ワンコインコンサートVol.8「ピアノと砂のファンタジー「アラビアンナイト」~ピアノとサンドアートでつづる幻想絵巻~」


  
    2025年1月13日(祝・月)11:30開演
枚方市総合文化芸術センター関西医大大ホール

広瀬悦子(ピアノ)、伊藤花りん(サンドアート)

リスト/愛の夢第3番
ドビュッシー/月の光
リムスキー=コルサコフ(広瀬悦子編)/交響組曲「シェヘラザード」

座席:全席指定 2階3列29番


枚方市総合文化芸術センターに初めて行きました。(旧)枚方市市民会館は1965年に開館しましたが、1971年に完成した大ホールと小ホールは、2018年の大阪府北部地震で天井が崩落したため使用中止になり、そのまま2021年9月末で閉館しました。枚方市総合文化芸術センターは2018年に起工して、2021年8月30日に開館記念式典とこけら落とし公演(辰巳満次郎の能と野村萬斎の狂言)が行なわれました。9月5日には尾高忠明が指揮する「大阪フィルハーモニー交響楽団特別公演」が開催されました。ピアニストの仲道郁代の出演を含めて、高槻城公園芸術文化劇場のこけら落とし(2023.4.1)と同じです。
枚方市総合文化芸術センターは2024年4月には一般社団法人日本音響家協会が選ぶ「優良ホール100選」に認定されました。「劇場技術者からみた使いやすいホール」として、近畿では、びわ湖ホール、フェスティバルホール、いずみホール、NHK大阪ホール、吹田市文化会館・メイシアター、サンケイホール ブリーゼ、兵庫県立芸術文化センター、神戸国際会館こくさいホール、尼崎市総合文化センター・アルカイックホールなど19件が認定されていますが、京都は国立京都国際会館の1件だけです。

枚方市総合文化芸術センターのネーミングライツは学校法人関西医科大学が取得しました。枚方市総合文化芸術センターのすぐ隣に、関西医科大学枚方キャンパスがあり、附属病院、医学部棟、関医タワーなどの施設が並んでいます。大ホール(1468席)のネーミングライツ契約は、5年間で年額1050万円です。なお、大ホールの隣にある小ホール(325席)のネーミングライツは5年間で年額300万円で契約しています。

「ワンコインコンサート」のシリーズは、2021年11月からスタートしました。ワンコインコンサートの名前の通り、チケット料金は全席指定で500円。これまでに、崔文洙(Vol.1)、近藤浩志(Vol.2)、篠崎史紀(Vol.3)、高木綾子(Vol.4)、福川伸陽(Vol.5)、石田泰尚(Vol.6)、本田英二郎・本田雅人(Vol.7)などが出演しました。60分のコンサートですが、どう考えても安すぎます。
ピアノソロは本公演が初めてで、リムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」を、広瀬悦子が自らピアノ独奏に編曲して演奏します。また、「ピアノとサンドアートでつづる幻想絵巻」の副題の通り、伊藤花りんのサンドアートと共演するのも注目です。チケットは枚方市総合文化センターオンラインチケットから申し込み。クレジットカード決済ができて、公演当日に1階の総合受付で受け取りできるのが便利です。

広瀬悦子はパリに在住。2024年12月にアルバム「シェヘラザード」をリリースしました。広瀬悦子のX(@HiroseEtsuko)によると、2024年12月にトルコのイスタンブールで世界初演しました。サンドアートとの共演は本公演が世界初演となりました。広瀬はサンドアーティストの伊藤花りん(かりん)と組んで、2021年からピアノと砂のファンタジー「星の王子さま」の公演を全国各地で行っています。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を広瀬が翻訳して、本公演の2日前の1月11日(土)にも、名古屋市中川文化小劇場で演奏されました(チケットは3,500円)。本公演の「アラビアンナイト」は、「星の王子さま」に続くサンドアートの第2弾です。
伊藤花りんは2012年からサンドアートを本格的に始めたようで、秋篠宮殿下と紀子様の前でパフォーマンスを披露したことがあるとのこと。意外にキャリアが長い。なお、乃木坂46の元メンバーで、NHKで将棋番組の司会をしていた伊藤かりんとは別人です。

