兵庫芸術文化センター管弦楽団第156回定期演奏会「佐渡裕 マーラー8番「千人の交響曲」」
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2025年1月18日(土)15:00開演 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール 佐渡裕指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団 大友良英(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編)/そらとみらいと~阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱作品 座席:A席 1階Z1列30番 |
マーラーの「千人の交響曲」を初めて演奏会で聴きました。佐渡裕と兵庫芸術文化センター管弦楽団は、マーラーの交響曲を継続して取り上げてきました。これまでに、第1番「巨人」(2008年6月、第17回定期演奏会)、第2番「復活」(2015年1月、第75回定期演奏会)、第3番(2011年6月、第44回定期演奏会)、第4番(2022年1月、第129回定期演奏会)、第6番「悲劇的」(2007年1月、第6回定期演奏会)、第7番(2023年1月、第138回定期演奏会)、第9番(2024年1月、第147回定期演奏会)が演奏されました。本公演は集大成という触れ込みだったので、この第8番でマーラー交響曲全曲演奏が完結するのかと思ったら、どうやら第5番、大地の歌、第10番はまだ演奏されていないようです。
3日公演の2日目に行きました。前日(1日目)の1月17日(金)は、17:46に開演しました。言うまでもなく、1月17日は阪神・淡路大震災が発生した日で、地震が発生した時刻の5:46に合わせて、開演時間を12時間後の17:46に設定されました。今年であっという間に30年です。当時は私は高校1年生でした。なお、佐渡裕と兵庫芸術文化センター管弦楽団は、震災の節目となる年で大作に挑戦してきました。震災15年目にヴェルディ「レクイエム」(2010年1月、第30回定期演奏会)、20年目にマーラー「復活」(2015年1月、第75回定期演奏会)、25年目にフォーレ「レクイエム」(2020年1月、第120回定期演奏会)を取り上げました。
チケットは、9月6日の芸術文化センター会員先行予約で購入しようとしましたが、あっという間に予定枚数終了になってしまいました。本公演の注目の高さがすさまじい。これまでの兵庫芸術文化センター管弦楽団の公演ではこんなことはなかったのでびっくり。9月8日の一般発売でなんとか購入しました。1階席の後ろから2列目で、いい席ではありませんが、確保できただけでもよしとしましょう。兵庫芸術文化センター管弦楽団のX(@hpac_orchestra)によると、1月14日(火)から練習場でリハーサルを開始しました。
兵庫県立芸術文化センターは、2005年10月22日に開館して、今年秋に開館20周年を迎えます。ペデストリアンデッキなどに、20周年フラッグが設置されました。2階にあるレストラン「イタリアン ジャンカルド トレ テアトル(GIANCALDO3Theatre)」でランチ。パスタセット(3200円)とメインが選べるコース「PRANZO」(4600円)の2種類です。公演後のチケットを提示すれば10%割引になりますが、公演前のチケットでは割引にならないとのこと。
本公演のプログラムに名前が掲載されたメンバーは125名。コンサートマスターは豊嶋泰嗣。コアメンバーは42名。スペシャル・プレイヤー(他のオーケストラの奏者)は16名で、今回は全員がPACの卒団生で、現在はコンサートマスターや首席奏者として活躍している人がこんなにも多くてびっくり。
