京響メンバーによるアウトリーチコンサート


2020年7月5日(土)14:00開演
京都市右京ふれあい文化会館ホール

プログラムB
【金管五重奏】
 デュカス/「ラ・ペリ」ファンファーレ
 シャイト/戦いの組曲
  ハラルド・ナエス、稲垣路子(トランペット)、岡本哲、小西元司(トロンボーン)、垣本昌芳(ホルン)

【木管五重奏】
 アリュー/木管五重奏曲
  上野博昭(フルート)、土井恵美(オーボエ)、小谷口直子(クラリネット)、村中宏(ファゴット)、澤嶋秀昌(ホルン)

【ハープ・フルート・クラリネット・弦楽】
 ラヴェル/序奏とアレグロ
  泉原隆志、鈴江洋子(ヴァイオリン)、小峰航一(ヴィオラ)、ドナルド・リッチャー(チェロ)、黒川冬貴(コントラバス)、松村衣里(ハープ)、 上野博昭(フルート)、小谷口直子(クラリネット)  

座席:自由



新型コロナウイルスの影響で公演を中止していた京都市交響楽団が、いよいよ「アウトリーチコンサート」で活動を再開しました。小編成アンサンブルでの演奏です。

京都市交響楽団は、第642回定期演奏会(2020年2月14日)が観客を入れての最後の公演となり、びわ湖ホールプロデュースオペラ「ワーグナー作曲『ニーベルングの指環』第3日「神々の黄昏」」(2020年3月7日&8日)と第643回定期演奏会(2020年3月28日)は、無観客公演無料ライブ配信となりました。それ以降の公演はすべて中止となりました。第646回定期演奏会(2020年6月26日)では広上淳一が国内では初めてブルックナー(交響曲第8番)を指揮する予定でしたが残念。

京都市交響楽団は4月から新体制になりました。常任首席客演指揮者を務めた高関健と下野竜也が退任し、ジョン・アクセルロッドが首席客演指揮者に就任しました。また、広上淳一が第13代常任指揮者兼芸術顧問と第4代京都コンサートホール館長に就任しました。さらに、特別名誉友情コンサートマスターに豊嶋泰嗣(京都市立芸術大学弦楽専攻教授、新日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスター、兵庫芸術文化センター管弦楽団コンサートマスター、九州交響楽団桂冠コンサートマスター)を迎え、特別客演コンサートマスターに、石田泰尚(神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスター)と会田莉凡(サイトウ・キネン・オーケストラ)の2名を迎えました。

5月21日の緊急事態宣言解除を受けて、近畿圏のオーケストラでは、京都フィルハーモニー室内合奏団(6月13日 第225回定期公演A 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)、日本センチュリー交響楽団(6月20日 ハイドンマラソンHM.19 ザ・シンフォニーホール)、関西フィルハーモニー管弦楽団(6月27日 第311回定期演奏会 ザ・シンフォニーホール)、大阪フィルハーモニー交響楽団(6月26日&27日 第539回定期演奏会 フェスティバルホール)など、座席の間隔をあけて、曲目を変更しての開催ですが、公演再開の動きが広がりました。

アウトリーチコンサートの開催は、6月14日(日)に配信された「京都市交響楽団メールマガジン」で発表されました。市内のホール5か所での開催で、7月3日(金)呉竹文化センター、7月5日(日)右京ふれあい文化会館、7月9日(木)西文化会館ウエスティ、7月12日(日)東部文化会館、7月15日(水)北文化会館で、プログラムはAとBの2種類。いずれも室内楽の編成で、14時開演で休憩なしの約60分の公演です。入場はなんと無料ですが、事前申し込み制で各会場定員100名と限定されました。申し込みは、専用申し込みフォームから6月15日(月)〜25日(木)。平日は行けないため、右京ふれあい文化会館の公演に申し込み。同伴者の名前と電話番号も申し込み時に入力が必要でした。 抽選の結果、6月30日にめでたく当選メールが届きました。開場は13:30の予定でしたが、会場内外の密をできる限り避けるために「時差入場」となり、私の入場時間は13:25〜13:35までと指定されました。 注意事項として、マスク着用の協力などが挙げられ、感染者が発生した場合は、来場者の個人情報を必要に応じて保健所等の公的機関へ提供するとのこと。ちなみに、右京ふれあい文化会館も5月末まで臨時休館していたため、同ホールでの公演も約4ヶ月ぶりとなりました。

時差入場は3グループほどに分けられたようです。受付で名前を言い、非接触型検温器での検温とアルコール消毒を済ませ、プログラムは手渡しではなく、机に置かれていて自分で取る形式でした。スタッフはフェイスシールドを着用して対応しました。 客席は自由ですが、「ご使用になれません」と書かれた紙が貼ってある席が3席に2席の割合であり、隣の客とは2席空けて座りました。右京ふれあい文化会館ホールの定員は452名なので、来場者が100名だと余裕があります。曲目は事前に発表されましたが、出演者は当日のプログラムで初めて分かりました。首席奏者級が出演して豪華です。

まずは金管五重奏で、プログラム1曲目は、デュカス作曲/「ラ・ペリ」ファンファーレ。当然ですが、奏者はマスクをつけていません。団員は背に「Kyoto Symphony Orchestra」とプリントされた半袖黒Tシャツを着ていました。余談ですが、京響の英語表記が4月から「City of Kyoto Symphony Orchestra」と変更されましたが、新しい表記のTシャツはまだ作られていないようです。ひさびさに楽器の生の音を聴きましたが、伸びやかな音がいい。5名の奏者の間の間隔は広め。座席がステージに近いため、ブレスの音がよく聴こえました。

