京都市交響楽団指揮者による音楽ワークショップ「指揮者のお仕事!ハーモニーって?」


   
2019年1月27日(日)18:30開演
京都市西文化会館ウエスティホール

下野竜也指揮/京都府立洛西高等学校吹奏楽部
福山俊朗(司会)

リード/エル・カミーノ・レアル
J.S.バッハ(リード編曲)/目覚めよと呼ぶ声あり

座席:自由


昨年の「京都市交響楽団指揮者による音楽ワークショップ「指揮者のお仕事!ハーモニーって?」」に続いて、今年も「京都市交響楽団指揮者による音楽ワークショップ「指揮者のお仕事!ハーモニーって?」」が行なわれました。京都市交響楽団×京都市西文化会館ウエスティ連携事業で、指揮は今回も下野竜也(京都市交響楽団常任首席客演指揮者、京都市立芸術大学音楽学部音楽学科指揮専攻教授)。前回はアマチュア吹奏楽団(NEO吹奏楽団)でしたが、今回は高校生(京都府立洛西高等学校吹奏楽部)の指導です。前回は「自分はドS」と言って、毒舌が炸裂しましたが、高校生にも辛口の指導となるでしょうか。 京都府立洛西高等学校吹奏楽部は、今年で創部40年を迎えました。部員は約80名。マーチングバンド全国大会にも出場したことがあります。

今回も入場は無料でしたが、参加には事前申し込みが必要でした。「ウエスティ音暦 冬〜弦楽の愉しみ〜」で京都市西文化会館ウエスティを訪れたときに窓口で申し込みました。当日は受付で名前を言って入場しました。予約に空きがあったようで、事前予約なしでも入れました。ホールの定員は448名ですが、客の入りは8割ほど。前回同様に指揮者が見えるスクリーンが上手袖に設置されていました。

吹奏楽部員が制服を着て登場。各パート2名程度の編成でした。女子が多く、木管は全員が女子でした。顧問は山下尚樹。若いです。ホームページによると、英語科の教諭のようで、2014年から洛西高校に着任しましたが、なんと同校吹奏楽部のOBとのこと。指揮台のイスに座って、リード作曲/エル・カミーノ・レアルを指揮。勢いがよく、速いテンポについていけています。クラリネットの連符もよく揃っていて、部員の技術力は高い。ただ、音色が洗練されておらず、ハーモニーもいまひとつ。入試の時期なので、おそらく1〜2年生による演奏でしょうか。129小節まで演奏しました。

前回も司会を担当した福山俊朗が登場。顧問の山下を紹介した後、「指揮者の仕事である音楽づくりがどう変わっていくかご覧いただく」と趣旨を説明しました。続いて、下野竜也が登場。ドラえもん?みたいなキャラクターが描かれたシャツを着ていました。下野は「こちら(山下)のほうが指揮者っぽいです」と体型をネタに話しました。下野と山下が握手。下野は指揮台のイスを下ろして立って指導しました。山下は下手袖でイスに座って練習を見学しました。 下野が「はじめまして」とピンマイクで話しました。前回同様に今回も事前練習はしておらず初顔合わせとのこと。「洛西高校の近くの市立芸大でも指揮している」と京都市立芸術大学をアピールしました。

はじめに、「この曲が好きな人?」と聞いて、挙手した生徒に好きな理由を聞いて回りました。「テンポが速いから気分が上がる」などの意見がありました。逆に「嫌いな人」を聞いて、「連符が長くてしんどい」「音域が広くて難しいから」などの意見が出ました。奏者に好き嫌いを聞くのは、前回と同じです。生徒に「見た目よりも怖くないから」と言ってリラックスさせていました。 また、「「エル・カミーノ・レアル」はスペイン語ですが、どういう意味ですか?」と聞くと、生徒が「王の道」と答えました。下野は「去年6月にシリコンバレーのオーケストラ(下野竜也オフィシャルサイトによると、シリコンバレー交響楽団定期演奏会を指揮)に行ったが、「エル・カミーノ・レアル」という名前の通りがあった。リードも意識したらしい」と話しました。 下野は「この曲の国籍はスペイン風ラテン。さっきの演奏はまじめすぎる。もっとはっちゃけたほうがいい」「冒頭のファンファーレはもっとかっこよく吹けない?。飛ばす感じ。暑苦しい感じ」「トランペットはベルの角度を揃えたりしないで、自然に構えて」とコメント。最初の一音だけ練習。「下向きになっている。もっと上に。ホール座席の非常灯の上あたりを目指して」。下野は「身体は重いが、「よく動くデブ」と言われている」と言って笑わせました。「brillante(ブリランテ)」=輝かしく、「con fuoco(コンフォーコ)」=火のように、の音楽用語も確認しました。

