バイエルン放送交響楽団来日公演


   
      
2005年11月20日(日)14:00開演
京都コンサートホール大ホール

マリス・ヤンソンス指揮/バイエルン放送交響楽団
五嶋みどり(ヴァイオリン)

ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第1幕への前奏曲
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン/交響曲第7番

座席:S席 3階 C−3列19番


バイエルン放送交響楽団の来日公演に行きました。2年ぶりの来日ですが、2003年に第5代首席指揮者に就任したマリス・ヤンソンスとの来日公演は今回が初めて。ヤンソンスは去年はアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を率いて、京都に来てくれました(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演)。2年連続で京都に来てくれるなんて、京都コンサートホールが気に入ってくれたのでしょうか。
この京都公演の前日に、兵庫県立芸術文化センターでも公演が行われました。西宮公演のプログラムは、ショスタコーヴィチ/交響曲第5番がメインでした。どちらに行こうか迷いましたが、やっぱりドイツのバイエルン放送交響楽団なので、ベートーヴェンがメインの京都公演を選択。チケットはなんと6月に完売。人気の高さがうかがえます。

プログラムは無料で配布。京都コンサートホール10周年記念のサービスでしょうか。ホールに入ると、空席を探すのが難しいほどぎっしり埋まっていました。
オーケストラ団員が入場。ホルンの位置は木管楽器の右側(コントラバスの左側)に配置されていました。プログラム1曲目は、ワーグナー作曲/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第1幕への前奏曲。ヤンソンスが登場。譜面台なしで指揮しました。私はワーグナーを苦手にしていますが、ヤンソンスの演奏はいい意味でワーグナー臭さがありませんでした。暑苦しくなく、それぞれの楽器が意志を持って演奏。方向性が不明でダラダラ演奏するということがありません。メリハリがついていますが、音量的に不足はありませんでした。チェロとコントラバスが充実した響きを聴かせました。金管楽器をやや大きめに鳴らしていました。プログラム1曲目から満たされました。

プログラム2曲目は、シベリウス作曲/ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は五嶋みどり。指揮者の譜面台とスコアが運び込まれました。五嶋みどりが登場。灰色のドレスでした。地味。かなり入念なチューニングの後、演奏開始。この作品は大変な難曲で、今までに堀米ゆず子(日本フィルハーモニー交響楽団第189回横浜定期演奏会「沼尻竜典正指揮者就任披露演奏会」)、庄司紗矢香(ロンドン交響楽団来日公演)の演奏で聴いていますが、五嶋みどりの演奏は一番余裕がありました。弱奏はゆっくりと時間をかけて大切に演奏。強奏は強いボウイングで、顔を楽器に近づけてのめりこむように演奏。かつてバーンスタインと共演したときに弦が2度も切れたという逸話がありますが、それが分かるほど弓で弦を強くこすりつけるような弾き方でした。技術的な正確さの精度を上げることをかなり心がけていました。どこでも丁寧できっちり弾きます。決して弾き崩したりはしません。音色も美しくここちよかったです。
オーケストラはあまり鳴りません。ちょっと期待はずれ。五嶋みどりの音量に配慮したようで、「競争曲」的なおもしろさは今ひとつ。

休憩後のプログラム3曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第7番。この曲は再び譜面台なしで指揮。みずみずしい響きで見通しがよく、演奏スタイルが若々しい。大編成の割にすっきりした音響です。ヤンソンスのアプローチは正攻法でオーケストラもまじめに演奏。贅沢すぎる意見かもしれませんが、うますぎて少し嫌になりました。かなり精巧な演奏でしたが、もうちょっと遊び心が欲しいですね。完成度が高すぎて少し窮屈に感じました。ヤンソンスはこういう縦ノリの作品は似合わないように感じました。この作品が単調に聴こえます。全体的にホルンと木管楽器はあまり鳴りませんでした。しかし、この作品はカルロス・クライバーのDVDのインパクトが強すぎて、クライバーの魅惑的な演奏からなかなか抜け出せませんね。
第1楽章は176小節の反復記号を守って繰り返して演奏。第4楽章はこれまでの楽章と一転して流れるように演奏。28〜31小節の音量を落とした(32小節からのffを強調するため?)ことと、52〜61小節の弦楽器の音型(付点八分音符+十六分音符)をテヌート気味に長めに演奏したことがユニークな解釈。

演奏終了後は万雷の拍手が巻き起こりました。しばらくしてステージの後ろからトロンボーンとホルンが入場。ベートーヴェンで最後列の席が空いていましたが、アンコールのために空けていたのですね。期待が高まった後に、アンコール。ブラームス作曲/ハンガリー舞曲第6番を演奏。心にくい選曲です。こういう曲のほうがヤンソンスに合ってます。
アンコール終了後、今度はパーカション奏者とトランペットが入場。ベートーヴェンで使わない楽器(小太鼓、大太鼓、シンバル)が置いてあったのはこのためでした。うーん、用意周到。アンコール2曲目、ビゼー作曲/組曲「アルルの女」からファランドールを演奏。まさに圧巻。意外な選曲でしたが、充実した響きを聴かせました。まさにオーケストラの醍醐味。最後はアッチェルランドで終了。ヤンソンスはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演でもメンバーを追加してアンコールを演奏しましたが、実にサービス精神旺盛です。すばらしい。

終演後に五嶋みどりが「Meet&Greet」(サイン会)を行なう掲示があったので、ホワイエに長蛇の列ができました。

マリス・ヤンソンスはバイエルン放送交響楽団首席指揮者とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者を兼任しています。これで2つのオーケストラの演奏を聴きましたが、選曲の問題もあるかもしれませんが、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のほうがいきいきとした演奏でヤンソンスのカラーに合っているように感じました。ヤンソンスはスコアに書いてあることを忠実に演奏するタイプの指揮者で、あまり恣意的に解釈したりしません。逆にもう少し手を抜いてもいいのではと思える部分でも妥協しないのが特徴ですね。2006年にはウィーンフィルのニューイヤーコンサートの指揮台にも上がります。これからの演奏にますます期待です。
バイエルン放送交響楽団は、ヤンソンスが指揮するのでドイツ的な力強さは影を潜めるかと思いましたが、引き締まった響きで細部をまじめに演奏していました。伝統を大切にしながらヤンソンスの指揮にどのように応えていくのか注目です。

(2005.11.21記)




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