大阪フィルハーモニー交響楽団第9シンフォニーの夕べ
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2025年12月29日(月)17:00開演 フェスティバルホール
小泉和裕指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 中村恵理(ソプラノ)、中島郁子(アルト)、工藤和真(テノール)、池内響(バリトン) 大阪フィルハーモニー合唱団
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」
座席:A席 2階1列27番
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京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」で2025年の聴き納めになるはずだったのですが、Xなどですごく評価されているのがどうもなじめなくて、大袈裟に言うと年を越せない気がしてきた(大袈裟すぎる)ので、急遽大阪フィルハーモニー交響楽団の第9シンフォニーの夕べを聴きに行きました。2日公演の1日目です。クラシックの演奏会で当日券を購入するのは、おそらく初めての経験です。
今年の指揮は小泉和裕。今年で76歳です。
大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会のメンデルスゾーン「イタリア」で、スピード感あふれる演奏が印象に残っています。現在、東京都交響楽団終身名誉指揮者、九州交響楽団終身名誉音楽監督、名古屋フィルハーモニー交響楽団名誉音楽監督、神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別客演指揮者を務めています。東京都交響楽団のYouTubeチャンネル(@TMSOMovie)にアップされる練習風景の指揮姿が美しい。永年の功績で令和7年度文化庁長官表彰を受けました。
大阪フィルハーモニー交響楽団の第九を聴くのは、
井上道義 ザ・ファイナル・カウントダウン Vol.2~道義 最後の第九~以来です。「第9シンフォニーの夕べ」としては、実に旧フェスティバルホール時代の
2003年以来で22年ぶりです。今シーズンの大阪フィルは、尾高忠明音楽監督の指揮で「ザ・シンフォニーホール特別演奏会 ベートーヴェン・チクルス ~原点にして頂点~」(全5回、2025年9月~2026年2月)が進行中です。尾高&大フィルのベートーヴェン交響曲全曲演奏は7年ぶり2度目で、「第九」は2026年2月23日(祝・月)に演奏されます。
大阪フィルハーモニー交響楽団のX(@Osaka_phil)によると、リハーサルは27日(土)からスタート、28日(日)にはソリストと合唱団も加わってリハーサルが行なわれました。フェスティバルホールには、門松や正月飾りのミカン付きのしめ縄が設置されていて、早くも新年の準備です。当日券は16:00から販売。BOX席以外のA席、B席、C席が販売されました。15:30から行列ができて、15人くらいが並びました。開場と同時にロビー内で販売。座席表にマーカーが塗ってある席から選択できましたが、2階席1列目中央のむちゃくちゃいい席(A席7000円)が残っていてびっくり。クレジットカード決済ができました。お客さんは9割の入り。
合唱団が入場。オーケストラと合唱の間に5列で並びました。左が女声、右が男声で、女声がやや多い。女声は黒い服でした。プログラムに記載された名前を数えると、ソプラノ42名、アルト29名、テノール21名、バス27名の総勢119名です。
オーケストラは客演奏者が多めです。客演首席トランペットは池田悠人(関西フィルハーモニー管弦楽団首席トランペット奏者)、客演首席トロンボーン奏者は岡本哲(相愛大学教授)、客演首席クラリネット奏者は、川上一道(山形交響楽団首席クラリネット奏者)。オーケストラの入場時に拍手はなく、コンサートマスターの須山暢大(コンサートマスター)が入場時に盛大な拍手。小泉和裕が颯爽と登場。
小泉は譜面台なしで指揮。立ち位置を固定して前屈みの姿勢で、腕を上下に動かして、下で拍を取ります。小細工がなく、聴いていて安心できるオーソドックスなベートーヴェン像です。このような野太いベートーヴェンを振れる日本人指揮者は他にいるでしょうか。質実剛健という言葉が似合います。標準的なテンポ設定で、間延びしません。巨匠風の演奏で、「やっぱり第九はこうでないと」と思わせる演奏でした。
第1楽章冒頭は細かな第2ヴァイオリンの連符が聴かせるのが個性的。小泉は右腕を高く振り上げて、弦楽器を目一杯鳴らします。154小節からfのついた音符にアクセント。236小節からホルンを強調。301小節からのティンパニ連打がすごい大爆発。最後はリタルダンド気味に終わりました。
第2楽章は大フィルの弦楽器の音色が明るい。150小節と388小節の繰り返しはどちらもなし。196小節からのヴァイオリンのピツィカートの音量が大きい。264小節からのティンパニ連打は、ホルンを強調してナ○スの行進曲のような異様な響き(ただしティンパニはここ以外では比較的おとなしい)。弦楽器の四分音符もアクセントのように音圧が強い。繰り返しなしでTrioへ。最後の四分音符は、小泉は下に押さえつけるような指揮。