合唱団(マーラー「千人の交響曲」合唱団)は、オーディションで選ばれました。6月末に募集締め切り。7月にオーディション。13回の通常練習のうち7回以上の出席ができることが条件で、出演料の支払いはなく、交通費や宿泊費も自己負担です。8月にソプラノ、テノール、バスのパートを若干名追加募集(前回不合格でも応募可)。9月に結団式があり、9月に1回、10月に3回、11月に2回、12月に6回(うち1回は監督練習)、1月に2回の練習と、コーラスリハ、オーケストラ合わせ2回、GPを経て、本番を迎えました。日経新聞の記事によると、14歳から78歳まで幅広い年齢層とのこと。出演者が多いため、神戸新聞の記事によると、反響板を奥に10メートルほど下げたようで、コロナ禍中の兵庫芸術文化センター管弦楽団特別演奏会「佐渡裕 アルプス交響曲」を思い出しました。
14:45からプレトーク。佐渡裕が登場。「昨日の1月17日は震災30年の特別な日。午前中は公館で天皇陛下も来られて、その後五木ひろしさん(毎年来られているとのこと)とミニコンサートをして、5時46分に黙祷を捧げてここで定期演奏会があった。また、能登半島沖地震への1000万円の募金が集まったので、贈呈式を行なった。これからも復興のモデルになるようにしていきたい」と語りました。兵庫芸術文化センター管弦楽団のXによると、1日目の公演の開演前に「能登半島地震舞台芸術活動支援金」(10,143,196円)の目録を、佐渡から代表して七尾市長に贈呈しました。昨年の兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」で募金活動をしましたが、1000万円も集まったのはすごい。
「千人の交響曲」について、佐渡は「人間讃歌。演奏者は400人を超える。こどもは100人。オーケストラは世界中から昔のメンバーが集まった」と説明。また、佐渡は「珍しく曲を委嘱した。坂本龍一さん以来」と話しました。2010年4月の第33回定期演奏会で演奏した「箏とオーケストラのための協奏曲」以来のようです。作曲者の大友良英がステージに登場。今年で65歳ですが、若く見えます。佐渡は「すばらしい曲。委嘱作品は現代音楽が多く、楽譜もメガネをかけないと読めない。ほとんどが二度と演奏しない曲」と毒舌。大友は椎名林檎の「主演の女」などでもアレンジを担当していますが、佐渡は「あまちゃんのテーマを聴いて、元気になれると思った。昨年1月に東京で大友と飲みに行ったが隣に宮藤官九郎(脚本)がいた。あまちゃんはヨーロッパにいたので見たことがなかったが、1週間で150話を一気に観た」と話しました。
プログラム1曲目は、大友良英作曲(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編)/そらとみらいと~阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱作品。プレトークでも話されましたが、佐渡が「震災30年の節目に祈りと希望を込めた作品を演奏したい」と大友に委嘱しました。大友にとっては、初の劇伴以外のオーケストラ作品とのこと。昨日の1日目公演で初演されました。合唱団はなしで、オーケストラのみの演奏。約20分の作品で、3つの楽章からなります。佐渡は指揮棒なしで指揮。
Part1「Requiem」の冒頭は、指揮者の左右に立っている男性奏者が、アンティークシンバルを弓をこすります。あちこちから鈴や鐘の音が聴こえてきて、金属音が涼しげ。女の子が二人一組で楽器(小さな鐘?とりん)を鳴らしながら、客席の階段や通路を暗い中をゆっくり歩きます。弦楽器の前奏に続いて、ソプラノサックスのソロ。サクソフォンソロはエキストラプレーヤーの江川良子。プログラムの楽器編成にはアルトサックスと書かれていますが、変更されたようです。弦楽器のやさしいメロディーから金管楽器へ。アンティークシンバルの2人は、Part1が終わると退場しました。
