ロンドン交響楽団来日公演


   
      
2004年3月9日(火)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

サー・コリン・デイヴィス指揮/ロンドン交響楽団
庄司紗矢香(ヴァイオリン)

〔プログラムB〕
シベリウス/交響詩「大洋の女神」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年版)

座席:S席 1階 19列14番


ロンドン交響楽団創立100周年を記念して行われた通算16回目の来日公演です。しかもロンドン交響楽団首席指揮者のコリン・デイヴィスの指揮というまたとない顔合わせです。
プログラムを1000円で購入し、ホールへ。チケットはかなり高価(これまで行った演奏会では最高額)でしたが、客席は8割程度入ってました。チケット発売初日に購入したので、京都コンサートホール1階席中央の座席でしたが、視覚的にはもう少し前のほうが演奏者の表情が見えると思います。私の前列が招待席のようで、ロンドン交響楽団専務理事が挨拶に来たりしていました。
オーケストラ団員がゆっくりとバラバラ入場。背が高い人が多いように感じました。国民性でしょうか、全員入場するのに時間がかかってました。チューニング方法が変わっていて、サブコンサートマスターが立ってチューニング。終わってから、コンサートマスターが登場。しばらくして、指揮者デイヴィスがゆっくりと登場。長身で恰幅のよい老紳士といった印象でした。貫禄がありました。

プログラム1曲目は、シベリウス作曲/交響詩「大洋の女神」。弦楽器の連符がさざなみのように聞こえ、フルートやクラリネットなどの木管楽器が小鳥のさえずりのような音を奏でました。演奏は、スコアを緻密に再現していましたが、そのぶん作品の魅力を補強するような演奏ではありませんでした。動きの小さくおだやかで上品な演奏。弦楽器はフルメンバーで演奏していたため、トレモロに奥深さがありました。しかし、重くなることはなく、明るくて軽い音色で演奏。音の方向性が下に落ちるのではなく、上に飛んでいくような印象を持ちました。音量的にはあまり鳴りませんが、ボリューム感と響きがしっかりとついていて存在感を主張していました。

プログラム2曲目は、シベリウス作曲/ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は庄司紗矢香。鮮やかな水色のドレスで登場。
庄司の演奏を聴くのは、昨年7月の都響プロムナードコンサートNo.305以来でしたが、そのときのレーガーに比べると、演奏の精度はいまひとつでした。重音がうまく鳴らなかったり、音程が不安定だったり、音量に不足したりで、庄司にしては不本意な演奏だったのではないでしょうか。しかし、ソロではすごい速さで弾き始めたかと思えば急にテンポを落としたり、強弱をつけたり、一本調子でない繊細な表情の変化がほれぼれするほどすばらしい。ときには左足を踏みならしていました。
デイヴィスも前曲とは見違えるように激しい指揮を展開。オーケストラ単独の箇所は、さすがにシベリウスを得意にしているオーケストラだけあって充実した演奏を聴かせました。ロンドン交響楽団のCDを聴いて感じていたことですが、ティンパニはやや大きめに出てくるのが特徴的でした。
第1楽章の最後は、ソロヴァイオリンとオーケストラの対決が聴きものですが、庄司の音量があまり大きくないため、オーケストラがかなりひかえめで音量的に遠慮していました。ソロヴァイオリンは絶えず腕を動かしてとても忙しい部分で、危うくオーケストラとずれそうになりました。この高音の速いパッセージではこれ以上の音量は望めないのでしょうか。オーケストラが鳴らないので不完全燃焼といった印象。第2楽章でもソロヴァイオリンはもっと太い線で歌って欲しいです。第3楽章でも同じような印象ですが、この作品をぶっ通しで演奏するのは、かなりの集中力を要すると感じました。
この作品は、日本フィル第189回横浜定期演奏会でも聴きましたが、そのときの堀米ゆず子の演奏でも感じたように、やはりこの作品は大変な難曲と言えます。演奏会ではCDで聴くような完成度はなかなか求められないのではないでしょうか。生演奏の難しさを感じました。
演奏後、庄司は客席に向かって深々と礼。拍手に応えてアンコール。アウリス・サリネン作曲/カデンツェを演奏。前衛的な音の配列で、部分的にショスタコーヴィチっぽく聞こえました。右手でボウイングしながら、左手でピツィカートというテクニックも披露。しっかりと弾きこんでいました。ただ、京都コンサートホールの残響が少ないのか、もう少したっぷりとした響きが欲しいように感じました。

休憩後のプログラム3曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年版)。すでに何度も演奏している作品といった雰囲気の危なげない手慣れた演奏で、各楽器が有機的につながっていました。ライヴだからといって特別なことをするのではなく、CDに録音するときと同じスタンスと言えるでしょう。特にソロ楽器はどれも完璧な技術で高い完成度で、繊細な表現を可能にしていました。強奏では、ピッコロの高音を強めに出して、シンバルとともにその余韻で残響をつけるのが特徴的でした。
「序曲」は、ゆったりとしたテンポで開始。大太鼓やコントラバスーンを強調して、格調高い響きのなかでおどろおどろしさを印象づけました。「イワン王子に追われた火の鳥の登場」では、フルートとピッコロがまさに火の鳥が飛んできたようにきらびやかで動きがありました。「王女たちのロンド」では、弦楽器が優雅に演奏。「魔法のカリヨンの響き。カスチェイの子分の怪物たちが現れ、イワン王子は捕らえられる。」では、金管楽器によるクレシェンドとそれに続くティンパニの一撃が視覚的にも見事に決まりました。また、ホルンとトランペットの強奏など突如激しい演奏となって、ティンパニが明確なクレシェンド、デクレシェンドをつけていたのも印象的。「カスチェイの死」は速いテンポであっけない。「カスチェイの城と魔法の消滅、石にされた騎士たちの蘇生、全員の歓呼」冒頭のホルンソロは最弱音でスタート。テンポを変えながら、トランペットとホルンによる輝かしい強奏で結びました。

演奏終了後、盛大な拍手に応えてアンコール。エルガー作曲/エニグマ変奏曲より第9変奏「ニムロッド」。遅いテンポで厳かなコラールのように弦楽器による美しいメロディーが心に浸み入りました。ロンドン交響楽団の長所が遺憾なく発揮された演奏で、この日の演奏会のなかでも出色の出来でした。この作品はCDで何回か聴いたことがありましたが、こんなに魅力的な作品だったとは今まで気づきませんでした。

ロンドン交響楽団は世界最高水準の正確な演奏技術を披露してくれました。一糸乱れぬアンサンブルとはこういう演奏のためにあるのでしょう。難所でも安心して聴くことができました。欲を言えば、ライヴならではの興奮があれば言うことありません。大きな存在感があって心に残る演奏会でした。最近は自主制作CD(LSOライヴ)の精力的なリリース(しかも廉価)も注目したいです。
首席指揮者のサー・コリン・デイヴィスの指揮は、客観的な演奏解釈で比較的安全運転でしたが、それゆえ丁寧で高い完成度を誇る演奏を聴くことができました。

ちなみに、この演奏会はTVカメラ数台が配置されていました。聞くところでは、4月4日にNHKで放映されるようです。

(2004.3.14記)




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