第3楽章の前に独唱者4人が入場。客席から拍手がパラパラと起こりましたが、小泉は少し後ろを向いて手で押さえるような動きを見せました。ここで拍手して欲しくないということでしょう。第3楽章はアダージョらしくゆっくりしたテンポで味わうように指揮。滑らかに歌わせて、ヴァイオリンがゆったりとしてとろけそう。第1楽章や第2楽章よりも音量は小さいですが、逆に指揮は両腕を広げて振りが大きい。65小節から木管楽器(フルート、ファゴット、オーボエ)はスコアではppですが大きく歌います。83小節からのAdagioがゆっくりで、クラリネット×2の息が持たないかと思うほど。121小節からのファンファーレは堂々としています。小泉は右腕で大きなカーブを描くような美しい指揮。
休みなく第4楽章へ。楽器の音をそのまま伝えて響かせます。チェロとコントラバスをたっぷり歌わせました。92小節からの有名なメロディーのところで、客席からアラーム音がけっこう長い間続きました。まったく困りますね!。せっかくいいところなのに台無しです。トゥッティに向かってテンポアップ。バス独唱の池内響は、名前通りよく響く声で、マイクを使っているのかと思うほど。ソプラノ独唱の中村恵理は身体を震わせながら歌うので、スパンコールのキラキラの衣装がよく目立ちます。合唱団の音量はオーケストラより大きい。
京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」の京響コーラスの1.3倍の人数ですが、音量は2倍くらい大きい。330小節の「Gott」も決まりました。431小節から弦楽器が力強いアンサンブル。有名なメロディーで550小節のトランペット×2を聴かせます。595小節からコントラバスとチェロに向かって大きく指揮。610小節の「Welt!」の後は休符を作らずに男声合唱につなげました。ラストのトゥッティもよくそろっていて、オーケストラをかき消すくらいの音量。独唱の四重唱もよく響きました。そのあとは速いテンポで締めくくりました。余韻を楽しむ間もなく、私の席の近くにブラボーマンがいてがっかり。京都のお客さんのほうがお行儀がいいですね。
カーテンコールでは合唱指揮の福島章恭も登場。福島は2015年から大阪フィルハーモニー合唱団指揮者を務めています。しかし、独唱者4人は前に出てこないでその位置のまま拍手を受けました。これは初めてでした。小泉が最後は指揮台に上がって礼しましたが、カーテンコールがすごく短い。オーケストラと独唱者は足早に退場。拍手が強まって暗転。
指揮者が入場。指揮台でライトを持って指揮しましたが、誰かは暗くて見えませんでした。薄暗い照明で、大阪フィルハーモニー合唱団がそれぞれ緑色のライトをつけて、無伴奏で「蛍の光」を歌いました。1番に続いて、2番も歌います。いい曲ですね。照明がどんどん暗くなり、3番は「ウー」で歌い、少しずつライトを消していきました。「2026」などの字が現れるのかと思いましたがそうではなく、最後は指揮者のライトだけが残りました。一気に全照。指揮者は福島章恭でした。合唱のメンバーが一人ずつ客席に礼をして退場。18:20に終演しました。
「第九」よりも「蛍の光」のインパクトが強く、大阪フィルよりも大阪フィル合唱団を聴くための演奏会と言えるでしょうか。大フィルの性格と小泉の個性がよくマッチしていました。今後も共演して欲しいです。小泉の指揮を正面から見てみたいですね。
なお、大阪フィルハーモニー交響楽団のInstagram(@osaka_philharmonic_orchestra)に、「オーケストラができるまで」の動画が掲載されました。本公演のひな壇が設置される前からゲネプロが始まるまでを超早送りで紹介。さらに、「特別編」(協力:フェスティバルホール)として、NG集を含めて20本の動画からなる大作もあります。京都コンサートホールとは違って、フェスティバルホールのひな壇は舞台スタッフが釘とトンカチを使って設営します。運搬トラックから積み下ろした楽器を大型搬入エレベーターに乗せて舞台に上げるシーンもあって興味深い。多くの裏方さんが関わっていて、本番の客席からは見えない努力がよく分かります。
小泉和裕は著書『邂逅の紡ぐハーモニー』(中経マイウェイ新書)を2021年に出版しました。中部経済新聞に46回にわたって連載した記事を編集していますが、読みやすくて面白い。クラシック音楽に興味がある方は必読です。京都市少年合唱団で歌っていた幼少期に始まり、カラヤンさん(必ず「カラヤンさん」とさん付けで書かれている)から指導された「マエストロとしての心構え」や、「指揮者という仕事は、自分で何かを見つけ出そうとする姿勢そのものにある」「どの演奏会も自分のベストを尽くしておりますが、それが最高の出来であるとはまだ思いません」「楽譜にないことはやらない」「作曲家がどうしたかったのかが全て」「リハーサルでは90%に仕上げにとどめる」など、小泉の音楽観がよく分かります。楽譜を見て指揮しない理由やオーケストラとの信頼関係についても詳しくも書かれています。
「第九」についても触れられていて、「毎年のように振ってきましたが、これで完成した、掌中に収めた、などと思ったことは一度もありません」「ベートーヴェンの音楽には、向き合うたびに自分の足りないものを突きつけられるような感覚があります」などと、ベートーヴェンの魅力について記しています。また、小泉を支援する後援会「泉の会」があって、交友関係が広いのも意外でした。小泉は30年以上前から飛騨古川の民家に住んで、田植えなどの農業に携わって自然に囲まれた生活を送っています。「ベートーヴェンの音楽の延長線上にある生活をしていないと、ベートーヴェンの作品はできません」と記しています。「カラヤンの指示でリハーサルからすべて見学した」と書かれていますが、小泉のリハーサルもぜひ見てみたいです。