沼尻竜典オペラセレクション ビゼー作曲「カルメン」プレトーク・マチネ


   
   
2021年5月29日(土)11:00開演
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール小ホール

お話 岡田暁生(京都大学人文科学研究所教授)
   沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
司会 藤野一夫(芸術文化観光専門職大学副学長、神戸大学名誉教授)

森季子(メゾソプラノ)、清水徹太郎(テノール)、迎肇聡(バリトン)、梁川夏子(ピアノ)

座席:自由



びわ湖ホールでは「沼尻竜典オペラセレクション」として、2007年から毎年1作、オペラを上演しています。2020年11月のロッシーニ「セビリアの理髪師」は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため公演が中止となりましたが、2021年は7月31日(土)と8月1日(日)に、ビゼー「カルメン」が上演されます。指揮の沼尻は、びわ湖ホール芸術監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督、桐朋学園大学教授を務めています。2022年4月より神奈川フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任します。

そのプレ企画として、「プレトーク・マチネ」が開催されました。「今夏の公演に先立ち、指揮者、評論家が聴きどころや見どころをたっぷりとご紹介いたします」という趣旨で、この企画は、初代芸術監督の若杉弘の頃から行われているようです。

京都府や大阪府への3回目の緊急事態宣言が6月20日まで再延長されましたが、滋賀県には発令されておらず、「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭2021」(5月1日〜2日)も開催されました。
入場無料で、事前申し込みも不要でした。10:30に開場。「来場者連絡票」(住所、氏名、電話番号)を記入し、箱に入れます。検温と手指消毒のうえ、机に置かれたプログラムを各自で取ります。プログラムは歌詞対訳付きの立派な内容でした。
小ホールに行くのは初めてで地下1階にあります。323席ですが、客は9割の入り。前方を空席にしていました。

はじめに、びわ湖ホール館長の山中隆が挨拶。「ここは緊急事態宣言外なので、ずっと100%の客席でやっている。換気はじゅうぶんできているし、歌手は普段からマスクをつけて体調管理に気をつけているので、安心して楽しんでほしい。みなさんのお知り合いにもPRして欲しい」と話しました。

前半の1時間はトーク。左から、沼尻竜典、岡田暁生(京都大学人文科学研究所教授)、藤野一夫(芸術文化観光専門職大学教授、神戸大学名誉教授)が座りました。司会の藤野が「いつものメンバー3人」と話したように、いつも同じようです。
藤野が「ワーグナーはビゼーを天才が現れたと言った」と口火を切り、岡田が「カルメンは大衆性オペラの典型で、安上がりで上演できる。3月のパラジファルの公演にお金がかかるので経費を節減するためらしい」というギャグ?を披露。「ずっとワーグナーを上演してきて今回はビゼーだが、筋が通っている。ワーグナーは俗物で、ニーチェも付き合いきれなくなり、ワーグナーを攻撃しだした。ニーチェはビゼーの直截さ(ストレートさ)に惹かれた。ワーグナーはモチーフがどうとか脇道をするが、ビゼーは筋も単純で何の予備知識もいらない。古代ギリシャの神々の直截さのようなものにニーチェがほれこんだ」と話しました。沼尻も「旋律に大衆性が備わっている」と話して、親子丼のテレビCMで使われていた部分を歌いました。
また、岡田は「セレブ以外の人物を登場人物にした点や、殺人が起こるのも当時タブーで衝撃的だった。新聞の三面記事の殺人を舞台に乗せた」と話して、殺人を「ブス!、ギャー!」と表現。やや早口ですが、話がおもしろい。「カルメンを聴いているとものを考えることがばかばかしくなる」とのこと。

沼尻は「オーケストレーションがうまい。楽器の数が多くないのに、よく鳴るように書いてある。カルメンを指揮するのは今回が5回目で、1回目は北海道幕別町の市民オペラ(札幌交響楽団)で歌詞は日本語だった、2回目は新国立劇場、3回目はシュトゥットガルト、4回目はチョン・ミョンフンの練習指揮者」と話しました。また、「カルメンでこける指揮者は多く、セリフからオーケストラへの移行などが難しい。カルメンには、セリフがあるオペラコミック版と、セリフを音楽にのせて歌う(ギロー版)があり、ギロー版のほうが歌手のなまりが隠せる。今回指揮するスコアが送られてきたが、折衷のようだった。最近はセリフ付きの上演が増えているが、セリフは日本語にしてもいいと思う」と話しました。ジプシーの踊りを実際にピアノで弾いて、「ラヴェルのボレロの原型かと思う」と話しました。沼尻もトークに慣れています。
藤野も「闊達なリズム感がよい。カルメンは所有されたくない女」と話すと、岡田は「資本主義を批判している」と話しました。藤野が「本公演のビラに「運命の女」と書かれているが疑問に思う。アナーキストが適切か」。岡田は「カルメンは今のことしか考えない、瞬間しか考えない。だから、モチーフがなく、次から次へとメロディーが出てくる」と話しました。
10分の休憩時間に、質問がある人は質問用紙を箱に入れました。

後半は演奏。歌手はいずれもびわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバーで、ピアノ伴奏で、マスクなしで歌います。ピアノは梁川夏子。
1曲目は、第1幕第5景のハバネラ「恋は野の鳥」。2曲目は第10景のセギディーリャ「セビリアののそばのリーリャス・パスティアの酒場で」。ともにカルメンのアリアです。メゾソプラノの森季子(ときこ)が赤いドレスで登場。小ホールでもよく響きます。森が歌う「ハバネラ」はびわ湖ホール避難訓練コンサート〜オペラからアニソンまで〜で聴きました。曲想に合わせて、ステージの照明が、ハバネラでは赤くなり、セギディーリャでは紫色の照明になりました。森は7月31日の公演で、メルセデス役で出演します。
3曲目は、第2幕第2景の闘牛士の歌「諸君の乾杯を喜んで受けよう」。エスカミーリョ役でバリトンの迎肇聡(むかいただとし)が歌います。沼尻曰く「エスカミーニョをやれる歌手が少なくなっている」とのこと。声がよく伸びます。赤い照明。迎は7月31日の公演で、ダンカイロ役で出演します。
4曲目は、第2幕第5景の花の歌「おまえが投げたこの花は」。ドン・ホセ役で、テノールの清水徹太郎が歌います。口をあまり開けてないのに、すごく自然に響きます。青白い照明。清水は7月31日の公演でもドン・ホセ役で出演します。ブラボー。

演奏後は、前半の3人が登壇して、質問用紙をもとに質疑応答。前半のトークに対する意見のようなコメントや、前半のトークで触れられていない専門的な話題もありました。沼尻は「ぴったり合っている演奏は面白くない。即興性があるほうがいい」と話し、岡田も「カルメンは予想がつかない女だから」と同感しました。藤野が、来週から発売開始のチケット購入を呼びかけて、12:30までの予定でしたが、12:45に終了しました。ちなみに、本番は東京フィルハーモニー交響楽団が演奏します。
カルメンは、京都市立芸術大学第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」で全曲を聴きましたが、オペラを分かりやすく解説してくれる企画は好感が持てます。来ている方は、オペラ通らしいご年輩の方が多かったです。

なお、沼尻は2007年度から務めた第2代びわ湖ホール芸術監督を2023年3月で退任し、後任には阪哲朗が就任することが発表されています。阪は2021年4月からびわ湖ホール芸術参与に就任しました。

本日の催し

(2021.6.3記)

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