びわ湖ホール避難訓練コンサート〜オペラからアニソンまで〜


   
      
2017年9月10日(日)15:00開演
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホール

竹内直紀(テノール)、黒田恵美(ソプラノ)、森季子(メゾ・ソプラノ)、坂上洋一(バリトン)、加藤英雄(ピアノ)

華麗なるオペラの世界
一家団欒!カレーなるテレビの世界〜とある普通の家庭の巻〜

座席:1階 1L列 4番


「避難訓練コンサート」という珍しい演奏会がびわ湖ホールで開催されました。通常の演奏会と異なる点は、演奏会の途中で避難訓練が行われ、ホールの外に避難すること。避難完了後はふたたび客席に戻って、演奏の続きを鑑賞します。入場は無料でしたが、事前申し込みが必要で、座席は当日指定でした。

びわ湖ホールでの避難訓練コンサートは今年で3回目で、 2015年度(2016年3月12日)は中ホールで実施して400名が参加、2016年度(2016年9月10日)は大ホールで実施して650名が参加、そして今年度はふたたび中ホールで実施されました。

近年の防災意識の高まりとともに、同様の演奏会は全国各地で開催されています。2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機に、再開館した水戸美術館で2011年8月27日に行われたことで注目されました。近畿圏でも、フェスティバルホール(2,400名規模)、神戸国際会館こくさいホール(1,000名規模)、茨木市市民総合センター(クリエイトセンター)、姫路市文化センター、神戸市立灘区民ホールなどで実施されています。新国立劇場オペラパレス(東京)では、1,200名規模の「避難体験オペラコンサート」が行なわれ、劇場内に設置したカメラで観客の動きを分析するとのこと。それ以外のホールでも、消防法に基づいて、年に1回以上の防災訓練が義務づけられているはずで、京都コンサートホールなどでは休館日に職員のみで実施しているようです。

入場無料の演奏会ということで、出演料を抑えるためか、出演はピアノ伴奏による声楽コンサートで、出演者は5名。出演者のうち、黒田恵美(ソプラノ)、森季子(メゾ・ソプラノ)、竹内直紀(テノール)の3名は、びわ湖ホール声楽アンサンブル・登録メンバー。びわ湖ホール声楽アンサンブルは、1998年に設立された日本初の公共ホール専属の声楽家集団で、沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)が監修を務め、本山秀毅(大阪音楽大学教授)が専任指揮者を務めています。びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーは14名で、京都市立芸術大学第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」でカルメンを歌った吉川秋穂がアルトのメンバーとして所属しています。ソロ登録メンバーは、過去にびわ湖ホール声楽アンサンブルに在籍したことがあり、びわ湖ホールの自主公演にソリスト等として客演していて、女声27名、男声23名が在籍しています。また、テノールの竹内直紀は、「びわ湖ホール四大テノール」のうちの1人です。

13:30から中ホール入口前で、座席が書かれたチケットを受け取りました。14:30開場でしたが、すでに多くの人が集まっていました。この日は中ホール以外の大ホールと小ホールで公演はなく、全館が避難訓練体制でした。ホールの周囲には、「防災訓練」と書かれた紙が掲示されていました。中ホールの定員は804席で、特別コンサート ヴァレリー・アファナシエフ「展覧会の絵」以来でした。客の入りは5割程度。

15:00に開演。まず防火管理者のあいさつ。「職員だけの訓練も実施しているが、今日はスタッフが学ぶ場として、よりよいマニュアルにしていく」と話しました。注意事項として、屋外に避難していただくが、途中に階段があること、スタッフの指示に従うこと、走らないこと、手荷物を持って移動すること、映像の撮影や取材があることについて、説明されました。

ピアノの前奏に続いて、前半の「華麗なるオペラの世界」が開演。独唱者4人がドレス姿で登場。1曲目は全員でヴェルディ作曲/オペラ「椿姫」より「乾杯の歌」。無料公演でしたが、ホリゾントの照明もありました。テノールの竹内直紀がMCを務め、メンバーとプログラムの紹介。続く2曲目は、森季子の独唱で、ビゼー作曲/オペラ「カルメン」より「ハバネラ」。3曲目は、ロッシーニ作曲/オペラ「セヴィリアの理髪師」より「私は街の何でも屋」。独唱の坂上洋一が客席の通路から登場。客席をうろうろしながら、客と顔を近づけて歌いました。他のアリアと比べると知名度が低く、子供もいるので飽きさせないようにアクションで工夫しているようです。軽快に歌いました。4曲目は、黒田恵美の独唱で、プッチーニ作曲/オペラ「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」。5曲目は、竹内直紀の独唱で、プッチーニ作曲/オペラ「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」。全体的に独唱者の4人は声量はあまりなく、ソロ向きではないかもしれません。