京阪電車の枚方市駅から徒歩5分で、駅からすぐエスカレーターで行ける通路がありますが、今回は阪急の高槻市駅から京阪バスに乗って行きました。約25分で280円で到着。早く着きすぎたので、本館1階のカフェハーツ(café H-Arts)で朝食。H-Artsとは、Hirakataの「H」と「Art(文化芸術)」をつなげた造語です。チケット提示で5%割引になりました。カレーがおいしかったです。
建物の内装が豊中市立文化芸術センターに似ていて、木目調です。3階に屋上庭園がありますが、今は行けないようです。大ホールの入口は2階にあります。ガラス張りで、外からホワイエが見えます。クロークはありません。大ホールの座席数は1468席で、3階席まであります。2階席のギリギリ雨宿り席でしたが、ステージとの距離は近い。当日券は発売されましたが、1階席と2階席は満席でした。余ベルがロームシアター京都と同じでした。

1曲目と2曲目は、広瀬悦子のピアノソロ。広瀬が赤いドレスで登場。下手寄りに置かれたピアノを弾きました。全曲暗譜で演奏しました。

プログラム1曲目は、リスト作曲/愛の夢第3番。ゆったりしたテンポで、ショパン風の響き。

プログラム2曲目は、ドビュッシー作曲/月の光。打鍵や音符の輪郭がはっきり。

プログラム3曲目は、リムスキー=コルサコフ作曲(広瀬悦子編)/交響組曲「シェヘラザード」。女声のナレーションが流れて、アラビアンナイトの概略を説明。第1楽章と第2楽章で「船乗りシンドバッドの冒険」、第3楽章で「ペルシャ王と海の王女」、第4楽章で「アラジンと魔法のランプ」の3つの物語を披露するとのこと。レコード芸術ONLINEのインタビュー記事で、広瀬は「4手版(ピアノ1台2名で演奏)は、リムスキー=コルサコフの奥様が編曲したが、1人で落ち着いて弾きたい」という気持ちでピアノ独奏版を編曲したとのこと。なお、楽譜を出版する予定はなく、「私が見ても、自分の書いた楽譜はよくわからないので、暗譜して弾くしかない」と語っています。

場内は真っ暗になり。赤い服を着た伊藤花りんが、ろうそくのライトを持って、ステージに3つ置かれているテーブルの上にあるキャンドルランタンの扉を開けて、ろうそくに火を灯しました。黒いサンドアート台がステージ上手に置かれています。
サンドアートは、砂を使って絵を描きます。具体的には、ガラスに敷いた砂を、真下に設置したライトで照らして、真上のカメラで撮影した映像がステージ後方のスクリーンに映し出されました。サンドアートは初めて見ましたが、伊藤花りんはとにかく描くのが早い! あっという間に絵が完成します。事前に描きたい絵をイメージできていないと無理な芸当です。基本は右手の指を使って描き、たまに両手を使い、数か所だけヘラを使いました。丸や顔の輪郭もきれいに砂を払いのけて、一回で描きます。人の顔もすごくきれいで、目や眉毛など細かな線も化粧をするように描きます。顔のパーツは繊細な作業で、やり直しがきかないので失敗できません。どうでもいいことでしょうが、絵を描いているときには、砂が飛び散ってしまうので、くしゃみや咳はできませんね。
スクリーンに投影されるのは茶色ですが、白い砂を使用しているようです。最初から最後まで単色でしたが、濃淡や線の太さで奥行きや立体感や陰影が生まれます。水墨画のようとも言えますが、もっと単純な素材で描いているのがすごい。サラサラした砂を上からココアパウダーみたいにふりかけて、立体的に見せます。例えば、遠くの建物を描いたあとに砂をふりかけてぼやかすことで遠近感を表現しました。1枚のガラスに描いているので、次の絵を描くときには別のシートが出てくるのではなく、今の絵を消して重ねて上書きしていきます。せっかくできたのに、次の絵を描くために崩したり消したり、手のひらを使ってさっと消してしまうのがもったいなく感じました。
また、演奏時間に過不足なく描く必要があります。サンドアートが早く完成してしまうと、演奏が終わるまで手持ちぶさたになってしまうので、この辺も計算しながら描く必要があります。ただし、演奏とサンドアートのタイミングを合わせようとする意思は感じませんでした。サンドアートのあまりの鮮やかさに圧倒されて、楽章が終わるごとに客席から拍手が起きました。長い曲ですが、退屈するどころか見とれてしまいました。

広瀬の演奏は、いいアレンジで、オーケストラを聴いているようで遜色がありません。自分で編曲したとは言え、暗譜で演奏しているのも驚きです。特殊な演奏条件だったからか、少しミスタッチもありました。もともとは広瀬のピアノ編曲を聴きに来たのですが、ピアノが脇役になってしまって、すっかりサンドアートに魅了されました。