演奏事業部長の上野喜浩が司会進行。常任指揮者の広上淳一が最後列で聴いていることを紹介し、客席から拍手。今日の公演は300人から申し込みがあり、100人に来ていただいているとのこと。上野は4月に着任したようで、前職はすみだトリフォニーホールのプロデューサーを務めていました。「京響は2月14日が最後の定期演奏会となり、無観客ライブ配信となった3月28日の定期演奏会がオーケストラとして最後の活動となったため、 5ヶ月ぶりの公演となる。プログラムと一緒にお配りした「京都市交響楽団ビジョン」を実践していきたい」と話しました。

続いて、首席トロンボーン奏者の岡本哲へのインタビュー。「京都市交響楽団YouTubeチャンネルで、美空ひばり「川の流れのように」を演奏した」「活動再開まではじっくり楽器に向き合った」と話しました。

プログラム2曲目は、シャイト作曲/戦いの組曲。岡本は「ドイツバロック時代のとても古い曲」と紹介しました。3楽章からなります。第1楽章は左右のトランペットの掛け合いが楽しい。ハラルド・ナエスが顔を真っ赤にして演奏。輝かしい音色がいい。楽章間では楽器から唾を抜いて、床の雑巾に落とすのをいつもより頻繁にしていました。意識的に時間をかけていたので、飛沫を拡散させないコロナ対策なのかもしれません。

続いて、木管五重奏。舞台転換の間に、首席フルート奏者の上野博昭へのインタビュー。いつもは座っているので分かりませんでしたが、背が高い。プログラム3曲目は、アリュー作曲/木管五重奏曲。上野は「アリューはフランスの女性作曲家で、デュカスに習っていた」「木管五重奏曲のなかではあまり演奏されないが、おしゃれで楽しく聴きやすい曲」「木管五重奏は各楽器の発音が違うが、音色はカラフル」「リモートで木管五重奏のアンサンブルを演奏したが、今日はホールがよく響いて驚いた」「コロナとは共存していかないといけない」と話しました。演奏は奏者間の間隔がいつもより離れているせいか、少し演奏しにくいところがあったかもしれません。ハーモニーの響きがやや薄く感じられました。第5楽章は速いテンポで、技術的に難しい。いつものオーケストラで正面を向いているフルート奏者やクラリネット奏者(小谷口さん)を、横から見ることはないので新鮮でした。

最後は、ハープ・フルート・クラリネット・弦楽の編成。ハープ奏者の松村衣里へのインタビュー。いつもは楽器に隠れていますが、すごく体が細い。プログラム4曲目は、ラヴェル作曲/序奏とアレグロ。松村は「楽器メーカーがラヴェルに作曲を依頼した。楽器の性能が駆使されている」と紹介しました。8人での演奏で、中央のハープを取り囲んでいます。弦楽器奏者もマスクをつけずに演奏。ハープが主役級で、長めのカデンツァもあります。メロディーの流れや抑揚、躍動感が生演奏のすばらしさを実感させます。緊密なアンサンブルで、まったくブランクを感じさせません。

最後に、広上淳一とコンサートマスターの泉原隆志のトーク。泉原が「ひさしぶりですね」と話すと、広上は「なかなか出番がない。3月の定期演奏会は感謝の気持ちで指揮した」と話しました。6月10日のサントリーホールでの指揮(日本フィル&サントリーホール とっておき アフタヌーン オンラインスペシャル(無観客公演・有料配信))にも話が及び、広上は「オーケストラ全体で演奏するのはまだ制約があるかもしれないが、やっぱり音楽はいい」「オーケストラを人体とすれば、ひとつひとつの細胞に魅力がある。今日のような音楽会をどんどんやって、身近な生活に入り込む。大きい会場ではなくてもどこでもできる。指揮なんかいらないね」と話しました。また「コロナが止めようとしても私たちは止まらない」と力を込めて話しました。泉原は「7月3日(呉竹文化センターでのアウトリーチコンサート)は幸せがみちあふれたが、今日はちょっとピリッとした緊張感がよみがえってきた。トレーニングになった。京響スタッフには感謝している」と話しました。

15:15に終演。退場時も密を避けるために、列を指定して時差退場となりました。アンケートは紙の配布はせず、代わりに配布されたQRコードを読み取っての回答となりました。なお、終演後には広上と泉原が報道各社の取材に応じたようです。朝日新聞の記事によると、5公演で1000名を超える申し込みがあったようです。

京都コンサートホール・ロビーコンサートVol.3「石上真由子 ヴァイオリンコンサート以来、3ヶ月半ぶりに生演奏を聴きましたが、やっぱり音楽はいいですね。1時間のコンサートでしたが、団員の声も聴けてもりだくさんでした。

京都市交響楽団は今後本格的に活動を再開し、ついに7月から京都コンサートホール大ホールで定期演奏会を再開。第647回定期演奏会(7月25日(土)・26日(日))は、なんと2回公演を3回に増やし、指揮者(パスカル・ロフェ→秋山和慶)や曲目を変更して開催します。京響の意気込みを感じます。第648回定期演奏会(8月29日(土)・30日(日))も1回公演を3回に増やし、第24回京都の秋音楽祭開会記念コンサートも2回公演で開催します。京都市に京響があってよかったと思える活動をこれからも期待しています。


右京ふれあい文化会館 受付・検温

(2020.7.15記)

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