ここで前半が終了。後半のプログラムを紹介する竹内直紀のMCの途中で、ゴロゴロという音が鳴り、地震が発生しました。スタッフが「落ち着いてください」「ご着席ください」というプラカードを持って客席の通路に立ちました。ステージには、拡声器を持った男性スタッフが出てきて、このホールは耐震構造であることを説明し、情報収集中なので客席で待つように説明しました。しばらくしてから「震源地は○○、大津は震度5だった」と説明されました。

その後、火災探知機が作動したという自動放送が流れました。拡声器を持ったスタッフが「念のため避難経路を確保する」と説明し、スタッフがホール両側の扉を全開にしました。その後、「火事です」というけたたましい自動放送が流れ、給湯室で火災が発生したとのこと。スタッフの合図で避難開始。どの客がどの扉から避難するというような指示はありませんでした。
私はすぐ近くの1階左側の扉から避難しましたが、普段は通行できない楽屋通路が開放されて、楽屋通路を通って避難しました。これは通常の通路を通ると階段を昇る必要があるので、早く避難するための措置でしょう。ゆっくり歩いて避難しました。ホールを出た場所が段差になっていて、足元が不安定な場所がありました。つまずきそうで、少し危ないですね。

屋外ではスタッフが「避難口 EXIT」と書かれたプラカードを持っていて、全員が屋外に集まって避難完了。消防署員が立ち会っていました。防火管理者がマイクで説明。避難完了までにかかった時間は約7分で、観客325名とスタッフ関係者55名の380名が避難したとのこと。避難後に点呼などは取られませんでした。15:38に避難訓練は終了し、いったん解散して、16:00にコンサートを再開するとのこと。なお、開演を15:00と遅めの時間にしたのは、屋外に避難したときに暑くないからでしょう。消防署からの講評があってもよかったでしょう。

16:00から後半が開演。はじめに、館長の山中隆があいさつ。「このホールは耐震構造で、マニュアル通り避難すれば安全と確信している」と話しました。続いて、後半の「一家団欒!カレーなるテレビの世界〜とある普通の家庭の巻〜」がスタート。お母ちゃん(森季子)、お父ちゃん(坂上洋一)、お兄ちゃん(竹内直紀)、妹(黒田恵美)の4人家族という設定でカツラで扮装して、ステージにはテーブルと椅子が置かれていて、ちゃんとした劇でした。前半とのギャップがすごい。

土曜の夜の食卓という設定で、7時から「まんが日本昔ばなし」が始まるということで、1曲目は「まんが日本昔ばなし」より「にっぽん昔ばなし」を黒田恵美と森季子が独唱。いい歌です。続いて、8時になったということで、2曲目ははっぴを着て「8時だョ!全員集合!オープニング」を振付つきで全員で歌いました。客席からは手拍子。お父ちゃん役の坂上洋一は、新聞紙に隠れて気づかないように着替えるという裏技を披露。本当に瓶ビールを飲みながら、セリフを話しました。3曲目は「銀座の恋の物語」。石原裕次郎と牧村旬子のデュエット曲を、森と坂上がマイクを持ってカラオケのように歌いました。

ここで暗転して、ここからはアニメソングのメドレー。それぞれコスプレ姿で歌いました。4曲目は黒田の独唱で「アルプスの少女ハイジ」より「おしえて」。5曲目は坂上の独唱で「科学忍者隊ガッチャマン」より「ガッチャマンの歌」。6曲目は森の独唱で「母をたずねて三千里」より「草原のマルコ」。7曲目は「ドラゴンボールZ」より「CHA-LA HEAD-CHA-LA」。独唱としてプログラムには竹内と坂上がクレジットされていましたが、竹内が歌い、坂上はフリーザのコスプレで後ろに突っ立っているだけでまったく歌わず。客席からは「あれだけのために出てきたの?」と笑いが起こりました。8曲目は、加藤英雄のピアノ独奏で「ルパン三世のテーマ」。よく見ると、加藤もルパン三世のコスプレをしていました。9曲目は全員で「天空の城ラピュタ」より「君をのせて」を歌いました。竹内直紀のMC。「着替えが大変だった」とのことですが、「衣装はお父ちゃん(坂上洋一)が徹夜して作った」と明かしました。衣装はかなりの種類に及びましたが、びっくりです。アンコールとして、「となりのトトロ」より「さんぽ」を歌いました。
16:35に終演。退場時にホールの出口で、滋賀県地震防災ブック(滋賀県防災危機管理局)が入った袋を受け取りました。

後半の「一家団欒!カレーなるテレビの世界〜とある普通の家庭の巻〜」がぶっ飛んだ内容で、期待以上に楽しめました。地震発生時もホール内に留まったほうがよいことや、避難は走らないで歩くなど、緊急時の行動を学ぶことができました。実際に地震が発生したときに備えて、避難訓練で経験しておくことは有意義でしょう。

(2017.10.15記)


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