囃子方

座席:全席自由


2005年に行なわれた京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター平成17年度第1回公開講座「祇園囃子の世界」に続く第2弾です。前回は長刀鉾の囃子の実演を詳しい解説を交えながら鑑賞しました。3年ぶりの今回は鶏鉾です。田井竜一氏は祇園囃子に関する研究論文をコンスタントに発表しています。祇園囃子を音楽的に分析する京都の大学ならではの研究で、公開講座で研究成果を還元してくれます。すばらしい。
会場は前回と同じく京都芸術センターフリースペース。入場無料ですが、定員は先着200名。あいにくの天気のなか、13:30の受付開始前にすでに客が並んでいました。靴を脱いで座布団に座って鑑賞します。大入りで、祇園囃子に興味関心を持っている人が多いことが分かりました。新聞社も取材に来ていました。

鶏鉾囃子方のメンバーが浴衣姿で登場。もちろん全員男性です。向かって左側から、鉦(かね)が7名、太鼓が2名、笛が8名の編成です。鉦は座布団に正座で座って演奏。上からぶらさがっているヒモで鉦を結びます。鉦がぶらさがっている棒の端に鶏鉾と書かれた赤いちょうちんがありました。太鼓は赤い布を敷いた台の上に正座で座りました。長刀鉾では太鼓2名が向かい合って座りましたが、鶏鉾では2名がハの字に座りました。笛はイスに座って演奏しました。さっそく演奏が始まりました。曲目は、「チャンチキチン(戻り地囃子)」→「常杢 (じょうもく)・萬歳」→「若一つ」。少人数ですが、音量がとても大きいです。鉦の近くに座ったので金属音がすごかったです。

演奏後、太鼓を叩いていた森章太郎氏と田井竜一氏が、配布されたレジュメに沿ってトーク。最初に担い手の説明。鶏鉾囃子方は財団法人鶏鉾会の一組織で、鉦方、太鼓方、笛方の3パートで構成される。全員で36人で活動しているとのこと。小学校4年生くらいに鉦方になって約10年続けて、20歳で太鼓方か笛方か本人の希望で選べるとのこと。普段は東京に住んでいて、今日の演奏に参加してくれた人が3人もいました。ただ、囃子方には自由に入れるわけではなく、知り合いの子供や知人の紹介など町内に関係のある人が条件ですが、入りたい人は理事長に相談してもらうとのこと。森氏は「あとは熱意」と話していました。ちなみに、鶏鉾町は室町四条下ルの池坊短期大学の周辺で、鉾ビルが建っているとのことです。
囃子の機会は、やはり7月の祇園祭の期間中がメインです。山鉾巡行の次の土曜日には「足洗い」と呼ばれる囃子方の反省会が開かれる。7月18日〜23日に行なわれるお旅所での奉納囃子を2年に1回担当するとのこと。5月〜12月は囃子の稽古をしているとのこと。ちなみに、今回のような外での演奏を「出囃子」と呼ぶそうです。
曲目は、大きく分けて、「地囃子(通称イキシ)」と「戻り囃子(通称モドリ)」に分けられる。他の鉾では、奉納囃子やワタリとも呼ばれる「地囃子(通称イキシ)」は、山鉾巡行当日に四条河原町まで行くときに演奏されます。ゆっくりしたテンポの曲です。対する「戻り囃子(通称モドリ)」は、テンポが速く軽快な曲です。また、場所によって決まって演奏する曲があるとのこと。くじ改めでは「小松・神楽」、お旅所(四条寺町)では「唐子(からこ)」、四条河原町の辻回しでは「都含(はずみ)」、新町御池で「亀・式」が例です。宵山や巡行の最後では「若」を演奏します。「若」には一つ、三つ、五つ、七つのパターンがあり、回数が増えるとスピードが速くなるとのこと。また、鶏鉾の特色として、2曲で1つのグループで演奏される曲があります。「鶴・旭」が一例ですが、前曲は導入部分の扱いで、繰り返す際は前曲は繰り返さないで後曲のみ繰り返すとのこと。
続いて、楽器の奏法の説明。鉦は真ん中と縁の上下を打つことを「チャン・チ・キ・チン」と表現していました。長刀鉾では「コン・チ・キ・チン」と言っていたので、鉾町によって呼び方が異なるようです。鉦を打つカネスリは鹿の角で作られている。鹿の角でも出ている部分は鬆(す)が入るので、頭蓋骨に近い部分を使うとのこと。また、くじらのひげで作られたものもあるが、いずれにしても調達するのが悩みとのこと。水牛の角や骨で作られた物もあるが、森氏は「樹脂はしなりが違う」と話しました。太鼓は締め太鼓を使用。腕を曲げずに肩からまっすぐ下ろすようにして叩きます。腕の高さによって「小バチ」「中バチ」「大バチ」と呼ばれます。また、太鼓の表面を摺る「摺りバチ」と、表面にバチを置くような「押しバチ」があります。さらに、バチを肩に載せるような動作や左右のバチを胸の前で交差させる動作があります。演奏には関係ないポーズの意味合いが強い動作ですが、目的は「かたちを見せるため」とのことでした。鉾の上で演奏しているときは絶対に見えない動作なので、間近で見ることができて貴重です。また、太鼓方2名で異なるパターンを演奏する「打ち込み」の奏法も披露されました。他の鉾町ではあまり見られないユニークな奏法とのこと。アドリブで演奏されるのでなかなかスリリングです。笛は能管を使用。笛のみ個人持ちとのこと。1本何十万円するそうです。鶏鉾の笛は他町よりも高い音域で演奏されるのが特徴とのこと。また、波を打ったように音を揺れ動かす奏法も特徴。遠くからでも鶏鉾の笛と聴いて分かるとのこと。奏法としては、左手の中指を開け閉めして音を変えるとのことです。
曲を口で覚えるために「口唱歌(くちしょうが)」があって、口頭で伝承しているとのこと。鉦は上述したように「チャン・チ・キ・チン」。太鼓は大バチが「テン」もしくは「テレ」、小バチが「ツク」で表現されます。また、鉦のみ譜が作られています。昔はなかったようですが、練習用に作ったとのこと。真ん中打ちを●で書かれ、縁の上下打ちは▲を上下に記載することで表現していました。「ソレ」などの掛け声や、タイミングを示すために太鼓も一部書かれているようです。前回の長刀鉾は縦書きの譜面でしたが、鶏鉾の譜面は横書きでした。また、長刀鉾では譜面がレジュメとして配布されましたが、鶏鉾では門外不出なのか拡大コピーした譜を棒で指しながら説明しました。ちょっと残念。
さらに、間を取るための「掛け声」のほかに、「囃子言葉」と呼ばれる演奏しながら話す長めの掛け声も鶏鉾の特徴とのこと。森氏曰く「指揮者がいないのでタイミングを揃えるために声を出す」「口癖のようなもの」とのことで、練習中でも大きな掛け声を出すように注意すると話しました。
曲の転換は、太鼓方の真(シン)(=リーダー役)が声に出して伝えるほかに、曲名が大きく書いてある帳面をメンバーに見せます。山鉾巡行では多いときには50人が鉾の中に入るようですが、山鉾巡行でも鉾の中で帳面を見せているとのこと。長刀鉾では声で伝えるだけでしたが、帳面を見せたほうが伝わりやすいとのことでした。今回の実演では、鉦と太鼓の間に置かれたイスに座った人が、メンバーに帳面を見せていました。

