ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演


   
      
2004年11月13日(土)17:00開演
京都コンサートホール大ホール

マリス・ヤンソンス指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

〔プログラムC〕
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」

座席:S席 1階 17列21番


ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の通算12回目の日本ツアーです。今年9月に第6代首席指揮者に就任したばかりのマリス・ヤンソンスの指揮にも注目が集まりました。

プログラムを1,000円で購入。リハーサルが長引いたらしく、ホワイエで25分ほど待たされました。今回のツアーのうち、近畿での演奏会は今回のみということで、ホールはほぼ満席。京都コンサートホールでここまで人が入った演奏会を聴くのは初めてかもしれません。
団員が拍手で迎えられてチューニング。オーボエ奏者が起立していました。マリス・ヤンソンスが登場。

プログラム1曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)。演奏の特徴として、各楽器を均等にバランスよく鳴らすことが指摘できます。楽器の音色をうまく混じらせていました。全体的に絹のようになめらかでまろやかな音色が聴けました。また、どの楽器もハイレベルな技術で、特に弱奏が極めて安定しているのがすばらしい。なかでも「謝肉祭の市場(夕方)」の終盤のフルートの超弱音は神業です。弦楽器のトレモロのきめ細やかさも特筆できます。木管楽器のソロもすばらしい。
ただし、強奏でもあまり爆発させません。コントラバスや金管楽器が前面に出てくることもないので、少し物足りないようにも感じました。オーケストラ全体のバランスを崩さないために遠慮しているのでしょうか。京都コンサートホールはあまり響かないホールなので、いつものコンセルトヘボウならもっと立体的に響いたのかもしれません。打楽器は大きめの音量で、演奏にアクセントを与えていました。
この作品を生で聴いたのは初めてですが、モザイクを重ね合わせたような実に緻密な作品だと感じました。しかし、今回の演奏はCDで聴くのと同じような完成度を誇っていました。ただ、欲を言えば、演奏があまりにもうますぎて、スリルがあまり感じられませんでした。それだけ安定感と余裕がある演奏だったと評価すべきですが、もう少しロシア臭が感じられる演奏も聴いてみたいように感じました。
マリス・ヤンソンスは、変拍子でも拍通りにはっきり振ることが多く、顔の上で指揮棒を大きく動かしていました。常にオーケストラ全体を見渡しながら指揮していました。

休憩後のプログラム2曲目は、チャイコフスキー作曲/交響曲第6番「悲愴」。ストラヴィンスキー同様に、美しく洗練された演奏を聴かせました。特に中音域の充実ぶりは他のオーケストラでは聴かれない魅力で、豊富な響きを聴くことができました。音色が明るいので、悲劇色はあまり濃くありませんでした。全体的にスコアの指示を大きく超えるような解釈はなかったので、部分的に安全運転に聴こえてしまった感がないわけではありません。もっと細部をえぐりだしたり、デフォルメして欲しい部分がありました。
第1楽章第2主題は、強弱や緩急を大きくつけて演奏。
第2楽章でも旋律の表情に変化をつけていました。第1主題のチェロが広がりのある演奏。中間部ではティンパニのクレシェンドを効果的に聴かせていました。
第3楽章は、管楽器が鳴らないので、カラヤンやムラヴィンスキーの演奏をCDで聴いた耳には物足りなく感じました。強奏はもっと激しく鳴らして欲しいです。
第4楽章は、第3楽章から続けて演奏するのではなく、間を置きました(拍手する聴衆がいなくてよかったです)。第4楽章は、これまでの3楽章からさらに完成度が上がって、音色によりいっそう一体感が生まれました。第1主題冒頭の弦楽器のトゥッティが最高。この響きはCDでは決して聴くことができません。これまで行なわれた京都コンサートホールの演奏会のなかでも、語り草になる名演だったと断言できます。そして圧巻は、124小節のトランペットの上昇音階のクレシェンド!(スコアにはクレシェンドの指定はありません)。今まで平静さを保ってきたトランペットがここで一気に感情を爆発させました。思わず熱いものがこみ上げました。最後のAndante giustoの弱奏も見事。ただし、数人の聴衆が指揮棒が下りる前にフライング拍手…。本当に残念。

カーテンコールでは、マリス・ヤンソンスに大きな拍手が送られました。拍手に応えてアンコール。シベリウス作曲/悲しきワルツを演奏。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の温かみのある弦楽器の音色が十分に堪能できるヤンソンスらしい選曲でした。このコンビでこの作品が聴けるなんて贅沢すぎます。
そして、鳴り止まぬ拍手に応えて、今度はステージ横から数名の団員が楽器を持って入場。聴衆の期待が俄然高まる中、マリス・ヤンソンスが再登場。アンコール2曲目は、ワーグナー作曲/ローエングリーン第3幕より前奏曲を演奏。一転してドイツ音楽にふさわしい要素を兼ね備えた力強い演奏を聴かせました。マリス・ヤンソンス&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団に死角はありませんね。何を演奏してもいい演奏を聴かせてくれそうです。

マリス・ヤンソンスは、今年9月に首席指揮者に就任したばかりのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を完全に掌握し、期待以上のすばらしい演奏を聴かせてくれました。指揮のスタンスとしては、作品を分解して一から作り直すのではなく、自分の個性をオーケストラの演奏に付け加えていく姿勢であると言えます。なお、2003年9月からはバイエルン放送交響楽団の首席指揮者も兼務しています。プログラムで岩下眞好氏が「ヤンソンスの時代がやって来た」と書いていますが、この言葉にまったく異論ありません。ヤンソンスはもう60歳代ですが、指揮ぶりはまだまだ若いです。両腕を大きく広げて拍手を受ける姿もなかなか様になっています。今後の活躍に大いに期待したいです。2005年11月には、バイエルン放送交響楽団を伴って来日公演があります。これは聴き逃せません。

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、強奏よりも弱奏に魅力を感じました。充実した中音域の響きは、しばらく耳に残ることでしょう。また、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の自主制作レーベル「RCO」のリリースにも注目です。

チケット代は高価でしたが、十分満足のいく演奏会でした。

(2004.11.15記)




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