Part2は「LIFE -Improvisation and Interlude-」。プレトークで佐渡は「即興演奏。昨日どうやったか忘れた。サインの指示だけしてある。今日はどうなるか分からない」と話しました。佐渡が指揮台を降りて指揮台の前で指揮。楽譜がないにしては乱れがなくよくまとまっています。一撃が多く、佐渡は音楽の流れを指示しました。クラシック音楽では即興演奏が珍しいので、面白い取り組みです。
Part3の「祭りと空と」は、祇園祭の鉦(=プログラムの楽器構成では「チャンチキ」と記載)のソロから始まり、ピッコロ×3がお囃子のメロディーを演奏。和太鼓も加わります。プレトークで佐渡は「第3楽章はボレロのよう」と解説しましたが、確かにボレロのように、お囃子(祭り)とファンファーレ(空)の2つのテーマを繰り返します。途中で三・三・七拍子があり、佐渡は客席を向いて指揮。最後は余韻のように祇園祭の鉦で締めくくります。
客席で聴いていた大友が、佐渡に呼ばれてステージへ。工夫が凝らされたなかなかいい曲で、また機会があれば聴きたいです。大友良英のFacebookによると、NHK関西のドキュメンタリー番組で3月に放送される予定で、アルバムとしても発表したいようです。
休憩後のプログラム2曲目は、マーラー作曲/交響曲第8番「千人の交響曲」。大人の合唱団(マーラー「千人の交響曲」合唱団)が、舞台後方に7列で並びました。「第1コーラス」と「第2コーラス」に分かれていますが、見分けはつきません。第1コーラス(139名)は、ソプラノ40名、アルト43名、テノール23名、バス33名。第2コーラス(60名)は、ソプラノ15名、アルト15名、テノール15名、バス15名。児童合唱団(102名)がその前に2列と両サイドに2列で並びました。着ている服が違うので見分けられます。伊丹市少年少女合唱団26名、三田少年少女合唱団27名、夙川エンジェルコール25名、宝塚少年少女合唱団24名。児童合唱団はほとんどが女子で、楽譜なしで歌います。合唱団は1階席後方の客席からは遠く感じます。指揮者の両サイドに独唱者が並びました。左に女声独唱(左から、アルト2、アルト1、ソプラノ2、ソプラノ1)、右に男声独唱(左から、テノール、バリトン、バス)。独唱者は譜面台に楽譜を置いて歌います。プログラムに掲載されたメンバーを純粋に足していくと、オーケストラと合唱団と独唱者8名と佐渡裕で、総勢434名です。昨年の兵庫芸術文化センター管弦楽団第147回定期演奏会「佐渡裕 マーラー交響曲第9番」のプレトークでは「600人くらいを予定している」 と話していたので、それには及ばないものの、それでもとてつもない大人数です。
舞台の上部の左右に、歌詞の日本語字幕が縦書きで二行出ました。佐渡裕は指揮棒を持って指揮。合唱団が客席後方の席のせいか、人数の割には思ったほど迫力がありません。オルガンの演奏台は上手にありました。規模が非常に大きいので頻繁に聴ける曲ではありませんが、マーラーの他の交響曲と比べると魅力的な旋律が少なく、約80分と長いので、頻繁に聴きたくなる曲でもないでしょう。第2部はちょっと退屈してしまいました。
第1部「賛歌「来たれ、創造主である聖霊よ」」の「低音の鐘」(Tiefe Glocken)は吊り下げた鉄板を叩きましたが、指揮台の正面の雛壇に配置しているので、よく見えます。ホルンのベルアップはスコアの指示にはなさそうです。意外に独唱のかけあいや繊細なハーモニーがあり、合唱団が休みの部分もあります。262小節からようやく児童合唱が加わります。564小節から3階席の左右からバンダが演奏(スコアには「Isoliert postiert.」と記載)。左がトランペット×4、右がトロンボーン×3でしたが、バンダの目の前に黒い柵があり、この場所は普段は舞台への照明ライトが設置されている場所で、客席からは檻の中で演奏しているように見えました。出番は一瞬だけで、第1部が終わると退場。
