R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」
ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」


   
 
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ミシェル・シュヴァルベ(ヴァイオリン)
1969年5月28日、30日 モスクワ音楽院大ホール

R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」
ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」


GPR  GPR003



Live in Russiaに続いて、今度はGPR(Great Performance in Russia)からモスクワ公演のライヴ録音がリリースされました。1969年5月28日の「田園」と、30日の「英雄の生涯」です。原盤はメロディアのようです。

気になる録音の状態ですが、ノイズはなく鑑賞に問題はありませんが、音像がやや遠くはっきりしません。強奏でやや混濁気味になるのが惜しまれますが、じゅうぶん合格点を与えられる録音です。

演奏は一発ライヴということもありわずかなミスもありますが、何よりもライヴならではの情熱的なパワーや感情移入が感じられます。カラヤン壮年期の力強い表現や勢いを前面に押し出した演奏で、重量感のあるシンフォニックな熱演が聴けます。また、それぞれの楽器をフルに鳴らしきっていて密度の濃い中身の詰まった演奏です。

R.シュトラウス「英雄の生涯」は、5月28日に演奏されています。この日の演奏会では、モーツァルト「ディヴェルティメント第17番」が前に演奏されています。
カラヤンが得意としたシュトラウスだけあって、テンポ設定や間の取り方が巧妙で実に鮮やかです。
第1部「英雄」では、まずつややかなヴァイオリンの音色に耳を奪われます。ベルリンフィルの弦はこれほどすばらしかったのかと驚きました。終盤はかなりの盛り上がりを見せます。
第2部「英雄の敵」は、木管楽器のソロがうまく、また楽器間の溶け合わせ方も見事です。
第3部「英雄の妻」では、シュヴァルベのヴァイオリンソロの明るい音色がすばらしい。カラヤンもうっとりしたのではないでしょうか。
第4部「英雄の戦場」は、勇ましい行進曲。打楽器を激しく強打させています。かなり興奮しているようで少しやりすぎの感さえありますが、カラヤンにしてはかなり珍しい表現でしょう。
第5部「英雄の業績」では、戦いを終えた穏やかな表情が聞き取れます。
第6部「英雄の引退」は、あっさり淡泊な表現。やや散漫な印象で物足りなさを感じました。当時61歳だったカラヤンですが、引退するにはまだ若かったということでしょうか。

ベートーヴェン「田園」は、5月30日に演奏されています。この日の演奏会はオールベートーヴェンプログラムで、「田園」の前後に「コリオラン」序曲と「運命」が演奏されています。
録音がザラつきのある音質で、「英雄の生涯」よりも細部がくすみがちなのが惜しまれます。
演奏も「英雄の生涯」より力を抜いた感じでテンションはあまり高くありません。もともとあまり鳴らす必要がない作品ということもありますが、全体的に少し散漫な印象を受けました。もしかしたら、休憩後の「運命」との対比を表現したかったのかも知れません。
第1楽章「田舎に着いたときの愉快な感情の目覚め」は、低音がよく響いていて力強い表現になっています。
第2楽章「小川のほとりの情景」は、弦楽器の流麗な演奏が自然を想起させます。
第3楽章「田舎の人々の楽しい集い」は、スピード感のある演奏。堂々としていてテヌート奏法も効果的です。
第4楽章「雷雨、嵐」は、迫力はありますが、強奏で弦楽器のボリュームが不足するのが惜しい。
第5楽章「牧歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の気持ち」は、輝かしく解放感にあふれています。弦楽器の音圧の強さがすばらしい。

なお、このCDは一時的にリリースが中止されました。理由はCDジャケット表記の誤りです。「HERBERT von Karajan」が「HELBERT von Karajan」になっていました。私は発売直後に購入したので、「HELBERT」のままです(ページ上部の画像を参照)。しばらく経てばプレミア品として価値が出てくればうれしいです。


(2003.8.13記)