ザ・シンフォニーホール
サー・ロジャー・ノリントン指揮／シュトゥットガルト放送交響楽団
児玉桃（ピアノ）
〔プログラムＡ〕
ベートーヴェン／「エグモント」序曲
ベートーヴェン／ピアノ協奏曲第１番
ベートーヴェン／交響曲第５番「運命」
座席：Ｓ席 ２階 ＢＢ列２７番
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２００４年１１月２９日（月）19:00開演 ザ・シンフォニーホール サー・ロジャー・ノリントン指揮／シュトゥットガルト放送交響楽団 〔プログラムＡ〕 座席：Ｓ席 ２階 ＢＢ列２７番 |
シュトゥットガルト放送交響楽団の通算６回目の日本ツアーです。話題の首席指揮者サー・ロジャー・ノリントンの演奏をどうしても聴きたかったので、平日でしたが仕事を休んで聴きに行きました。
プログラムを1,000円で購入。客席は８割程度の入りでした。団員が拍手で迎えられてチューニング。コンサートマスターは女性でした。サー・ロジャー・ノリントンが登場。上下とも黒の服で、とても足が長くて背が高い指揮者でした。
今回のプログラムは、すべてベートーヴェンの作品。まず、１曲目は、「エグモント」序曲。演奏はヴィヴラートを抑えたクリーンでストレートな表現で統一されていました。ティンパニは最後の一音を強調して演奏。ホルンとトランペットも全開で演奏していました。オーケストラがあまり大人数での演奏ではなかったので、もう少し大編成ならおもしろい演奏になったでしょう。
オーケストラの楽器配置は全曲を通して、コントラバスが一番後ろに陣取り、弦楽器は向かって左から、第１ヴァイオリン−チェロ−ヴィオラ−第２ヴァイオリンの順でした。プログラムにも同じ配置で演奏している写真が掲載されていたので、いつもこの配置なのでしょう。
サー・ロジャー・ノリントンのは、全曲を通じて譜面台なしの演奏。両腕を振り上げ動きの大きい指揮でしたが、適当に振っているようにも見えて意図が分かりにくい。この指揮でオーケストラはよく合わせているなと感心しました。
プログラム２曲目は、ピアノ協奏曲第１番。ピアノ独奏は児玉桃。ステージ配置にビックリ。まず指揮台を撤去し ピアノはふたをはずして、指揮台の位置にちょうどパイプオルガンと対面するように置かれました。ちょうど弾き振りのような配置です。そして、弦楽器奏者が児玉のピアノを円形に取り囲みました。指揮のノリントンはピアノの奥に立ちました。実に変わった配置です。もちろん初めて見る配置でしたし、客席もどよめいていました。
演奏は、破天荒な解釈はなく説得力のある内容だったので違和感はありませんでした。ベートーヴェンの若々しさが感じられました。オーケストラ伴奏は大きめの音量で演奏していました。児玉も輪郭をはっきり聴かせていましたが、この配置は見た目はとても斬新ですが音響がよくありませんでした。特にヴァイオリン奏者が後ろ向きに座っているので細かな表情まではよく分かりませんでした。縦線のズレなど完成度もそれほど高くなく、きっちり合わせようという感じはありませんでした。ノリントンは輪の中心で四方八方を見渡しながら、時にはピアノの淵を片手で持ったりしながら、指揮をしていました。弦楽器に指示するときはかなり近くで指揮することになりました。ピアノのカデンツァ中は、イスに座っていました。
ノリントンがこのような配置した意図を私なりに解釈すると、やはりピアノとオーケストラを融合させるねらいがあったように思います。ピアノをオーケストラの輪の中に入れて、指揮者がその輪の中心で演奏する。児玉にしてみれば、ソリストというよりはオーケストラの一団員として扱われたので、ある意味決断が必要です。それを受け入れた児玉もなかなかすごいと感じました。あとで気づいたことですが、プログラムに同じ配置で演奏していると思われる写真が掲載されていました。協奏曲のときはいつもこの配置で演奏しているのでしょうか？
盛大な拍手に応えて、児玉がアンコール。メンデルスゾーン作曲／無言歌集より「紡ぎ歌」をリズミカルに演奏。
休憩後のプログラム３曲目は、交響曲第５番「運命」。当初は交響曲第６番「田園」と発表されていましたが、曲目が変更されました。
これが本当にものすごい演奏。今年はこの作品をすでに３回聴いていますが（第17回ＮＴＴ西日本Ｎ響コンサート、都響プロムナードコンサート��309、ＮＨＫ交響楽団ウラディーミル・アシュケナージ音楽監督就任記念演奏会）、外面な激しさに圧倒されました。さすがにやりすぎの感が強く、聴き終わった後に頭がガンガンしました。正統派クラシックを愛好する聴き手には耐えられない演奏だったことでしょう。全体的に管打楽器の音量が大きすぎて弦楽器が聴こえません。ノリントンの指揮は客席に見られていることを意識し、視覚的に訴える場面が多かったように思います。聴かせたいパートを向きながらの指揮でしたが、これまで同様、動作が拍に合っていませんでした。
第１楽章冒頭は、八分音符を長めに演奏し、その後のフェルマータでクレシェンド。その後も速めのテンポでせわしなく演奏。オーケストラの集中力はすばらしいと感じました。第１楽章最後の音を指揮した後に、「どうだ！」とばかりに客席を振り返りました。
第２楽章では、クレシェンド・デクレシェンドをおおげさに付けていました。
第３楽章は、弦楽器のノン・ヴィヴラート奏法によって、トゥッティが古風な響きになりました。トランペットは音量は大きいですが、音色が汚い。第４楽章に移行する前のティンパニのリズム型を強調していました。
第４楽章は、管打楽器が全開。なかでもトランペット、ホルン、ティンパニ、ピッコロが大活躍。とてもダイレクトな演奏でしたが、ティンパニは両手で強くたたかせていて、まるで大砲のように聴こえました。しかし、音量が大きければいいというものではありません。やりすぎた印象を受けました。最後はスコアにないリタルダンドをかけて終了。
終演後は、熱狂的な拍手が巻き起こりました。拍手に応えてアンコール。メンデルスゾーン作曲／真夏の夜の夢より「スケルツォ」を演奏。ドイツ的要素の強いゴツゴツした響きでしたが、ノリントンは腰を振ったり、客席を見ながら指揮していました。カーテンコールでステージに登場したノリントンはスタンディング・オベーションで迎えられました。なぜここまで支持されるのか私には理解できませんでした。
サー・ロジャー・ノリントンは、音楽だけでなく、ステージ配置にも斬新な発想を持っている指揮者でした。お茶目な性格で聴衆に見られていることを意識したエンターテイナーでした。また、ノリントンが「ノン・ヴィヴラート奏法」を採用する理由は、「その音が好きだから」らしいです。音楽学的な見地で採用しているわけではないようで、その点がアーノンクールなどとはスタンスが異なります。結果的に聴衆には好き放題やっている、おもしろがってやっているというように取れるのかもしれません。正統派を自認する人々にとっては、うんざりさせられた演奏だったことでしょう。アンコールの前に聴衆からわざとらしい大きな咳払いが聴こえたのも、そうした反感の表れだったように思います。印象に残りましたが、あまり好きになれない演奏でした。
シュトゥットガルト放送交響楽団は、ドイツ的な音色を奏でるオーケストラでした。ノリントンといいコンビだと思います。
(2004.12.14記)