休憩をはさんで通し演奏。曲順は、「都含(はずみ)」→「乕(とら)」→「松」→「鷄」→「若三つ」。「乕(とら)」までがイキシ(地囃子)、「松」からはモドリ(戻り囃子)です。譜面を棒で指して、演奏している場所を教えてくれました。「都含(はずみ)」は、四条河原町の辻回しで演奏されますが、とても掛け声が多い。「松」は繰り返すたびにテンポが速くなりました。「若三つ」も3回繰り返すたびにテンポが速くなりました。太鼓の2名は向かい合って演奏しているわけではないのによく揃っています。アイコンタクトを取らなくても、叩くタイミングが体に染み付いているのでしょう。全員暗譜で演奏していることだけでもすごいですが、休みなしで長い時間演奏するので、体力的にもけっこう大変です。前述しましたが大きな音で演奏されるので、耳がキンキンして、しばらく耳に残りました。拍手に応えてアンコール。明日の天気を祈る「日和神楽(ひよりかぐら)」を演奏。この曲もだんだんテンポが速くなりました。
マイクが立てられていたので、演奏を録音していたようです。ちなみに、鶏鉾のCDが2006年に発売されています(キングレコード KICH2453)。宵山や山鉾巡行の実況録音で、観客の雑踏や鉾がきしむ音なども収録されているようです。年に1回CDの印税が入って、活動費に充てられているとのこと。

同じ祇園囃子でも前回の長刀鉾と今回の鶏鉾では、奏法など違う部分を実感できました。鉾によって個性があって、祇園囃子は奥が深いですね。実演では宵山や山鉾巡行では見えないことを知ることができました。公開講座の頻度は3年に1回ではなくて、毎年企画していただけたらうれしいです。
ちなみに、田井竜一氏の論文「京都祇園祭り 鶏鉾の囃子」が『日本伝統音楽研究』第1号に掲載されています。また、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターのホームページにある「祇園囃子アーカイブズ」にも同論文が全文掲載されています。詳しい解説はこちらを参照してください。

(2008.6.8記)


京都芸術センター



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