パリ白夜祭への架け橋――現代アートと過ごす夜
京都コンサートホール×ニュイ・ブランシュ KYOTO 2020
「ながれ うつろう 水・線・音」


2020年10月3日(土)19:00開演
京都コンサートホール1階エントランスホール

上野博昭(フルート)、𠮷岡倫裕(声明)、上中あさみ、伊藤朱美子、樽井美咲(打楽器)

ドビュッシー/シランクス
武満徹/雨の樹
イベール/フルートのための小品
ケージ/龍安寺(声明バージョン)
ヴァレーズ/密度21.5

座席:全席指定 1番



「ニュイ・ブランシュ(Nuit Blanche)」とは、日本語では「白夜祭」と言われますが、パリで毎年10月の第1土曜日に行われている一夜限りの現代アートの祭典のこと。パリと姉妹都市となっている京都でも、2011年から「ニュイ・ブランシュ KYOTO」を開催していて、今年で10回目になるとのことです。京都市内の各所で、多様な現代アートの作品が無料で上演されます。音楽以外にも、映像やダンスやパフォーマンスなどが行なわれました。京都市民なのにこのようなイベントが行なわれていることをまったく知りませんでした。今回初めて参加します。

今年の「ニュイ・ブランシュ KYOTO 2020」のテーマは、「流れ/フロー/Flux」。京都駅ビル駅前広場、京都芸術センター、元離宮二条城、無鄰菴、京都市京セラ美術館、京都市勧業館「みやこめっせ」、ロームシアター京都、NHK京都放送局、出町座、アップリンク京都などを会場に開催されました。

京都コンサートホールでは、「ながれ うつろう 水・線・音」と題した現代音楽の演奏会が開催されました。主催は、文化庁、公益財団法人日本芸能実演家団体協議会、京都コンサートホール(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都市。「流れるような、とどまることなく移ろいゆく水や線、音の動きを主題とした作品」5曲が選曲されました。いずれもめったに演奏されない珍しい作品です。京都市交響楽団首席フルート奏者の上野博昭が出演しました。京都コンサートホールのYouTubeチャンネルで、上野と𠮷岡倫裕によるメッセージ動画が配信されました。

入場は無料でしたが、事前申込制(限定50席)で、9月22日までに京都コンサートホールの申込専用フォームから申し込み。9月24日に当選メールが届きました。白夜祭にちなんでか、19時開演と遅い時間帯の公演です。1階の入口で、手指の消毒とハンディタイプの温度計で検温。 エントランスホールの奥に楽器が置かれ、手前に半円形でイスが並べられていました。座席は当選メールで指定されていて、私の座席番号「1番」は、向かって左側の最前列で、マリンバのすぐ後ろでした。限定50席と案内されていましたが、座席は70席ほどありました(会場座席図を参照)。
座席にプログラムが置かれていました。柿沼敏江(京都市立芸術大学音楽学部教授)による立派な楽曲解説がついていて、無料公演とは思えません。

エントランスホールの天井の照明が消えて真っ暗に。プログラム1曲目は、ドビュッシー作曲/シランクス。1913年の作曲で、フルート独奏で演奏されます。上野博昭がエントランスホールの上部にあるスロープの上の階で演奏。かなり離れた場所にいるようで、残響がよく響きましたが、上野の姿は見えません。遠くから吹いてくる風のような印象がありました。

続けてプログラム2曲目は、武満徹作曲/雨の樹。1981年の作品で、打楽器三重奏。エントランスホールにいる奏者側にスポットライトがつきました。左右にマリンバが置かれ、中央にヴィブラフォンが配置されました。冒頭はマリンバの上に置かれた小さなシンバル(クロテイル)を叩きます。中間部は水が流れるように一気に流れをつけて演奏。各奏者とも片手に2本ずつ、合計4本のマレットを持ち、頻繁にマレットを持ち替えて、繊細な表現が求められます。奏者は三人とも好演。

続けてプログラム3曲目は、イベール作曲/フルートのための小品。1936年の作曲で、フルート独奏で演奏。スロープの2階(大ホール入口前)で上野が譜面台を立てて演奏。伸びやかに響きます。

続けてプログラム4曲目は、ケージ作曲/龍安寺(声明バージョン)。1983〜85年の作曲。1962年にケージは龍安寺を訪れました。ソロパートはオーボエやトロンボーンなどいくつかの版があるようですが、今回は声明バージョンで、声明と打楽器1名によって演奏されました。柿沼の解説によると、ケージは1962年に龍安寺を訪れ、ソロは石庭の石を、助奏(打楽器)は熊手で均された白砂を表しているとのこと。 𠮷岡倫裕(りんゆう)が袈裟を着て入場。𠮷岡は声明家で、伏見にある真言宗明壽院(みょうじゅいん)で住職を務めています。打楽器の前に赤いじゅうたんがセッティングされて、あぐらをして歌いました。赤いスポットライトの中で演奏。
左後方で打楽器が演奏。硬い音質で、木の板(?)を強くたたいてテンポを刻み、たまに強打しました。スコアには四分音符と四分休符が記されています。𠮷岡の声明はほとんどお経で、低い声で歌われます。体全体から声が響きました。楽譜なのか分かりませんでしたが、前に置かれた紙をめくりながら歌いました。途中から事前に収録された録音が流れて二重唱になりました。ケージが感じた石庭の印象というよりも、自分のこれまでの人生を考えさせるようなもっと深いものを感じました。悟りが開けそうな曲と言えるでしょう。変化に乏しい単調な作品ですが、それが狙いなのかもしれません。

続けてプログラム5曲目は、ヴァレーズ作曲/密度21.5。1936年作曲・1946年改訂で、フルート独奏曲です。柿沼の解説では「比重21.5」と訳されています。上野が1階に降りてきて、エントランスホールの入口で演奏。途中に長いパウゼを取りました。フルートの楽器の性能が遺憾なく発揮され、豊かな音色がよく響きます。

全曲の演奏が終わり、聴衆はここで初めて拍手。19:50に終演しました。

「ニュイ・ブランシュ KYOTO」は、大阪クラシックのように身近な場所で文化を楽しめるイベントですが、10年前からやっているのにまったく知りませんでした。もっと広報して、知名度を上げていく努力も必要でしょう。まさに文化都市京都にふさわしい企画で、50分は短く感じました。もっと聴きたかったです。京都にある龍安寺をイメージして作曲された作品を、京都の住職が声明で演奏するとは、他の都市にはできない取り組みです。ぜひ来年も行きたいです。ちなみに、京都市交響楽団のメンバーは、京都市京セラ美術館で行われた「ナイト・ウィズ・アート2020」に「オオルタイチ × mama!milk × 京都市交響楽団」として出演したようです。

京都コンサートホール・ロビーコンサートVol.3「石上真由子 ヴァイオリンコンサート」で演奏した石上真由子もTwitterで「イタリアの教会よりも響きます。笑けちゃうくらい響きます。」とコメントしていましたが、エントランスホールは残響が豊かでよく響きます。新型コロナウイルス対策で密にならない環境が求められる中、このエントランスホールはもっと有効活用できるでしょう。照明を利用した演出も効果的でした。

会場座席図 夜の京都コンサートホール(プロムナード) 座席番号「1番」から見た配置 エントランスホール入口から見た配置

(2020.10.10記)


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