都響プロムナードコンサートNo.309


   
      
2004年5月23日(日)14:00開演
サントリーホール大ホール

ガリー・ベルティーニ指揮/東京都交響楽団

ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」
シューベルト/交響曲第7(旧第8)番「未完成」
ハイドン/交響曲第45番「告別」

座席:S席 2階C 3列35番


ガリー・ベルティーニが東京都交響楽団音楽監督として指揮する東京では最後の演奏会となりました。今年度の都響演奏会のプログラムが発表されたころから、5月以降ベルティーニが指揮する演奏会が組まれていないことや、この日の演奏会の「運命」「未完成」「告別」というメッセージめいたプログラムから、ネット上ではベルティーニが音楽監督を辞任するのではないかと噂されてきました。石原都知事が進める都響団員の契約楽員化問題にベルティーニは反発していたようですが、都響の強い要請を受けて来年4月からは桂冠指揮者に就任することになりました。
チケットは全席完売で、客席にも胸が詰まるような張りつめた空気が漂っていました。ベルティーニが登場。上下とも黒の服でした。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第5番「運命」。快速テンポでせき立てるようなスピード感がある演奏で、ベルティーニは小刻みに拍を振ってアクセントに反応したり、指揮台の上で跳びはねたりしてオーケストラを煽っていました。ただ、オーケストラをコントロールしないで、自発的に演奏させていたので、ベートーヴェンらしい厳格さに欠けました。私としては、先月の第17回NTT西日本N響コンサートでのスクロヴァチェフスキの演奏のほうが、スコアの素材が有機的に機能していたように感じられました。
第1楽章では、強奏でのバランスがいまひとつで、主旋律が埋もれがちになるのが残念。ホルンのモサモサとした響きも好きになれませんでした。第2楽章では、流れすぎなのでもう少し堅めの音型が欲しいです。弱奏でヴァイオリンの音程が不安定だったのも惜しまれます。第4楽章はスリリングな熱演。開放的に鳴り、彩りを感じました。

休憩後のプログラム2曲目は、シューベルト作曲/交響曲第7(旧第8)番「未完成」。第1楽章は、あまり盛り上げずに進みました。第1主題がなまやさしくいくぶん表面的。もう少し内面をえぐり出して欲しいと思いました。第2主題はなめらかに演奏。展開部は強い音圧で演奏していました。第2楽章は、ヴァイオリンの澄んだ音色が美しく聴けました。ただ、やや速めのテンポ設定でしたが、この楽章はもう少しゆっくり聴きたいです。ソロ楽器を音量をしぼって演奏し、強奏とのダイナミクスの幅を大きく取りました。

プログラム3曲目は、ハイドン作曲/交響曲第45番「告別」。団員が減って中編成での演奏となりました。演奏が始まってすぐに客席とステージの照明が落とされ、代わりに団員の譜面台に取り付けられていたロウソクをイメージしたようなライトが灯されました。かなり暗い状況で演奏されましたが、まさに雰囲気満点でベルティーニの最後の演奏にふさわしい演出でした。ベルティーニの指揮を見ていると熱いものが込み上げてきました。長調で書かれた第3楽章も悲しく聴こえてきました。作品が質素な造りということもあって、演奏も前2曲とは打って変わって非の打ち所がない内容でした。弱奏も表情豊か。
圧巻は第4楽章で、演奏が終わった団員がベルティーニに一礼をして静かに退場。譜面台のライトを消して退場するので、ステージは団員が減り、照明もどんどん暗くなっていきました。最後はベルティーニとヴァイオリン奏者2名のみが残り、静かに演奏を終えました。そしてついにステージは真っ暗になりました。
盛大な拍手が送られる中、全照となりましたがステージには誰も残っていませんでした。やがて団員が再登場し、ステージに一列に並びました。中央に並んだベルティーニとともに一礼。数回のカーテンコールの後、引き上げていきました。

ベルティーニは、1998年から第4代東京都交響楽団音楽監督を務め、マーラー交響曲全曲を演奏するなど功績を挙げました。演奏会で聴いたのは昨年秋の京都公演と今回だけですし、CDも持っていないので、まだそんなに親しみがある指揮者だとは言えません。オーケストラのまとめ方も、くっきりと交通整理をするほうではなく、オーケストラにある程度まかせるタイプだと感じましたが、やや雑然と聞こえてくるのが好みに合わないと感じました。また、演奏の完成度は、過密スケジュールの影響(5月だけで8公演)で練習不足だったのか、「運命」と「未完成」がいまひとつの出来だったのが惜しまれます。ただ、今回の演奏会でもベルティーニは団員と何回も握手するなど都響とは本当に強い信頼関係で結ばれていたことが分かりました。今後は指揮台に上がる回数が少なくなるかもしれませんが、いい演奏を聴かせてほしいです。

※ガリー・ベルティーニ氏は、2005年3月17日にイスラエルのテル・アヴィヴで逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(2004.5.30記)




ロームミュージックファンデーション音楽セミナー2004レッスン見学会 京都市交響楽団第465回定期演奏会