東京交響楽団第531回定期演奏会「ファジル・サイ、もう1つの才能」


   
      
2005年12月3日(土)18:00開演
サントリーホール大ホール

秋山和慶指揮/東京交響楽団
ファジル・サイ(ピアノ)

コープランド/交響曲第3番
サイ/ピアノ協奏曲第3番「アナトリアの静寂」
ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルー

座席:S席 2階C 7列18番


大阪フィルハーモニー交響楽団第377回定期演奏会で衝撃的な演奏を披露したファジル・サイが、今度はラプソディー・イン・ブルーを演奏するというので聴きに行きました。指揮は東京交響楽団の桂冠指揮者に就任した秋山和慶。ひさびさのサントリーホールでしたが、客の入りは7割程度。空席がそこそこありました。

プログラム1曲目は、コープランド作曲/交響曲第3番。クーセヴィツキー財団の委嘱作品のようです。オーケストラは大編成での演奏でした。コープランドが交響曲を作曲していたことを知りませんでしたが、聴いた感じではほとんど組曲でした。楽章ごとに変奏曲になっているような印象で、メロディーが発展してクライマックスではユニオンで強奏するというパターンが多く見られました。分かりやすいですが、いくぶんワンパターンに感じました。4楽章構成で40分程度の作品で、聴きどころはところどころはあるのですが、ちょっと長くて退屈しました。オーケストラは丁寧に演奏していただけに残念。
第1楽章は大草原を思わせるメロディーが弦楽器で現れます。第2楽章は変拍子で金管楽器と打楽器が活躍。第4楽章で自作の「市民のためのファンファーレ」(TBSオールスター感謝祭のマラソン企画のBGMとして使われています)のメロディーがフルートに現れます。その後、金管楽器に受け継がれます。
秋山和慶はほとんど立ち位置を変えずに指揮。東京交響楽団は、弦楽器が透明感のある音色を奏でました。強奏で無理に大きな音を出さないのは、本拠地のミューザ川崎シンフォニーホールの音響にあわせた演奏だと思いますが、サントリーホールではちょっと物足りなく感じました。

休憩後のプログラム2曲目は、サイ作曲/ピアノ協奏曲第3番「アナトリアの静寂」。ピアノ独奏はファジル・サイ、自作自演です。2001年に作曲された4楽章からなる作品ですが、今日の演奏会では第3楽章の「バラード」を「カデンツァ」に変更して演奏されました。サイが黒のジャケットを着て登場。
作品は、全楽章を通じてピアノがメトロノームのようにリズム音型を刻み続けます。そしてピアノと対峙するように打楽器が活躍します。また、ピアノの中に手を突っ込んで、弦を押さえながら弾く奏法もありました。プログラムの解説によると、サズというトルコの民族楽器に似た音色を意図しているのではないかということでした。全体的にもっと奇抜な作品かと思っていましたが、それほどでもなくちょっと期待はずれ。
サイはワンフレーズ弾き終わると、後方にもたれかかったり、腕まくりをしたりしていました。たまに鼻歌も聴こえました。自作なのでもっと暴れるかと思いましたが、意外に節度のある演奏でした。
第1楽章「アナトリアの静寂」は、ピアノがエキゾチックなスケールを即興的に演奏。第2楽章「頑固」は、速いテンポで進みます。打楽器を多用して緊迫した音楽を展開。ただ、打楽器がうるさくて、ピアノが聴こえませんでした。第3楽章「カデンツァ」を経て、第4楽章「エレジー」は静かに終わります。

プログラム3曲目は、ガーシュウィン作曲/ラプソディー・イン・ブルー。冒頭からサイはオーケストラのほうを向いて座って、奏者を見つめていました。早く弾きたくて仕方がないようでした。自分の番が来ると、ミスタッチも気にせず、勢いをつけて弾ききっていました。ピアノソロでは、強弱や緩急をはっきりつけていました。メリハリを極端につけるのがサイの特徴です。左手を前後に動かしたりしていました。オーケストラはビートが強くやや重め。もう少しノリが軽いほうが好きです。トロンボーンのグリッサンドのあとは、スローテンポで演奏。

演奏終了後の拍手に応えて、サイがアンコール。ガーシュウィン作曲/サマータイム(アレンジ ファジル・サイ)を演奏。最後まで演奏したのでけっこう長かったですが、サイの美音がよく映える演奏でした。
続いて、アンコール2曲目、ベートーヴェン作曲/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」終楽章がさーっとはじまりました。けっこう速いテンポで弾きました。いい演奏でした。

ファジル・サイは、第一印象が強烈すぎたのか、今回の演奏はそれほど驚く内容ではありませんでした。自作やアメリカ音楽よりも、ベートーヴェンのような古典的な作品を演奏したときのほうが、彼の個性が際立つように感じました。

(2005.12.12記)




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