タイトルが書かれた同じ色のプレートをガラスに映写してスタート。第1楽章「船乗りシンドバッドの冒険」は、最初にヘラを使って城を描き、左に女性(おそらくシェエラザード)、右に男性(おそらくシャフリヤール王)の顔を描き、続いて「1回目の航海 クジラの島」では、そのものずばりクジラの島を描きました。続く第2楽章は、「2回目の航海 ダイヤモンドの谷」と「7回目の航海 象牙の山」。鳥、ヘビ、船、ゾウを描きました。ピアノがリズミカルに演奏。第3楽章は「ペルシャ王と海の王女」。伊藤がステージ右のろうそくをともしてから開始、魚、馬、ラクダなどが描かれました。第4楽章は「アラジンと魔法のランプ」。伊藤がステージ中央のろうそくに火を灯して、これで3つともろうそくに火がつきました。ランプからアラジンが登場。ランプは立体感があって、砂で描かれているとは思えません。空飛ぶじゅうたんを描いた後、左に女性、右に男性を描き、ステージのろうそくを3つとも消しました。最後に右下に「Fin」と書いて終わり。すごすぎました。12:40に終演。終演後は撮影可能の案内があったので、撮影しました。

残念だったのは、音楽で描かれるストーリーと、サンドアートで描かれる物語が関連がないこと。リムスキー=コルサコフが音楽で描いた物語とサンドアートの絵が一致していればよかったでしょう。この作品の第1楽章「海とシンドバッドの船」、第2楽章「カレンダー王子の物語」、第3楽章「若い王子と王女」、第4楽章「バグダッドの祭、海、青銅の騎士のある岩にて難破」の標題について、リムスキー=コルサコフは最終稿で削除しましたが、後述する広瀬のCDには記載されているように、日本では標題付きで知られています。「アラジンと魔法のランプ」などは「シェエラザード」には登場しませんが、千夜一夜物語(アラビアンナイト)には収録されているので、広義のアラビアンナイトとしてみれば楽しめるでしょうが、標題との乖離がどうしても気になってしまいました。

ピアノとサンドアートは 新時代のコラボレーションで、視覚的に大変楽しめました。伊藤花りんは砂を自由に操ることができて本当に素晴らしい。伊藤花りんはYouTubeチャンネル(@karinitotheate)を開設して、ほぼ隔週で「伊藤花りんサンドアートライブ配信」でサンドアートを生配信の動画で披露しています。2025年1月で110回を数えます。

なお、本公演の4日後の1月17日(金)には、「広瀬悦子ピアノリサイタル ~Scheherazade~ New Album「シェヘラザード」発売記念公演」が、ベヒシュタイン・セントラム東京(東京都千代田区有楽町)で開催されました。こちらはサンドアートとの共演はありませんが、入場料は3,000円でした。

広瀬がリリースした「シェヘラザード」のCDは、2024年9月に録音されました。「シェヘラザード」は装飾音が多く技術的に難しい。カップリングでボルトキエヴィッチ(1877~1952)が作曲した東洋的バレエ組曲「千夜一夜物語」を収録しています。ボルトキエヴィッチは、ロシア帝国ハルキウ(現ウクライナ)の作曲家で、リムスキー=コルサコフよりも33歳年下です。ロシア革命でトルコに亡命したり、ナチスの迫害を受けてウィーンに亡命したり、不遇の人生を送りました。この作品は1927年に出版されて、「カリフ・ハールーン=アッラシード」、「貧しい漁師の物語」、「少女たちの踊り」、「東洋の踊り」、「魔法の城」、「ゾベイタ妃」、「哀悼の踊り」、「三姉妹の踊り」、「バッカナール」、「邪悪な魔法使い、壺から逃げ出す」の10曲からなります。もともとピアノ曲として作曲されて、その後作曲者自身がオーケストラ用に編曲しました。こちらの曲のほうが響きの密度が濃く、表情豊かで演奏もいい。3分程度の小品が続き、「東洋的バレエ組曲」という曲名ですが、すごく東洋的な響きがするわけではありません。「貧しい漁師の物語」、「東洋の踊り」、「哀悼の踊り」は、エキゾチックなメロディーが魅力的です。

まったくの余談ですが、この日は成人の日で、枚方市駅周辺で晴れ姿の新成人を多く見かけましたが、成人式はどこでやっているのか気になりました。調べたところ、「はたちのつどい」として枚方市立19中学校の体育館で分散して開催されました。いいアイデアですね。

 
 

京阪バス「枚方市駅」行き(阪急高槻バス停) 施設前広場 café H-Arts エントランスロビー 関西医大大ホール 関西医大大ホール 終演後、投映されているサンドアート作品の撮影ができます 終演後 サンドアート作品 サンドアート台 ラボール枚方前交差点のエスカレーターから望む

(2025.1.30記)


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