第2部「「ファウスト」の終幕の場」は、しばらくオーケストラのみで演奏。合唱はリズムが難しく、音程や発音がやや不安定。ほとんどアカペラの部分があります。演奏の途中(バリトン独唱の前)でアクシデントが発生。ガラガラと大きな音が起きましたが、ヴィオラの男性奏者が倒れたようです。佐渡はすぐに指揮をやめて、指揮台を降りて近くに駆け寄りました。演奏は中断して、すぐにスタッフも登場して、ヴィオラ奏者と歩いて退場しました。佐渡が口頭で再開する場所を伝えて演奏再開。本番中に演奏が止まる経験は初めてでしたが、客席もそれほどザワザワせずに、冷静に対応しました。独唱パートが長く続き、代わる代わる独唱を披露。後半でようやくハープ×4の出番。マンドリン×2はファゴットの右。「おいで!~」を歌うソプラノⅢの小川里美は、合唱団の右奥に設置された台から歌います。栄光の母なる聖母の役柄にふさわしい。歌うと台から降りたので、出番が少ない。ピアノとチェレスタはヴァイオリンの後ろで演奏。合唱の弱唱から盛り上がり、最後はまたバンダが登場して、「ド・ソ・ラ」のモティーフを強調しました。
カーテンコールで、佐渡は「ヴィオラ奏者が倒れたけど無事でした」と報告。大事に至らず良かったです。拍手に応えてアンコール。大友良英作曲(江藤直子、加藤みちあき、荻原和音編)/そらとみらいと~阪神・淡路大震災30年メモリアル委嘱作品からPart3「祭りと空と」をふたたび演奏。わざわざ締太鼓×2を用意していました。和太鼓は大太鼓で代用。三・三・七拍子は、合唱団も一緒に手拍子。17:35に終演。合唱団の退場後に、佐渡がステージに出てきて拍手を受けました。終演後に佐渡裕のサイン会があり、長い行列ができました。
なお、1月17日には11:30から「1.17のつどい -阪神・淡路大震災30年追悼式典-」が兵庫県公館(神戸市)で行なわれ、YouTubeのひょうごチャンネル(@hyogoch)で配信されました。天皇皇后両陛下も臨席され、佐渡裕と兵庫芸術文化センター管弦楽団の弦楽合奏が、伴奏を担当しました。献奏曲として、J.S.バッハ「G線上のアリア」を演奏。国歌はオーケストラも立って演奏しました。献唱曲として「しあわせ運べるように」(作詞・作曲:臼井真)を演奏。臼井は当時神戸市の小学校に勤務されていて、小学生が歌いましたが、いい曲です。さらに、献唱曲として、モーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を演奏しました(合唱は神戸市混声合唱団)。続いて、14時頃から、本公演で演奏された「そらとみらいと」と「千人の交響曲」が配信されました。本番の衣装で演奏して、お客さんも入っていて、前日の夜の公開ゲネプロの録画映像でした。アーカイブとしては保管されていません。
佐渡裕は2024年6月に盛山正仁文部科学大臣(当時)から、文化関係者文部科学大臣表彰を受けました。表彰理由は「我が国のクラシック界を牽引する指揮者として永年にわたり国内外で活躍し、我が国の芸術文化の振興に貢献している」です。
また、4月13日(日)に開幕する関西万博の初日に「1万人の第九 EXPO2025」を佐渡が指揮することが発表されました。佐渡は2025年日本国際博覧会アンバサダーを務めています(他には、コブクロ、ダウンタウン、宝塚歌劇団、松本幸四郎、山中伸弥)。本公演にもチラシが入っていて、MBSテレビの主催で、大阪・関西万博会場のウォータープラザ及び大屋根リングで演奏される「1万人の第九 EXPO2025合唱団」の参加者1万人を募集していました(1月20日締切)。参加料は大人で20,500円(入場料4,000円込み)ですが、予想人数をはるかに超える応募があったとのこと。当日は朝6:30頃に集合、朝8時からリハーサルで、朝9時に開演して、9:30に終演予定です。全楽章ではなく、第4楽章のみのようです。演奏は兵庫芸術文化センター管弦楽団。こんなに朝早くに第九を演奏する機会もないでしょうが、さてどんな演奏になるでしょうか。
ちなみに、昨年11月25日に行なわれた兵庫県立芸術文化センター開館20周年企画の記者会見で、記者から芸術監督を辞任する噂があることについて聞かれましたが、佐渡は「辞める気もないし、ライフワークとしてやっていく」と答えています。
(2025.2.23記)