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ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 レオンタイン・プライス(ソプラノ)、ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)、フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール)、ワルター・ベリー(バス) ウィーン楽友協会合唱団 1960年8月24日 ザルツブルク旧祝祭劇場 モーツァルト/レクイエム
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音楽之友社刊『カラヤン全軌跡を追う』「完全ディスコグラフィ」に記載されていない録音です。「演奏会記録」には、この曲が演奏されたことがちゃんと記載されていました。この日の演奏会では、前半にモーツァルト「レクイエム」が、後半にブルックナー「テ・デウム」が演奏されたようです。いわゆる非正規録音だと思われますが、いったいどういう経緯で録音されたのでしょうか。
カラヤンはモーツァルトのレクイエムを正規で3回録音しています。この録音は最初の録音(1961年)よりもまだ前に当たります。
録音はモノラルであることが何よりも惜しまれます。強奏で音が割れてノイズが含まれるのが耳障りで、演奏の特徴かがいまひとつ把握しにくいのが残念です。弱奏は鮮明に聞き取れます。
演奏内容は、スタジオ録音よりも完成度が数段落ちます。カラヤンの美意識が確立される以前の演奏で、ストレートで自然体な表現が聴かれます。カラヤンの演奏スタイルである流麗さによって、音楽が次々と湧いてくるような印象を受けます。タテの構成よりもヨコの流れを意識させられますが、タテの乱れが少し気になりました。オーケストラは弦楽器主体で金管楽器はあまり聞こえてきません。独唱は美しい歌唱を聴かせています。合唱は音量的には申し分ないですが、粗く繊細さに欠けます。反応が鈍く脈絡なくダラダラと続いていく感じがして、起伏に乏しいのが惜しまれます。
「イントロイトゥス」は、ゆっくりとしたテンポ設定。合唱は声部が分離して聞こえないので、メリハリに欠けます。
「キリエ」は、合唱に力強い勢いを感じさせます。この時期のカラヤンの演奏を象徴するような演奏です。
「ディエス・イレ」は、「キリエ」の勢いをそのままに、合唱に激しさが増します。決然とした感情を表現しています。
「トゥーバ・ミレーム」は、独唱・重唱ともに感情豊かで美しい。
「レクス・トレメンダエ」は、力がこもった大合唱の威力に圧倒されます。
「ラクリモサ」は、音量がやや大きい。もっとしっとりと演奏してもよかったと思います。
「ドミネ・イエズ」は、合唱の歌詞がやや不鮮明なのが惜しい。
「コンムニオ」は、ラストの音符をなんと11秒間も延ばしています。この演奏を締めくくるにふさわしい終曲です。
カラヤンのライヴ録音が聴けるだけでこの録音は貴重です。演奏内容は特別すばらしいものではありませんが、壮年期のカラヤンのフレッシュな演奏を聴くことができます。
(2003.11.24記)