また、「(指揮棒を)雑に振ると出られない。真面目に指揮すると揃うけど、つまらない演奏になる」「揃えるとか音程を合わせるとか些末なことを考えない。どう伝えるかが先」と話して、繰り返し練習しました。下野は「最初の演奏はきれいな料理だったが、曲の持っている香りが足りなかった。どんな曲なのか楽しまないと曲のよさを忘れてしまう。これは学校教育の一番の問題で、音程を合わせなさいとか最初から型にはまらないこと」と話しました。
また、クラリネットに「25小節からは「私達の番」と思うこと。楽譜にはmfと書いてあるけど、聴いている人がバランスよく聴こえるようにffで演奏する」と音量を調整しました。また、「一番盛り上がるところを探してください」と話し、「fffと書かれている89小節と109小節だが、さっきの演奏はほぼ同じ音量で聴こえた。ホルンとサックスはリラックスして余裕のある感じで吹く。テンポや香りはそのままで」と話しました。

下野が「指揮してみます」と話し、初めて指揮台に上がって89小節までを指揮しました。スマートにすっきり聴こえました。「ホルンのベルアップはじょうろのように。59小節からトランペットは抑えて、その後のクラリネットがしょぼく聴こえる。金管楽器は普段から吹きすぎないように」。
オーボエソロに「135小節から拍子が変えて書いてあるが、なぜ拍子が変わっているのか考えてほしい。気持ちの揺れが書いてあるので、変拍子だと思いすぎないほうがいい。3+2+2の2拍子は前に進もうとしていると考えて」「Slowly and languorouslyは、けだるく浮わついているが、悲しそうな音で吹く。寒いときの「はぁー」というゆっくりした息のスピードで。伴奏のクラリネットとファゴットはもっとオーボエを聴いて。オーボエを聴いていれば、指揮者なしでも演奏できる。クラリネットは暖かい音を出しすぎている。一緒に悲しまないと」。この部分は繰り返し練習しました。下野は「こういうところはちゃんと練習したほうがいい。縦の線を合わせることよりもずっと大事」と話しました。「ここのオーボエは主演女優。生意気なほうがいい。クラリネットは今の1/5の音量でいい。コントラバスはちょっと遅れるので、オーボエをよく聴いて」。なお、ハープのパートはピアノで演奏しました。

151小節からのfantango(ファンタンゴ)は、リズム系だけを演奏。「ワルツの変わったやつ。pだけどもっとはっきり」。165小節からのクラリネットとコルネットのメロディーラインについて、「この4小節はどこが目標?」「4小節まで前に行くぞ進むぞ」と指導して練習し、「これで文章になった」「何小節フレーズかを考えてほしい」と話しました。残りは断片的に、192小節からのホルンのタイミングを合わせました。198小節からのウッドブロックも合わせようとしましたが、楽器がないので、「僕が歌います」とのこと。

続いて、J.S.バッハ作曲(リード編曲)/目覚めよと呼ぶ声ありの練習。下野は「オリジナルを聴いたことがありますか?。どんな曲ですか?。テナーが一人で歌う曲で、ドイツ語の歌詞が付いている。編曲した曲を演奏する場合は、元は何の曲か調べたほうがいい」と話しました。 また、主旋律について、「どっちもmfと書いてあるけど、木管楽器ではなくホルンとトロンボーンが本当のメロディーなのではっきり吹いて。メロディー以外はもっと優しく吹く」「初めて聴く人にどんな曲なのか新鮮な気持ちで届けるのが奏者の役目。型にはまらないで音楽を作ることが先。音程はそのうちに合う」「自然な呼吸でもっと楽に演奏する。f(ワンフォルテ)を吹きすぎない」と話しました。

ここで練習が終わり。司会の福山が部員に感想を聞くと、「前よりも曲が楽しくなった」との声が聞かれました。
最後に2曲を通して演奏。下野は指揮棒なしで指揮しました。「目覚めよと呼ぶ声あり」は、聴きやすくなりました。不思議と和音もハマっています。「エル・カミーノ・レアル」は、下野は全身を使った指揮で大暴れ。最初に比べると演奏がすごく変わりました。後半もすっきりしました。短時間の指導で上達したのは、洛西高校吹奏楽部がよく練習できていて、基礎がマスターできているからこそで、吸収の早さも特筆されます。ただ、中間部など練習していないところは演奏の出来に差がありました。これから応用していってほしいです。

司会の福山が、今回の2曲が演奏される京都府立洛西高等学校吹奏楽部第37回定期演奏会(3月26日、ロームシアター京都メインホール)を紹介。チケットはこの後ホワイエで販売されるとのこと。また、下野が指揮する京都市交響楽団スプリング・コンサート(4月7日、京都コンサートホール大ホール)も案内され、19:50に終演しました。

下野の指導は、前回のアマチュア吹奏楽団を指揮したときよりも口調はやさしかったですが、指導の方法はほぼ同じでした。2時間弱の指導でしたが、音楽づくりのポイントがつまっていました。学校での音楽教育に対する意見も述べられ、吹奏楽指導者にとって参考になるところが多いでしょう。チューニングをしていないのに、音程もハーモニーも合ってくるのは不思議です。DVD化したら売れるでしょう。定期演奏会本番まであと2ヵ月ですが、頑張ってほしいです。

 

(2019.5.3記)


京都市西文化会館ウエスティホール 1階ラウンジ



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